■前編からご覧になりたい方はこちら
全国の駅に「案内板」を置くビジネスが驚きの進化を遂げていた(前編)
神社・寺院を訪れるインバウンド客に対応
鉄道駅を利用する人なら誰もが目にしているであろう、出口案内や周辺地図が掲載された案内板。1967年の創業以来、表示灯は駅の利用者を目的地へと導く案内板ビジネス「ステーションナビタ」で成長を遂げてきました。
しかし、駅の数には限りがあり、成長には限界があります。そこで同社はこのビジネスから派生して、駅構内の改札や駅名標などの交通サインや、駅周辺の案内図を表示した公共サインなど、「ここもか!」と思わず驚くほどの、さまざまなかたちのサイン事業を広げてきました。
そして近年、外国人観光客の増加で急激に設置場所を増やしているのが、観光地として人気の神社・寺院に設置されている周辺案内地図「神社・寺院ナビタ」です。国内外から参拝者や観光客が数多く訪れる神社や寺院は敷地が広く、なんらかの案内がないとうまく散策できないことも珍しくありません。
大阪城公園の中にある大阪城豊國神社には、表示灯によるデジタルサイネージ型の周辺案内地図が設置されています。この案内板を手がけた同社開発本部の浅野正臣本部長は、神社・寺院向けの案内板事業をスタートした背景についてこう説明します。
「駅と同様に、多くの人が訪れる観光名所の神社・寺院では、どこに何があるのか、どの順路で参拝するべきかが直感的にわからずに戸惑う人は多く、当社が培った周辺案内地図やサイネージの最新技術で、日本古来の伝統文化を伝えていくことは社会貢献事業になるのでは、と考えました。特に外国人観光客が増えると人による案内にも限界があるので、多言語での地図やさまざまな情報提供ができるデジタルサイネージ型の周辺案内地図は、大きなメリットがあります」
大阪城豊國神社の周辺案内地図には、広い境内はもちろん、大阪城公園全体の案内図が表示されていて、横のタッチパネルは言語を選択すると案内が英語に切り替わる仕組みになっています。
近隣施設の案内や広告に加え、関連施設の紹介や神社の参拝マナー、周辺の観光地の紹介といったコンテンツもあり、観光客がひっきりなしに近寄ってきては見入ったり、触ったりしている姿が印象的です。案内板の筐体は、周囲の歴史的構造物に溶け込むデザインで、景観にマッチするよう配慮されています。
「筐体は一つひとつカスタマイズしていて、案内を必要とする人の目につきやすいようにしながらも、景観から浮かないよう見た目のバランスに配慮しています。広告は絵馬をデザインした枠に掲載しています」(浅野さん)
こうした案内板は大阪城豊國神社のほか、知恩院(京都)や神田明神(東京)など、名だたる神社・寺院で設置が進んでいます。
全国1000を超える自治体の「ナビタ」
駅を飛び出した同社の周辺案内地図ビジネスの新たな柱になっているのが、自治体の庁舎内に設置する案内板「シティナビタ」です。同社の徳毛孝裕社長が、その経緯を説明します。
「自治体の施設には、住民課や税務課など多くの課があり、来庁者にとってその構造は必ずしもわかりやすいものではありません。また、用が済んだあとに庁舎の周辺に出かけようとする人も多く、周辺案内地図のニーズも高いと考えました」
そこで、2010年に地元・名古屋市の天白区役所に「シティナビタ」第1号を設置しました。
駅案内板であるステーションナビタと同様、自治体は原則として案内板を設置する場所を提供するだけで、設置費用や電気代、メンテナンス費用などは表示灯が広告収入から負担します。
シティナビタには、周辺地図や施設などの情報が掲示されるほか、庁舎案内や行政からのお知らせなども合わせて掲示したり、チラシやパンフレットを並べるスペースを設けたり、あるいは、動画広告や住民への情報を発信できるデジタルサイネージを搭載したりしているものもあります。
すでに全国1000を超える自治体で設置、運用され、自治体関連の事業での売り上げは、いまや鉄道駅のステーションナビタ事業を超える規模に成長しました。
その成長の背景には、自治体にとって庁舎内にシティナビタを設置するメリットが、とても大きいことがあります。というのも、無料で案内板を設置できるだけでなく、自治体が住民に周知したいお知らせを掲示できたり、場所の使用料などを得られたりするからです。同社関東支社インフラ開発部の伊藤祥部長は、こう説明します。
「当社が自治体向けビジネスをスタートした当時は、庁舎の中に民間企業の広告を掲示することに抵抗感を示す自治体は非常に多くありました。しかし、広告をつけることで自治体の持ち出しゼロで利用者の利便性を高める周辺案内地図を掲示でき、行政財産を有償で貸し付けることによる税外収入を得ながら、効果的に情報発信できるメディアを持てるようになります。このメリットを理解してもらえるようになると、シティナビタの導入が一気に進みました」
同社では自社の案内板に掲載する広告を集める事業も一貫して担っていますが、自治体庁舎内への広告出稿は、ステータスやブランディング効果が期待できるとあって人気があるといいます。
駅、自治体庁舎、神社・寺院と設置場所を広げてきたナビタ事業は、さらに交番、病院と公共性の高い場所での設置を増やしています。
災害時の案内機能が命をつなぐ
自治体との連携が増えると、ナビタ事業以外にもさまざまなニーズがあることがわかってきました。同社ではすでに、住民サービスを担う課の呼び出し番号案内事業や、バスの発着情報を知らせるサービスなども提供しています。そしていま、もっとも力を入れる事業のひとつが、防災関連サービスです。
地震、津波、豪雨、火災――いつどこで起きてもおかしくないこうした災害時に、迅速かつ的確に住民に避難情報を届けることは、自治体にとって重要な課題です。
取り引きがある自治体からも、「駅や施設に掲出された案内板を災害時の情報発信に活用できないか」「災害時に住民に届けたい情報を、デジタルサイネージにリアルタイムで放映できないか」という声が上がったといいます。
こうした声を受けたソリューションのひとつの例として、東京都足立区ではデジタルサイネージ型の案内板が、駅前や公園など区内9カ所に設置されています。平時では自治体からのお知らせや広告を放映し、災害時には避難情報などの情報に切り替わるしくみになっています。
また、地域の防災無線を補完するシステムとして、災害時に避難誘導ができる災害警報システム「NAVIアラート」の製品化もしました。
地域の住宅に防災無線を設置する自治体は多くありますが、住んでいる人や在宅時にしか呼びかけができないという弱点があります。地域内に設置されたNAVIアラートは、非常時にあらかじめ登録した音声メッセージを放送し、外にいる人に避難を促すことができます。
「スマホアプリからも操作可能なため、いざというときに自治体の職員がどこにいてもアラートを発信することができます。多言語での呼びかけも可能なので、外国人観光客が多い地域でも効果的に避難を呼びかけられます」(徳毛社長)
すでにNAVIアラートは国内外からの観光客が多く滞在する沖縄県石垣市で設置され、日本語だけでなく英語や中国語での避難誘導に対応しています。
表示灯がこれまで全国の駅や自治体を中心に展開してきた案内板「ナビタ」の収益源は広告ですが、防災目的の案内板やデジタルサイネージは、必ずしも高い広告効果が見込める場所に設置できるわけではないので、シティナビタと組み合わせて導入するなど、なるべく負担を抑える工夫をしているといいます。
徳毛社長は、表示灯の案内板ビジネスが目指す姿について、こう話します。
「社会のデジタル化がどれだけ進んでも、道に迷う人や必要な情報が届きにくい人がゼロになることはありません。設置場所を提供していただける駅や自治体、公共施設などとの信頼関係を大切にし、地域の情報格差や不安を解消していきたい」
災害時には誰もがスマホで情報を受け取れるわけではありません。同社のナビタをはじめとする案内板やサインの事業は、誰もが迷うことなく行動できる社会を目指すインフラとして、静かに拡大を続けています。
(完)
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
取材・文:森田悦子
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:鈴木毅(POWER NEWS)








