課題先進エリアだからこそ、
人材をいかに活用するか
地方における人材活用──。その取り組みのひとつとして「リスキリングによる人材の再配置」を行ったのが山陰合同銀行です。
2021年からの中期経営計画では「経営基盤の強化」を土台に、全員コンサル体制の構築による「課題解決力」の発揮と、DXの推進による「利便性・生産性」の向上を成長の両輪として取り組みを強化。担い手となる人材育成では、人事戦略の大幅な見直しがカギとなりました。
「広域地方銀行」として、コンサル人材増強・活動強化に注力(写真提供:山陰合同銀行)
山陰合同銀行 人事部 担当部長 秋山誠司さんはこの施策の肝を「総人員を増やさず、戦略分野に人員を再配置するというものでした」と語ります。人口減少が進む中での採用難、新たな人材コストの増加といった課題を解決するのが、今いる人材を最大限活用することだったのです。
秋山「山陰は過疎化が進む課題先進地域といわれるエリアであり、我々も強い危機感があります。将来生き残るには地域企業が持続的に成長していかなくてはなりません。
地域を支える銀行として、法人営業やコンサルティング力を強化し、お取引先と共に成長することで、地域企業の知恵やチャレンジ精神を引き出すことが重要です。そのためには変化を恐れず、銀行自身の改革も必要だと考えました」
それを実現するきっかけのひとつとなったのが、2020年の野村證券との業務提携でした。投資信託や保険などを取り扱う預かり資産の営業部門は、野村證券社員を出向者として受け入れ。営業拠点の統合など部門再編を行うことで、主に女性行員が担当していた個人営業部門の人員に余裕が生まれました。
さらにDX化・事務効率化などで捻出した窓口業務の担当者を加えて、法人営業のリスキリング対象者とすることで、総人数はそのままで法人営業人材を厚くするという施策が可能になったのです。
秋山「入口は女性活躍ではなく、あくまでも人材の最適配置でしたが、結果的に、個人営業や窓口業務に従事していた女性行員527名中約200名が役割転換。多くの女性行員が新たなフィールドに挑戦することになりました」
基礎からの学びとOJTによる現場指導
人材の再配置といっても、窓口業務も個人営業も法人営業とは、必要とされる知識やスキルも大きく違います。そのギャップを埋めるために同行が1年半という時間をかけて、丁寧に取り組んだのが「リスキリング」でした。
まずは面談で対象者に今後のキャリアについてヒアリング。法人営業への異動を希望した行員に対しては、90分×21日間の独自のカリキュラムを作成し、リスキリング研修を実施。対象者のほぼ全員が女性でした。
カリキュラムは基礎の基礎から噛み砕いて体系立てることで、学ぶ側の不安を払拭。講義は対面のほか、オンラインでも実施。eラーニング形式で講義録を繰り返し復習できるようにしました。
秋山「同じ銀行員といえども、精通している分野は担当業務や経験によって異なります。法人営業をすることになれば、『決算書の読み方がわからない』というような不安は当然出てきます。そうした不安を一つひとつ解消し、挑戦できる意欲を引き出す支援を重視しました。
ほかにも現場で活かせる学びとして、税理士による講義や取引先の工場見学なども実施しました」
もうひとつの取り組みの柱となったのが、現場でのOJTと6拠点に配置した専任の教育担当者の存在です。実地でスキルを定着させるとともに、教育担当者に疑問や不安な点をすぐに相談できる体制を整えました。
取り組みにあたって、「最初はつまずくことがあることも想定内。簡単にうまくいくとは思っていなかった」と、銀行の覚悟を語る秋山さん。
秋山「特に育成対象者の悩みや不安をいかに取り除くか、という点ではさまざまな施策を工夫しました。女性外部講師によるロールプレイングの機会を設けたり、座談会や休日セミナーなどを開催し、同じ境遇の女性行員同士で悩みを打ち明け、学び合える横のつながりの構築も重視したポイントです」
法人営業の女性行員が47名から128名へ躍進
リスキリングと配置転換によって、2020年に47人だった女性法人営業担当者は、2024年には128人に増加。うち、81名がリスキリング対象者です。島根、鳥取両県の法人営業担当者の約45%を占めるほどの戦力となっています。
同行は、この成果を“リスキリングの実効性”と位置づけます。
秋山「これまで法人営業の経験がなかった行員の多くが、お取引先企業に融資や課題解決に向けて提案する『レベル4』に達しています。ゼロから育てた人材が、実際にお客様の課題解決に貢献しているのは、銀行にとっても大きな変化です。今では法人営業のマネジメント職に就いたり、中堅クラスの企業を1人で担当する習熟度6に達した女性行員もいます」
2022年には人事制度を改定し、エリア職と総合職の区分を撤廃。全行員が総合職として、成果と行動に基づく評価制度へ移行しています。
秋山「最終的には男女問わずすべての法人営業担当者が、自立的にコンサルティング提案を行い、案件を創出できるレベルになるのが目標です」
同行連結の支店長代理職の女性比率は34.8%、統括職(課長クラス)は24.1%と過去最高を記録しました。
次の課題は女性のキャリアへの「意識改革」
リスキリングによる人員再配置施策から5年。法人営業に転換したことで、「目に見える成果に手応えや達成感を得られる喜びを感じている女性行員は多い」(秋山さん)という一方で、今後の課題も見えてきています。
2022年に実施した行内アンケートの「自身のキャリアに関する項目」では、女性行員の約半数が「現状維持でよい」と回答。男性行員が支店長や役員を目指したいという声が多かったのに比べると、まだまだ将来のキャリアアップに消極的な部分が見られます。
秋山「スキルを身につけて、営業の楽しさを感じつつ、そこから先の自分のキャリアをどう描くか悩んでいる人は少なくありません。対策として、女性のキャリアアップに向けた研修実施などに取り組んでいるところです。
また2022年に立ち上げた『女性活躍推進チーム』からの提言を受け、2024年には女性自身のキャリアに対する意識改革や人脈ネットワークの創出にも注力。「女性役員と従業員との座談会」、地域の企業の役職員との「女性活躍推進交流会」などに取り組んでいます」
さらにはマネジメント層にも女性活躍についての研修を実施。銀行全体で女性が自然に活躍できる風土づくりにも力を入れています。
山陰合同銀行の取り組みは、人材難に悩む地方企業にとってリスキリングの重要性や戦略的な人材配置のあり方を学ぶ1つのモデルでもあります。秋山さんは「学びに終わりはなく継続して続けていくことが重要」と語ります。
秋山「全国でも先駆けて人口減少や少子高齢化が進展する厳しいマーケット環境において、地域のお客さまと共に持続的に発展、成長していくためには、従来通りの事業をそのまま継続するだけでは、現状維持さえも難しくなると予想されます。
そのため当行では、行員全員がコンサルティングスキルを強化。融資だけでなく、お取引先のICT化や人事制度の見直し・組織づくりの支援、企業の経営診断など多様なニーズに寄り添うサービスを提案していくことがますます重要になっています。
専門性の高い知識やスキルを要するサービスの提供により銀行もお取引先企業と共に成長する。それを実現するための継続的な学びにより、行員自身も成長し続けていくことが大切だと考えています」
秋山「内部の人材が成長する仕組みをつくることは大変ですが、学びの機会と活躍の場を用意すれば、社員は必ず応えてくれます。最初から完璧を求めず、一歩ずつ成長を認め、力をつけさせていくこと。それが組織の発展にも繋がっていきます」
後編では、実際にほかの担当から法人営業へと役割転換した女性行員の生の声をお届けします。
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
編集・取材・執筆:久遠秋生
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)








