お酒を飲まなくても脂肪肝に!?
人事異動や新入社員の入社など、歓送迎会のシーズンがやってきます。うっかり飲み過ぎて二日酔いになることも……。楽しい反面、肝臓の健康も気になります。
働き世代が気をつけたい肝臓の病気が、世界的に増えている「脂肪肝」。肝臓専門医の尾形哲先生は、脂肪肝を「肝細胞に中性脂肪がたまり、肝臓が“脂肪の倉庫”に近い状態になったもの」と説明します。
尾形「脂肪肝と言うと、肝臓のまわりに脂肪がつくイメージを持つ方が多いのですが、そうではなく、肝細胞の一つひとつに粒状の脂肪滴がたまること。組織を見ると、ラーメンのスープに浮く油のように白く見えるんです」
「肝臓を悪くするのはお酒」と思いがちですが、そうとは限りません。
尾形「もちろん、過度な飲酒は肝臓に負担になります。ですが、脂肪肝は“お酒を飲まない人”にも起こります。原因はお酒だけではなく、食事(特に加糖飲料などの糖のとり過ぎ)や運動不足、睡眠不足など、代謝の乱れが関係します。近年はこうしたタイプを、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD/マッスルディー)と呼びます」
日本では、成人の33.7%と3人に1人が脂肪肝だとされています。さらに2030年には39.3%、2040年には44.8%とほぼ2人に1人にまで増えると推計する、衝撃的な論文もあります(※1)。
(※1)Ito T, et al. The epidemiology of NAFLD and lean NAFLD in Japan: a meta-analysis with individual and forecasting analysis, 1995–2040. Hepatology International. 2021;15:366–379.
肝臓は“沈黙の臓器”といわれる通り、がまん強いのが特徴で、脂肪がたまっても痛みや不調はあらわれず、本人はいたって元気なまま状態が悪化していきます。
尾形「脂肪肝が進行すると、MASH(マッシュ)と言われる肝臓の炎症、その次に肝臓が硬くなる繊維化が起こります。さらに進行すると肝硬変となり、肝不全・肝臓がんというルートをたどります」
恐ろしいのは、肝臓からのSOSがないまま細胞が壊れてしまうこと。むくみ、腹水、胸水、黄疸などの症状が出てきたときには、治療が困難なケースもあります。
原因は食生活…糖の過剰摂取が脂肪蓄積に
脂肪肝の大きな原因は、食生活にあります。コンビニで24時間いつでもおいしいものが食べられるようになった現代。その手軽さと引き換えに、脂肪肝が急増しているのです。
尾形「人間は、余ったエネルギーを脂肪に変換して体内に蓄える仕組みになっています。そのため、消費エネルギーより摂取エネルギーが上回ると、肝臓に脂肪がたまってしまうのです」
特に脂肪肝に直結するのが、糖の過剰摂取。砂糖たっぷりの加糖飲料や甘い物などには注意が必要です。加糖飲料の中でも、特に要注意なのはビジネスパーソンにも人気のエナジードリンクです。
尾形「多くのエナジードリンクにはカフェインが含まれています。糖質だけの場合と、糖質量は同じでもカフェインが入った場合を比較すると、後者のほうが、血糖値が上昇するという研究もあります。つまり、甘みのある砂糖、覚醒効果のあるカフェインの両方が含まれたエナジードリンクは、脂肪肝を引き起こしやすいのです」
そのほか、夜遅い時間にラーメンや牛丼のような糖と脂がたっぷりの食事をする、デスクワークで座ったままの時間が長く運動不足になる、慢性的な睡眠不足、交代勤務などの不規則な生活リズムなども、肝臓に脂肪がたまる原因となります。
もちろん、お酒の飲み過ぎには注意が必要です。とくに週末に、浴びるように飲む習慣がある場合、肝臓がダメージを受けている可能性が。また、肥満度を示すBMIは、数値が高くなるほど脂肪肝の発症率も上がる傾向があります。
尾形「肥満と脂肪肝には一定の関連があります。ただし、体重や見た目だけで判断するのではなく、これまで紹介した『肝臓に脂肪がたまりやすい条件』が重なることのほうが、脂肪肝リスクを高めます」
加糖飲料をやめて主食は毎食半分に
早期の脂肪肝であれば、生活習慣の改善で状態をよくすることができます。ポイントは、過剰に摂取しているものを削ること。
尾形「最優先でやるべきなのが、加糖飲料をゼロにすること。加糖飲料は、吸収スピードが速く、すぐに脂肪がたまります。飲んでいいのは、お茶・お水・ブラックコーヒーのみ。間食の甘い物はたまにはOKですが、週2~3回に減らしましょう」
ごはんや麺、パンなど糖質の多い主食は、毎食を“半分”にして量を調整しましょう。
尾形「糖質を一切とらないのではなく、量を適正化して糖の過剰摂取を抑えます。タンパク質や食物繊維を先に食べて血糖値の上昇を防ぎ、夜遅い時間に炭水化物を食べるのも避けてほしいですね」
お酒は、量を減らせば減らすほど効果があります。肝臓に炎症があると、飲酒が火に油を注ぐことに。深酒をやめて1回の量を減らし、休肝日を設けて肝臓をいじめ続けないことです。
目安は30以上!
健康診断でALTが高めなら一度チェックを
脂肪肝の早期発見には、健康診断の結果を毎年見比べることが重要です。ひとつの目安になるのが、肝細胞がダメージを受けると上がりやすい「ALT」です。
尾形「ALTは肝臓の“炎症や傷み”のサインのひとつです。目安としては、30以上、あるいは健診の基準値を超えていたり、前年より上がっている場合は、一度腹部超音波(エコー)などで原因を確認することをおすすめします。逆にALTが正常でも、肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症がある方は脂肪肝が隠れていることもあるので、“数値だけで安心しきらない”ことが大切です」
医療機関では血液検査の数値に加え、エコーの画像のほか、線維化(肝臓の硬さ)のリスクも評価します。線維化リスクは年齢、AST、ALT、血小板数の4項目を組み合わせて計算できる「FIB-4 index(フィブフォー・インデックス)」などで推定します。
尾形「FIB-4 indexは“線維化のリスクをざっくり把握する目安”です。計算サイトもありますが、数値の解釈は年齢などでも変わるので、結果に一喜一憂せず、気になる方は健診結果を持って医療機関で相談してください」
栄養の代謝や解毒など重要な役割を果たし、24時間休みなく働き続けているのが肝臓です。私たちが太ると動きづらくなるように、肝臓の細胞も脂肪がたまると正常に働けなくなり、病気に近づいてしまいます。
尾形「脂肪肝は、糖尿病や心血管疾患などの生活習慣病の始まりとなる病気です。放置すれば、医療費の負担が増えるだけでなく、仕事や人生のパフォーマンスも低下します。肝臓は再生能力が高く、早期なら数カ月で健康な状態に引き戻せる臓器。だからこそ、健診などで悪くなる前に気づいて、早め早めにケアを始めることが大切です」
いまは数値が正常値でも、男性は30代、女性は閉経に近づくにつれて40代から脂肪肝が増えてきます。いつまでも健康で仕事ができるよう、働き者の肝臓をいたわっていきましょう。
この記事はNTTドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
取材・文/釼持陽子
編集/久遠秋生
デザイン/山口言悟(Gengo Design Studio)








