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直観力を磨き、間違いだらけの
思考を“武器”に変える方法

直観力を磨き、間違いだらけの思考を“武器”に変える方法

私たちは日々、瞬時の判断を迫られる場面に直面しています。優秀な医師が見逃さない診断、パイロットが緊急時に下す的確な判断、ビジネスの現場での素早い意思決定──これらに共通するのは「精度の高い直観」です。認知心理学の権威である今井むつみ氏は、人間には「システム1(直感的・高速)」と「システム2(熟考・低速)」の2つの思考があると説きます。私たちは普段、間違いやすいシステム1に頼りがちですが、システム2だけでは現実の速度についていけません。では、どうすれば“直観”の精度を高められるのでしょうか。『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』(日経BP)では、自分の思考バイアスを理解し、日々の振り返りを通じてシステム1を鍛える具体的な方法を解説。複雑な現代社会を生き抜くための思考術を、28年間の研究成果とともにお伝えします。※本稿は『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』(日経BP)の一部を再編集したものです。

目次

仮説とアブダクション

アブダクション(編集部注:正解が一義的に決まらない、論理の飛躍を伴う推論)による仮説の多くは、直接の経験に基づかないものです。そのため、仮説を即座に「確定」することはできません。

科学の仮説というのは、どれもそういった部分があります。実験をしたり調査を進めたりしてみなければわからないことも多いものです。

また、科学者はありとあらゆる仮説を考えるのかといえば、そんなことはありません。考えつく仮説が多すぎれば、一生かけても吟味することができなくなってしまいます。

つまり科学者は、ある種の直観によって仮説を立てているということです。そして優れた科学者ほど、アブダクション推論の精度が高いのです。

この話はもちろん、科学者に限りません。精度の高いアブダクション推論ができることが、一流の熟達者の条件なのです。

たとえば医師。できれば、どのお医者さんもすごいエキスパートであってほしいものですが、そうでない人もいます。残念ながら誤診もあるでしょう。もちろん、エキスパートの医師であっても、絶対に誤診をしないとはいえません。

しかし、一流の医師は診断の精度がすごく高いわけです。それで、診断の中で普通の医師では見逃してしまうような病気の可能性を思いつき、それを検査で確認して診断を下して治療することができるのです。

(写真:metamorworks / gettyimages)
(写真:metamorworks / gettyimages)

では、「精度の高いアブダクション推論」は、どうしたらできるようになるのでしょうか。精度の高いアブダクションができることが一流の証しだとしたら、みなさんもきっと、アブダクション推論の精度を上げたいと思うはずです。

【思考力・直観力を鍛える①】
人間のデフォルトは「システム1」

ここで考えたいのが、ダニエル・カーネマンが著書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(上・下)』(早川書房)で述べている、人間の2つの思考スタイルです。

カーネマンは、人間には「システム1」と「システム2」の思考があるといっています。

システム1の思考というのは、直感的、直情的で、早い。早く決断できるのですが、粗く、間違いも多いものです。

システム2は熟慮による思考です。吟味をするので精度は高いのですが、時間がかかります。

人間のデフォルトの思考は、システム1とシステム2のどちらでしょうか?

人間の認知や思考の特徴から考えてみると、人間のデフォルトはどう考えても、システム2ではなくシステム1のほうです。

人間は、論理を突き詰めて考える、つまり熟慮するよりも、スキーマを使って省エネですばやく判断することを圧倒的に好んでいるのです。

(画像:Eoneren / gettyimages)
(画像:Eoneren / gettyimages)

【思考力・直観力を鍛える②】
思考システムは生存戦略でもある

人間の思考の仕組みは、進化的にも意味があります。間違いなく完璧にやり遂げるより、多少間違っていても、システム1を使って直感的に判断するほうがいい場合が多いからです。

たとえばすぐに行動したほうが食べ物を得られる確率が上がるでしょう。敵に襲われたときに逃げ切れるかもしれません。このように、瞬時の判断が必要とされることは多くあります。

システム1を使ったほうが、効率がよく、生存の確率が高まる場合が多いのです。時間をかけて完璧にやり遂げるより、80%の歩留まりですばやく行動したほうがいいことはたくさんあります(もちろん、航空機の操縦や医療現場は80%では許されませんが)。

コミュニケーションを考えてみると、システム1のコミュニケーションは「伝わらなくて当たり前」の側面があります。なぜなら人は結局、自分のスキーマで相手の言う情報を選択し、スキーマに合わない多くの情報を捨ててしまうからです。

人は自分のスキーマのフィルターを通してしか相手の言うことを聞いていないし、自分のスキーマで選んだ情報にしか注目しません。自分の聞きたいことしか聞かないし、自分の答えたいことしか答えません。

相手の意図を理解しようとするより、自分の感情や、「こうあるべきだ」という「神聖な価値観」(これもスキーマの一種)のフィルターを通して、相手の言うことを勝手に解釈しています。

相手が、「これを聞いてほしい」「この答えがほしい」と一生懸命話していたとしても、そこはスルーです。

(写真:kasto80 / gettyimages)
(写真:kasto80 / gettyimages)

人間は毎日、このようなコミュニケーションを当たり前に行っています。

たとえば、子どもが親に向かって「勝手に決めないでよ」と言うことがありますね。「勝手に決める」「勝手に解釈する」というのは、まるですごい悪意があって、それに基づいてしているように感じられるかもしれません。

しかし実は、ほとんどの場合、悪意はありません。私たちは当たり前のこととして、日々、自分のスキーマ、とくに「神聖な価値観」によって勝手に解釈し、勝手に決めています。

神聖な価値観とは

多くの人は、「自分は合理的に判断し、決定している」と思っているが、実は選択や意思決定は、多くの場合で最初に感情で、端的に言えば「好きか嫌いか」で判断し、その後、「論理的な理由」を後づけしているに過ぎないことがわかっている。

この、「どのように行動するべきかの価値観」であり、「物事を単純化するためのツール」こそが「神聖な価値観」である。

神聖な価値観に従った判断は、すばやくブレがないが、一方で、そもそもの判断は感情にあるため、判断の根拠に論理性がなく、自分と異なる意見を受け入れるのは難しい。

自分自身を振り返ると、過去には学生のみなさんとのコミュニケーションにおいても、同じようなことがありました。

たとえば私はまったく褒めていないのに、学生が褒められたと勝手に解釈して、そのまま突っ走ってしまうケース。ほんとうは軌道修正してほしかったのに、ということもあります。

逆に、批判していないのに「批判された」と解釈されたこともあります。これは下手すると、ハラスメントだと言われかねないですよね。

というのも、「批判された」と思った側は、ごく自然に「相手に悪気がある」と考えるからです。ただ、たいていは相手に悪気はないわけです。

(写真:78image / gettyimages)
(写真:78image / gettyimages)

このようなことは、誰もが日常的に経験していることでしょう。システム1でのコミュニケーションというのは、「すれ違って当然」「通じなくて当たり前」なのです。同様に、システム1の思考というのは、「間違って当然」なところがあります。

【思考力・直観力を鍛える③】
システム2だけの人生は灰色

このようにシステム1によるすれ違いや間違いの話を聞くと、それを防ぐためにシステム2を使えばいいと考えたくなります。しかし、システム2をつねに現場で使っていたら、まったく間に合いません。

たとえばサッカーの司令塔が、「パスを今、どこに出すか」ということをその場で熟慮していたら、その間にボールはサッと敵に取られてしまいます。

外科医がシステム2の思考で手術をしていたら、考えている間に患者さんが出血多量で死んでしまうかもしれません。

この講義では、『ハドソン川の奇跡』(2016年公開)の話もしました。

この映画のモデルは、2009年1月に、アメリカのニューヨークで実際に起きた飛行機事故です。飛行機はマンハッタン上空を飛んでいたのですが、バードストライク(人工物に鳥類が衝突する事故)で全エンジンが停止してしまいました。

チェズレイ・サレンバーガー機長は、自身の直観を信じて機体を制御し、ハドソン川に着水させ乗員乗客全員の命を救いました。

チェズレイ・サレンバーガー機長が、1秒を争う過酷な状況下で的確な判断ができたのは、システム1による優れた直観を持っていたからです。

アクシデントがあった場合に、システム2を働かせて、マニュアルで一つひとつ確認しながら熟慮していたり、管制塔の指示をじっと待っていたりしたら、その間に航空機は墜落してしまいます。

(写真:Renata Alvarez Velez / gettyimages)
(写真:Renata Alvarez Velez / gettyimages)

それがきまりだからとシステム2ばかりを使っていては、私たちはかえって危険にさらされてしまいます。

すぐに逃げなくてはいけないときに、システム2を働かせて「逃げるか、逃げないか」を熟考していたら、命の危機にさらされることになります。

津波警報が鳴ったときに、まず過去の統計情報を見て考え込む人はいません。そんな検討をしている間に、津波はきてしまうでしょう。ですからシステム2だけでは、危ないこともあるのです。

会話も、システム2だけではスムーズにはいきません。相手の言っていることに対し、いちいち熟考し、

「これはこういう意図ですか?」

と聞き返していたら、楽しくなくなってしまいますよね。ピンポンのやりとりのような生き生きとした会話の応答ができなくなってしまいます。

システム2だけで対応しようとすると、人生は灰色になってしまうでしょう。

(写真:gremlin / gettyimages)
(写真:gremlin / gettyimages)

【思考力・直観力を鍛える④】
システム2で、システム1(直観)を鍛える

システム1は当然のように間違える。システム2では間に合わないし、楽しくないし、危険ですらある。では、どうしたらいいのでしょう。

望ましいのはシステム1の思考の精度を、究極まで上げること──つまり、システム1で精度の高い決断ができるようにすることです。

そのために何をしなくてはならないかといえば、「自分の情報処理能力の限界」と「自分の思考バイアス」を意識することです。それは言い換えれば、システム2でシステム1を制御する訓練をするということでもあります。

この訓練は、筋トレのように器具を用いればできるというものではありません。自身がシステム1で行った情報処理、システム1で行った思考の限界やバイアスについて振り返り、システム2で熟考することです。

この訓練はいつするのか。それは現場でではありません。現場の仕事が済んで振り返る時間が、きわめて重要です。

先のサレンバーガー機長は、自身の経験を振り返り、「これは奇跡などではなく、つねに緊急事態に備えて訓練していた結果だ」と述べています。

つまり現場での神がかり的な直観は、普段の地道な訓練によって培われたものだというのです。

(写真:Svitlana Hulko / gettyimages)
(写真:Svitlana Hulko / gettyimages)

システム1の思考の精度を究極まで高めるために、私たちにもできることがあります。それは、振り返りの時間を持ち、訓練をすることです。パイロットであれば、それはさまざまなリスクを想定したシミュレーション訓練のときなどでしょう。

その他の職業の人でも、日々の勤務の中で「ヒヤリ」とした瞬間を振り返り、その原因を突き止めることがそれにあたるかもしれません。

「振り返る」だけでは行動につながりません。瞬時に無意識に行動できるまで、訓練を続け身体に落とし込むこと。それが、システム1の直観を磨きます。

精度の高い直観は、もともと備わっているものではありません。また、天から降ってくるものでもないのです。優れた直観は、日々のたゆまぬ訓練や学びの中から、やっとのことで創り上げられる、かなり泥臭いものでもあるのです。

慶應義塾大学名誉教授、今井むつみ教育研究所代表

今井むつみ
1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て現職。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)、『学力喪失』『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書、「新書大賞2024」大賞受賞)、『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。国際認知科学会(Cognitive Science Society)、日本認知科学会フェロー。

人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 刊行:日経BP 著者:今井むつみ

この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。

協力:日経BP
バナー写真:日経BP提供
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子

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