「2024年問題」の懸念を受け、
物流に関する2つの法律が改正・施行
2025年4月1日より、物流に関する2つの法律が改正・施行されたのをご存知でしょうか。
1つ目の法律が「物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律、新物効法)」です。同法律では、荷主・物流事業者間の商慣行を見直し、荷待ち(ドライバーが待機する時間)・荷役(荷物を積み下ろす作業)時間の削減や積載率の向上を図ることが定められており、すべての荷主・物流事業者に対し、物流効率化のために 取り組むべき措置について努力義務が課せられます。
2つ目の法律が「貨物自動車運送事業法」です。運送事業における取引環境の適正化を図るため、運送契約締結時に役務や対価を記載した書面の交付が義務付けられます。さらに軽トラック事業者に対しても、管理者の選任などが義務化されます。
これらの法律が改正された背景には、「物流の2024年問題」が存在します。物流の2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制により、ドライバーの労働時間が短縮し、輸送能力が低下することで、モノが運べなくなる恐れがある問題のことです。
国土交通省の物流効率化法に関する資料では、同問題に対して特に何も対策を行わなかった場合、2030年には営業用トラックの輸送能力が34%不足する可能性があると試算しています。そのため、法改正によってさまざまな施策を講じることによって、物流の持続的成長を図ることが必要とされています。
【物流効率化法】物流業者だけでなく、
荷主も効率化に取り組む必要がある
改正後の物流効率化法では、トラックドライバーの運送・荷役の効率化の目標値が定められています。具体的には、2028年度までに【1】5割の運行で、1運行当たりの荷待ち・荷役時間を計2時間以内に削減すること、【2】5割の車両で、積載効率50%を実現することが掲げられています。
この数値をクリアするために、同法では荷主(発荷主/着荷主)・連鎖化事業者(フランチャイズチェーン本部)・物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、これらの取り組みの例を示した判断基準・解説書を策定しています。
たとえば「積載効率の向上」では複数の荷主の貨物の積み合せ、配車システムの導入による配車・運行計画の最適化、「荷待ち時間の短縮」ではトラック予約受付システムの導入や、混雑時間を回避した貨物の出荷・納品日時の分散、「荷役時間の短縮」ではパレット(※)など輸送用器具の導入による効率化、商品を識別するタグの導入、フォークリフトや荷役作業員の適切な配置によるトラックドライバーの負担を軽減し、作業の効率化を図るなどの取り組みが挙げられています。
※パレット…貨物を載せるための平らな荷役台のこと。パレットの上に多くの荷物を載せ、そのパレットをフォークリフトやトラックで輸送することで、大量の荷物を一度に運ぶことが可能になります。

(国土交通省の資料「新物効法について」5ページより引用、一部編集部で改変)
同法ではさらに2026年4月より、物流全体への寄与がより高いと認められる大手事業者を「特定事業者」として指定し、特定事業者は中長期計画の作成や定期報告が義務付けられる予定です。特定事業者に選ばれる条件としては、荷主・連鎖化事業者が「取扱貨物の重量が9万トン以上」、倉庫業者が「貨物の保管量が70万トン以上」、貨物自動車運送事業者が「保有車両台数が150台以上」という基準が設けられています。
【貨物自動車運送事業法】
契約締結時に書面が必要。軽トラック事故対策も
追加
改正後の貨物自動車運送事業法では、運送契約を締結する際に、提供する役務の内容やその対価を記載した書面を交付することが義務付けられます。対価には附帯業務料や燃料サーチャージも含まれます。
元請事業者が下請業者に委託する場合には、実際に運送業務を行う事業者の名称などを記載した「実運送体制管理簿」の作成が義務付けられます。
加えて、元請事業者が下請事業者に委託する場合、下請金額を買い叩くケースが発生していることから、下請事業者への発注適正化について努力義務を課し、一定規模以上の事業者に対し、発注適正化に関する管理規程の作成、および管理者の選任を義務付けています。

他のトラック事業者に委託する際、下請金額を請け負った金額の90%未満に設定しているケースも存在する
(国土交通省の資料
「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」
4ページより引用)
同法ではさらに、軽トラック運送業において死亡・重傷事故件数が直近6年で倍増していることを受け、軽トラック事業者に対して必要な法令の知識を担保するための管理者選任と講習受講、国土交通大臣への事故報告を義務付けています。国土交通省の公表対象にも、軽トラック事業者に関する事故報告・安全確保命令に関する情報が追加されています。

(国土交通省の資料
「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」
5ページより引用)
国土交通省の資料では、物流を「国民生活・経済を支える社会インフラ」と称しています。店に商品が並び、注文した商品が届くのも、トラックドライバーなど物流事業者の存在があります。トラックドライバーが物流の2024年問題によって不足しつつある今、より物流を効率化し、物流事業者の負担を社会全体で軽くしていくことが求められています。
今回取り上げた2つの法改正はすでに施行されており、今後も物流業界の実態に合わせてルールが変更していくことが予想されます。ドライバーを必要以上に待たせるなど、物流業者に非効率を強いることは、やがては自分たちの暮らしを苦しめる恐れがあります。荷主の立場でも、気付いたことがあれば積極的に効率化していくことが、物流の2024年問題の悪影響を軽減するためには有効といえそうです。