独立行政法人 水資源機構
南海トラフ地震想定で迫られた「45分の壁」突破へ
ドローンによる遠隔施設点検でインフラ防災の新たな道を拓く
独立行政法人 水資源機構
揖斐川・長良川総合管理所
管理課長
對馬 和孝氏
「約300km離れた東京からの操作で安定した通信と確かな成果が確認できました。実証実験で『災害時に職員が現地に赴くことなく施設点検ができる』確かな可能性が見えてきたと思っています」
独立行政法人 水資源機構
揖斐川・長良川総合管理所
管理課
野田 有佑氏
「多くのドローンのイベントは首都圏で開催されるため、参加して情報収集するのは困難でした。我々の施設まで出向いていただき実証実験できたことで大きな一歩が踏み出せました。ありがたかったですね」
課題
南海トラフ地震想定下で浮き彫りになった「45分の壁」
速やかな設備点検と職員の安全確保という二律背反の打開へ
独立行政法人 水資源機構は、安全で良質な水の安定供給と洪水被害の防止を図り、国民生活と経済を支える役割を担っている。近年、気候変動による異常渇水・洪水や大規模災害、施設の老朽化など水を巡るリスクが増大する中、これらの課題に的確に対応するためのDXを推進。これまでにも遠隔化や自動化、可視化などのデジタル技術を活用し、業務の効率化や安全性の向上を図ってきた。
このようなDX推進の中でもっとも緊急性が高い課題が浮上していた。南海トラフ巨大地震発生時、職員の命を守りながら45分以内に施設状況を報告する二律背反をどう解決するかである。南海トラフ地震の影響が懸念される長良川河口堰では、地震により道路が寸断され職員が現地に出向けない状況も想定される。「自然災害が発生した際には施設の安全確認を迅速かつ的確に行う必要があり、長良川河口堰の場合は地震発生後45分以内に第一報を報告しなければなりません。地震による道路寸断が想定される中、職員の安全を確保しながらこの時間内に点検を完了させることは極めて困難な状況でした」と揖斐川・長良川総合管理所の管理課長 對馬和孝氏(以下、對馬氏)は語る。
従来の目視による設備点検にも課題があった。職員が現地に足を運び、チェックリストを用いて施設のひび割れや道路の損傷を目視で確認する方法では約2時間を要していた。「しかも、人が行うときは歩ける範囲しか目視確認ができません。巨大設備の構造上、高所など目視では確認できない箇所も数多く存在していたのです」と管理課の野田有佑氏(以下、野田氏)は設備点検の悩みを明かす。
こうした背景から、對馬氏は「現地から離れた安全な場所からでも施設の状況を確認、支援できる体制の構築が急務でした。1つの有効な手段がドローンを活用した遠隔点検です。これにより災害時における職員の負担軽減はもちろん、より効率的な設備点検につながると考えたのです」と説明する。
対策
遠隔操作の通信品質を最重視してドローンの機種を選定
東京⇆三重の実証実験で災害時の安全点検の可能性を確認
水資源機構がドローンの機種選定にあたり重視したのは、南海トラフ地震を想定し、長良川河口堰の周辺環境を踏まえた3つの要件だった。強風下でも安定した映像が得られること、夜間点検に対応できるサーマルカメラを備えていること、そして遠隔操作に必要な通信品質が確保できることだ。「一般的なドローンはコントローラーを持つ操縦者しか飛行映像を確認できません。我々がドローンに求めていたのは安全な場所から高品質なネットワークを経由して、誰もが離れた場所から飛行映像を共有できることです。これらの要件を満たす機種がアメリカ製のSkydio X10だったため導入を決めました」(野田氏)
パートナーにはNTTドコモビジネスが選ばれた。「通信品質はもちろん、いろいろ当施設に合った有益な運用方法を提案していただいたことに感謝しています」(野田氏)
今後、ドローンポート導入の有用性について確認を行うために同機構ではNTTドコモビジネスとともに実証実験を行った。三重県内にある長良川河口堰にドローンポートを設置し、約300km離れた東京の事務所から飛行指示を出して施設監視を実施。ドローンポートの遠隔操作・自動充電機能により、Skydio X10は目視内飛行も含め総飛行距離37kmの恒常的な飛行を実現し、映像・通信ともに安定性が実証された。對馬氏は「災害時に職員が現地に赴くことなく施設点検ができる確かな手応えを感じています」と評価する。
採用されたモバイル通信環境はNTTドコモビジネスが提供する「LTE上空利用プラン」。これはドローンや航空機で上空のモバイルネットワークを利用できる専用料金プランだ。通信にLTEを利用するため山間部などを含む幅広いエリアをカバーできることが同機構の目的に合致した。さらに、将来的なドローン運用の幅が広がるワイドオプション(優先制御機能)、閉域接続オプション、上空電波シミュレーションなどの充実したオプション機能が利用できることもプランの強みとなっている。
こうして、構築された遠隔点検体制は具体的な成果を生み始める。
ドローンによる遠隔点検
効果
職員の安全と初動の迅速化を両立する「45分の壁」突破への確かな手応え
設備の定期点検作業も2時間から15分へ短縮、異常の早期発見が可能に
長良川河口堰では現在、南海トラフ巨大地震を想定し、事務所屋上からドローンを自動巡回させ、リアルタイムに映像を監視する訓練を継続している。この訓練の核となるのが定点撮影だ。「自動巡回飛行にあたっては、あらかじめ施設点検の重要なポイントで定点撮影を行う設定になっています。同一アングルでの写真・映像を定期的に記録しておくことで、万一、施設に異常が発生した場合に『いつ』『どこで』発生したのかを効率的に特定できるようになっています」(野田氏)
この仕組みを定期的な施設点検にも活用したところ、大きな成果が得られた。現在、長良川河口堰では週1回の定期施設点検にドローンを活用している。「これまで職員が2時間かけていた点検作業がドローンなら15分、実に1/8の時間で完了します。点検時間が格段に短縮され、さらに目視では困難な箇所も点検できるようになり、必要な定点写真を蓄積できる新たなメリットも生まれました。想像以上に画像がきれいなため、今後、画像比較による『ひび割れ検知』といった応用もできると思っています」(野田氏)
そして、なにより重要なのは「45分の壁」突破の確かな展望が拓けたことだ。「有事発生と同時にドローンを飛ばして点検できれば、45分以内の第一報という厳しい時間的制約をクリアできます。現地に無理して向かうことなく、職員の安全を守りながら初動対応が早くなる。それが今回の取り組みの根本にあるポイントです。今後、防災に限らずAIなどの技術を組み合わせることでドローンが活躍する場面はかなり多くなっていくでしょう」(對馬氏)。二律背反と思われた職員の安全確保と迅速な災害対応、水資源機構が遠隔からのドローン施設点検で切り拓いた挑戦は、日本のインフラ防災の新たな指標となるだろう。
独立行政法人 水資源機構
事業概要
「安全で良質な水を安定して安くお届けする」という経営理念のもと、水源施設から水路ネットワークまでを一体的、広域的に管理し、水資源の供給・管理という公共・公益的使命を果たしている。
(PDF形式/491 KB)
(掲載内容は2026年3月現在のものです)
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