2023年3月16日

最後は3艇のデッドヒート! 接戦を制し第4レグをトップフィニッシュ
~世界一周ヨットレース「Globe40」経過レポート~

皆さま、いつも応援ありがとうございます。NTT Comグループ PHONE APPLIの中川紘司です。10月末にスタートしたGlobe40第4レグをトップでフィニッシュし、11月末に帰国いたしました。自身としては最長の5000kmを超える今回のレグは、予想外の展開で始まり、途中アップウインドと暑さに心が折れそうになりながら、最後は3艇が20時間もトップ争いをし続けるという、体力的にも精神的にも厳しいものとなりました。目まぐるしい展開となった今回のレグ、海上での2週間についてレポートします。

5000kmの冒険へ出発!

前半は粘りのセーリング

第4レグは、ニュージーランド・オークランドからタヒチ・パペーテまでの5000km超のコースとなります。

プロローグ・レース、第1レグとは違い、私たちのチーム「MILAI」は追う立場(第4レグスタート時点で総合3位)。「なんとかこのレグでトップを取り、後半での挽回に向けたきっかけをつくりたい」と思いながら、スタート地点のオークランドに到着しました。

着いた時は、まさにキール(船を安定させるもっとも大事な重り)の2度目の修理の真っ最中。オークランドのレースビレッジから少し離れたHalf Moon Bayというハーバーに上架し、MILAI号はマストもない、キールもない、何もない状態でした。そこから素晴らしいチームワークでスタンバイ状態に整え、スタートの日を迎えました。

スタート日、10月29日はあいにくの天気。ただでさえスタート直前は精神的に落ち込むのですが、雨模様がそれに輪をかけます。幸いにも、スタートラインから湾外までは“タック(風上に向かっての方向転換)”なしで同じ風に乗って走れそうだったので、それが唯一の救いでした(ヨットは真っすぐ風上には走れないので、風上に向かう場合はタックを繰り返す必要があります。タックを一度するのに5分程度の準備が必要で、体力的にもそれなりに消耗するので、なるべく避けたいものなのです)。

スタートラインは、オークランド「ハーバー・ブリッジ」のたもと、世界最古のスポーツトロフィーであるアメリカスカップ(アメリカ号に対して与えられたカップなので、“アメリカズ”ではなく“アメリカス”カップで正しい)を保有する「ロイヤル・ニュージーランド・ヨット・スコードロン」のクラブハウス前でした。実は、私たちチームMILAIにとって、スタートは鬼門。過去、出発直後に2度、他艇と接触事故を起こしているため、とにかくスタートは焦らず安全第一を心掛けています。ですから第4レグもいつも通り、最初はガツガツいかず少し余裕を持って・・・、と思っていたのですが、総合成績1位のアメリカ艇(AMHAS)と2位のオランダ艇(Sec Hayai) がスタートラインで激しい攻防戦。結果、アメリカ艇はラインから押し出され、オランダ艇はフライング(=スタートラインに戻らなければならない)となり、その隙を突いて、MILAIは安全をキープしつつもかなり良いスタートを切ることができました。

そこから、ランギトト島の南を通過し、グレート・バリア島の南を通って南太平洋へ出航しました。スタート直後は、20〜30ノットのアップウインドが続いたため、アップウインドに強い、アメリカ艇、オランダ艇に先を越されましたが、なんとか後半での逆転を狙い、できるだけ大きく離されないよう粘りのセーリングをしていました。

5日程度経ち、全行程の半分弱(2000kmほど)を過ぎると、進行方向がほぼ真北に。イコール、毎日緯度が低くなるため、日々気温の上昇を強く感じるようになりました。

ニンジンは長持ちするし、とても甘いのでお気に入りのおやつです(右はスキッパーのMASA)

私自身はこの寒いところから暑いところに移動するセーリングが苦手で、どうしても服を脱ぐ(減らす)ことを忘れてしまう癖があるので、今回は早めにかつ意識的にウエアの調整を行いました。それでも、一度軽めの脱水症状に陥りかけてしまいました。ただ、第1レグ(モロッコ・タンジェからカーボベルデ共和国)でも同じような経験があったため、冷静に体調をマネジメントすることができました。日常生活においても、時間をかけてゆっくり気温上昇する環境は危険ですので、皆さまお気を付けください。


20時間寝ずの大接戦を勝ち抜いたのはMILAI!

第4レグを半分終えた時点で、順位は1位アメリカ艇、2位オランダ艇、そして3位にMILAI。

後半は予報通り徐々に風向き自体が南に回っていき、MILAIにとって走りやすい風へと変化していきました。これにより、先行するオランダ艇との距離を少しずつ縮めることに成功し、11月5日、スタートしてから丸7日目にして第2位に上がることができました。この際、オランダ艇との距離は数kmまで近づき併走したので、VHF(無線)でコミュニケーションを密に取ってレースを進めました。レース中はライバルでもあり仲間でもあるため、時には愉快なコミュニケーションを繰り返すこともあります。

MILAIが2位になった時点で、残り約1800km。レースも終盤に向かっていました。当然次なる目標は1位を奪うことでしたが、アメリカ艇の素晴らしい走りに食らいつくのに精一杯で距離を縮められないまま、第4レグ唯一のウェイポイントであるボラボラ島付近まで到着しました。ボラボラ島回航後、フィニッシュまで距離は280km。全5000kmからみると10%にも満たない距離であり、3位のオランダ艇(10km後方)の追い上げもあったため、60kmほど前にいるアメリカ艇を抜くことよりも、現実的には「2位を守るセーリング」への意識が強くなってきました。

そして、ボラボラ島回航。スタート前のイメージでは、ここまで来ればおおよそ各艇の距離も離れ、少しリラックスしながら“きれいなボラボラ島を眺めながらの回航”をイメージしていました。しかし実際には、島特有の無風エリアにも留意しつつ、後続艇に猛プッシュをされながら、なんとか先行艇の隙を見計らおうという神経質な展開。また、まだ日も出ていない段階での回航となったため、私自身はほぼボラボラ島を見ることなく回航完了となりました。

ボラボラ回航時の様子。思っていたのは緑あふれる島を見ながら・・・でしたが、なんか違いました(笑)

回航直後、トップを行くアメリカ艇との距離は60km程度。レーダーは10km圏内しか識別できないためアメリカ艇は映らず、Globe40が4時間ごとに更新するトラッキングサイトで位置を確認することしかできない状況でした。一方、私たちの後続オランダ艇の位置はレーダーで確認できる距離にあったため、まずは彼らをしっかりフォローしながらのアップウインドとなりました。

少しでも船を速く走らせるため、ベッドは使わず船をよりフラットにできる位置で寝ます

風は10ノットほどで、波が悪く、思うようにスピードの出ない苦しい海面。日が出ると同時に激しいスコール。少しでも気を緩めると後続艇に抜かれる。あらゆるプレッシャーに追い立てられながら、無我夢中でセーリングを続けていました。すると突然、レーダー画面上に、先行していたアメリカ艇が表示されました! しかも、MILAIのすぐ近く。つまり、数時間で55kmの差を詰めたことになります。MILAI船内でも一瞬何が起きたのか理解するのに時間を要しましたが、島影とスコールの影響で風の向きが大きく変化し、MILAIとオランダ艇にとってプラスに働いたようです。


ということで、スタートから丸12日目、4800kmをセーリングし、残り約200kmの地点で1位〜3位が数km圏内に集まる、という接戦が始まりました。

そこからは、とにかく激しいレース展開でした。アメリカ艇とは常に5km差以内のコース展開。1つミスをすれば絶対に負けてしまうという緊張感の中、約20時間2人とも(ほぼ)寝ずのセーリングを続け、最後はMILAIがアメリカ艇と2km差でトップフィニッシュすることができました! 時間としては2位と7分43秒差。これはヨットにおいてかなりの僅差(100m走で換算すると0.0084秒差)になります。

第4レグは精神的にも体力的にも厳しい戦いでしたが、最終的に勝つことができ、本当にうれしいフィニッシュでした。MILAIには大きなラッキーもありましたが、最後20時間のセーリングで走り負けることなく逃げ切れたことは、後半戦への大きな自信につながりました。

皆さんへのメッセージ

今までお読みいただいた第4レグのレポートは、レース終了後、社内報で公開したものです。執筆当時、次の参加レースである第7レグ、ブラジル・レシフェからカリブ海に浮かぶ国グレナダ(2月5日出発、2月15日到着予定)に向けて準備をしている最中でした。初めてのブラジル、グレナダ、赤道越えにワクワクしていました。

しかし、アルゼンチン沖でMILAI号は大きな事故にあってしまいました。事故の詳細、修理状況、そして世界一周達成への意気込みについては、次の記事でご報告します。どうぞお楽しみに。

引き続き、PHONE APPLI共々、応援どうぞよろしくお願い申し上げます。

レースリンク集

社員メッセンジャー

株式会社PHONE APPLI取締役副社長

中川 紘司

昔からの夢を実現したいと思ったときに、素直に相談できる環境が自分の前にあったこと、とても幸せなことだと感じています。多くの人たちが夢を実現できるように、少しでもその参考になればと紹介させていただきます。

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