テレワークで飛行機通勤も可能に?「あの空間」を再現して離職率ダウンにつなげたテレワーク事例も

テレワークで飛行機通勤も可能に?「あの空間」を再現して離職率ダウンにつなげたテレワーク事例も

公開日:2022/04/15

リゾート地を訪問したとき、「ここから通勤ができればいいのになあ」と思ったことがある人は多いのではないでしょうか。また、新型コロナの影響でリモートワーク・在宅ワークが浸透するなか、実際にリゾート地などで仕事をする「ワーケーション」という言葉も出現しました。
そのような中、ヤフーが「飛行機通勤」も可能になる制度を導入することを発表しました。
また、ネットワーク上に「ある空間」を再現して社内のコミュニケーション不足を解消し、離職率を大幅に下げたという企業もあります。

国内ならばどこでも移住可能

ヤフーが4月から導入する新しい制度は、約8000人の従業員(正社員、契約社員、嘱託社員)に対して居住地の制限を撤廃するというものです。国内ならばどこでも移住可能で、これまで認めていなかった飛行機や特急、高速バスでの出勤も可能になります*1。

もちろん毎日飛行機通勤でも交通費が出るという意味ではなく、これまで6500円としていた片道の交通費の上限を撤廃し、1か月のトータルでは従来通り15万円まで交通費を認めるという形です。

しかし、ヤフーではすでに社員のほとんどが在宅ワークになっています。ですから、例えば隔週の出勤ならば一度の出社に往復7万5000円を使えるため飛行機も利用できる金額になるという形です。

また、コミュニケーション活性化のために、社員同士の懇親会費を月5000円まで支給するということです。リモートや在宅ではコミュニケーションが取りにくくなりがちですが、会社からお金が出るのは懇親の良いきっかけになることでしょう。

東京23区がはじめての「転出超過」、都市への集中に変化

新型コロナの感染拡大は、人の移動にも大きな変化を及ぼしています。

総務省が発表した2021年の住民基本台帳人口移動報告によると、ある地域で転入した人から転出した人の数を差し引いた「転入超過」は3大都市圏で下図のように推移しています(図1)。

図1 3大都市圏への転入超過の推移 (出所:「住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果」総務省)

新型コロナの流行以来、特に東京圏への転入超過が減少していることがわかります。

また、東京23区では、区外や他県への転出者の方が1万4828人多く「転出超過」になりました*2。コロナ禍前は5万~7万人程度の「転入超過」で推移してきた*3ことを考えると、人の流れが大きく変わっていることがわかります。

このトレンドが続くとどうなるのか。

まず、都市圏に居住しなければならないという条件を付けると、優秀な人材を逃す可能性が出てきます。逆に言えば、居住地を選ばないことで優秀な人材を確保しやすくなります。ヤフーの大胆な制度変更の裏にも、こうした背景があると考えられます。

また人材確保の問題以外に、経営上重大な課題にも関係するトレンドだと筆者は考えています。

リモート・在宅ワークの効能は「働き方」だけではない

じつは、全国各地に従業員がいることには、以下のようなメリットも存在します。 BCP(=事業継続計画)に関わることです。

東日本大震災の発生時、筆者はキー局に勤務していました。このとき、現地の系列局とのホットラインが途絶えてしまうというアクシデントがありました。 報道局員は普段から地震訓練をしていますが、これは訓練にはない出来事でした。

筆者が現地の映像を見たのは夜になって、自衛隊が撮影した気仙沼市上空の映像がようやく届いてからでした。

さて、このような災害発生後にマスコミ各社が早く現地入りしている様子をご覧になった方は多いかと思います。

民放の場合、基本的に地方局は記者やカメラマンの人数は想像以上に少ないものです。記者が10人ほどで複数の県をカバーする、というところもあります。

そのために系列各局から現地に応援を出すのですが、ここでも「離れたところにいたからこそできるしくみ」があります。やり方は系列によって違いますが例えば、

  • 全国の局からの応援部隊を一度東京(もしくは大阪・名古屋・福岡など)に集め、別々のルートで現地を目指す
  • 最も近いエリアの局(Aテレビとしましょう)からまず現地に入り、Aテレビの応援に近隣のBテレビが入り、Bテレビの応援にその近隣のCテレビが入り…という初動で対応する

などの方式があります。

東日本大震災の際は、車で行くのが良いのか、山形まで飛行機で行ってそこから陸路が良いのか、などの事情が現地に行かなければ分からない状況でしたが、このような分担で早期の現地入りを目指しています。

また、現地の系列局員も被災者です。電気・ガス・水道というインフラもダメージを受けました。 さらには当時、東京でも食料品が品薄になりました。現地ではなおさらのことです。 よって、東京勤務の社員がコンビニでいつもより「1個だけ多く」パンやおにぎりを買う、あるいは複数のコンビニなどに立ち寄り、それぞれの店で少しずつ食料品を通勤途中に買うという方法を取りました。交通網の断絶やパニックで水や食料の買い占めが広がる中、自分たちが買い占めをするわけにはいかないからです。

それらを全て社内に集め、まとめて現地に毎日4トントラックで運び、現地の系列局員の生活を支えていました。

各地に人員が散らばっているからこそできることです。

離職率の大幅減を実現した事例も

また、東日本大震災を機にリモートワークを本格化させたサイボウズでは、震災発生時にこのようなことがあったといいます。

交通機関の混乱や原発事故の発生を受け、サイボウズの東京オフィスでは、一時的に在宅勤務の原則化を決定します。 この頃、経理部では決算に向けた業務が行われていました。それまでは、テレワークでは難しいと考えられていた業務です。しかし、緊急事態のため、出来る限り在宅勤務で行わなければなりませんでした。 そこで、自宅から必要なシステムに接続して作業ができるように、情報システム部が対策を講じます。そのおかげで、元の予定通りに、決算業務を進めることができたのです。 これまでテレワークではできないと思われていた業務が、実は全く不可能ではないと、多くの社員が気づくきっかけとなりました。

<引用:「サイボウズ流 テレワークの教科書」サイボウズチームワーク総研 p45-46>

サイボウズはもともとテレワークに積極的です。しかしその後、さらに大胆な施策を打ち出しました。「働き方宣言制度」です。 100人100通り、の働き方を認め、午前中はテレワークをする、水曜日はテレワークをする、などそれぞれの希望の働き方をあらかじめ宣言するというものです。

その結果、2007年には28%だった離職率が2020年には4%にまで下がったといいます*4。

時限措置に留めるデメリットへの考慮も必要

コロナ禍にあっても日本企業のテレワーク推進の取り組みはあまり進んでいないように感じられるシーンがありました。

去年10月、関東地方で最大震度5強の地震が発生しました。 その翌朝のことです。 電車のダイヤの乱れを引きずった駅の構内に人が溢れ、入場規制を実施する駅も出たというニュースです*5。

奇しくも緊急事態宣言が明けた直後のことでした。「緊急事態宣言が明けた瞬間に毎日出社に変わった」という周囲の愚痴も筆者が耳にしていたときです。 緊急事態宣言中と同様にテレワークが継続されていれば、この地震の時の混乱の度合いは違ったことでしょう。駅の混雑は感染リスクを高めますから、まさに本末転倒の事態が起きたと言えます。

テレワークを時限措置に留めてしまうと、自然災害の多い日本では今後も同様の事態が繰り返されることでしょう。テレワークを「仕方なく取り入れたもの」ではなく、経営戦略上のメリットとして位置づけることは様々な意味で重要性を持っているのです。

資料一覧

  • *1「ヤフー、通勤手段の制限を緩和し、居住地を全国に拡大できるなど、 社員一人ひとりのニーズにあわせて働く場所や環境を選択できる 人事制度『どこでもオフィス』を拡充」ヤフー株式会社
  • *2「住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果」総務省
  • *3 「東京23区、初の転出超過 21年人口移動報告」日本経済新聞 2022年1月28日
  • *4「サイボウズ流 テレワークの教科書」サイボウズチームワーク総研 p47
  • *5 「埼玉震度5強、駅入場制限で混乱 利用客あふれる」日本経済新聞 2021年10月8日

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この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。

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