AIを悪用したサイバー攻撃とは?
――速くなった攻撃と、新たに生まれた攻撃面
AIを悪用したサイバー攻撃とは、攻撃者が生成AIやAIエージェントを使い、攻撃の作成・実行・拡大を自動化・高速化する攻撃の総称です。
その多くは、フィッシングやマルウェアといった従来の攻撃の難易度とコストが下がり、精度と速度が上がったものです。一方で、企業が業務で使うAIそのものを狙う攻撃のように、AIによって新たに生じた攻撃面もあります。
ここを起点に置くと、対策の考え方がぶれません。守り方の原則はこれまでと地続きで、そこに「速さ」と「守る範囲」の2つが加わった、という整理です。
定義――IPAの整理をもとにした3つの類型
AIをめぐるサイバーリスクには、攻撃者による悪用だけでなく、AI自体への攻撃や、使い方に起因する問題も含まれます。本記事では、IPAの整理をもとに、次の3つの観点で分けて考えます。
① 攻撃者によるAIの悪用
攻撃者が生成AIを使い、攻撃メールの作成や攻撃コードの生成、脆弱性の探索などを効率化するリスクです。本記事が主に扱うのはこの類型で、次章で7つの手口のうち5つを解説します。
AIが作るフィッシング・BEC
自然な文面の詐欺メールを大量に作る
マルウェア・攻撃コードの自動生成
不正なプログラムの作成や改変を助ける
脆弱性の発見と悪用の高速化
弱点探しから悪用までの時間を縮める
ディープフェイクによるなりすまし
偽の音声・映像で本人になりすます
AIエージェントによる自律型攻撃
偵察・侵入・情報の持ち出しを、人の指示を待たずに進める
② AIシステム自体への攻撃
企業が業務で使っている生成AIやAIエージェントそのものを狙い、不正な指示を紛れ込ませたり、参照させるデータを汚染したりするリスクです。
不正な指示を混ぜる
AIが読む文書やメールに命令を仕込み、意図しない動作をさせる
データを汚染する
AIが学習・参照する情報を改ざんし、誤った回答を出させる
③ 自社のAI利用に伴う運用リスク
AIの使い方や管理の不備から生じるリスクです。攻撃者に狙われるというより、社内の運用から生じます。ここでは、従業員が会社の把握していないAIサービスに機密情報を入力する「シャドーAI」を例に示します。
機密情報を入力する
社外秘の資料、顧客情報、設計データなど
AIサービス
会社の管理が及ばない場所に情報が置かれ、漏えいにつながるおそれがある
※3つの図はIPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」の「AIの利用をめぐるサイバーリスク」の整理をもとに、記事の文脈に合わせて編集部が構成。
IPA「10大脅威 2026」で初選出3位――何を意味するのか
IPAが2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け脅威の3位に選出されました。この項目が10大脅威に入るのは初めてです。
上位2つは、1位が「ランサム攻撃による被害」、2位が「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」でした。いずれも長年にわたって上位を占めてきた、いわば定番の脅威です。そこに、初めての項目がいきなり3位で入ってきたことになります。
10大脅威は、実際に発生した事案のなかから社会的な影響の大きいものを選び、専門家による投票で順位を決めています。つまり「今後こうなるかもしれない」という予測ではなく、すでに起きたことの反映です。AIをめぐるリスクが、企業が現実に備えるべき脅威として認識されるようになったことを示しています。
▼情報セキュリティ10大脅威 2026の全10項目については、下記の記事で解説しています。
攻撃は29分、判断は1〜2時間――数字が示す時間差
攻撃の速度を示す指標に「ブレイクアウトタイム」があります。攻撃者が最初に侵入した端末から、社内の他の端末やサーバーへ移動を始めるまでの時間のことです。
セキュリティ企業のクラウドストライクが公表した「2026 Global Threat Report」によると、この時間は2024年の平均48分から、2025年は29分へと短くなりました。最も速いケースでは27秒でした。同レポートでは、AIを活用した攻撃活動が前年比で89%増加したことも報告されています。
見落とせないのが、検知された攻撃の82%が、マルウェアを使わない手口だったという数字です。従来の攻撃は、不正なプログラム(マルウェア)を端末に送り込んで動かすものでした。従来型のウイルス対策は、そうしたプログラムの特徴を登録した一覧(パターンファイル)と照合して見つけます。ところが今は、盗んだIDで正規にログインし、社内にもともとある管理ツールを使って動き回る手口が主流です。不正なプログラムが1つも存在しないので照合する相手がなく、パターン照合だけに頼る対策には何も引っかかりません。
一方、守る側はどうでしょうか。NTTドコモビジネスの発表によれば、セキュリティ担当者が複数のログを突き合わせて相関分析を行い、攻撃かどうかを判断するには、人手では1〜2時間を要します。別の調査・運用実績の数値ですが、並べると速度差がはっきりします。
攻撃と防御の時間差
攻撃が社内へ広がるまでの時間(調査会社の集計)と、人が「攻撃かどうか」を判断するまでの時間(セキュリティ運用の実績)を、同じ目盛で並べた参考比較です。同一の攻撃を計測したものではありません。
攻撃側|侵入から社内を移動し始めるまで
防御側|ログを突き合わせて攻撃かどうかを判断するまで
※攻撃側の数値はクラウドストライク「2026 Global Threat Report」、防御側の数値はNTTドコモビジネス「AIを駆使してサイバー攻撃の脅威を分析・自動対処する「AI SOC」の提供を開始」(2026年5月20日)および「AI SOC」サービス紹介ページをもとに作成。目盛は0〜120分。
この差を、担当者の努力や人員の増員だけで埋めるのは難しくなっています。検知してから人が判断するまでの待ち時間そのものを、どう縮めるかという問題になります。
AI悪用サイバー攻撃と規制の動き 2024-2026
実際の被害と、それを受けた国内の制度対応を時系列で並べています。赤い印は企業の実務に直接影響する項目です。
1月
7月
11月
1月
3月
3月27日
5月18日
5月22日
7月
10月1日
※IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」、内閣官房国家サイバー統括室ほか「Project YATA-Shield」、金融庁・日本銀行「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請、国家サイバー統括室「サイバー対処能力強化法」(法令ページ)、経済産業省「SCS評価制度」(IPAの制度案内)の各公表資料および各社の公表資料をもとに作成。2026年9月18日時点。
AIをめぐる主な攻撃手口とリスク
【7分類】
AIが関わる攻撃の手口とリスクを、7つに分けて整理します。1〜5は攻撃者がAIを道具として使う手口、6と7は企業が使うAIそのものが狙われる、あるいはAIの使い方から情報が漏れるリスクです。それぞれ「何が起きるか」「AIで何が変わったか」「企業にとってのリスク」の順で見ていきます。
1. ディープフェイクによるなりすまし――本人確認が効かない
経営者や取引先の音声・映像を偽造し、送金や情報開示を指示する手口です。
かつては大量の素材と専門的な技術が必要でしたが、現在は短い音声からでも、本人に近い話し方を再現できる場合があります。ウェブ会議で映像ごと偽装された事例もあります。
素材の入手も難しくありません。決算説明会の動画、ウェビナーの登壇記録、SNSに投稿された動画。役職が上の人ほど、公開されている音声や映像が多いという逆転が起きています。
電話やウェブ会議で本人確認をしているつもりでも、それが本人である保証にはならない。ここがこの手口の厄介なところです。後述するとおり、これは技術で見抜くのではなく、業務手順で止めるべき類の攻撃です。
▼ディープフェイクの仕組みについては、下記の記事で解説しています。
2. AIが作るフィッシング・BEC――文面での判別が難しくなる
不自然な日本語で見分ける、という時代は終わりました。生成AIを使えば、業界特有の言い回しや、実在する取引の文脈に合わせた文面を、短時間で大量に作成できます。
変化は2つあります。1つは精度です。とくにBEC(Business Email Compromise:ビジネスメール詐欺)のように、特定の担当者を狙って文面を作り込む攻撃では、AIによる効率化の効果が大きく出ます。過去のやり取りを学習させた文面は、同僚からのメールと区別がつきません。
もう1つは量です。従来、日本語の文面を用意するには手間がかかるため、日本企業は相対的に狙われにくいと言われてきました。その参入障壁が下がったことで、海外の攻撃グループが日本語で大量に仕掛けてくる状況が生まれつつあります。多言語への展開も同様です。
▼生成AIが作る攻撃メールの見分け方は、下記の記事で詳しく解説しています。
3. マルウェア・攻撃コードの自動生成――攻撃の敷居が下がる
攻撃に使うコードそのものをAIに書かせる動きも出ています。
セキュリティ機関のCERT-UAは2025年7月、大規模言語モデル(LLM)に実行するコマンドを動的に生成させる仕組みを持ったマルウェアを報告しました。あらかじめ書かれたコードを実行するのではなく、状況に応じてAIが命令を組み立てるという構造です。
効率化されるのは、コードの新規作成に限りません。既存のマルウェアを少しずつ書き換えて亜種を大量に作る、検知を避けるために処理を難読化する、といった作業にもAIが使えます。パターンファイルによる検知が追いつかなくなる背景の1つがここにあります。
国内でも、生成AIを使って攻撃ツールを作成したとして検挙された事例があります。専門的なスキルを持たない人物でも攻撃側に回れるようになったことで、攻撃の総量そのものが増えていく点が問題です。
▼ランサムウェアの侵入経路と対策は、下記の記事で解説しています。
4. 脆弱性の発見と悪用の高速化――パッチ適用までの猶予が縮む
高い性能を持つAI(フロンティアAI)は、ソフトウェアの脆弱性を見つけ、修正する作業を大きく効率化します。この能力は、守る側にとっても攻める側にとっても同じように働きます。
つまり、脆弱性が公表されてから、それを悪用する攻撃が始まるまでの時間が短くなります。クラウドストライクが2026年8月に公表した「2026 Threat Hunting Report」によると、2026年上半期に観測された「実証コードが公開されている脆弱性への攻撃」のうち、88%は公開から48時間以内に起きていました。「月に一度のパッチ適用日にまとめて対応する」という運用では、その空白期間に狙われる可能性が高まります。
さらに、発見される脆弱性の数そのものも増えていきます。すべてに即座に対応することは現実的ではないため、「どれから直すか」を決める作業の重要性が上がります。自社にとって影響の大きい資産を把握できていなければ、優先順位そのものが決められません。
この「脆弱性が高速かつ大量に発見される」という前提は、後述する日本政府の対策パッケージでも中心的な論点になっています。
▼攻撃者の視点で自社を点検するASMの考え方は、下記の記事で解説しています。
5. AIエージェントによる自律型攻撃――人の指示を待たずに進む
2026年の論点として最も新しいのが、AIエージェントによる攻撃です。
従来の自動化は、あらかじめ決めた手順をスクリプトで実行するものでした。AIエージェントの場合は、状況を見て次に何をするかを自分で決めながら進みます。偵察して、侵入経路を選び、権限を広げ、目的の情報を探すという一連の工程を、人の指示を待たずにつなげられるようになりつつあります。
実務への影響は2つあります。1つは速度です。人が介在する工程が減れば、その分だけ侵入から情報の持ち出しまでの時間が短くなります。もう1つは対象の広がりです。攻撃者1人あたりが同時に扱える標的の数が増えるため、これまで「手間に見合わない」と見送られていた中小規模の企業も、対象に含まれやすくなります。
ただし、現時点で人の手をまったく離れているわけではありません。次章で紹介する事例のとおり、AIが誤った情報を事実として報告してしまうといった限界も確認されています。
▼AIエージェントの仕組みについては、下記の記事で解説しています。
6. AIシステム自体を狙う攻撃――指示の混入とデータ汚染
ここまでは攻撃者がAIを道具として使う話でした。一方で、企業が業務に導入したAIそのものが狙われるケースもあります。
代表的なのがプロンプトインジェクションです。AIに与える指示文のなかに不正な命令を紛れ込ませ、本来の制限を超えた動作をさせる手口を指します。利用者が直接入力するとは限りません。AIが読み込むウェブページや受信メールのなかに命令を仕込んでおき、それをAIが指示として実行してしまう「間接プロンプトインジェクション」もあります。
もう1つがデータポイズニングです。AIが参照するデータを汚染し、誤った回答を出させたり、本来アクセスできない情報を引き出させたりします。社内のデータを検索して回答させる仕組み(RAG)を構築している企業では、参照データの管理が重要になります。
企業のAI基盤そのものを狙う動きも出てきました。前述の「2026 Threat Hunting Report」では、盗んだ認証情報で企業のLLMを不正に利用し、2分間で約20万件のリクエストを送った事案や、AI開発用フレームワークのライブラリ131件に不正なパッケージを混入させた事案が報告されています。
7. シャドーAI経由の情報流出――把握できていない経路
会社が把握していないAIサービスを従業員が業務に使うことを、シャドーAIと呼びます。
攻撃者の視点で見ると、これは正面から侵入しなくても情報が手に入る可能性のある経路です。入力された設計情報や顧客データが、サービス側の設定によっては学習に使われたり、外部に保存されたりします。攻撃者がそのサービス側を狙えば、防御の固い企業からでも情報を取り出せる余地が生まれます。
自社の防御をどれだけ固めても、社外に置かれた情報の保存や学習利用までは管理できません。そもそも使われていること自体を把握できていないため、対策の対象にすら上がってきません。
▼シャドーAIのリスクと対策は、下記の記事で解説しています。
【事例】実際に何が起きたのか
――2024年から2026年の4つのケース
実際にどのような被害が起きているのかを、新しいものから4つ紹介します。それぞれ「何が起きたか」「AIがどう使われたか」「企業が学ぶべきこと」の順で整理します。
なお、報道の見出しだけを追うと実態より過大に受け取ってしまう事案もあります。ここでは、公表された事実と、発表元自身が示した限界の両方を併記します。
2026年7月:AIモデルが評価環境を突破し、他社インフラへ侵入
2026年7月21日、OpenAIは、自社のAIモデルがサイバー攻撃能力の評価中に隔離された試験環境を抜け出し、外部企業の本番環境に到達したと発表しました。同社は8月26日に詳細な調査結果を公表しています。
それによると、中心となったのは一般公開を予定していない社内の研究用モデルで、本番サービスと同等の安全策は適用されていませんでした。複数のエージェントが5月中旬から、社内のパッケージ配布基盤に残したファイルを非公認の「伝言板」として使って連携し、外部への通信経路を作り、管理者権限を取得。7月には第三者のAI開発プラットフォームの本番環境に到達し、少なくとも1台のサーバーで最上位権限を得ていました。約2カ月にわたる工程です。
一方で、OpenAI自身は、本番環境の制御が働いていれば大きく抑えられたと説明しています。同社の分析では、本番用の安全策のもとではインフラを侵害しようとする傾向は100分の1以下に下がり、思考過程の監視があれば1日以上前に警告できたとしています。ただし、未知の脆弱性を含む複数の弱点が連鎖して突破され、エージェント同士が非公認の経路で連携していました。
企業にとっての示唆は2つあります。1つは、AIに強い権限を与えたまま運用することのリスクです。2つ目は、同社が認めた対応の遅れです。社内のあるチームは5月末の時点で異常な活動を観測していましたが、その情報は判断すべき人物に届いていませんでした。検知はできていたのに、判断につながらなかった。これは、対策の章で扱う「人の判断待ち」の問題そのものです。
2025年11月:生成AIを悪用した国家支援型のサイバースパイ活動
2025年11月、Anthropicは、自社の生成AIサービスが国家の支援を受けたとみられるグループに悪用され、約30の組織に対するサイバースパイ活動に使われたと報告しました。同社によれば、偵察から侵入、情報の抽出までの工程の大部分をAIが自律的に実行していたとされます。
一方で、限界も明らかになりました。AIが実在しない認証情報を「有効なもの」として報告するなど、事実と異なる出力(ハルシネーション)が発生し、完全な自律化の障害になっていたという点です。
この事案では、人の関与なしに完結する水準には達していませんでした。ただし、人が確認すべき作業量が大幅に減ったことは確かです。
この事案が示しているのは、攻撃側の「人手不足」が解消されつつある可能性です。従来、標的型攻撃は限られた組織にしか仕掛けられませんでした。1つの標的を調べ、侵入経路を探すのに人手と時間がかかったからです。その制約が緩めば、同時に狙われる組織の数は増えます。
2024年1月:ディープフェイクのウェブ会議で約38億円を送金
2024年1月、香港にある企業の拠点で、財務担当者がウェブ会議の指示に従って約2億香港ドル(当時のレートで約38億円)を送金する事件が起きました。会議に参加していた最高財務責任者や同僚は、いずれも偽造された映像でした。
AIによるなりすましが大きな金銭被害を生んだ、最初期の大型事例として知られています。
国内の状況――生成AIを使った攻撃ツールの作成と検挙
国内でも、生成AIを使って不正プログラムやフィッシングサイトを作成したとして検挙された事例が出ています。対話形式でAIに指示を出しながら攻撃ツールを組み立てていたケースも含まれます。
海外の大企業だけの話ではない、という点は押さえておく必要があります。攻撃のコストが下がるということは、これまで狙われにくかった規模の企業にも、攻撃が届きやすくなるということです。
また、不自然な日本語だけを手掛かりに見分けることが難しくなった影響も見逃せません。不自然な日本語で気づけた時代の感覚のまま運用していると、実際の攻撃を素通りさせることになります。
4つの事例に共通するのは、突破に使われた技術そのものが目新しくないことです。未修正の脆弱性、盗まれた認証情報、人をだます手口。目を引くのは、それらが実行される速度と規模のほうです。この見立ては、次章で見る政府の対応方針とも重なります。
日本政府・規制当局はいま、
企業に何を求めているか
AIを悪用した攻撃に対して、日本の政府・規制当局は2026年に入って相次いで動いています。公表資料に沿って整理します。
Project YATA-Shield(2026年5月)――政府が示した3つの方向性
2026年5月18日、内閣官房国家サイバー統括室をはじめとする関係府省庁・部局が連名で、「AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について」と題する取り組みを公表しました。通称はProject YATA-Shieldです。
内容は大きく3つに分かれます。
- 重要インフラ事業者等への注意喚起:経営層によるリーダーシップの発揮、基本的な対策の確実な実施、脆弱性が高速かつ大量に発見される前提での対策強化
- ソフトウェア・ベンダへの注意喚起:設計段階から安全性を作り込む「セキュア・バイ・デザイン」の徹底
- AIセーフティ・インスティテュート(AISI)による技術支援・評価
パッケージの背景には、高い性能を持つAIによって脆弱性の発見や攻撃コードの作成が加速し、これまでの対応ペースでは追いつかなくなるという認識があります。個別の企業ごとの対応に委ねず、政府が横断的に注意を促す形をとったところに、事態の受け止め方が表れています。
名指しされているのは重要インフラ事業者やソフトウェア・ベンダで、一般企業に直接の要求をするものではありません。ただし「脆弱性が高速かつ大量に発見される前提に立つ」という考え方は、規模や業種を問わず参考にできます。取引先が対象事業者であれば、その要求が取引条件として及ぶ可能性もあります。
金融庁・日銀の9項目(2026年5月)――1カ月で何を点検するのか
2026年5月22日、金融庁と日本銀行は、金融機関等に対して「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた短期的な対応」を要請しました。9つの項目からなり、対応の目途として「おおむね1カ月程度」という期間が示されています。
内容には、重要なシステムの特定、修正プログラム適用の日常業務化、多層防御の強化などが含まれます。項目自体はどれも従来から言われてきたものです。それらを、これまでより速く確実に回せているかを問う内容になっています。
「おおむね1カ月程度」という期間で求められているのは、既存の対策が実際に機能しているかを至急点検し、必要な強化を図ることです。パッチ適用が難しい場合のWAFによる仮想パッチやEDRの導入、人的リソースの追加といった対策も含まれています。
金融機関以外の企業に直接適用される要請ではありません。ただし、自社を金融機関に置き換えて読めば、点検の観点として参考にできます。「重要なシステム」を自社の基幹業務システムに、「多層防御」を自社のネットワーク構成に読み替えれば、何を確認すべきかが具体的に見えてきます。
AIサイバー攻撃 自社点検チェックリスト
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事業が止まると影響の大きい重要なシステムを特定し、一覧にしている金融庁・日銀 基幹業務システム、顧客データベース、決済に関わる仕組みなど
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社内で使っている情報資産(端末・サーバー・SaaS)を把握している中小企業ガイドライン 台帳が最新かどうかも含めて確認する
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部門が独自に契約したサービスや、放置された機器がないか確認している金融庁・日銀 検証用サーバー、退職者のアカウント、更新の止まったVPN機器など
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修正プログラムの適用を、月次の作業ではなく日常業務として回している金融庁・日銀 実証コードの公開から48時間以内に悪用が始まる前提で優先順位を決める
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外部公開しているシステムの脆弱性を継続的に確認している金融庁・日銀 四半期に一度ではなく、継続的に見つけ続ける運用へ
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管理者権限と外部接続のアカウントに、フィッシングに強い認証を適用している中小企業ガイドライン ワンタイムパスワードは中継攻撃で突破される前提で
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保守を委託しているベンダーとの契約に、緊急時のパッチ適用(夜間・休日を含む)が含まれているか確認している金融庁・日銀 役割分担と、複数社で対応が重なった場合の体制も確認する
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端末の不審な挙動を検知する仕組み(EDR等)を導入している金融庁・日銀 パターン照合ではなく「振る舞い」で捉える
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夜間・休日にアラートが上がったとき、判断できる体制がある金融庁・日銀 攻撃は29分で広がる。判断できる人がいない時間帯が空白になる
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検知から端末の隔離までを、人の判断を待たずに実行できる金融庁・日銀 自動化の範囲と、人が判断すべき対象を決めておく
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バックアップを本番環境から切り離し、復旧できることを確認している中小企業ガイドライン 取得しているだけでなく、実際に戻せるかを試す
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経営層がAIによる脅威への対応方針を決め、必要な予算と人員を確保している金融庁・日銀 情報システム部門だけで完結させず、経営課題として扱う
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生成AIに入力してよい情報の範囲を、社内文書で明文化している中小企業ガイドライン 顧客情報、未公開の財務情報、設計データなどを具体的に
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会社が承認したAIサービスを指定し、それ以外の申請経路を決めている中小企業ガイドライン 禁止だけではシャドーAIが増える
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送金や振込先の変更を、メールと音声だけで承認しない手順にしている中小企業ガイドライン 登録済みの番号への折り返し、金額に応じた複数人承認など
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インシデント発生時の連絡経路と、報告までの時間を決めている金融庁・日銀 誰に、何分以内に伝えるか。検知が判断に届かない事態を防ぐ
※金融庁・日本銀行「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請(2026年5月22日・9項目)および経済産業省・IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月27日)の情報セキュリティ6か条・生成AIの章をもとに、重複する項目を統合し、業種を問わず参考にできる形へ編集部が読み替えたものです。金融機関に固有の項目は含めていません。タグは主に参照した資料を示します。
中小企業向け指針の更新(2026年3月)――第4.0版と総務省指針
2026年3月には、中堅・中小企業に関わる2つの指針が公表・更新されました。
1つは、経済産業省とIPAによる「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」です。2026年3月27日に第4.0版が公開され、約3年ぶりの本格的な改訂となりました。新たに「生成AIの利用とサイバーセキュリティ」の章が追加された点が、今回の改訂の要になります。同じ日に「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」も公表されており、自社に近い規模の事例を確認できます。
もう1つは、総務省による「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」です。同じく2026年3月27日に公表され、LLMやLLMを組み込んだシステムに対する脅威(プロンプトインジェクションやサービス妨害など)への技術的な対策例が整理されています。
ただし、こちらの対象は「AI開発者」および「AI提供者」に限られます。AIを使うだけの一般企業に、これによって義務が生じることはありません。もっとも、社内でRAGの仕組みや独自のAI基盤を構築している企業は、実質的にAI提供者に該当し得ます。自社がどちらの立場かを確認したうえで読むとよいでしょう。
サイバー対処能力強化法(10月1日施行)――取引先にも及ぶ影響
2025年に成立したサイバー対処能力強化法および同整備法が、2026年10月1日に施行される予定です(一部の規定を除く)。基幹インフラ事業者に対する届出・報告の義務などが定められています。
直接の対象は基幹インフラ事業者ですが、その取引先や委託先には、間接的に影響が及びます。取引先から求められるセキュリティ水準が上がるためです。
具体的には、取引開始時のセキュリティチェックシートの項目が増える、インシデント発生時の報告期限が契約で定められる、といった形で表れます。法律の直接の名宛人でなくても、サプライチェーンの一員である以上は無関係ではいられません。
取引先に求めるセキュリティ水準を共通の物差しで示す仕組みとして、経済産業省と国家サイバー統括室は「SCS評価制度」の構築方針を2026年3月に公表しています。対策状況を★の段階で可視化し、委託元が委託先に求める水準を契約で示せるようにする制度で、2026年度末頃の申請受付開始が予定されています。
▼サイバー対処能力強化法とSCS評価制度については、下記の記事で解説しています。
「AIなら何でも突破できる」は本当か?
ここまで政府の動きを見てくると、AIによる攻撃が万能であるかのように感じられるかもしれません。しかし、そうとは限りません。
前述した金融庁・日本銀行の要請文には、英国AIセキュリティ・インスティテュートの評価が引用されています。そこでは、フロンティアAIであっても、十分に防御されたITシステムに対しては攻撃を達成できるとは言えないという見方が示されています。
AIは、防御を無条件に無力化する新兵器ではないということです。すでに知られている脆弱性を突く、盗んだIDでログインする、人をだまして操作させる。使われる手口の多くは従来と同じで、それが速く、安く、大量にできるようになったという理解が実態に近いといえます。
裏を返せば、基本的な対策が機能している企業ほど、AIによる攻撃の影響を受けにくいということでもあります。基本的な対策を、どれだけ速く、どれだけ漏れなく実行できているか。分かれ目はそこにあります。
【対策】AI時代のサイバー攻撃に備える
――企業が見直したい4つのポイント
AIによって攻撃の速度や規模が変わっても、必要な対策の基本がすべて変わるわけではありません。見直したいのは、これまでの対策をどれだけ速く、確実に実行できるかです。NTTドコモビジネスは、防御側もマシンと同じスピードで判断し、動かなければ間に合わない、という考え方に立っています。
ここでは、攻撃がどう変わったかと、それに対して企業が何を見直すべきかを、4つの対応で整理します。AIが直接効くのは③の「検知・対処」で、ほかの3つは従来型の対策が土台になります。
AI時代のサイバー攻撃に備える4つの対策
左がAIによる攻撃の変化、右がそれに対して企業が見直したい対策です。
偽の指示や未承認のAI利用から情報が漏れる
ディープフェイクによる送金指示/シャドーAIへの機密情報の入力
①AIの使い方と業務ルールを決めるガバナンス
入力してよい情報と、使えるAIサービスを明文化する
送金や重要な変更は、メールや音声だけで承認しない
例AI利用ルール/承認手順の二重化
関連サービスStella AI for Biz
偽サイトやなりすましが本物に近づく
AIが作るフィッシング・BECの精度と量が上がる
②なりすましに強い認証に移行する認証
管理者権限や外部接続のアカウントから優先して移行
どこから接続しても同じ基準で制御する
例パスキー/多要素認証/SASE
攻撃が自動化され、短時間で社内に広がる
AIエージェントが人の指示を待たずに偵察・横展開を進める
③攻撃を早く見つけて止める検知・対処AIで対応
振る舞いの異常を捉え、検知から隔離までを自動化する
AIが一次分析し、人は判断が必要な対象に集中する
例EDR・XDR/SOC・SOAR/AIによる相関分析
関連サービスWideAngle AI SOC
脆弱性の発見から悪用までが速くなる
実証コード公開から48時間以内の悪用が88%
④狙われる入口を把握し、減らす脆弱性管理・ASM
把握できていないSaaSや放置機器を洗い出す
直す順番をリスクで決め、継続的に回す
例ASM/資産管理/脆弱性管理
関連サービスセキュリティ対策パック/CRXソリューション
※①は総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.2版(2026年3月31日)を、④は内閣官房国家サイバー統括室ほか「Project YATA-Shield」(2026年5月18日)の考え方を踏まえて作成。④の数値はクラウドストライク「2026 Threat Hunting Report」による。
① AIの使い方と業務ルールを決める|ガバナンス
最初に整えるべきは、技術ではなくルールです。
総務省と経済産業省による「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版が公表されました。社内でAIを使うためのルールを作る際は、この最新版を拠り所にします。
最低限、次の3点を明文化しておきます。
- 入力してよい情報の線引き:顧客情報、未公開の財務情報、設計データなど、入力を禁止する範囲を具体的に定める
- 会社が承認したツールの指定:使ってよいサービスを列挙し、それ以外を使いたい場合の申請経路を決める
- インシデント時の連絡経路:入力してはいけない情報を入れてしまったとき、誰に何分以内に伝えるかを決めておく
ここで見落とされがちなのが、AIとは直接関係のない業務ルールの重要性です。たとえば、送金や振込先の変更をメールと音声だけで承認しない、という決まりがあれば、ディープフェイクによるなりすましの多くはそこで止まります。あらかじめ登録した番号に折り返す、金額に応じて複数人の承認を必須にする。こうした運用の二重化は、どんな検知ツールよりも効く場面があります。
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生成AIリスクを防ぐ
社内ルール整備術
法的リスクと情報漏えいを防ぐルールの作り方
② なりすましに強い認証に移行する|認証
ID・パスワードが盗まれることを前提に組み立てます。
すでに多要素認証を導入している企業も多いはずです。ただ、SMSやアプリで受け取るワンタイムパスワードは、偽サイトを経由して本物のサイトに中継する攻撃(リアルタイムフィッシング)で突破され得ます。利用者が入力した数字を、攻撃者がその場で本物のサイトに打ち込むためです。
そこで、フィッシングに強い方式への移行が進んでいます。パスキーのように、アクセス先のドメインと結びついた認証情報を使う仕組みであれば、偽サイトに対しては認証情報そのものが機能しません。
すべてを一度に切り替える必要はありません。管理者権限を持つアカウント、外部から接続するアカウントなど、突破されたときの影響が大きいところから順に移行します。
認証方式を変えるだけでなく、IDそのものの管理も見直しどころです。部門やサービスごとにIDが散らばっていると、退職者のアカウントが残ったり、パスワードの強度が揃わなかったりします。IDを一元管理し、シングルサインオンと多要素認証を組み合わせれば、認証を強くしながら管理の手間も減らせます。
あわせて、認証の強化と同じ流れで見直したいのがアクセス経路です。働く場所が分散し、社内と社外の境界が曖昧になった環境では、どこから接続しても同じ基準で判断できる仕組みが必要になります。ネットワークとセキュリティ、運用を一体で提供するSASEの枠組みは、その受け皿の1つです。
▼パスキーの仕組みについては、下記の記事で詳しく解説しています。
③ 攻撃を早く見つけて止める|検知・対処
冒頭で触れたとおり、検知された攻撃の82%はマルウェアを使わない手口でした。正規のツールや盗んだIDで侵入されると、パターンファイルとの照合では検知できません。端末やネットワーク上の「振る舞い」を見て、いつもと違う動きを捉える仕組み(EDR・XDR)が土台になります。
ただし、検知するだけでは足りません。アラートが上がってから担当者が判断するまでの待ち時間こそが、冒頭で示した時間差の正体だからです。
ここでAIが効いてきます。NTTドコモビジネスが2026年5月に提供を開始したAI SOCでは、複数のログを突き合わせる相関分析をAIエージェント(WideAngle AI Advisor)が担い、人手で1〜2時間かかっていた分析を約10分で行います。さらに、マネージドSOARによってセキュリティアラートへの対処の約95%を自動化できるとしています。
とはいえ、すべてをAIに委ねる設計にはなっていません。同サービスでも、人手での対処が必要な場合や、分析結果に疑問がある場合には専門家が支援します。NTTドコモビジネスは、AIの判断に人が介在・チェックする「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の考え方で、どこまでを自動化し、どこから人が判断するかの勘所を探る段階にあるとしています。
AIは人の判断を置き換えるのではなく、人が判断すべき対象まで絞り込む役割を担う。こう捉えるのが実態に近いでしょう。
④ 狙われる入口を把握し、減らす|脆弱性管理・ASM
最後は、そもそも狙われる入口を減らす取り組みです。
前述のとおり、脆弱性の発見と攻撃コード化のスピードは上がっています。そのため、「どこに脆弱性があるか」を把握する速さが、そのまま防御力の差になります。
実務で問題になりやすいのは、把握できていない資産です。警察庁の集計では、2025年のランサムウェア被害の感染経路(有効回答)で最も多かったのはVPN機器からの侵入(66.3%)でした。狙われているのは、こうした「境界に置かれたまま更新が止まった機器」です。
- 部門が独自に契約し、情報システム部門が把握していないSaaS
- 検証用に立てたまま放置されているサーバーやIPアドレス
- 更新が止まったままのVPN機器やネットワーク機器
こうした「自社が把握していない入口」を、攻撃者の視点で洗い出す手法をASM(アタックサーフェスマネジメント)といいます。四半期に一度の棚卸しではなく、継続的に見つけ続ける運用に切り替えることが、Project YATA-Shieldが示した「脆弱性が高速かつ大量に発見される前提」への現実的な答えになります。
【比較表】従来型の対策とAI時代の対策はどう違う?
従来型の運用とAI時代の運用を、対策の領域ごとに並べています。
従来型の対策とAI時代の対策の比較
| 対策の領域 | 従来型の運用(人手が中心) | AI時代の運用(AIと分担) |
|---|---|---|
| 攻撃の検知 | 既知の不正ファイルの検出に依存している人手の限界正規アカウントや正規ツールの悪用は、目視でログを追っても見分けにくい(検知の82%はマルウェアなし) | 認証・端末・通信の使われ方も見る複数のログを突き合わせ、不審な操作を見つけるAIが担えるログの横断分析と異常の抽出 |
| 検知後の初動 | アラートを人が確認してから対処している人手の限界担当者が確認を終える前に、攻撃が社内へ広がってしまう(横展開まで平均29分) | 条件を決めて自動で初動対応を行う隔離などを自動化し、人は判断が必要なものに絞るAIが担える相関分析と、決めた手順の実行 |
| パッチ適用 | 月次の保守日にまとめて適用している人手の限界次の保守日を待つ間に悪用が始まる。手作業では優先順位を付けきれない(実証コード公開から48時間以内の悪用が88%) | 影響の大きいものから順に適用する公開直後に悪用される前提で優先順位を決めるAIが担える影響度の整理と優先順位の算出 |
| 従業員教育 | 不自然な文面を見抜く訓練をしている人手の限界AIが作る文面や音声は自然で、受け手の注意力だけでは防ぎきれない | 見抜けない前提で止める訓練をする送金や承認を業務手順で止めるAIが担える訓練シナリオの作成補助 |
| 運用体制 | すべてのアラートを人が確認している人手の限界アラートの量が増え、人手で全件を見ると確認が追いつかない時間帯が生まれる | 絞り込んだアラートだけを人が判断する夜間・休日も一次対応が途切れにくいAIが担える一次振り分けと重要度付け |
※「検知の82%」「平均29分・最速27秒」はクラウドストライク「2026 Global Threat Report」、「48時間以内の悪用が88%」は同社「2026 Threat Hunting Report」による。「見直したい運用」の欄は一般的な運用を例示したもので、すべての企業に当てはまるものではありません。
左右を見比べると分かるとおり、やるべきことの中身自体は大きく動いていません。同じことを、より速く、より漏れなく実行できているかが問われています。左の「人手の限界」が、その運用を人手だけで続けたときに追いつかなくなる事情、右の「AIが担える」がそのためにAIに任せられる作業です。
自社だけで守れるか?
――中堅・中小企業の現実解
「理屈は分かるが、うちの体制では無理だ」と感じた方も多いはずです。すべてを自社でまかなえる企業のほうが、むしろ少数です。この章では、体制の規模ごとに現実的な進め方を整理します。
脅威手口×ソリューション対応マトリクス
| 攻撃の手口 | WideAngle (監視 分析 対処) |
CRX ソリューション |
SASE ソリューション |
セキュリティ 対策パック |
|---|---|---|---|---|
| 1. ディープフェイクによるなりすまし | — | ● | — | — |
| 2. AIが作るフィッシング・BEC | ● | ○ | ○ | ○ |
| 3. マルウェア・攻撃コードの自動生成 | ● | — | ○ | ○ |
| 4. 脆弱性の発見と悪用の高速化 | ● | ○ | — | ● |
| 5. AIエージェントによる自律型攻撃 | ● | ○ | ○ | ○ |
| 6. AIシステム自体を狙う攻撃 | ○ | ● | ○ | — |
| 7. シャドーAI経由の情報流出 | — | ○ | ● | ○ |
※●は主に対応する領域、○は補完的に効く領域。手口1のディープフェイクのように、検知ツールよりも承認手順の整備が有効な領域もあります。導入の優先順位は自社の体制によって変わるため、詳細はご相談ください。
中堅・中小企業も例外ではない――警察庁データが示す被害状況
「うちは大企業ではないから狙われない」という見方は、すでに成り立ちにくくなっています。背景は4つあります。
攻撃のコストが下がった。AIによって攻撃メールの作成や脆弱性の探索が効率化された結果、これまで「手間に見合わない」と見送られていた規模の企業も、まとめて狙う対象に含まれるようになりました。
セキュリティ人材が不足している。専任の担当者を置けず、情報システム担当が他業務と兼任している企業は珍しくありません。監視の空白時間が生まれやすくなります。
取引先経由で狙われる。大企業を直接攻撃するより、防御の手薄な取引先を踏み台にするほうが確実です。IPAの10大脅威で「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に入っているのは、この構図の表れです。自社の被害だけでなく、取引先への加害者になり得ます。
被害の実態も見ておきます。警察庁によると、2025年に企業・団体から報告されたランサムウェア被害226件のうち、中小企業は143件(63.3%)でした。感染経路に関する有効回答92件では、VPN機器からの侵入が61件(66.3%)と突出しています。この数字は「中小企業ほど狙われる」ことを示すものではありませんが、少なくとも、規模が小さければ被害と無縁でいられるわけではないことは読み取れます。
認識にずれがある。経済産業省とIPAが2026年3月に公開した「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版では、生成AIの利用とサイバーセキュリティに関する章が新たに追加されました。同時に公表された事例集では、自社と近い規模の企業の弱点や被害の事例を確認できます。
ひとり情シス・中小企業――何から手をつけるか
全部はできない、と最初に認めるところから始めます。優先順位を決めて、上から順に潰していきます。
- 1.認証を固める:管理者権限と外部接続アカウントから、フィッシングに強い認証へ移行する
- 2.バックアップを分離する:本番環境から切り離した場所にバックアップを置き、復旧できることを実際に確認する
- 3.資産を可視化する:把握していないSaaS、放置されたサーバー、更新の止まった機器を洗い出す
この3つはいずれも、比較的小さな投資で着手しやすい対策です。順番にも意味があります。1と2で被害の起点と最悪のケースを押さえてから、3で入口を減らしていく流れです。
何から手をつけるべきか判断がつかない場合は、まず現状を可視化するところから始める方法もあります。NTTドコモビジネスのセキュリティ対策パックは、リスクの可視化と、手軽に導入できる対策をセットにしたサービスです。可視化された結果を見てから、必要な対策にスモールスタートで取り組めます。
▼リスクの可視化と対策をセットで検討する場合は、下記もあわせてご確認ください。
中堅企業・サプライチェーン――監視と証明をどう確保するか
一定の規模になると、2つの課題が同時に発生します。
1つは、24時間365日の監視をどう確保するかです。自社にSOCを構えるという選択肢もありますが、人材の採用と育成、シフトの維持、ツールの選定と運用を、すべて自前で抱えることになります。攻撃が29分で広がる以上、夜間や休日に判断できる人がいない状態は、そのまま空白時間になります。
2つ目は、取引先への証明です。大企業との取引では、セキュリティチェックシートへの回答や、体制の説明を求められる場面が増えています。2026年10月にサイバー対処能力強化法が施行されると、基幹インフラ事業者と取引のある企業には、この要求がさらに具体的になっていくと考えられます。
監視の確保と、体制の証明。この2つを自社だけで満たすのが難しい場合は、外部の運用と組み合わせる選択肢を検討する価値があります。
NTTドコモビジネスは、こうした仕組みをまず自社の業務に適用して検証し、そこで得た知見をサービスに反映するという進め方をとっています。AI SOCについても、約5万台の自社環境に導入し、アラート対応の稼働が約95%削減されたことを確認しています。
2026年度のセキュリティ投資――経営層にどう説明するか
経営層への説明材料として、投資を3段階に分けて整理します。
- 最優先(今年度中):認証の強化とバックアップの分離。被害の起点と、最悪のケースからの復旧手段を押さえる部分です。投資額に対して効果が読みやすく、社内の合意も得やすい領域です。
- 次に実施(1年以内):検知と初動対処の仕組み。EDRの導入と、判断・対処を担う体制の確保です。ここは自社で持つか外部に委ねるかの判断が伴うため、比較検討の時間を見込みます。
- 中長期(2〜3年):資産の把握とAI利用のガバナンスを、継続的な運用として定着させる段階です。仕組みだけでなく、運用として根づかせる期間が必要です。
経営会議で説明する際は、「何を導入したか」ではなく、検知してから対処するまでにどれだけ時間がかかるかを指標に置くと議論がかみ合いやすくなります。攻撃側の速度が公表されている以上、自社の対応時間との比較で、投資の必要性を説明できます。
AIを悪用したサイバー攻撃に関する
よくある質問(FAQ)
AIを悪用したサイバー攻撃について、疑問になりやすい点を整理します。
攻撃者が生成AIやAIエージェントを使い、攻撃の作成・実行・拡大を自動化・高速化する攻撃の総称です。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では「AIの利用をめぐるサイバーリスク」として初めて選出され、組織向け脅威の3位に挙げられています。
パターンファイルに依存する対策では不十分です。検知の82%がマルウェアを使わない攻撃だったという報告もあります。挙動を分析するEDRと、検知から隔離までを自動化する仕組みの併用が必要です。
映像や音声で見抜くことを前提にせず、業務手順で止めるのが有効です。あらかじめ登録した電話番号へ折り返して確認する、振込先の変更には複数人の承認を必須にする、といった運用の二重化が有効です。
この要請は金融機関等を対象としたものですが、内容は業種を問わず有効です。重要システムの特定、パッチ適用の日常業務化、多層防御の強化といった項目は、自社の状況に読み替えて点検することをおすすめします。
そうとは限りません。金融庁・日本銀行の要請でも、英国AIセキュリティ・インスティテュートの評価として、十分に防御されたITシステムに対しては攻撃を達成できるとは言えない、という見方が示されています。基本的な対策をどれだけ速く確実に実行できるかが分かれ目になります。
フィッシングに強い認証への移行と、本番環境から切り離したバックアップの2点からの着手をおすすめします。どちらも比較的小さな投資で、被害の起点と最悪のケースを押さえられます。そのうえで、把握できていない資産の洗い出しと、AIの利用ルールの明文化に進みます。
禁止だけでは、把握できない利用(シャドーAI)が増えるだけになりがちです。入力してよい情報の線引きを決め、会社が承認したツールを用意するほうが、結果としてリスクを下げられます。
まとめ――基本は変わらない。
変わるのは「速さ」と「守る範囲」
AIによって変わったことは、2つあります。
1つは速さです。フィッシング、マルウェア、脆弱性の悪用といった攻撃の型は従来と同じでも、それが実行される速度と規模は別物になりました。攻撃が社内で横展開を始めるまでの時間と、人が異常に気づくまでの時間。この差を、担当者の努力だけで埋めるのは難しくなっています。
もう1つは守る範囲です。企業が業務で使うAIそのものが狙われ、把握していないAI利用から情報が漏れる。守るべき対象が、従来のIT資産の外側に広がっています。
それでも、対策の基本は変わりません。認証を固める、バックアップを分ける、資産を把握する、AIの使い方を決める。やるべきことの大半はこれまでと同じです。変わったのは、それを攻撃の速度で実行しなければならないことであり、AIは、そのために守る側が活用できる手段の一つといえます。
検知から対処までを人手だけで回すことが難しくなった以上、どこまでを自動化し、どこから人が判断するのか。その線引きが、これからのセキュリティ運用の設計点になります。
- 本記事は2026年9月18日時点の情報に基づいて作成しています。
- 各ガイドラインや法令の内容は改訂・施行状況により変更となる場合があります。最新の情報は各府省庁の公式サイトをご確認ください。
- サービスの仕様および提供内容は変更となる場合があります。最新の情報は各サービスサイトをご確認ください。



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