フィジカルAIとは?定義と注目される背景
まず、フィジカルAIの基本定義と、なぜ今これほどまでに注目されているのか、その背景を見ていきましょう。
フィジカルAI=現実世界を「理解」し、「行動」するAI
「フィジカルAI(Physical AI)」とは、AIがセンサーなどを通じて現実世界(物理空間)を理解し、ロボットなど物理的な実体を伴って自律的に行動する技術の総称です。
これまで急速に普及した「生成AI」との決定的な違いは、活動する領域にあります。
- 生成AI:テキストや画像など「デジタル空間(仮想空間)」でのタスクが得意。
- フィジカルAI:身体性を持ち、「現実世界(物理空間)」で判断・計画し、物理的なタスクを遂行する。
つまり、コンピューターの中で完結したAIではなく、「現実世界に働きかけるAI」と言えます。
デジタルと現実世界をつなぐ架け橋となるフィジカルAIとは
フィジカルAIの役割をより深く理解するために、技術的な立ち位置を整理します。
- 生成AI・AIエージェント(脳):主にデジタル空間で、文章作成やスケジュール調整などの「知的なタスク」を担当する。
- 従来のロボット(体):主に現実世界で、プログラムされた通りに製品の組み立てなど「物理的なタスク」を担当する。
フィジカルAIは、この双方の要素、つまり「自律的な意思決定(脳)」と「物理的な行動(体)」を併せ持っています。 これにより、デジタル空間の知能を現実世界の物理現象へと変換することが可能となり、まさに「デジタル空間と現実世界をつなぐAI技術」として、自動運転をはじめとするさまざまな産業での実装が進んでいます。
自律的な意思決定と物理的な行動の双方が可能なフィジカルAIは、「デジタル空間と現実世界をつなぐAI技術」と言うことができます。
NVIDIAが牽引する新たなトレンド
「フィジカルAI」という言葉がビジネスシーンで急速に広まったきっかけは、AIコンピューティングの世界的リーダーである米NVIDIA社による提唱があります。同社CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は、2025年の講演において、「AIの進化は新たな段階に入った」として、以下のように述べています。
- AIの進化は「知覚AI」から「生成AI」を経て「フィジカルAI」へと段階的に進んでいる。
- フィジカルAIとは、物事を生み出し、判断し、計画し、「行動できるAI」である。
- その進化スピードは、信じられないほどのペースで加速している。
この発信を契機に、世界中の企業や研究機関がこぞってこの領域に注目し始めました。AIは単に画像や言葉を理解・生成する段階を超え、現実世界で動く「フィジカルAI時代」へ突入したと位置づけられています。
参考:CES 2025: AI Advancing at ‘Incredible Pace,’ NVIDIA CEO Says(英語)
フィジカルAIが注目される3つの技術的背景
フィジカルAIが実用化レベルに達した背景には、主に以下の技術革新があります。
- デジタルツイン技術の進化:
GPUの高性能化や大規模言語モデル(LLM)の発展により、デジタル空間上で現実世界の物理法則を、リアルタイムかつ高精度にシミュレーションできるようになりました。これにより、フィジカルAIが「物事を生み出し、判断し、計画し、行動できるAI」として機能する基盤が整いました。 - ロボティクスの高度化:
AIが行った判断を、実世界での動作として正確に実行できるロボティクス技術が大きく進化したことで、AIの知能とロボットの身体性を統合したシステムが構築しやすくなりました。 - 産業DXにおける「デジタルと物理世界の融合」の必要性:
企業においてDX推進を加速するためには、デジタル側の分析と、現場の物理作業が分断されていると最適化が進みにくいという課題があります。フィジカルAIは、現実世界の変化を理解し、その判断を即座に行動へつなげることができるため、デジタルと物理の一体化を可能にします。
これらにより、デジタルとリアルの境界線が曖昧になり、両者を融合させる「フィジカルAI」へのニーズが急拡大しています。
フィジカルAIと生成AIとロボットの違い
ここでは、「フィジカルAI」と「ロボット」、「生成AI」との違いを確認しておきましょう。
図解比較!フィジカルAIは生成AIやロボットと何が違う?
| ロボット | 生成AI | フィジカルAI | |
|---|---|---|---|
| 主な活動領域 | 現実世界(工場など) | デジタル空間(PC・スマホ内) | デジタル空間・現実世界 |
| 主な機能 | 定められた動作の繰り返し | デジタルコンテンツ生成、推論 | 状況を理解し、自律的に行動 |
| 学習・適応 | 原則なし | あり(データから学習) | あり(現実世界から学習・適応) |
| 工場での用途例 | プログラム通りの組立作業 | 需要予測や生産計画の立案 | 状況に応じ自律的に生産調整・組立 |
-
従来のロボットの特徴は?
あらかじめプログラムされた手順通りに動くため、予期せぬ事態には対応できません。プログラムに沿った組み立て作業を繰り返し行うなどの用途に使用されます。そのため、もし追加注文など需要の変化があった場合には、手動で調整を行う必要があります。 -
生成AIの特徴は?
自律的な判断や学習が可能ですが、あくまでデジタルデータを出力するにとどまり、物理的なモノを動かすことはできません。 -
フィジカルAIの特徴は?
フィジカルAIは、ロボットの「身体性」と、生成AIの「知能」を併せ持ちます。例えば、工場のラインで部材の位置がズレていても、カメラで状況を把握し、アームの動きを自律的に修正して作業を継続するといったことが可能です。また、リアルタイムで需要の変化を予測し、自律的に計画を立て生産にあたります。生産開始後に需要予測が変化した場合にも柔軟に生産計画を変更することができます。
「フィジカルAIによる生産」と「従来のロボットによる生産」の違い
フィジカルAIの業界別活用事例
自動運転・モビリティ分野での先行事例
現在、最も活用が進んでいるのが自動運転の領域です。
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Waabi(ワービ)〜カナダ:
カナダを拠点とし、自動運転技術の開発を手掛けるWaabi社は、自動運転ソフトウェアの開発およびビデオデータの検索・キュレーションにフィジカルAIを活用しています。 -
Wayve(ウェイブ)〜イギリス:
自動運転用のAI基盤を開発するWayve社は、自動運転におけるコーナーケース(極端な条件下で発生する稀なケース)およびエッジケース(複数の極端な条件の重複下で発生するごく稀なケース)における運転シナリオの検索においてフィジカルAIが有効であると評価しています。 -
Foretellix(フォーテリックス)〜アメリカなど:
米国などを拠点とし、自動運転車の開発を支援するツールチェーンを提供するForetellix社は、忠実度の高いテストシナリオおよびトレーニングデータを生成するためにフィジカルAIを活用しています。 -
Uber(ウーバー)〜アメリカ:
ライドシェアリング大手の Uber社は、自社の保有する運転データセットとフィジカルAIとを連携させることで、さらに強力なAIモデルの効率的な構築を目指しています。
今後の広がり
日本国内においても、フィジカルAIの実用化に向けた動きは加速しています。
現在では自動運転分野を中心に活用が進むフィジカルAIですが、今後は製造分野における「自律型ロボットを活用したライン最適化」や、物流分野における「搬送ロボットとAIの連携」、医療分野における「手術支援ロボットとリアルタイムAI診断」など、多様なフィールドでの導入が見込まれています。
こうした動きを支えるため、NTTドコモビジネスではインフラと制御の両面からアプローチをしています。
まず、フィジカルAIの代表格である自動運転の分野では、2025年10月より「自動運転向け通信安定化ソリューション」の提供を開始しました。 これは、特定の走行エリア内において、運転手が介在せずシステムがすべての操作と緊急時の対応を完結させる「自動運転レベル4(高度運転自動化)」の実現に不可欠な「遠隔監視」を強力にサポートするものです。
レベル4では、車内に運転手がいない状態での走行が想定されるため、万が一の事態に備え、外部からリアルタイムで車内外をモニタリングし続ける「高度な通信の安定性」が命綱となります。
レベル3までは「システムからの要請があれば人間が運転を交代する」必要がありましたが、レベル4では原則として人間の介入が不要になります。これにより、将来的な無人タクシーや無人配送サービスの実現が期待されています。
本ソリューションは、移動中でも途切れない通信品質の予測や映像圧縮技術などをパッケージ化しており、AIが安全に公道を走行するための「神経」となる通信網を強化する取り組みといえます。
参考:「自動運転向け“通信安定化ソリューション”を提供開始~自動運転レベル4の遠隔監視を支える先進技術をパッケージ化~」
また、ロボティクスの分野でも大きな動きがあります。2025年12月、NTTドコモビジネスは、知能ロボットコントローラーを手掛ける株式会社Mujinとの資本業務提携を発表しました。 この提携により、ドコモビジネスが提供する「AI時代に最適化されたICTプラットフォーム(通信・クラウド)」と、Mujinが持つ「ロボット知能化技術(MujinOS)」が融合します。
これにより、従来はティーチング(動作の教示)が難しく自動化が困難だった工程でも、AIが状況を判断して「自律的に考え、動くロボット」の導入が可能になります。 製造・物流現場における人手不足解消や生産性向上を強力に支援するこの取り組みは、まさに前述した「デジタル空間と現実空間の融合」を具現化する象徴的な事例と言えるでしょう。
参考:「NTT・NTTドコモビジネスとMujinの資本業務提携について~通信・クラウド・AI技術とロボット制御技術を融合し、フィジカルAI・ロボットの高度化を加速~」
日本におけるフィジカルAIの現在地と未来
フィジカルAI は、日本国内で今後どのような進化を遂げ、我々にどのような未来をもたらしてくれるのでしょうか。政府や研究機関主導でフィジカルAIの社会実装に向けたロードマップが描かれています。
2025年12月現在で、各省庁が公開している情報をまとめます。
日本政府が描く「人とAIが共生する社会」
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内閣府(ムーンショット目標):
内閣府は、2030年までに汎用自律人型AIロボットの実現に向けた開発要素の基礎を確立。2050年までに、人と同等以上な身体能力を持ち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する、などのムーンショットを公開しています。
参考:内閣府「ムーンショット目標3」 -
総務省(未来をつかむTECH戦略):
総務省は、「2030年代に実現したい未来の姿と実現に向けた工程イメージ」のなかで、朝の忙しい時間帯に歯磨きや着替え、朝食準備などを手伝ってくれる「お節介な手伝いロボット」の構想を公開しています。
参考:総務省「2030年代に実現したい未来の姿と実現に向けた工程イメージ」
科学技術振興機構による「フィジカルAI」の分類
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)は、「フィジカルAIシステムに関する基礎研究課題」の中で、フィジカルAIを機能別に3つのタイプに分類し、研究開発の方向性を示しています。
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タイプP(Performance):
多様な実世界タスクをこなすフィジカルAIシステムです。1台で人間の能力を超えるような繊細な操作や高速の操作を行うことができます。将来は少人数・多能工の生産や職人技の学習などが可能な、知的産業用ロボットへの応用が期待されます。 -
タイプH(Humanoid):
実世界で人間と協働・共進化するフィジカルAIシステムです。人間のような姿や知能、対話能力を備え、人間と協働してさまざまなタスクを担うことができます。将来は日本発の認知発達ロボティクス研究に応用し、人間理解の手助けになることが期待されます。 -
タイプA(Adaptive):
現実世界の多様な状況下で稼働するフィジカルAIシステムです。処理できるタスクは限定されるものの、人間が立ち入れない場所においても自律的に活動することができます。将来は農業やインフラの保守点検などへの応用が期待されます。
参考:研究開発戦略センター(CRDS)「フィジカルAIシステムに関する基礎研究課題」
現在では、オープンな環境で発生する不測な事態発生時の安全確保など課題はありますが、将来的には生活・都市・教育・医療・災害対応など、非産業分野への応用も期待されています。
これら3つのタイプのフィジカルAIを用途により適切に使い分けることで、人とAIの協働や現実空間とデジタル空間との融合が進み、労働力不足の解消や劇的な経済成長など、人間社会にポジティブな変化が訪れるかもしれません。
まとめ
フィジカルAIは、単なる「便利な機械」を超え、現実世界を理解し、私たちのパートナーとして物理的に行動する新たな存在です。現在は自動運転などの特定分野が先行していますが、遠くない未来、オフィスや教育、医療、災害対応など、あらゆる場所に浸透していくでしょう。
「自社のビジネスにフィジカルAIを取り入れたい」とお考えの方は、まずは現在利用可能な「エッジAI(現場でデータを処理するAI)」や「IoT(モノのインターネット)」の導入から検討してみてはいかがでしょうか。
その際、強力な味方となるのが「NaaS(Network as a Service)」という考え方です。 これは、ネットワークやセキュリティを「所有」するのではなく、必要な時に必要な分だけサービスとして「利用」するモデルのことです。
現場の「目」と「行動」を担うAIソリューション
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映像エッジAIプラットフォーム EDGEMATRIX®:
カメラ映像をクラウドに送らず、現場(エッジ)でリアルタイムにAI解析。低遅延・高セキュリティで、防犯や混雑検知、河川監視などに対応します。 -
docomo sky 自律飛行型ドローン Skydio:
AI搭載で障害物を自動回避。GPSの届かない場所でも自律飛行し、インフラ点検や建設現場の進捗管理を効率化します。
AIとデバイスをつなぐ「NaaS(ネットワーク・セキュリティ)」
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docomo business RINK 【ネットワークとセキュリティの一元化】 :
「つながる」と「まもる」を一つにしたNaaSソリューションです。フィジカルAIが収集する膨大なデータを流通させるためのネットワークを、複雑な機器構築なしにWeb上の設定だけで導入可能。オフィスのICT環境はもちろん、各拠点のAIデバイスをセキュアに接続する基盤として機能します。 -
docomo business SIGN 【IoT特化型NaaS】
フィジカルAIの感覚器となるセンサーやカメラ(IoTデバイス)をつなぐための専用サービスです。特許取得済みのセキュリティ機能をネットワーク側に標準搭載しているため、デバイス側への負担なく、SIMを挿すだけで「安心・安全なIoT環境」を即座に構築できます。
たとえ「全社的なAIの本格導入はまだ先」と考えている場合でも、こうしたNaaSソリューションを活用して「セキュアで柔軟な通信環境」や「現場データのデジタル化」を進めておくことは、直近の業務効率化に直結するだけでなく、将来的なフィジカルAI活用に向けた最も確実な準備となります。
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