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ONE TEAMで地方を変革。
今治で育つ次世代リーダーたち(前編)

ONE TEAMで地方を変革。今治で育つ次世代リーダーたち(前編)

2024年8月、今治の地で、未来を担うリーダーを育成するための地域課題解決型プログラム「Bari-Challenge University」(BCU)が開催されました。 日本各地から集まった31人の若者たちが、「今治のパーパスを考える」というテーマのもと、答えのない問いに挑みました。サッカー元日本代表監督の岡田武史さんの呼び掛けで、2016年に始まったBCU。6回目を迎えた今年は、これまでにはなかった市内企業との連携や地域住民との交流など、より実践的な活動を盛り込み、地域に根差したプロジェクトへと進化を遂げました。今回の記事では、岡田さんの思いを継いで運営の中心メンバーとなった、事務局の矢野いずみさん、星島南斗さんに、BCUにかける思いと今後の展望について話を伺いました。

この記事はNewsPicksとドコモビジネスが共同で運営するメディア「NewsPicks+d」編集部によるオリジナル記事です。ビジネスやキャリアに役立つコンテンツが無料でご覧いただけます。 NewsPicks+d 詳しくはこちらをクリック

目次

ロールモデルなき時代を生き抜くために

「ここ数年、社会は大きな転換期を迎えています。気候変動、AIの発達。過去に起きていないから、誰に聞いてもわかんない。AIだって、これまでのデータがないからわかんない。ロールモデルがいなくなったんです。そんな中で人間は、これから生きていかなきゃいけない」

参加者らを前に、そう切実に語りかけるのは、BCUの発起人である岡田武史さんです。サッカー元日本代表監督として活躍した岡田さんは、現在、人口15万人の愛媛県今治市で株式会社今治.夢スポーツの代表取締役会長を務めています。

株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長でBCUの発起人である岡田武史さん
株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長でBCUの発起人である岡田武史さん

長年取り組んできた環境問題への危機感や、自身の人生観から「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という理念を掲げ、サッカークラブの運営のみならず、これからの社会を担う人づくりや教育事業などにも積極的に取り組んできました。

「最初の一歩を踏み出さないと、何も始まらない」

岡田さんは、そう強調します。

「現代は便利、快適、安全で、何もしなくても生きていける社会。でも、遺伝子にスイッチを入れて、人間として成長するためには、自分で山を作ってでも、乗り越える経験をしなきゃならない」(岡田さん)

2016年のスタート以来、BCUは、若者たちに一つの試練を与える「山」として、参加者たちが自ら考え行動する機会を提供し、これからの生き方を見つけるための経験を積む場となってきました。

卒業生が見つめたBCUの本質

そんな岡田さんの強い思いに感銘を受け、5年前にBCUに参加した女性がいます。今治市出身の矢野いずみさんです。

矢野さんの父は今治タオル関連企業の経営者。発展途上国で仕事をする機会が多かったという父の影響で、矢野さん自身も幼い頃から国際平和について考えることが多かったといいます。

大学では国際学を専攻し、中東に2年間留学。帰国後、BCUに参加したのも、『社会をより良くしたい』という思いからだったといいます。

矢野「BCUに参加した当時、私は大学4年生でした。メンバーの中に今治出身者は私だけで、せっかくなら地元のディープな課題をテーマにしようと考えました。
そこで『治安が悪いから近づかない方がいい』と耳にすることの多かった漁師町を訪れてみることにしたのです。
実際に訪れてみると、昔ながらの景色と文化の残る、風情のある町で、ひょっとしたら、この町にこそ今治の人々が共感できる『らしさ』が隠れているのではないかと思いました」

そこで生まれた「新たなコミュニティ創出を目指し、漁師町に食堂を開く」というアイデアは審査員に高く評価され、事業化の話にまで発展。達成感を得たという矢野さんでしたが、それ以上に心を動かされたのは、市民に起きていたある変化だったといいます。

矢野「半年くらい経って、BCUのフィールドワークで出会った漁師さんに偶然にも再会した際、『君たちを船に乗せた光景が忘れられなくて、今、子供たちを船に乗せてるんだ』と教えてくれたのです。
自分たちの活動が、自分たち以外の誰かに変化や気づきを与えられたことに、深く感動しました」

多様な価値観や視点を持つ参加者と市民が交流することで、互いに新たな気づきを得て、理解を深める。BCUが市民にとっても、価値をもたらし、未来へとつながるものになると確信したという矢野さん。
一方で大学卒業後は、中東諸国への貢献度も高い日本たばこ産業(JT)に入社を決めました。
人事部に所属し、パーパスの策定や組織運営に関わるなかで、「自身のキャリアや培ってきた知見を生かして今治に恩返しがしたい」と思ったという矢野さん。

5年越しでBCUに舞い戻り、今度は参加者ではなく運営者として参画することを決めました。
目指すのは、BCUをこれまで以上に街に開かれたものへと進化させること。そしてBCUを通じて参加者と市民が共に学び、新たな発見を得て、地域全体の活性化につなげることです。

企業トップとの距離を縮めたパートナーシップ

BCUを市民と共創する場とするためには、いかに参加者と地域を密接につなげられるかが鍵となります。

そこで矢野さんは、『今治のパーパスを考える』というテーマを設定し、まちのビジョンを参加者から市民に提案することで、より一層、参加者と地域との結びつきを深めようと考えました。

今治.夢スポーツの営業担当である星島南斗さんは、このテーマを掲げるうえでは、市民や行政だけでなく、地元企業の視点が不可欠だと考えました。

星島「地域の存在意義を問う上で、地場で産業を興し、経済基盤を築いてきた企業を巻き込むことは、欠かせないと考えました。それも、強い思いを持ち、事業にコミットする経営層であるべきだと考えました」

多忙な経営者のスケジュール調整は難航しましたが、これまでの信頼関係を背景に、粘り強く交渉を重ねたといいます。

星島「僕たちは普段から、スポンサー企業のことをパートナーと呼んでいます。これは『スポンサー=出資者』ではなく、共に今治の未来を描き、歩んでいく関係を目指しているからです。
もちろん、会社として存続していくために達成すべき営業目標はありますが、私たちが目指しているのは、単なる利益追求ではありません。
『物の豊かさより心の豊かさ』という理念を何よりも大切にし、数字的なノルマを追うのではなく、今治を共に盛り上げる仲間づくりの視点で、企業の方々との関係を築いてきました」

星島さんは、パートナー企業に「今回のプロジェクトでは、すぐに目に見えるような具体的な成果をお約束することは難しいかもしれません」と正直に伝えながらも、地域の新たな可能性を見いだすため、そして未来を作る若者の成長のためにと協力を求めました。

地場産業を知ってもらうことで地域の未来につながる

パートナー企業の1社である、タオルメーカー藤高の藤高亮社長は、星島さんから声をかけられた際、「協力できることなら」と参画を快諾したといいます。

藤高「私たちも地域貢献という意識を強く持っている中で、『FC今治』の企業理念にも共感するところが強く、パートナーシップを結ばせてもらっています。
今回のBCUで参加者に今治の地場産業を知ってもらうことは、たとえすぐに何かの結果がなくても、地域の未来につながる。私たちにとっても将来の担い手獲得や、今治タオルというブランドの成長のためにも、前向きな話だと思いました」

プログラム当日には参加者に対し、今治タオルの盛衰とリブランディングの歴史を、社長自らが語りました。参加者たちは、今治タオルの新たな道を切り開いてきた社長の力強いメッセージに聞き入っていました。

藤高社長は、参加者との対話で自身も刺激をもらったと話します。
藤高「参加者に今治のことや事業を通して目指す目標など、さまざまな質問をもらい、こちらも改めて考えるきっかけになりました。
参加者の新鮮な感性を感じていい刺激になりました。今治という街に興味を持ち続けてもらい、またいろいろな形で今治に帰ってきてくれたらうれしいですね」

星島さんの努力のかいあって、今年のBCUでは今治の経済界の一角を担う今治造船やJAなど、8社からプログラムへの参加協力を得ることができました。
参加者はいずれの企業でも経営トップとコミュニケーションをとり、地域だからこその身近でリアルな課題を肌で感じていました。
星島さんは今回のBCUを通して「今治.夢スポーツ」という会社の存在意義について考え、一定の手ごたえを感じたといいます。

星島「今治を代表する企業のトップにご協力いただき、受け入れ態勢を作っていただきました。これはおそらくBCUが立ち上がった当初には考えられなかったことだと思います。
今治を一緒により良くしていくため、一緒に夢を見たいと集まっていたパートナー企業と、金銭的なつながりではない関係性がつくれていたからこそ実現できたことだと。本当にありがたいと思いますね」

地域に根ざしたパーパスの発表。地域全体で進める人材育成とは

7日間にわたって課題に取り組んだ参加者たちは、最終プレゼンテーションに臨みました。最終発表の舞台は、ショッピングモール。商業施設で一般公開するのも、今年初めての試みでした。
会場には関わった企業の経営者や担当者、市民も応援に駆け付け、多くの人が見守る中、「盾と矛が共存するまち」「嬉しいおせっかいのまち」「若者が夢を追い、市民が全力で応援するまち」など、それぞれが実体験からまとめあげたパーパスを発表。

参加者の健闘をたたえる拍手の中、BCU2024は幕を閉じました。
星島さんは、BCUが参加者と地域をつなぐハブとなり、地域ならではの課題解決人材を育成できると考えています。

星島「まだまだこれからですが、地域で本気で関係作りをやってきた僕たちがプラットフォームとなり、市民、参加者、企業をつなぐきっかけを作れたことを嬉しく思います。
地域密着で取り組む企業として、BCUというプログラムを今後も継続し、このコミュニティをさらに広げていきたいです」
矢野「企業はどうしても自社の人材育成に終始しがちですが、FC今治が主体となり、地域全体で人材育成を行う。まちの未来に想いを託し、一丸となって今治の未来を担う人材の育成を進める。
今治に還元し変革を促す人材を育成する取り組みとして、BCUがもっと街全体で行われるような未来に、とてもワクワクします。
これからはもっと、働き方や生き方も自由になると思います。正社員ではないけれど、地域や地域の企業に貢献するという働き方も可能になるでしょう。参加者がプログラム終了後も、いろんな方法で街に関わってくれる、そんな効果も期待しています」

岡田「誰に聞いても答えは返ってこない、不確実な時代。その時に思いを持ったリーダーが出てきて、人が集まり小さなコミュニティになり、地方から新しい共助の社会を作っていくことが、唯一の希望になると思ってます」

後編では、岡田武史さんが提唱する「キャプテンシップ」に焦点を当て、リーダーシップを超えた次世代のリーダー像について探ります。
VUCAの時代を生き抜くために求められる「志で組織を牽引する力」とは何か、岡田さんがBCUの若者たちに伝えた熱いメッセージに迫ります。

執筆:小林友紀(合同会社企画百貨)
写真提供:今治.夢スポーツ
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子

【岡田武史】組織づくりについて(全2回)

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