不可避だった早出・残業をドローンの活用でゼロに
巴山建設(ともやまけんせつ、東京都調布市)の労働時間削減を実現した最大の鍵が、ドローンや3DCAD(3次元データによる設計ツール)などを活用するICT施工の導入でした。
特に効果が大きかったのが、ドローンによる測量です。
測量は、あらゆる土木・建設工事の現場で最初に行うべき仕事で、土地や構造物の位置や形状、大きさを正確に測定する必要があります。従来は施工管理の担当者が手作業で行っていましたが、ドローンが上空から撮影した写真を元に正確な測量データを取得し、3Dモデル化できるようになりました。これにより、1カ月かかっていた測量が4日でできるなど、大幅な時間短縮が実現しています。
測量結果を元に設計・施工計画を作成すると、いよいよ現地工事が始まります。そこで必要なのが、土を掘ったり建物を建てたりする場所の目印を作る「丁張り」という作業です。
工事は暗くなると危険なため、8時から17時など作業時間が決まっています。以前はその前後の時間に施工管理者が現地に行き、測量と「丁張り」をしていました。作業時間を削らないために、早出・残業が余儀なくされていたのです。
しかし、これもICT建機(設計データを基に自動で動かせる重機)を導入することで不要になりました。現地に目印を立てなくても、3Dデータ上で指定したとおりに重機を動かすことができるようになったからです。
これに加えて、ICT施工の導入時に立ち上げた技術システム課が設計図の作成を行うなど、施工管理者が抱えていた業務の効率化と分業を進め、同社の残業時間はほぼゼロになりました。
ICT施工によって作業時間の短縮や正確性の向上が進むと、天候や設計・施工ミス等で工事スケジュールが遅れるリスクも低減できます。工事の生産性が向上し、完全週休2日を実現したり、社員の有給取得を積極的に促す余裕も生まれました。
なお、多くの土木・建設工事は一社で完結するものではなく、週休2日を実現するには取引先や協力会社との調整も必要です。その点については、「2024年問題」が取り沙汰された運輸業界と同様に、建設業も2024年度から時間外労働の規制が始まり、理解が得られやすくなったそうです。
まずは受注してしまい、既成事実をつくった
巴山建設でICT施工の導入を主導したのは、三代目で現社長の巴山一済さんです。
巴山さんは新卒入社した大成建設で数年間、大手ゼネコンの仕事の仕方を学び、2001年に巴山建設に入社しました。そして自らも現場で仕事をするなか、測量のためにどうしても早出や残業が必要になること、重機オペレーターの経験や技術によって現場の工程が左右されてしまうことに課題を感じました。
巴山「30代半ばまでずっと現場で仕事をしていまして、早出や残業をすることがかなり多かったんです。これをドローンで測量して3D図面を作成し、ICT建機で掘っていくという形に変えれば、劇的に作業量が減っていくはずだと考えました。また3D図面を基に半自動で動くICT建機により、経験の少ない重機オペレーターでもベテランと同様の効率で作業ができるようになりました」
巴山さんの話では、中小の建設会社では測量や施工など特定の領域のみICTを取り入れているところはあっても、工事の全工程に導入しているケースはほとんどありません。しかし、それではICT機器のポテンシャルを十分に活かし切ることができないと考え、巴山さんは、測量、設計、施工、完了検査という全てのプロセスでICTを使うことを決断したのです。
しかし、まだ社長に就任する前だった当時、大きな投資に対する社内のコンセンサスを取るのはなかなか難しかったといいます。そこで巴山さんは、ICT施工が条件の案件を落札し、やらざるを得ない状況を作ってしまいました。強引な手段ですが、巴山さんにはその先にある成功イメージが描けていたのです。
その結果、国や東京都がICT施工を推進しているという時代の波にも乗り、ICT施工を始める前と比較して新規顧客数は3倍、売り上げは倍増しました。
運輸業界では、時間外労働の規制によって労働時間が削減されるとドライバーの収入が減ってしまうということが問題になっています。一方、巴山建設の場合は仕事の専門性の高さから、価格競争に陥らずに受注ができている状態で、2024年4月には初任給引き上げと現社員のベースアップ、資格手当の拡充も実現しました。
販売店・メーカーに通い、
社長自らがマニュアル作成
ICT施工の導入にあたって巴山さんが最も苦労したのが、技術を使いこなすノウハウの獲得と体制づくりでした。当時は導入事例も少なく、巴山さん自らがドローンを購入した店や重機のメーカーに通い、情報を集め、手作りのマニュアルを作っていったのです。
巴山「ICT施工は多くの分野にまたがるので、一人の専門家に聞けばすべてが分かるわけではないんです。3D図面、ドローン、重機、それぞれ精通している人が異なるので、一人ひとりに講師役になっていただき、それを総合的にまとめてマニュアル化する必要がありました」
2021年に社長に就任すると「技術システム課」を立ち上げ、中核となるCADオペレーター経験者の女性を2人採用。社内からも新しい技術の習得に意欲的な若手人材を抜擢し、合わせて5名でICT施工をバックアップする体制をつくりました。
建設関連の技術は今も日進月歩で進化しています。技術システム課のメンバーには常に学び続けることを求めつつ、巴山さん自身も新しい情報を得て試してみることに余念がありません。そのモチベーションの源には、旺盛な好奇心があります。
巴山「もともと新しい技術が好きで、パソコンが出てきた時代も暇があれば触ってみて、いろいろと試していました。だからドローンも会社で使うようになる前から自分で買って飛ばしていましたし、3D図面も自分で描いてみて、それが現場でバシッとハマると最高に楽しいんですよね」
今後は遠隔・無人操作に挑戦
ICT施工の本格導入を始めたときは、それを積極的に使う社員もいれば、従来通りのやり方で通そうとする社員もいました。
それから5年近くたち、ようやく全社員にICT施工のメリットが理解されるようになったと巴山さん。今後は、ICT施工の価値を業界全体に広めていきつつ、社内では無人施工にチャレンジしていきたいと語ります。
巴山「今は、重機の運転席に人が乗った状態で、半自動で動かすことができているのですが、遠隔操作による無人運転ができるようになると、人が危険なところに入る必要がなくなります。そうなれば、災害が発生した後の復旧工事などもいち早く行えるし、土砂を掬ってダンプに積み込むというような繰り返しの作業などもより省力化できるはずです。実用化までは何年かかかると思いますが、いろいろなメーカーとも情報交換しながら、当社の現場で実証実験をし、実現を目指したいです」
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
取材・文:やつづかえり
編集:岩辺みどり
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)








