外部視点で地域の「当たり前」を変える
──地方の構造的課題から抜け出し「稼ぐ地方」になるためには、何が必要になってくるのでしょうか。
近藤 まずは「地域の特性の再認識」と「外部の視点」が必要です。地方ではよく「うちのまちには何もない」と言いますが、地元にいるとその価値に気づけないことが多くあります。
江戸時代には全国に300もの藩があり、それぞれが独自の地域性を発揮して地元の経済を回していました。47都道府県で考えるのではなく、藩ぐらいの規模の狭いエリアで考えてみると、地域の独自性を象徴するような魅力は、いまも残っているのではないでしょうか。
自分たちでは当たり前すぎて気づけないかもしれませんが、外部の目を入れてみると、その価値を再発見しやすくなります。
例えば、岐阜県の高山市。地元の人にとってはただの昔ながらのまち並みも、海外の人からすると「日本の原風景」という魅力があります。しかも、ひと昔前であれば、その魅力を打ち出すために予算と人員をかけてPRすることが必要でしたが、SNS時代のいまは違います。
実際、韓国のインフルエンサーが高山のある蕎麦店をSNSにアップしたところ、それをきっかけに韓国人観光客が高山に殺到するような現象が起きています。SNSといったテクノロジーを活用することで、簡単に世界中にその魅力を発信することができるのです。
京都のあるお茶メーカーは代々、京都御所マークを使っていました。彼らにとっては「ずっと使っているものだから」という感覚ですが、海外から見るととても大きなブランド価値ですよね。
──確かにインバウンドは「外部の目が価値を生む」という意味でわかりやすい例ですね。
近藤 しかも、いまのインバウンドは「爆買い」から、「体験」の価値へと質的にシフトしてきました。価格と量の競争だった爆買いと違い、「ここでしかできない体験」に人もお金も動くようになっています。これこそ、地方がオリジナルのストーリーで魅力を活かすチャンスだと思います。
成功する地方に欠かせないキーパーソンの存在
──そのほかに地方ビジネスが再生していくためのポイントとしては、どんなことがありますか。
近藤 地域内の「エコシステム」をうまく確立していくことです。そこで重要なのが地元のキーパーソンの存在です。成功している地方には必ず、優れた地元のキーパーソンがいます。
例えば、移住を促進しようとしたときに、移住者と地元の長老との関係がギクシャクしてしまうケースがよくあります。移住者がうまく地域に溶け込んでいる地方では、挑戦する若い移住者と長老との間をキーパーソンが上手に取り持っていたりするのです。
富山県南西部の山間に位置する南砺市井波地区で、地域起業家を呼び込む活動をしている一般社団法人ジソウラボ代表理事の島田優平さんは、そんなキーパーソンの1人。人口7600人の小さなまちで、若い移住者が古着屋やカフェを立ち上げ、新たな風を吹き込んでいます。
島田さんは、井波の人口を増やすことが目的ではなく、100年後も暮らしていけるまちにするために「つくる人をつくる」ことを目指しています。その取り組みが成功し、いまや30人ほど次世代リーダーが育っているといいます。
さまざまな施策が功を奏していることに関しては、移住者には「相談には乗るけれど干渉はしない」距離感を保ちつつ、地元に長年住む方々には「若い人たちの挑戦を応援しましょうよ」と積極的に対話する島田さんの役割が大きいと感じます。
そういうキーパーソンがいるまちは、地域の新しい未来を切り開いていけるはずです。
テクノロジーが実現する「直接つながる」新しい商流
──近藤さんは、地域と外部とのつながりにテクノロジーを活用することも大切だと語っています。ココペリでもオンラインを活用して、地方の中小企業のビジネスマッチングサービスを展開していますよね。
近藤 弊社では、金融機関と連携して地方中小企業同士をつなぐビジネスマッチングを行っています。オンラインでつながることで、まったく違う地域の企業同士が簡単に繋がり、お互いの強みを生かしたシナジーが生み出せます。
オンラインが生んだビジネスマッチング事例
【沖縄県那覇市 豆腐店×ちんすこう業者】
沖縄の豆腐店の「廃棄物となるおからを使って何かできないか」というアイデアから、ちんすこう業者とマッチング。「OKARAちんすこう」が大成功し、2023年度の那覇市長賞最優秀賞を受賞するほどに。現在、おからを使った商品を幅広く展開している。
【福岡県大川市の運送業者×大手配送業者】
婚礼家具の需要減に悩む運送業者が、大手配送業者がプラットフォーム上で荷主を探しているのを見て、ダメ元で直接オンラインからアプローチ。「時間外労働問題に困っているのでは」と仮説が見事に当たり、受注につながる。
近藤 このようなビジネスマッチングの可能性は国内に限りません。生成AIで言語の壁も簡単に超えることができるようになり、グローバル市場とつながることも難しくなくなっています。
2023年の東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出により、中国が日本産海産物を禁止したことで、東北でホタテの出荷先がなくなり大量に余ったことがありました。国内で販売しようとしても、中国向けの価格が高すぎて日本人の購買力では買える値段ではなかったんです。
しかし、こういう場合も生成AIで翻訳して海外と直接オンラインで取り引きすることができれば、解決が可能です。商社を通すと手数料が取られますが、直接取り引きをすることで、より利益を上げやすくなります。
日本には、クオリティの高いものづくりの技という大きな武器があります。その背景にある物語と掛け合わせることで、より強いブランドとして海外にアピールする。デジタルを手段とすることで、新たな市場を世界に見つけることができるようになります。
ココペリでも海外マッチングサービスをすでにスタートしています。自動翻訳でオンライン会議も行えますし、今後、AIがおすすめのマッチング候補先を提示するビジネスマッチングも導入していきます。一方で、伴走支援など人にしかできない部分もサポートする。テクノロジーと人の両輪で中小企業のグローバル進出を支援していきます。
地域の課題を直接解決する「地域通貨」
──地方経済を回すテクノロジーとして、近藤さんは「地域通貨」にも注目しています。キャッシュレス決済とは何が違うのでしょうか。
近藤 地域通貨は、地域固有の課題を直接、解決するツールになりうるものです。
わかりやすい例が長野県白馬村の「アルプスPay」です。インバウンドで物価が高騰し、地元の人たちの生活に影響が生じるなか、基本的に地元の人だけが使う「アルプスPay」で払うと一定のポイントがバックされるなどで、実質的に観光客と地元民で価格を変える「一物二価」の仕組みを実現しました。
ほかにも、予防医療を目的に歩くとポイントが貯まる仕組みや、関係人口を増やすふるさと納税の仕組みとして使う事例もあります。それぞれの地域の課題に合わせた設計ができるのが、「地域通貨」の強みといえるでしょう。
課題解決ツールとしての地域通貨
【長野県白馬村「アルプスPay」】
インバウンドで物価が高騰するなか、地域通貨により観光客と地元民に対する「一物二価」を実現。村民は地域通貨のアルプスPayでの支払いによるポイント還元、村民限定クーポン利用などで、実質的な村民価格に。
【千葉県木更津市「アクアコイン」】
市民が歩くとポイントが貯まる地域通貨。予防医療の促進で、将来的な医療費削減を目指す。
【島根県海士町「ハーンPay」】
ATMのない離島でキャッシュレスによる利便性を実現。観光客がアプリで現地決済した一部はふるさと納税ポイントとして宿泊や飲食などで活用できる“互恵決済”として、関係人口づくりにプラスに。
【東京都「世田谷Pay」】
個人商店が多い世田谷区で、個人商店がマーケティングや集客力を高めるツールとして活用。
──最後に地方ビジネスにチャレンジし、「稼ぐ地方」への変貌を目指す人たちへのメッセージをお願いします。
近藤 人間の本当の幸福は、お金そのものではなく、信頼できる人や地域とのつながり、認め合って生きることにあると思っています。そのためにも地方の文化や伝統を次の世代に残していかないといけないし、それには地方の経済的自立が不可欠です。
テクノロジーが急速に進化している今だからこそ、地方が稼ぐ力を取り戻すチャンスです。中央と地方という関係から脱却し、地方と地方、もしくは地方とグローバルがつながっていくことで、ビジネスを成長させていく。
そのためにも、地方の魅力を掘り起こし、マイナスをプラスに変えるような視点でチャレンジし続けていくこと。それが「稼ぐ地方」に生まれ変わる唯一の道だと思います。
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
構成・取材・文:久遠秋生
撮影:小禄慎一郎
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)








