整った「スマホで仕事」の土壌
──大企業向けの法人スマホ市場の伸びしろを感じます、なぜ中小・ベンチャー企業向けの新プランを作ったのでしょうか。
本髙 企業規模に関わらず、スマホで業務を行うことが、これからのスタンダードになると考えたためです。
これは、技術の進化や新たなサービスの台頭に起因しています。SaaSが増加し、5Gが浸透しました。高速、大容量、低遅延という特性により、クラウド業務アプリケーションがスマホで使えるようになりました。
通信やコミュニケーションにとどまらず、営業支援、勤怠管理、経費精算。さらに多くの業務が、スマホだけで完結できる環境が整ったと言えます。
にもかかわらず、大企業に比べて中小・ベンチャー企業では法人スマホの導入が進んでいません。
本当は、限られた人員で多様な業務をこなさなければならない中小・ベンチャー企業だからこそ、スマホを業務の基盤として活用すれば、大企業以上の生産性向上が見込めます。
新料金プランを策定したのはこうした背景からです。
──大企業以外の法人スマホの導入率はどの程度なのでしょうか。
約2割といわれていて、大企業の半分程度です。
BYOD(Bring Your Own Device)と呼ばれますが、中小・ベンチャー企業では私用のスマホを業務に流用するのがまだ一般的です。
ただ、大企業との取引をする上で取引先へのセキュリティ要請が強まっています。COBO(Corporate Owned Business Only)と呼ばれますが、セキュリティを担保するためにも法人スマホの導入が推奨されています。
この状況下でも導入が進まないのは、2つの大きな課題があるためです。1つはコスト、もう1つは運用の手間です。
コスト面では、端末の利用料と通信料が挙げられます。端末の利用料は1人当たりのコストを算出しやすいのですが、毎月の通信料の算出がしづらく二の足を踏んでしまう原因になっています。
また2つ目の運用の手間も大きな課題です。中小・ベンチャー企業は情シス担当者の人員が少なく、中には情シスが1人の企業もあります。
導入時には、紛失時のルール設計や、セキュリティに関わる送受信設定、業務外のコンテンツのアクセス・利用制限が必須です。
さらに、導入後にも端末管理や紛失時のサポートなどをきめ細かく行う必要があり、中小・ベンチャー企業にとっては大きな負担になっています。
──その課題解決になるのが今回の新料金プランなのでしょうか。
はい。コストを抑えながら通信・通話を気にせずに使えるようにするのはもちろん、デバイスの管理機能やセキュリティ、紛失時のサポートなども料金プランにバンドルしているプランも提供しています。
情シスの担当者が少ない場合や、社長自らが兼務されている環境であったとしても、法人スマホが十分に活用できることを前提に設計していますね。
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スマホを媒介にDXを届ける
──法人スマホの導入が進むと、中小・ベンチャー企業の業務が変わるのでしょうか。
飛躍的に変わると思います。業界を問わず活用できるSaaSはもちろん、特定領域の課題に対応するものも増え、PC専用という状況は確実に減っています。
ただ問題は、これらのソリューションが中小企業に届きにくいことです。
大企業はSaaSを活用し業務効率化をするのが当たり前になっている一方で、SaaSベンダーはベンチャー企業が多く、中小企業に届ける販売チャネルを持っていないことがよくあります。
つまり便利なソリューションが直接届きやすい層と、届きにくい層の格差が広がってきているのです。
そこで通信事業者であり、全国津々浦々多くの顧客接点を持つわれわれが、スマホを販売しながらSaaSを提供し、架け橋となることを目指しています。
──SaaSをどのように提供しているのでしょうか。
代表例として「ドコモビジネスパッケージ」というスマホでも利用できるソリューションのプラットフォームを手掛けています。
「ドコモビジネスパッケージ」は大きく2種類あります。1つが、モバイルや通信、セキュリティサービスによって最適な業務環境を提供する「コミュニケーションパッケージ」。
もう1つが、お客さまの業界や業務に特化したSaaSを揃えた「業界・業務課題解決パッケージ」です。2つを上手に組み合わせ、一体的に提供しています。
──実際に成果は、出ているのでしょうか。
印象的だったのは、岩手県の卸売企業さまの導入事例です。もともとは業務効率化のために代表電話への入電などをスマホから受発信できるサービスを提案していました。
それを基点に「業界・業務課題解決パッケージ」の1つである「配送アシストプラン」を導入しています。これは文字通り、配送計画の自動作成をするサービスです。
また、使いこなしサポートというサービスも提供し、帳票をこれまでの紙の帳票と同じ様式で、デジタル上で入力できるようカスタマイズした支援も実施しました。
体感値ではありますが、業務稼働としては「3〜4割の削減につながった」とお褒めの言葉をいただきました。
通常ですと、SaaSベンダーは1社ごとに得意分野を持っていらっしゃるため、特定領域の対応になりがちです。
しかし、こうしたパッケージがあれば、中小・ベンチャー企業もツールの選定や契約の手間がなくなりスピーディーにDXを進めることができます。
スマホ×AIが作る未来の働き方
──SaaSとの連携が増えるほど、中小・ベンチャー企業の業務効率化の選択肢が広がる一方で「ドコモビジネスパッケージ」と連携していないツールは利用できません。痒い所に手が届かないケースもあると感じました。
おっしゃる通りですが、近年のAIの加速度的な成長が、解決してくれると考えています。
AIの進化は目覚ましいものがあり、スマホで行える業務の幅を劇的に広げています。
弊社も2025年6月に「Stella AI for Biz」という1000種類以上の豊富なテンプレートを用意したAIプラットフォームを月額1980円(税抜)でリリースし、大きな反響をいただきました。
様々な業務カテゴリに応じたテンプレートを用意し、UI/UXにとことんこだわることでAIを業務改善に活かすハードルを劇的に下げています。
今後AIはあらゆる業務の最適化に寄与していきます。ただ「AIに何を聞いたらいいかわからない」といった壁が初心者にはあります。
また、LLM(大規模言語モデル)によって、資料作成は得意なものの文章作成は少し苦手など得手不得手があります。
そこで、「Stella AI for Biz」では、テンプレートに必要な項目を入力する際に、GPT、Gemini、Grok、Claudeといった主要なLLMを選択できます。テンプレートに必要な情報を入力し、LLMを選択するだけで最適な回答を得られるようにしています。
ChatGPTのビジネスプランは1人当たり25ドルしますが、20ドル未満で、あらゆるLLMを横断して活用できることは、リーズナブルな価格設定だと言えます。
──スマホを起点としたAI活用をさらに広げていくプランもありますか。
AIアプリケーション開発を手掛けるエクサウィザーズとAIサービス群の販売連携を開始しました。中でも面白いのが「AIロープレ」です。
今は働き手不足以上に「教える人不足」という課題が日本にあります。
エンジニアを育てるためには優秀なエンジニアが先生役にならなければいけませんし、医療業界でも看護師や介助士といったスペシャリストに教えてもらう必要があります。
しかし、スペシャリストほど多忙ですし、高齢化によって、現場の育成支援が難しくなっています。
そこで、スペシャリストの知見を生成AIに学習させ、AIが代わりに新入社員や新人スタッフとロールプレイを行う仕組みを考えました。
「AIロープレ」ではAIとの壁打ち後に、受講者の得手不得手の傾向がスコア化されます。これにより、スペシャリストが付きっきりになる必要がなくなる。
一定のスキルが蓄積された段階で登場し、より高度な指導を行う、という効率的な育成プロセスが可能になります。
また、スペシャリストがレッスンをする際にもそのスコアを参照できるため、受講者一人ひとりの習熟度を把握した上で効率的に教育ができます。
また生成AIに学習させることで、何らかの事情でスペシャリストが離職や引退されても、入力されたスキルは企業に資産として蓄積されていくのもメリットと言えます。
「人」の力で全地域のDXを推進
──中小・ベンチャー企業の働き方を変えるべく、今後さらに進化させたいポイントを教えてください。
スマホをより使いやすくすること、生成AIソリューションの強化など複数ありますが、一番注力したいのが伴走サポートです。
新料金プラン(ドコモBizデータ無制限)に紛失時のサポート等をバンドルしたことやドコモビジネスパッケージで使いこなしサポートを提供していることにも表れていますが、われわれのようなIT企業と中小・ベンチャー企業の現場とでは、どうしてもITの習熟度に差があります。
そこでソリューションの導入や、使いこなすためのサポート、ソリューションのカスタマイズ対応など、企業の状況に合わせた伴走も行うようにしています。
──実現するにはかなりのリソースが必要だと感じます。
やはり地域に行けば行くほど、ITやDXへ知見のある人や企業が少ないのが現状です。一方で、NTTドコモビジネスの強みは全都道府県に営業拠点があり、社員がいることです。
私たちは、地域のDXを推進するためのプラットフォーマーになりたいと宣言しています。全国津々浦々の中小・ベンチャー企業を支援していくことに、会社としても大きな価値を感じています。
このサポート網と、広い通信エリアを持っている弊社の強みを活かして、アグレッシブに取り組んでいくべきだと考えています。
──最後に、本髙さんご自身としての変革への思いをお聞かせください。
NTTドコモビジネスは、NTTドコモの法人事業がNTTコミュニケーションズに統合されできた会社です。
NTTドコモ出身の社員からすると、大企業のダイナミックなビジネスに携わる機会が増え、NTTコミュニケーションズの社員からすると、全国に広がるサービス網から地域活性化という社会的使命を感じられる。
こうした背景のもと、相互交流による化学反応が統合4年目の今、各所で起こっています。その結果、ビジネスと地域貢献がトレードオフになるのではなく、両方を一挙に実現できるものだという気風が高まっています。
「事業は人なり」と言いますが、企業の中での人づくりをやりきる。そして、それぞれの地域や地場の企業の成長力を後押しし、地域活性化に貢献できるよう、今後も弊社一丸となって努力してまいります。
執筆:長谷川賢人
撮影:小池大介
デザイン:小鈴キリカ
取材・編集:山口多門









