2023年6月5日

世界一周を達成し、レースは総合3位!
PHONE APPLI中川副社長とプロセーラー鈴木さんが冒険を語る

昨年6月にスタートした世界一周ヨットレース「Globe40」に参戦した日本チーム「MILAI」が、4月8日に完走を果たし、総合3位の成績を収めた。MILAIにはNTT コミュニケーショングループPHONE APPLIの中川紘司副社長がチームオーナー兼コ・スキッパー(乗組員)として参加した。MILAIのスキッパー(船長)を務めた鈴木晶友さんと中川副社長に、301日(うち海上174日間)、6万kmの冒険を振り返ってもらった。

3位の表彰プレートを手にする中川副社長(右)とフランスからオンラインでお話しいただいた鈴木さん(左)

序盤から中盤は優勝争いの一角に

Globe40は、クラス40(全長40フィート=約12m)のヨットにセーラーが交代で2人ずつ乗り込み、風の力だけで航行するレース。モロッコ・タンジェをスタートし、世界7カ所の港を巡ってゴールのフランス・ロリアンをめざす(レース概要を含む、出発前のインタビューはこちら)。

9カ月を超える旅路、MILAIのレースは栄光と波乱の連続だった。鈴木&中川の日本人ペアで乗った第1レグは、マデイラ諸島山陰の無風地帯を他チームとは異なる大回りの戦略で抜け、2位以下を大きく引き離して優勝。しかし、第2レグはキール(船を安定させる水面下の重り)にトラブルがあり、途中で緊急入港して4位に。第3レグはオランダチームと競り合って34分差の2位フィニッシュ。

再び鈴木&中川ペアで挑んだ第4レグは劇的な展開を見せる。アメリカ、オランダと三つどもえのデッドヒートを繰り広げ、最後は2人とも20時間、不眠不休の操船で優勝。2位との差はわずか7分43秒だった。中川さんは「あのレグは楽しかった」、鈴木さんも「すごく良い出来だった」と振り返る。

中川さんの健康維持の秘訣は、しっかり食べて寝ること。船上の食事で今回ハマったのはかつおぶしご飯。マヨネーズとしょうゆで味付けすると絶品だそう。

明確な目標設定とポジティブ思考で重大事故を乗り越えた

第5レグも1位フィニッシュしたMILAI。しかし、第6レグで衝撃が走る。年明け1月8日、アルゼンチンのウシュアイアをスタートして順調に首位を走っていたが、12日朝、未確認浮遊物と衝突。人的被害こそなかったものの、船は大ダメージを受けた。

「大損傷」「レース続行不能」「とにかく緊急事態」。事故当時、鈴木さんから日本にいる中川さんへ送られたテキストは緊迫感に満ちていた。鈴木さんが沿岸警備隊よりも先に中川さんに連絡したのは、「このまま船が沈んでトラッキングデータも失われるなら、何があったのかMILAIのチームメートにどうしても伝えたかった」からだ。

「ぶつかった瞬間、とんでもない衝撃でした。後から見た船の傷は、岩などより軟らかい“生き物”にぶつかったような感じでした。そのときは、もうこれでレースは離脱するしかない、さらには沈没の可能性まであると感じていました」(鈴木さん)

MILAIの喫水(船底から水面までの垂直距離)は3mと長いので、入れる港が限られる。いつどうなってもおかしくない船で、約1000kmも先にあるアルゼンチンの港、マル・デル・プラタまで走らねばならなかった。事故から4日後、緊急入港がかなったときは、鈴木さんもその知らせを受けた中川さんもホッと胸をなで下ろした。

「レースのタイムリミットに間に合わないので、レースに復帰することはできない。僕らはたくさん話し合った末に、損傷した船をタンカーに乗せて帰る完全リタイアではなく、なんとか修理して、レースのコースを外れても世界一周を達成する道を選びました」(中川さん)

「MILAIは当初から、レースで優勝することではなく、世界一周を目標としていました。明確な目標があったので、事故とレース離脱のショックを乗り越えられたと思います」(鈴木さん)

損傷したキール(左)とマストステップ(右)。MILAIの粘り強い姿勢はレース委員会にも響き、「絶対に帰ってこい」「どれだけ時間がかかっても世界一周を成し遂げろ」と委員会から激励を受けていたそうだ。

中川さんはピンチの時こそ、前向きでいることが大事だと語る。

「MILAIでは、トラブルがあっても全てをポジティブに捉えてニコニコ笑っていようという不文律があります。僕らの大先輩、白石康次郎さんの教えです。何かあったからって暗い顔をしていたら運も回ってこない。笑っていれば、人は寄ってきてくれます」(中川さん)

トラブルには見舞われたものの、おかげでめったに来られないマル・デル・プラタを訪れて素晴らしい人たちに会えた――そう捉え直して、MILAIは「町工場でF1カーを修理する」ような難業に取り組んだ。スペインからMILAIのチームメート アンドレアが「マサを一人にはしない」と急きょ駆け付けた。

「アンドレアがいなかったら今も出発できていなかったかもしれません。漁港のゆったりした空気感なので、彼が現地の言葉(スペイン語)で職人さんたちとコミュニケーションを取ってくれたおかげで、快く協力してもらえたんです」(鈴木さん)

チームメートのアンドレアさんと鈴木さん。船上では、ケガをしないことを第一に、疲れてきたときこそ「この作業、気を付けよう」と声を掛け合うという。

さらなるハプニング(?)を乗り越え、感動のゴールへ

2月24日、MILAIは再び海へ。レースはリタイアしたため、初めてレースモードではなく、少しゆっくりとしたセーリングで、マル・デル・プラタからアゾレス諸島を経由してロリアンをめざすことに。実はここでも小さなハプニングがあった。アゾレス諸島から再び船に乗ることになった中川さんが、現地入りしてMILAIの入港を待ったのだが、予定日にもその次の日にもMILAIは到着せず。鈴木さんが“遅刻”の理由を明かす。

「僕が途中でどうしてもハンバーガーが食べたくなってしまって、1日だけブラジル・レシフェに寄港したんです。ところが、その1日で風が弱まって、風向も不安定に。1日休んだだけで5日遅れることになってしまいました。紘司さんにも支援者の皆さんにも申し訳なかったです……」(鈴木さん)

その間、中川さんは初めて訪ねる、観光地でもない小さな港町に一人きり。

「まあでも、現地の人と仲良くなって、ご自宅に招かれたり、防波堤に落書きしたり(セーラーの落書きは当局公認)して楽しかったです。ヨットで世界一周をしていると話すと、世界中どこでも親切にしてもらえることが多いですね。『大変でかわいそうだ!』と思われているのかな(笑)」(中川さん)

多くのセーラーたちが防波堤に残した記念の落書きにMILAIも加わった。

その後、無事に合流すると、鈴木&中川ペアが乗ったMILAIはロリアンへ。一定の緊張感はありつつも、競走ではないので、このラスト1300マイルはいつになくリラックスモード。中川さんは最後の1週間、釣りを楽しんだ。ちなみに、鈴木さん情報によれば釣果は0だったそう。「船が速すぎて、魚はエサに食いつきたくても追いつけなかったんでしょうね」と中川さんは言う。

「船はずっと各地の港と無線でやりとりしているので、最後、ゴールが近づいて無線からフランス語が聞こえてきたとき、『ああ、帰ってきた』と思いました」(鈴木さん)

4月8日、MILAIはロリアンにフィニッシュ。総合3位という成績も立派ながら、困難を克服して世界一周を達成したこと、参加艇の中で唯一バイオディーゼル燃料を使用し、サステナブルな取り組みをしたこと、欧米人が中心の外洋レースの世界でアジア人セーラーの鼓舞をめざして勇躍したことなどで、喝采を浴びた。

レグごとに、成績に応じてポイントが付与され、合計ポイントでレースの総合成績が決まる。距離の長いレグはポイントも大きい。MILAIは最長の第2レグを含め、5レグまで好成績を収めた結果、最後の3レグは不出場ながら、総合3位に輝いた。

“非効率な”チャレンジができたことに感謝と充足感

世界一周に成功し、旅から戻って二人は今何を思うのか、聞いてみた。

中川さんは「ここ数年で『コスパ』に『タイパ』と、効率を過度に重視する価値観もかなり広がってきたのを感じるので、そんな中、効率でいえば最低の、語弊を恐れずに言えば“無駄な”チャレンジができて本当に良かったと思っています」と語る。

「著作家の山口周さんが教えてくれた言葉に、アン・モロー・リンドバーグ(飛行家)の『人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない』というのがあって。僕もそれは真理じゃないかと思います。ChatGPTがキレイな文章を書けるこの時代はなおさら、言葉でまとめられないような感覚、体験が大切だと感じました。

今回のチャレンジについては、会社のメンバーや関係各社、お客さまにご理解いただき、ご支援いただいて、心から感謝しています。一方で勝手ながら、副社長の僕の不在が、若手にとって何かしら挑戦の機会になっていたらいいなという気持ちもあります。また、どんな役職であろうとワークライフバランスは大切で、時には長い休みを取れるということを、自ら実行して示せたことは良かったですね。

ヨットの世界では40代でも若手です。何かやろうとしても『若すぎる』『まだ早い』と言われてしまう。ですが僕たちは順番を待たず、自分たちでプロジェクトを立ち上げて、スポンサーを見つけ、クラウドファンディングをしてGlobe40に出場しました。次の世代がこれを見て何かに挑戦したくなったら、うれしいなと思います」(中川さん)

鈴木さんは「僕はスキッパーとしてずっと船に乗っていたので、いろんなことがありすぎて、世界一周に挑む前の自分がどんなだったか思い出せないぐらいです」と語る。

「僕には、船やみんなを安全に港へたどり着かせる責任があるので、気を張っていたし、特にトラブルが発生したときは正直、キツかったです。フィニッシュしたときは、もうこれで海に戻るのはやめようと思った覚えが確かにあります。ところがいざ陸に上がると、もうまたチャレンジしたい気持ちになっていて、自分でも驚きました。

今回、クラウドファンディングやその他の寄付を通じて、合計300人近い方々に応援していただきました。僕らと同年代の方も多く、MILAIのチャレンジに同世代から共感が集まったのだなと思うと心強いし、うれしいです。今は次のチャレンジが何になるのか分かりませんが、きっとまた何かに挑戦して、そのときには今回の経験をしっかり生かしたい。それが今回ご支援くださった皆さんへの恩返しになると思っています」(鈴木さん)

今回の航海で見た一番美しいもの

中川さん:

虹です。なにせ海の上で見る虹は大きいんですよ。まっすぐな水平線があって、そこに大きな虹がかかっている。心が洗われます。

鈴木さん:

船が進んで、景色が変わったのを感じられる瞬間。それが一番美しいと思います。地球を一周するわけなので、例えば船から見える海鳥たちも変わっていくんですよ。フランスにはカモメがいて、南へ行くとアホウドリだし、また北上してくると小さな海鳥が飛んでいる。色も形も性格も違う。それがすごく面白いと思いました。これまで鳥に興味はなかったのに。本当に自分が今、地球の上を移動しているって分かるからでしょうね。世界一周を感じさせてくれる景色なんだと思います。

社員メッセンジャー

株式会社PHONE APPLI取締役副社長

中川 紘司

昔からの夢を実現したいと思ったときに、素直に相談できる環境が自分の前にあったこと、とても幸せなことだと感じています。多くの人たちが夢を実現できるように、少しでもその参考になればと紹介させていただきます。

関連記事

お問い合わせ

NTT Comでは、いつでもご連絡をお待ちしています。
ご用件に合わせて、下記の担当窓口からお問い合わせください。