副業禁止の就業規則は有効?法律上の取り扱いや裁判例の基準を弁護士が解説

副業禁止の就業規則は有効?法律上の取り扱いや裁判例の基準を弁護士が解説

公開日:2023/07/05

副業が流行している昨今でも、就業規則において従業員の副業を禁止している会社は多数存在します。

従業員による副業を禁止・制限する就業規則の規定は、法的有効性について疑義が呈されています。副業をしたい従業員としては、就業規則を無視してよいのか、それともルールに従って副業を控えるべきなのか、悩ましいところでしょう。

今回は、副業を禁止・制限する就業規則は有効なのかどうかについて、法律上の取り扱いや裁判例の基準などを解説します。

副業を禁止・制限する就業規則の問題点

職務に専念させる、体力を回復させるなどの観点から、就業規則によって従業員の副業を禁止している会社は少なくありません。一律禁止ではなくても、副業を許可制としつつ、実際にはほとんど許可しないという会社も多いようです。

従業員の副業を禁止・制限することは、会社にとっては都合がよいルールです。
その一方で、収入の複線化や本業以外での自己実現などを目指し、副業をしたいと考えている従業員にとっては足枷となります。

副業を禁止・制限する就業規則の規定は、従業員の職業選択の自由を制約するという問題点が指摘されています。また、日本では長らく続いた終身雇用の前提が崩れ、ジョブ型雇用が主流になりつつある流れにも逆行するものです。

こうした背景を踏まえた上で、厚生労働省が公表しているモデル就業規則では、労働者の遵守事項から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業に関する規定が新設されました*1*2。

副業を禁止・制限する就業規則の規定は有効か?

副業を禁止・制限する就業規則の規定については、従業員の職業選択の自由(日本国憲法22条1項)を不当に制約するものとして、法的有効性に疑義が呈されています。

日本国憲法は、公権力を規制するために設けられたものです。したがって日本国憲法の規定は、ともに私人である民間企業と従業員の間の雇用契約について、直接適用されることはありません。

しかし、人権保障の実効化を図る観点から、憲法の趣旨を考慮して私法の一般規定を解釈することで、私人間の法律関係にも日本国憲法を間接的に適用することができると解されています(=間接適用説)。
副業を禁止し、または過度に制限する就業規則の規定により、従業員の職業選択の自由が不当に制約されている場合には、私法の一般規定である「公序良俗」(民法90条)への違反を理由に、当該規定が無効となる可能性があります。

副業を禁止・制限する就業規則への違反が問題となった裁判例

副業を禁止・制限する就業規則への違反を理由に、会社が従業員に対して懲戒処分を行った事案は、しばしば裁判において争われてきました。

その一例として、以下の裁判例が挙げられます*3。これらの裁判例は、いずれも副業を禁止・制限する就業規則の有効性を検討する上で参考になるものです。

①都タクシー事件|広島地裁昭和59年12月18日決定
②東京都私立大学教授事件|東京地裁平成20年12月5日判決
③小川建設事件|東京地裁昭和57年11月19日決定
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf

都タクシー事件|広島地裁昭和59年12月18日決定

隔日で勤務していたタクシー運転手が、非番の日に輸出車を船積みするアルバイトに月7、8回従事していたことを理由に、会社によって懲戒解雇された事案です。

広島地裁は、輸出車船積みのアルバイトが就業規則で禁止された兼業に該当すると認定しつつ、以下の各事情を指摘しました。 ・現実に労務提供に支障が生じたことを窺わせる資料はない
・従業員の間では、アルバイトが半ば公然と行われていた
・アルバイトについての具体的な指導注意がなされていなかった
その上で、従業員に対して何らの指導・注意をしないまま行われた懲戒解雇は、解雇権の濫用に当たり無効であると判示しました。

本決定では、兼業禁止条項が有効であることを前提としつつ、具体的な事情に照らして懲戒解雇の不当性を認定しています。
次に紹介する東京都私立大学教授事件判決(本決定の約24年後)に比べると、本決定の判示は、兼業禁止条項そのものの効力については保守的と評価すべきでしょう。

東京都私立大学教授事件|東京地裁平成20年12月5日判決

私立大学の教授が、大学側の許可を得ることなく語学学校講師などを兼職し、講義を休講したことを理由に懲戒解雇が行われた事案です。

東京地裁は、兼職は使用者の権限が及ばない労働者の私生活における行為であるとしました。さらに、形式的には兼職許可制に違反するとしても、職場秩序に影響せず、かつ使用者に対する労務提供に格別の支障を生じさせない程度・態様による場合は、兼職制限条項に対する実質的な違反に当たらないと判示しました。

その上で、副業が夜間や休日に行われており、本業への支障が認められなかったことを認定した上で、懲戒解雇を無効としました。

本判決は、兼職(副業)制限条項に違反する場合を狭く限定して解釈し、職場秩序や労務提供への影響を実質的に考慮して判断を示した点で注目されます。

小川建設事件|東京地裁昭和57年11月19日決定

建設会社の労働者が、毎日6時間にわたりキャバレーで無断就労したことを理由に、会社によって解雇された事案です。

東京地裁は、就業時間外の活動は本来労働者の自由であることを理由に、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除いて合理性を欠くとしました。

しかしながら、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用・体面を傷つけられる場合もあり得ることを指摘し、従業員の兼業を会社の承諾制(許可制)とする就業規則の規定が不当とは言い難いと判示しました。

その上で、毎日6時間に及ぶキャバレーでの無断就労は、余暇利用のアルバイトの域を超えており、会社への労務の誠実な提供に支障を来す可能性が高いとして、解雇を有効としました。

本決定では、就業規則による兼業の全面禁止は原則不合理である一方で、許可制については不当ではないという基準が明確に示されています。

裁判例の小括

副業を禁止・制限する就業規則の有効性については、最高裁の統一的な見解がなく、下級審レベルで判断が示されているにとどまります。また、時代の変化に伴う副業に関する考え方の変遷も結論に影響し得るため、有効・無効の基準が明らかとは言えない状況です。

しかし、比較的新しい東京都私立大学教授事件(東京地裁平成20年12月5日)判決では、兼職を許可制とする就業規則の規定が限定解釈されるなど、勤務時間外の副業・兼業を広く認める傾向が生じてきたものと思われます*4。

副業を禁止・制限する就業規則について、従業員はどう対処すべきか?

近時の裁判例の傾向からすると、副業を禁止・制限する就業規則に従わず、勤務時間外に副業を行ったとしても、会社の業務に支障が生じていない限り、訴訟等では労働者側が勝つ可能性が高いと考えられます。

その一方で、(少なくとも形式的には)就業規則に違反する副業が発覚すると、会社との間でトラブルに発展する可能性が高いでしょう。懲戒処分などは行われないとしても、人事考査において不利益な取り扱いを受けるかもしれません。

従業員としては、会社でのキャリア形成に重点を置くのであれば、副業をせず本業に注力する方が得策でしょう。
そうではなく転職を目指したい、収入を複線化したい、スキルアップしたいなどの思いが強い場合には、まず会社と話し合うことが望ましいと思われます。

会社の態度が強硬であり、やむを得ず就業規則に反して副業せざるを得ない場合は、会社とトラブルになる可能性を覚悟した上で、どのように対処するかを事前に検討しておきましょう。弁護士などにアドバイスを求めることも考えられます。

資料一覧

  • *1 参考)厚生労働省「副業・兼業 モデル就業規則」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
  • *1 参考)厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則(令和4年11月版)」p16、p90
    https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
    ※「第11条(遵守事項)」では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という遵守事項が定められていません。また、「第70条(副業・兼業)」の規定が設けられています。
  • *3 本記事で挙げた裁判例は、厚生労働省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にも掲載されています。 参考)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(2022.10)」p39、p40
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
  • *4 たとえばマンナ運輸事件(京都地裁平成24年7月13日)判決では、勤務時間外の兼業を原則許さなければならないとしつつ、労務の提供が不能または不完全になるような事態や、企業秘密の漏えいなど経営秩序を乱す事態が生じる場合においてのみ、例外的に従業員の兼業を禁止することが許されると判示しています。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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