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昇進・異動・支店赴任…成功する人と苦戦する人の違い
【トランジションの成功を阻む残り3つのポイントは】 新年度に入りしばらく経ちましたが、部長や役員への昇進、支店長や海外拠点長としての赴任、あるいは新しいチームへの配属など、新たな環境に身を置いている方も多いのではないでしょうか。 そんななか、早々に実力を発揮できている人がいる一方で、なかなか新しい役割で本来の力を出せずに悩んでいる人もいるでしょう。実は、多くのビジネスパーソンが、キャリアの節目の「トランジション」、つまり新たな役割への移行プロセスで苦労しています。 トランジションにいち早く成功する人と、苦戦する人との違いはいったい何なのでしょうか。また、いち早く新しい環境で力を発揮するためには、何をすればよいのでしょうか。 今回は、前回に引き続き、トランジションの成功を阻む5つのポイントのうち、残り3つのポイントを整理していきます。
トランジションを阻む要因③:
曖昧さ(アンビギュイティ)に足がすくむ
「アンビギュイティ」という言葉があります。
これは「曖昧さ」を意味し、トランジションにおいて「曖昧さへの耐性」は重要なキーワードのひとつです。曖昧さに対する耐性が低い人は、変化に対する不安やストレスを特に感じやすいと言われています。
新しい役割には不明確なことがつきものです。特に初期段階では「何をすればいいのか」「誰とどう連携するのか」などがはっきりしないため、不安やストレスを感じやすくなります。
私がエグゼクティブの方とコーチングをしていて驚くのは、新社長のトランジション支援を前社長がほとんど行わないケースがとても多いということです。
「次の社長は君なので、よろしく頼む。どんなふうに進めるかも君次第だ。以上!」で終わってしまい、前社長の経験や判断軸、キーパーソンとの関係性などがいっさい共有されないまま、バトンタッチされてしまうのです。
トランジションの渦中にいる人のアンビギュイティ耐性が高ければさほど心配はないのですが、そうでない人にとっては、この曖昧さの前に立ちすくんでしまうかもしれません。
一方であるクライアント企業では、社長交代の際に前社長と新社長がホテルに1週間泊まり込み、必要な情報を徹底的に共有するという取り組みを行っていました。
このような「曖昧さを減らす支援」は、社長交代に限らず、部長・課長・支店長の交代など、あらゆるトランジションで有効です。こういった支援があると、トランジションする人の成功も早くなるかもしれません。
また、日ごろからアンビギュイティ耐性を鍛えておくことも必要です。
曖昧さに強くなるには日ごろからの慣れが必要ですが、現在の日本社会は「不確実なことが起きないようにする」ことに重点が置かれがちで、曖昧な状況に耐える経験が得られる機会が減っていっているような気がします。
そこで私から、自分を曖昧な状況へあえて置いてみる取り組みのひとつとして、「ルートを決めない散歩」をご紹介します。
実践方法は実に簡単です。家を出て、心のままに方向を選んで進んでみる。道が分かれていたら、自分の直感で進んでみたいほうへ向かってみる。曲がり角があったら、知らない道でも進んでみる。これを1時間ほど繰り返していきます。
そうすると、自分がいったいいまどの辺にいるのか、この先どこに行きつくのか、よくわからない状況になってきます。人によっては、迷子になったかのように不安になるかもしれません。
一方で、知らない道を進んでいった先で「こんな公園があったんだ」「こんなお店があったんだ」「この道は実はここにつながっていたんだ」などの新しい発見が何かひとつはあるはずです。
私たちが生きている社会では、「すべてが明確であること」などほとんどありません。だからこそ、不確かさを受け入れ、そのなかにも新しい発見や楽しみを見つけながら、試行錯誤して進んでいく力が求められるのです。
【皆さんへの問い】 ●アンビギュイティに直面したときに、あなたにはどのような反応が起きますか? ●アンビギュイティ耐性を鍛えることは、あなたにとってどのようなメリットがあるでしょうか? ●アンビギュイティ耐性を鍛えるために、どんなことができるでしょうか?
トランジションを阻む要因④:
ネットワークの喪失と創出
新たな役割に就くと、これまで慣れ親しんだチームや上司、同僚との関係から離れることがあります。以前のような阿吽(あうん)の呼吸では仕事は進まず、ときに孤立感を覚えることもあるでしょう。
しかし、新たな役割で成果を出すためには、既存の人間関係にとどまるのではなく、自ら動いて新たなネットワークを築く必要があります。待ちの姿勢ではなく、戦略的に「話すべき人に話しかけにいく」行動が求められるのです。
私がコーチングを担当したある新任の執行役員も、ネットワークの創出が必要となったおひとりです。その方は、経営チームの一員として自身のビジョンをしっかりと持っていました。
ただ、「それを実現するためには、誰と話す必要がありますか?」という問いかけに対しては、自身の上司に当たる人の名前しか出てきません。どうやら、他部署を統括する執行役員や取締役と話すことに対して、躊躇しているようでした。
このようなケースにおすすめしたいのが、「ネットワーク図」を描くことです。ネットワーク図は、自分を中心にして、関係性のある相手を周囲に配置するとともに、その人たちとのかかわりの頻度も記します。
こうしてみると、自分が「誰と」「どの程度」コミュニケーションを取っているかが可視化されます。
同時に、自身が達成したい目標に向けて、新しくコミュニケーションを取ったほうがいい人たち、コミュニケーションを強化していったほうがいい人たちも見えてきます。
なお、ネットワーク図は一度作成したら終わりではなく、たとえば3カ月ごと、半年ごとなど、定期的に更新していくことも重要です。
トランジションを阻む要因⑤:
変わりたくない気持ち
最後のトランジションを阻む要因は「変わりたくない」という気持ちです。結局のところ、自分自身が変わりたいと思っていない人は、何をしても変わりません。
ただ、こういった気持ちは人間なら誰しも大なり小なり持っているものです。心理学には「ホメオスタシス」という概念があります。人間は、心身の安定を保とうとする本能があり、変化によってその均衡が崩れると、無意識に抵抗が生まれるというものです。
ある企業の社長から、副社長のコーチングを依頼されたことがありました。その副社長は、「現場で顧客に愛されてきた自分」のままでいたいという思いから、経営の立場よりも現場に戻ることを望んでいました。
「変わりたくない」と感じるとき、人の意識は「自分」に強く向いています。このようなときは、視点を「自分の使命」や「果たすべき目的」に向け直す必要があります。そうすると自然と「いま、自分が変わること」への抵抗は薄れていきます。
先の副社長も、複数回のセッションを経て、会社のパーパスを軸に「経営チームに残ること」と「現場に戻ること」の意味を整理していった結果、最終的には経営側で自身の力を発揮していくという決断をしました。
よく、50代になったから60代になったからという理由で「変われない」とおっしゃる方がいますが、「変われない」のではなく「変わることを選んでいない」だけなのです。
年齢は関係ありません。20代、30代のまだまだ若い方だとしても、意識が自分だけに向きすぎている限り、変化はできないのです。
自己の変化をより大きな意義の中で位置づけられたとき、人は初めて本当のトランジションに向かって歩み出せるのです。
【皆さんへの問い】 ●何のため、誰のためにいまの仕事をしていますか?
ここまで、トランジションを阻む5つの要因と、トランジションを成功させるためのカギをお伝えしてきました。
①培った「役割」を手放せない ②スキルと知識が不十分 ③曖昧さ(アンビギュイティ)に足がすくむ ④ネットワークの喪失と創出 ⑤変わりたくない気持ち
ご紹介したように、トランジションする本人が変化していくことが、いちばん大切ですが、一方で周囲からのサポートも必要です。
もしご自身の周囲に、いままさにトランジションで苦労されている方がいるのであれば、自分には、あるいは自分のチームでは、その人のためにどのようなサポートができるかを考えてみるとよいでしょう。

この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
文:鈴木義幸
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:鈴木毅(POWER NEWS)








