回答者:宮原淳二さん 東レ経営研究所 DE&I共創部 部長
約20年前、当時“働き方改革”の先陣を切っていた資生堂に入社し、営業、商品開発・マーケティング、労働組合専従、人事部など様々な業務を経験した。特に男女共同参画・WLB(ワーク・ライフ・バランス)の分野で中心的に活躍、当時まだ珍しかった男性育児休業も取得。マネジメント経験も豊富。2011年に東レ経営研究所に転職し、働き方改革に関する講演や政府の審議会委員なども務める。
今回の悩み
「女性の活躍が推進されていますが、その一方で『プライベートをより重視したい』『仕事はそこそこで残業や重い業務はしたくない』という女性部下もいます。『子どもがいるから』と必要以上に早く帰ったり、休みが多かったりする一方で周囲への配慮がなかったり、『プライバシーに立ち入らないでくれ』とばかりに仕事以外の話は一切拒否する人などもいます。会社からは『女性たちの背中をもっと押してほしい』と言われていますが、それを望まない女性部下にはどう接していいか悩みます」
宮原さんの回答

ご相談ありがとうございます。
共働きが当たり前になり、子どもを育てながら働く人へのサポートや男性育休なども増える一方で、最近では「子持ち様」という子どもがいる人を揶揄する言葉も出てきています。子どもがいる人、女性、といった限られたくくりだけでなく、男性を含め、誰もが働きやすい仕組みづくりをしないと、残業や過多な業務が独身者ばかりにしわ寄せがいくという状況が起きてしまうかもしれませんよね。
どうしていくべきか一緒に考えていきましょう。
事情のある人もない人もみんなが働きやすく
今は子どもを育てながら働く人だけでなく、障害者雇用率も上がったり、LGBTQの人たちへの配慮なども広がったりと、働く人の事情はさまざまです。また、テレワークの浸透などで、職場環境も多様になってきました。
その一方で、一部の人に負担がかかってしまう現場も出ているようです。それを放置しておくとハレーションを起こしてしまいます。
繁忙期など一時的なものは仕方ないかもしれませんが、管理職は誰もが残業せずに定時で帰れる仕組みを構築しないといけないですよね。
環境、制度、風土など、さまざまな側面からの改善が考えられます。

キャリアが継続できる支援を
今、短時間勤務などを利用している女性も、今後はフルタイムに戻るでしょう。そうした人たちが、フルタイムに戻っても残業せずに働き続けられる環境も必要ですし、それでも限られた時間内で実力を発揮できるような事前準備も求められるでしょう。
前述の「子持ち様」というのは、子どもがいることを理由というよりは“言い訳”にして仕事や責任から逃れようとしている人たちを指します。もちろん宿泊を伴う出張などは、短時間勤務を利用している人には難しいでしょう。でも「子持ち様」という表現は自分たちと一線を引いているようでそれはいい表現だとは思えませんね。
ご本人も子育てで時間が取られたり、急に保育園や幼稚園から子どもの体調不良で呼び出しがかかったりすることもある中で、仕事との両立に試行錯誤しているはずです。
しかし、他の人からそういう言葉が出てしまうということは、その人が持つべきだった業務などの負担が他の人に行ってしまっているからだということも言えます。
そうしたアンバランスを管理職は根本的に改善していくことも求められますよね。

学びや交流など緩急をつけて取り組んでみて
しかし、お子さんが小さくて短時間勤務を取得している人も、今後はフルタイムに復帰します。そのときに、あまりに業務の経験や責任から逃れてしまうと、望むキャリアは得られないでしょう。十分なスキルが身に付いていないとすれば、派遣社員なみの仕事しか与えられず、後輩に抜かれることもあるかもしれません。
今はアクセルを全開に踏めなくても、フルタイムにいつか戻ることを思い描きながら、今できることをしておくことは大事です。フルタイムに戻ったら実力を発揮できるよう、少しずつでも学びを取り入れたり、挑戦をしてみたりするといいですよね。
ご両親やパートナーが子どもの面倒を見てくれるときなど、責任ある仕事ができるときもあるはずです。私の周囲でも、会社の飲み会には事前に配偶者と調整したうえで、参加する女性社員がいます。
今は、ベビーシッターなど外部に委託するケースも増えており、過度に子育てを自分一人で背負わなくてもいいと思います。上手に子育てしながら、自分のキャリアと向き合うべきでしょう。

男性育休取得率もついに3割を超えました。私が20年ほど前に取得したときは1パーセント未満でしたが、随分と時代も変わりましたね。

今の働きが老後のお金にもかかわる
そして、つい忘れがちなのが将来のお金の視点です。
“人生80年くらい”と概算して考えている人も多いでしょうが、実は令和2年のデータでは、日本では女性の約半数が90歳まで生存しており、なんと27.9%の人は95歳まで生存しているというのです。医療の進歩や食生活の変化で寿命も延びています。

そうなると、老後の年金が気になるところですよね。
特に厚生年金は報酬と連動しますので、今払っている金額が多ければ多いほど受け取れる年金も増えます。管理職になって給与が上がれば、年金も上がります。
今稼いでいるお金が、厚生年金にも影響していると考えると、自分自身を助けるためにも少し前向きに取り組もうと思いませんか?
年金は生きている限りは支給され続けますので、長生きすればするほど、生涯受け取れる年金額に差が出てくるのです。
そうした状況を意識しながら、子どもを育てる人も、子どもがいない人も、長く働くことのできるような環境、制度、キャリア形成の機会を整えたいですね。

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
構成・編集:岩辺みどり
写真:鈴木愛子
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)