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「AIアイデアマラソン」が示す、
現場主導のAI活用の現在地(前編)

「AIアイデアマラソン」が示す、現場主導のAI活用の現在地(前編)

ChatGPTをはじめとする生成AIサービスが急速に普及するなか、多くの企業が「どうやって自社のビジネスにAIを活用すればいいか」と、悩みを抱えているのではないでしょうか。その解決のヒントになるのが、創業から80年以上の歴史をもつ、とある総合ガラスメーカーの新しい取り組みにあるかもしれません。建物や住宅向けガラスの製造販売から、大手自動車メーカーの窓ガラス加工、さらに電車の車内に設置されたディスプレーのカバーガラスやホームドアのガラスまで、幅広い分野でガラス加工技術を提供するイケダガラス。同社が2025年6月から始めたのが、AIをいかにして業務に活用するか、そのアイデアを社内で募る「AIアイデアマラソン」です。開始1カ月時点で全社の提案率は26%に達し、ある部署では5割を超える社員が提案。さらに、社内での全面的な展開が検討されるような業務効率化のアイデアも現れるなど、すでに成果が見られつつあります。なぜスタートからほどなく、続々と社員からの提案が生まれているのか。そしてAIの活用を、どのように推進して根付かせようとしているのか。イケダガラス代表取締役社長の池田友和さんに、同社の取り組みの現在地について話を聞きました。

この記事はNewsPicksとドコモビジネスが共同で運営するメディア「NewsPicks+d」編集部によるオリジナル記事です。ビジネスやキャリアに役立つコンテンツが無料でご覧いただけます。 NewsPicks+d 詳しくはこちらをクリック
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目次

イケダガラス株式会社 代表取締役社長 池田友和

社員が主役の「AIアイデアマラソン」

「AIアイデアマラソン」は、当社で40年以上続く、社員が業務の改善案を現場から提案する「提案活動」という独自の制度をベースに設計しました。期間は2025年6月4日から10月31日までの5カ月間で、管理職を含む全社員を対象に実施しています。

参加は任意で、提案は個人、グループのどちらでも可能です。社員が業務で感じる課題に対し、AIを使った改善策を自由に提案してもらっています。使用するAIツールは自由に選択でき、ChatGPT、Gemini、Microsoft Copilotなど、何でも構いません。

アイデアや実践例を毎月1件以上、5カ月連続で提案してくれた社員には、 2000円の奨励金を支給します。また、特に優れた提案をした社員は、年度末の全社大会で表彰の対象となります。

社員が主役の「AIアイデアマラソン」

この取り組みの狙いは、AIに対する心理的なハードルを取り払い、社員が主体的にAIに触れ、考え、活用するきっかけをつくることです。社員一人ひとりが自然にAIと向き合い、使いこなせるような文化の醸成を目指しています。

具体的なゴール設定はあえて行わず、「とりあえずやってみよう」という方針でまずは始めました。重視しているのは、とにかく社員がAIに触れること。急速に技術が進化していますが、まずは慣れ親しんでもらうことが大切だと考えています。

そのため、提案内容のハードルは高くせず、「ちょっと調べてみました」「文章を要約しました」といった簡単な内容でもOKとしています。

コロナ禍が生んだDX推進への危機感

AI活用の推進に取り組み始めた背景には、コロナ禍で抱いた危機感があります。外出自粛などで日々の業務を思うように動かせないなか、デジタル技術の重要性を痛感し、2020年から当社でもデジタルトランスフォーメーション(DX)を本格化させました。

具体的には、DX推進課という専門部署を設置。それまではアナログな仕事環境だったのですが、営業全員にノートパソコンとスマートフォンを支給し、顧客関係管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)といったITツールの導入、工場ではIoT推進によりスマートファクトリー化を進めました。

写真提供:イケダガラス株式会社
写真提供:イケダガラス株式会社

そうした流れの中で、2022年後半にChatGPTが登場し、AIが技術的にも非常にホットなキーワードになりました。私自身、すぐにChatGPTについてチェックし、2023年のはじめには外部研修に参加してAIに関する最新の知見を学びました。そこで、今後のビジネスにはAIの活用が必須であると確信したのです。

一方、その内容を展開しようと費用補助の制度も設けて研修の受講を社内で勧めたのですが、興味のある人だけの限定的な動きにとどまり、全社的な広がりは見られませんでした。その後、AIツールが日に日に勢いを増して広まるなかでも、若い人や技術に明るい人が使うのみで、社員が日常業務でAIを普通に使うという状況にはなっていませんでした。

そこで企画したのが、今回のAIアイデアマラソンなのです。

(写真:artisteer / gettyimages)
(写真:artisteer / gettyimages)

想定を超えた現場からの実践的な提案

開始1カ月で寄せられた提案の中には、想定を上回るレベルの高いものも含まれていました。

最もレベルが高いと感じたのは、「社内規定の問い合わせAIエージェント」です。社内規定をAIに読み込ませたシステムで、例えば「育児休業の取得について教えて」と質問すると、関連する規定とともに回答してくれます。現在、社内での本格運用に向けて精査を進めています。

事務系では、営業による業界調査での活用が目立ちました。当社はGoogle Workspaceを導入しており、Geminiの有料版が利用できる環境を整備しています。ディープリサーチ機能を使ってレポートを作成し、部内で共有するといった活用事例が生まれています。

写真提供:イケダガラス株式会社
写真提供:イケダガラス株式会社

工場などの現場からも実用的な提案が出てきています。購買活動では、これまで複数の業者で価格を比較していた作業を、AIに質問することで効率的に最安値を調べるといった事例が現れています。

技術的な相談の事例も印象的で、例えば溶接作業場での換気対策について、AIに相談したところ、複数の対策案を提示され、それを組み合わせて実際に対応することができたという報告がありました。

これらは個別に、日々の業務の課題を解決しようと提案されたアイデアたちですが、横展開することで全社的な業務効率化を実現できる可能性があります。例えば、購買活動の調査結果を共有するシステムや、技術相談のナレッジベース化といった発展形が考えられます。

取り組みを始めるときには想像していなかったような、さまざまなアイデアが生まれているのはうれしいですね。

想定を超えた現場からの実践的な提案

提案率「26%」という数字が示す可能性

開始1カ月でのアイデアの提出率は全社で26%という結果でしたが、正直に言うと、7割程度の社員の参加を期待していました。部署別で見ると成績が明確に分かれており、事務系は51%と半数を超えた一方で、工場からの提出は16%にとどまりました。提出率を上げるためにどのような対策を講じるべきか、これから考えていく必要があります。

工場の生産現場は、常時PCを使う環境ではないというハンデはあるのですが、社員の声を聞いてみると、大きく意識面での課題が見えてきました。現場を中心に「AIを使うのはレベルが高いこと」と捉えられている傾向があり、「AIを使うイメージがなかなか湧かない」「どう使ったらいいかわからない」と考えられているようです。

「簡単な調べ物をした」「試しに使ってみた」といった身近な使い方を試してもらいながら、まずはアイデアを提案してもらえるよう、さらなる働きかけが必要だと感じています。

(写真:Rossella De Berti / gettyimages)
(写真:Rossella De Berti / gettyimages)

AIアイデアマラソンは10月末までの実施ですが、今回だけで終わらせず、来年以降も重点的にAI活用を推進するつもりです。AIを特別なものとして意識せず、日常的に使われる状態を目指して、取り組みを続けていきます。

AI活用推進の土台となっている、イケダガラスで40年以上続く「提案活動」。この独自の企業文化は、どのように全社に根付き、長期間継続されてきたのでしょうか。後編では、池田さんにその秘訣や経営哲学について詳しく聞きます。

この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。

執筆・編集:加藤智朗
撮影:曽川拓哉
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)

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