2026年4月、物流効率化法は
「努力義務」から次の段階へ
「物流」は、企業の事業活動を支える重要な基盤です。物流の遅れや滞留は、納品や販売、顧客対応に直接的な悪影響を及ぼします。
この物流を持続可能にするための法律が「物流効率化法」(正式名称:物資の流通の効率化に関する法律)です。同法は2005年に「物流総合効率化法」(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)として成立し、2024年の法改正を受け、物流効率化法に名称変更されました。
同法の改正により、2025年4月からは荷主と物流事業者の双方に、物流効率化に向けた努力義務が課されました。荷主には納品条件や発注方法を見直し、荷待ち時間や荷役等時間を減らす取り組みが、物流事業者には運行・配車・荷役・保管の現場を見直し、限られた車両や人員をより効率的に活用することが求められます。
2026年4月からは、ルールが厳格化されます。一定規模以上の荷主や物流事業者が「特定事業者」として指定され、中長期計画の作成や定期報告が義務付けられます。この新ルールでは、取り組みが不十分だと国から勧告を受ける場合があります。勧告に従わない場合は企業名が公表され、正当な理由がないのに必要な措置を講じなければ、措置命令の対象となります。さらに、命令にも違反すれば100万円以下の罰金が科せられる可能性があります(物流効率化法第75条)。
「特定事業者」とは?
対象となる企業と求められる対応
同法の規制の対象となる「特定事業者」は、一定規模以上の物流量や輸送能力を持つ荷主・物流事業者のうち、自ら届出を行い、各事業を所管する大臣から指定を受ける事業者のことです。売上高や従業員数ではなく、その企業が物流にどれだけ大きく関わっているかで判断されます。簡単にいえば、物流全体への影響が大きい事業者が特定事業者となります。
たとえば荷主の場合、前年度の取扱貨物重量が9万トン以上であることが特定事業者の指定基準になります。この取扱貨物重量は、貨物を発送する立場(発荷主)と受け取る立場(着荷主)でそれぞれ計算します。両者を合算して判断するのではなく、いずれか一方で9万トン以上となった場合に指定対象となるのです。なお、フランチャイズチェーン本部などの連鎖化事業者にも、同様の基準が設けられています。
物流事業者の場合、事業の種類によって基準が異なります。貨物自動車運送事業者などの場合は、年度末時点で保有する事業用自動車が150台以上であることが基準です。倉庫業者の基準は、前年度に倉庫へ入庫された貨物の合計重量が70万トン以上であることです。
(「物流効率化法 理解促進ポータルサイト」の内容を加工して作成)
特定事業者の指定基準を満たす企業は、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣などの事業所管大臣に届け出なければなりません。特定事業者として指定されると、中長期計画の作成や定期報告が義務付けられます。義務違反には罰則が設けられており、たとえば届出を怠ったり、虚偽の届出をした場合、また、中長期計画の作成や定期報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合、50万円以下の罰金を科せられる可能性があります(同法第76条)。
このほか、特定事業者として指定された「特定荷主」と「特定連鎖化事業者」には、企業内で物流効率化に向けた取り組みを統括する責任者「物流統括管理者」の選任が義務付けられます。物流統括管理者には、物流効率化に関する取り組みを社内で取りまとめることが求められます。
業務内容としては、中長期計画の作成、事業運営方針の作成、事業管理体制の整備、定期報告の作成などがあります。リードタイムの確保や発注・発送量の適正化に向けて、開発、調達、生産、販売、在庫、物流などの関係部門を横断する連携体制の構築なども求められます。
なお、特定荷主や特定連鎖化事業者が物流統括管理者を選任しないときには、100万円以下の罰金が科せられ、選任の届出を怠ったときは、20万円以下の過料に処せられます(同法第75条、第80条)。
中長期計画と定期報告では、
何を示す必要があるのか?
特定事業者に指定された企業は、中長期計画の作成と定期報告が義務付けられます。
たとえば荷主の場合、中長期計画として積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮といった課題を整理し、どのような施策をいつまでに実施するのか具体的に示すことが求められます。定期報告では、計画した取り組みの実施状況を継続的に報告します。報告内容には、判断基準の遵守状況、関連事業者との連携状況、荷待ち時間の状況などが含まれます。
特に荷待ち時間や荷役等時間については、原則として荷待ち時間と荷役等時間を分けて計測することや、計測した平均時間を施設ごとに報告することが求められています。実態を継続的に把握できる体制を構築しなければ正確な報告が困難なため、関係部門との連携強化や、取引先とのデータ共有、物流管理システムの活用などの検討が重要です。
中長期計画と定期報告は、書類を作成すれば終わりというものではありません。むしろ、自社の物流のどこに課題があり、どの指標を改善し、どの部門や取引先と連携して取り組むのかを、継続的に管理することが求められているといえます。
物流を強化する絶好のチャンス
今年度の中長期計画の提出期限は2026年10月末と迫っており、対象となる企業は早期の対応が求められます。
提出を怠れば、罰金の対象となるほか、計画に基づく取り組みが進まなければ、企業名の公表という、社会的信用の低下に繋がるリスクがあります。法律への対応は、単なる事務手続きではなく、経営上の重要課題として認識しましょう。
物流効率化法に正しく対応するには、自社の物流に関する課題の把握が求められます。まず確認したいのは、自社が特定事業者の指定基準に該当するか否かです。前年度の取扱貨物重量、保有する事業用自動車の台数、倉庫への入庫量などを確認し、指定基準を満たしていれば、事業所管大臣への届出が義務付けられます。基準を大幅に外れているなど「自社は無関係」と断言できない限りは、早急な確認が必要です。
次に必要となるのが、物流のどこで負荷が生じているのかの可視化です。たとえば納品時に車両が長く待機している場合、その背景には納品時間の集中、受付や検品の手順、倉庫側の受け入れ体制、事前情報の不足などが関係している可能性があります。
こうした課題を把握するには、社内の業務フローだけでなく、取引先との契約内容や商慣行の見直しも重要です。たとえば、過度に細かな納品指定や短納期での発注が常態化していると、物流事業者の負担増加や輸送効率の低下につながるおそれがあります。物流効率化法への対応を機に、取引先との役割分担や納品条件などを改めて確認することも有効でしょう。
物流統括管理者の選任も慎重に検討しなければなりません。物流統括管理者は、社内の関係部門をつなぎ、取引先や物流事業者とも調整しながら、計画の作成、施策の実行、進捗管理など重要な役割を担うため、役員クラスや経営幹部から選任することが望ましいでしょう。物流課題を社内で共有して改善を継続できる体制を整えることで、制度対応の実効性が高められます。
また、特定事業者に該当しない企業も、取引先である荷主や物流事業者が物流効率化法への対応を進める過程で、納品条件や発注方法の見直しを求められる可能性があります。そのため、自社が規制対象ではなくても必ずしも無関係とはいえず、物流効率化の動向を把握しておくことが重要です。
荷待ち時間や荷役等時間の削減、発注や納品方法の見直し、関係部門や取引先の連携強化など、物流の課題を把握し改善に取り組むことは、将来的な競争力の向上につながります。物流効率化法への対応は、単に法的な義務をクリアするための作業ではなく、物流体制を見直して事業基盤を強化する絶好の機会です。優先すべき経営課題として捉え、早めに準備を進めましょう。
記事監修
弁護士法人プロテクトスタンス/弁護士
大橋 史典
明治大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録。企業間紛争や従業員トラブル、契約書の作成・レビュー、コンプライアンス対応など、企業法務全般を取り扱う。弁護士に加え、税理士・社会保険労務士の資格も有し、税務・会計や人事・労務に関する課題にも幅広く対応。テレビ、新聞、Webメディアへの出演実績も多数(第一東京弁護士会所属)。








