災害は全企業の課題 しかし対策は一様ではない
地震、水害、感染症など災害は突然やってきます。コロナ禍や能登半島地震を受け、多くの企業がBCP(事業継続計画)の必要性を痛感しています。
BCPでは、まず事業継続の基本方針と想定されるリスクを整理したうえで、どの業務を優先的に復旧させるか(重要業務の選定)と、どの程度の時間内に復旧すべきか(目標復旧時間)を決めておくことが大切です。そして、復旧に必要な人員・設備・情報などのリソースを確保しておく必要があります。
BCP策定のポイント(出典:内閣府「内閣府 企業の防災対策・事業継続強化に向けて ~切迫する大地震を乗り越えるために~」)
しかし、全ての企業が同じ備えをすればよいわけではありません。製造業では部品調達停止、IT業ではデータ損失、流通・小売業では物流網の断絶など、企業にとっての重大リスクは業種業界によって異なります。それゆえに、自社の事業特性に合わせた実効性の高い対策を講じることが重要です。
業種別で解説:
災害時に「何を守るか」で変わるBCP対策
ここからは、BCP対策のポイントについて業種ごとに見ていきましょう。
製造業:サプライチェーンの寸断に備える
製造業における災害時の最大リスクは、サプライチェーンの寸断です。地震や台風によって主要部品の納入先が被災すると、一部の部材供給が止まっただけで全体の生産がストップしてしまいます。
特に自動車産業や電子機器製造業では、「ジャスト・イン・タイム」方式により在庫を最小限に抑えているケースが多いため、部品供給の遅延が即座に生産停止につながることがあります。2011年の東日本大震災では、特定地域に集中していた部品メーカーの被災により、全国の自動車工場が稼働停止に追い込まれました。
対策の方向性として、主要部材の代替先リストを整備し、納入先・納期・在庫情報を常に更新しておくことが重要です。また、被災拠点の操業状況をリアルタイムで把握できる体制を構築し、迅速な生産計画の見直しができるよう準備しておく必要があります。
IT業:データ保全と「遠隔復旧」の手順を確立しておく
IT業界では、サーバーやネットワーク設備の一部が被災するだけで、サービス全体の停止やデータ損失につながるリスクがあります。クラウドサービスやWebシステムを提供している企業では、数時間のサービス停止でも顧客からの信頼を大きく損なう可能性があります。
重要なのは、災害発生時に即座に復旧体制へ移行できる「段取りの見える化」です。データセンターが被災した場合の切り替え手順、バックアップデータの復旧作業、顧客への連絡体制など、一連の流れを事前に整理しておかなければなりません。
対策としては、クラウドサービスや遠隔地のコンピュータなどとデータ同期・自動バックアップの設計を行い、災害時でもすぐにその遠隔地の環境へ稼働を切り替える「DR(災害復旧)環境」を整備します。もちろん、ただ整備するだけでは十分ではありません。緊急マニュアルやチェックリストの定期アップデートにより、復旧手順を実効性のあるものに維持することが不可欠です。
流通・小売:拠点・店舗・物流の「在庫見える化」がカギ
流通・小売業では、被災した店舗への迅速な支援体制が事業継続の鍵となります。近隣店舗や本部倉庫からの在庫補充・物資支援がスムーズに行える体制を整えておけば、万一のときのリスクも最小限に抑えられるでしょう。
そのためには、物流の混乱に備えた「在庫の地域分散と平時からの可視化」が重要です。災害時には道路の寸断や配送業者の稼働停止により、通常の物流ルートが使用できなくなる可能性があります。こうした状況でも、どの店舗にどの商品がどれだけあるかを把握していれば、効率的な店舗間移動や緊急配送が可能になります。
対策の一つとして、各店舗・倉庫の在庫状況をリアルタイムで可視化できる仕組みを構築し、他拠点との横連携マップ(出荷ルート・協力体制)を事前に作成しておくことが効果的です。
社員の安否確認体制は
「最初に動く仕組み」として重要
業種ごとに対策のポイントを見てきましたが、もちろん、業種を問わず対策の大前提となるものも忘れないようにしましょう。それが「社員の安否確認」体制です。
全社員の安否が不明なままでは、対策も復旧も始まりません。どれだけ優れた業務継続計画を策定していても、それを実行するには人員が必要です。内閣府の調査でも、実際に被災した企業のうち、およそ4割が「社員とその家族の安全確保」や「安否確認・連絡手段としての電子システム導入(災害用アプリ等を含む)」を有効な対策として挙げています。これらの施策が初動対応において重要な役割を果たしていることがうかがえます。
安否確認の支援のために、NTTドコモビジネスでは「Biz安否確認/一斉通報」という専用サービスを提供しています。災害発生時に社員のスマートフォンに自動で安否確認メッセージが送信され、社員は簡単な操作で素早く回答でき、管理者は全社の状況をリアルタイムでレポートし、把握できる仕組みです。
さまざまな種類の代替通信インフラを用意しておく
もう1つ重要なポイントは、通信インフラが混乱してもつながる手段を確保しておくことです。災害時には通常の携帯電話回線が混雑し、つながりにくくなる可能性があります。複数の通信手段(メール、SMS、アプリなど)を併用し、確実に連絡が取れる体制を整えておきましょう。
災害時の通信手段としては、衛星インターネットが活躍しています。地上インフラに依存せず、低軌道衛星を利用することで、高速かつ低遅延な通信が可能となっています。そのため、地震や水害などで有線・モバイル回線が遮断された場合でも、事業継続に必要な通信手段を確保しやすくなります。NTTドコモビジネスでも「Starlink Business」を提供しています。
また、建物や敷地内に広域Wi-Fiエリアを構築できるソリューションも注目を集めています。たとえば、メッシュ型の無線バックホール技術を活用する「PicoCELA(ピコセラ)」は、電源さえ確保できればLAN配線不要で無線ネットワークを広範囲に展開でき、避難所や臨時オフィスなどでも迅速な通信インフラの復旧が可能です。
自社にとっての「一番大切なもの」から始める
BCPは「何でも準備する」のではなく、「何を最優先で守るか」から始めることが重要です。限られた経営資源を効果的に活用するためにも、自社の事業特性を踏まえた優先順位付けが不可欠です。
安否確認を大前提としつつ、製造業では「供給体制」、IT業では「データとシステム」、流通・小売業では「在庫と物流」というように、業種によって「守るべき軸」は明確に異なります。この軸を明確にした上で、具体的な対策を講じることで実効性の高いBCP体制を構築できます。
まずは安否確認やネットワーク対策など、「確実に動く仕組み」を整えることがBCPの土台となります。その上で、自社の業種特性に応じた専門的な対策を積み重ねていくことで、真に災害に強い組織を作り上げることができるでしょう。








