ガードレールは、スムーズに走るためにある
AIガバナンスという言葉だけ聞くと、多くのビジネスパーソンは「厳格なルールでがんじがらめにするもの」「コンプライアンス部門が目を光らせる監視システム」といった、自由な動きを制限するイメージを抱くかもしれません。しかし、AI活用の最前線で企業間のルール形成を主導する佐久間弘明氏は、別の角度から捉えています。
佐久間「AIガバナンスとは、適切なリスク管理を通じて、AIの価値を最大化すること。ガバナンスというと『守り』のイメージが強いですが、私たちは活用のための基盤となる第1ステップ、『攻め』ていくためのよりどころになる指針と考えています」
経済産業省時代に、AIやデータに関する法制度の整備にも携わってきた佐久間氏。その後、民間企業を経て、2023年12月にAIガバナンス協会の立ち上げに参画しました。
AIの利用が急速に広がっていく中で実務家による任意団体の勉強会としてスタートした同協会は、わずか1年足らずで一般社団法人化。2024年10月時点で約67社だった会員数は、2025年には約130社へと倍増しています。
佐久間氏は、AIガバナンスを車の運転に例えてこう語ります。
佐久間「車の運転において、ガードレールは『ここから先は危険だ』と示すために存在しますよね。それはブレーキを踏ませるためだけにあるのではなく、安全に、かつスムーズに走るためにあるのです。AIガバナンスも同じです。最低限踏み外してはいけないガードレールというルールを先んじて設けることで、社員は迷わず、スピーディにAI活用を進めることができます」
誰が旗を振るべきか?
「攻め」と「守り」のバランス
では、社内の誰がこの“ガードレール”を作るべきなのでしょうか?
経営企画部、DX推進部、法務部、情報システム部など、AIガバナンスに関係する部署は多岐にわたります。佐久間氏によると、協会に所属する企業を見ても、AI関連プロジェクトの担当者のバックグラウンドはさまざまだそうです。主導する部署によって企業のAI活用の姿勢が変わる傾向もあると話します。
佐久間「積極的に使おうというモチベーションの強いDX部署が主導すると、リスクを考えずに突っ走ってしまうことも。逆に、リスクを高く見積もりがちなコンプライアンスに関係する部署がルールづくりを主導した結果、ブレーキばかりで気軽に使いにくくなってしまった、というケースも聞きます」
重要なのは、どちらか一方に偏らないこと。「技術的な知見を持つDX推進部が積極的に進めつつ、法務部の担当者にリスク管理の観点からの意見をすぐに仰げるようにする」など、両輪が噛み合うよう、部署を超えて連携していくことがポイントです。
ルールが決まるのを待つべき?
現在、AIを取り巻く環境は激変しています。欧州の「AI法」成立をはじめ、各国の規制動向も変化が速く、技術そのものの進化スピードに対して法律の整備が追いついていない場面も多々あります。
「社内で本格的に導入するのはもっとルールが固まってから」。そんなふうに構えがちですが、スピーディに状況が変化していく中では、これからもルールに完成はありません。
佐久間さんは、まだまだ社会が手探りしている今こそ、早い段階から社内で少しずつAI活用を進め、動向に合わせて柔軟にアップデートしていくことをおすすめしています。
佐久間「我々が掲げているのは、国がルールを作ってくれるのを待つのではなく、企業がステークホルダーの声を聞きながら、主体的にルールを形成していく『AIガバナンスの民主化』です」
リソースの限られた中小企業にとっては活用の最初のハードルが高く感じますが、同じように悩む企業も少なくありません。単独ですべての情報をキャッチアップして完璧なルールをつくることは難しいからこそ、企業間での情報交換の場なども活用してほしいと呼びかけます。
AIガバナンスとは、AI活用を締め付けるものではなく、社員が安心してアクセルを踏むための「ガードレール」。 しかし、現場のリーダーが知りたいのは「具体的にどんなルールを作ればいいのか?」という点でしょう。
第2回では、明日から使える具体的なルールの作り方と、やってはいけないNGルール設定について、さらに深掘りしていきます。
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
取材・文・編集:山崎春奈
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)








