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事業ではなく“技術”を継ぐ
「ベンチャー型事業承継」という選択(Vol.2)

事業ではなく“技術”を継ぐ「ベンチャー型事業承継」という選択(Vol.2)

節水事業を行うDG TAKANOでは「誰の、どの場面が、どう変わるのか」を事業の中心に据え、デザイン思考でビジネスを推し進めています。代表取締役の高野雅彰さんは父の技術を取り込んだ「ベンチャー型事業承継」という新しいモデルを実現。目指す組織づくりでの挫折を経験しながら、デザイン思考を体に染み込ませてきました。高野さんがビジネスのあらゆる場面で実践してきたデザイン思考を具体的な事例から見ていきます(第2回/全3回)。

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目次

事業を継ぐこともデザインできる

IT企業で3年の営業経験を経て、2008年に独立。DG TAKANOの前身となる合同会社「デザイナーズギルド」を創業した高野雅彰さん。

高野「もともとビジネスを立ち上げるなら、グローバルで勝負できるものをと考えていました。それには世界的な課題に取り組むのが近道だと考えたときに、行き着いたのが『水』だったのです」

DG TAKANO代表取締役 高野 雅彰

水不足は世界的に深刻な課題のひとつです。水マーケットは今後、絶対に伸びると確信した高野さん。水ビジネスはゼロからのスタートでしたが、節水ノズル「Bubble(バブル)90」の開発を進めます。そこで大きな助っ人となったのが、ものづくりのプロである父親の存在でした。

高野「父はガス器具の部品を製造する町工場を経営。金属をミクロン単位で正確に削ることができる優れた加工技術を持っていました。Bubble90にその技術を生かせると考えたのです」

会社を継いで3代目となるという道もありましたが、高野さんが選んだのは父の会社を自分が起業したデザイン会社に吸収し、その技術を生かした事業を展開すること。いわゆる“ベンチャー型事業承継”です。

父の町工場でBubble90を試作する高野さん(写真提供:DG TAKANO)
父の町工場でBubble90を試作する高野さん(写真提供:DG TAKANO)

事業継承の新しいモデルとして注目されているベンチャー型事業継承。後継ぎである若手後継者が新しく起業し、そのうえで既存の会社の技術や経営資源を継承する方法です。これにより既存の会社は全く別組織に生まれ変わることができます。

幼少期にバブル崩壊で地元の町工場が次々と倒産する姿を目の当たりにしていた高野さんには、父の事業を継ぐという考えは最初からなく、父も事業を継がせるつもりはありませんでした。

そんな親子のビジネスを「ベンチャー型事業承継」が結びつけてくれました。

高野「自分の描いた未来を実現させるために、必要なら継ぐというのがデザイン思考の考え方です。Appleと同じで、必要な技術を集めたら、僕の場合はたまたま父の会社の技術が使えるとなった。これも新しい事業承継の形のヒントになるのではないでしょうか」

自走する組織を目指すが挫折

事業を推し進める中で、組織をデザインすることも重要でした。

最初に起業したデザイナーズギルドは、「自分の人生や未来をデザインして、夢を叶えたい人たちが集まり、協力し合うことで、お互いの夢を叶え合う」ことを目指した組織。この精神はDG TAKANOにそのまま引き継がれています。

しかし、理想の組織づくりは、なかなかうまくいきませんでした。

高野「自分の夢を叶えるのを手伝ってほしい、その代わりあなたの夢を叶えるのも手伝います、と採用をかけても、人が集まらない。そもそもあなたの夢は何ですかと聞いても、みんな答えられないんです。これは個人の問題ではなく、日本の組織のあり方に問題があると思っています。

日本型組織では、どうしても“言われたことだけやればいい”となってしまい、みんな思考停止しているんです。

最初は我々のコンセプトに共感して入社した人も、管理されないから堕落していく。結局、結果を出せずに辞めていくという繰り返しで、バンバン採用して、バンバン辞めていくのを繰り返す時期が続きました」

自走する組織を目指すが挫折

転機となったのは、日本にいる高い専門性やスキルを持つ外国人を採用するようになったことでした。

高野「夢を叶えたいと日本に来たけれど、言葉の問題で就職が難しい。そんな外国人を積極的に採用するようにしたんです。一時は社長である私以外、ほぼ外国人という時期もありました」

自分の頭で考えるトレーニング

高野さんのようにデザイン思考でものごとを捉えられるようになるには、どうすればいいのでしょうか。

高野デザイン思考はセンスや才能ではなく、トレーニングで身につけるしかありません

いくらデザイン思考の理論を学んだり、人に教えてもらったりしても、それだけでは身につかないと、高野さんは断言します。

高野「僕自身も、誰からも何も教えてもらっていません。答えをいくら教えてもらってもダメなんです。全て自分の頭で考えて、構造を読み解く訓練をするしかない。

デザイン思考はマーケティングツールとは違います。何度も構造分析をして、まだ誰も気づいていない突破口をどうやって見つけるのか。そこにどう進んでいけばいいのかを考え続けるしかないんです」

そう語る高野さんは、24時間365日、息を吐くようにデザイン思考で生きていると言います。

高野「『デザイン思考で、今から1時間でアイデアを出そう』なんて、できるわけがないんです。そんなに簡単な話ではなく、日常すべてをデザイン思考で考える癖をつけていくしかない」

実際、DG TAKANOでは、「誰の、どの場面が、どう変わるのか」を一行で言い切ることを社員に徹底することで、デザイン思考のトレーニングをしています。

社員研修では、「誰の、どの場面が、どう変わるのか」を一行で言い切ることを徹底的にトレーニング(写真提供:DG TAKANO)
社員研修では、「誰の、どの場面が、どう変わるのか」を一行で言い切ることを徹底的にトレーニング(写真提供:DG TAKANO)

「使い勝手を追求する」という戦略デザイン

デザイン思考で自走する組織づくりの一方で、事業でも新しい挑戦が続きます。

その一つが、2024年に発売したキッチン水栓「meliordesign 5a faucet(メリオールデザイン ファイブエー フォーセット。以下、5a フォーセット)」。Bubble90の節水技術と水栓を一体化することで、キッチンの水回りの不便を解決するというものです。

5a フォーセットの蛇口のヘッド部分は、水栓のアーム部分の先端に丸いマグネットで固定。これにより、蛇口を好きな方向にワンアクションで動かすことが可能になりました。Bubble90の節水技術で、最大80%の節水も実現しています。

世界標準のキッチン水栓

キッチンに合わせて自由に蛇口の取り付けができ、ヘッド部分はマグネットで取り外し可能。Bubble90で高い節水効果も実現した「meliordesign 5a faucet」(写真提供:DG TAKANO)
キッチンに合わせて自由に蛇口の取り付けができ、ヘッド部分はマグネットで取り外し可能。Bubble90で高い節水効果も実現した「meliordesign 5a faucet」(写真提供:DG TAKANO)

高野「技術視点で考えると、“蛇口をどうつくるか”という方向にしかなりません。既存の蛇口でもヘッド部分を引き出して、好きな方向に動かせるものがありますが、面倒で使い勝手が悪い。蛇口を引き出すより、手やコップを使ってシンクを洗うほうがずっと早いですから。

正直、『誰だよ、こんな蛇口をつくったのは』と(笑)。自分なら絶対こんなふうにつくらないのに、と感じていました」

ようやく話が通じると、シリコンバレーで実感

もっと自由で手軽に蛇口を動かせるようにしたい。そう考えて向かった先はシリコンバレーでした。

当初、高野さんが考えていたのは「シンクにマグネット板を取り付け、そこに蛇口のヘッドを貼り付ける」というアイデアでした。一見、奇抜な発想にも思えますが、シリコンバレーのデザイン会社は興味を示します。

米国シリコンバレーの著名なプロダクトデザイナーであるダン・ハーデン氏と組んだ5a フォーセットは、世界的なデザイン賞の「Red Dot Design Award 2025」で「Best of the Best」を受賞(写真提供:DG TAKANO)
米国シリコンバレーの著名なプロダクトデザイナーであるダン・ハーデン氏と組んだ5a フォーセットは、世界的なデザイン賞の「Red Dot Design Award 2025」で「Best of the Best」を受賞(写真提供:DG TAKANO)

高野「日本では“節水率”という機能ばかりが注目されて、その価値がいまいち伝わらなかった。シリコンバレーで『これによって、飲食店の閉店作業は30分早くなる』とプレゼンすると、“誰の、どの場面が、どう変わるのか”というのが、すぐ理解してもらえました」

技術の数値ではなく、生活やビジネスの場面で何が変わるか。そこが通じれば一気に会話が進みます。

高野「シリコンバレーで初めて自分と同じ考え方の人がいる、ようやく話が通じる人たちと出会えた、と思えました」

5a フォーセットは、販売戦略もユニークです。節水ノズル単体と違い、内蔵型水栓の場合、水道工事が必須です。そのハードルを越えるために考えたのが、家電量販店最大手、ヤマダデンキに商品を置くことでした。

約200店舗にあるヤマダデンキのリフォームコーナーをショールームと考え、5a フォーセットと洗剤のいらない皿をセットで展示して、実際に水を出しながら洗う側と洗われる側を一緒に体験できるようにしました。

高野「通常、蛇口はリフォームコーナー、皿は別の階のキッチン製品コーナーに置かれています。それをセットにすることでキッチンでの体験がどう変わるかが実感できます。単に商品を展示するだけではダメ。体験こそが、本当の価値を伝えてくれるのです

節水ノズル、洗剤のいらない皿、節水ノズル内蔵型水栓と攻めの商品開発を続けてきた高野さんは、現在、長年の夢だったグローバル進出に着手しています。最終回では、「オール・ジャパン・ブランド」を掲げる高野さんのグローバル戦略を取り上げます。

この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。

編集・取材・執筆/久遠秋生
撮影/小禄慎一郎
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)

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