「ズレたアドバイスをする先輩」にならないために気を付けること

「ズレたアドバイスをする先輩」にならないために気を付けること

公開日:2023/04/5

「この人のアドバイス、なんだかズレてるなぁ……」

優しく丁寧に教えてくれるんだけど、こっちが求めているものではない。でも相手は善意でやっているからお礼を言わなきゃいけないし、多少実践しないと相手に悪いし、困ったなぁ……。

こういう経験は、だれにでもあるんじゃないだろうか。

でもいざ自分が教える側になってみると、「役に立つアドバイス」をするのがいかにむずかしいかを痛感し、頭を悩ませる人も多いだろう。

「あなたはズレたアドバイスをする先輩になっていませんか?」と聞かれたら、答えに窮する人はたくさんいると思う。

というわけで、今回は「役に立つアドバイスとそうでないアドバイスはなにがちがうのか」について、考えていきたい。

優しいドッグトレーナー、しかし無意味だったトレーニング

2年半ほど前、我が家は保護犬を引き取った。
黒いツヤのある毛をした、ハスキーとコーギーを混ぜたような見た目の子で、名前はクロ。

我が家にとってはじめての犬、それもすでに成犬で保護犬。

散歩に行っても引っ張りまわすばかりでまったく言うことを聞いてくれず、ほかの犬が視界に入ると吠えかかり、子どもがそばを通りかかると飛びつこうとする。

いろいろなしつけを試したが、どうにもよくならない。
一度プロに見てもらったほうがいいだろうと、ネットで見つけたドッグトレーナーにトレーニングを依頼。

ドッグトレーナーは40代くらいの女性で、動きやすいスポーツウェアを来て、大きなリュックを背負って現れた。

「散歩中、なかなか言うことを聞かなくて困ってるんです」
「じゃあ、クリッカーを使ってしつけましょう」

そう言って彼女は、すぐにトレーニングを開始。

クリッカーは、押すとカチッという音が鳴るボタンで、犬のトレーニングでよく使われるものだ。

クロがいいことをする→クリッカーを鳴らしてご褒美をあげる、を繰り返す。
そうすると、クロはクリッカーの音=いいものとして認識し、いつクリッカーが鳴るかを覚え、そのために行動を修正していく……とのこと。

でも正直、わたしは「クリッカーになんの意味があるんだ?」と理解できなかった。

我が家は舌で音を鳴らしてクロの注意をひくようにしつけている最中だったから、クリッカーの音は混乱のもと。

そのうえ、ふだん右手でリードを握り、左手で余ったリードを持って長さ調整をしていたので、散歩中ずっとクリッカーを持つのは非現実的。

っていうかいまダイエットさせているから、そんなにたくさんおやつあげないで……。

その場では「そうなんですねぇ。なるほど~! やってみます!」と言いはしたが、内心「このやり方はないな~」と却下。とくになにも学ぶことなくトレーニングは終了した。

自分理論の押し付けでは「有益なアドバイス」にならない

ドッグトレーナーの人は良い人だったし、犬の扱いにも慣れていたのだと思う。

でも彼女は、「こういう悩みにはこうすべき」という彼女なりのセオリーを、クロに当てはめるだけだった。

当然ながら、しつけのセオリーには、相性がある。

そのセオリーが有効かどうかを判断するためには、わたしたちの話を聞かなくてはいけない。クロはなにが好きでなにが嫌いか、どういう性格なのか、体調はどうか、普段の様子は……。

しかし彼女は、クロがどういう子なのか、わたしたちに一切聞かなかった。

「散歩中にほかの犬に吠えるし、強く引っ張る」という悩みだけを聞いて、自分のセオリーに従って「じゃあこうしましょう」とクリッカーで実演しはじめたのだ。

わたしにはそれが自分のやり方の押し付けに思えたし、実際彼女のアドバイスは役に立たなかった。

本当は散歩中の行動以外にも、「爪切りをさせてくれない」「散歩後の脚拭きを嫌がる」などの悩みを相談をしたかったけど、「わかってくれないだろうな」と思い、結局なにも言わなかった。

当てはまらないセオリーは無価値

この経験で思ったのは、役に立たないアドバイスとは、「その人のなかの模範解答の提示」であるということだ。

ほかの犬に吠えるなら、吠える前にクリッカーを鳴らしてご褒美をあげればいい。
彼女にとっての模範解答がすでにあるから、クロの性格や環境を考えず、わたしたちにそれを提案した。

でも我が家は舌を鳴らして注意をひくしつけをすでにやっており、クロはクリッカーの音に戸惑っていたし、散歩中両手でリードを持てるようにしたいのでクリッカーを持つのは無理。

セオリーを教えられても、それがクロに当てはまらなければなんの意味もない。
当てはまらない「自分セオリー」はアドバイスではなく、ただの押し付けだ。

ではわたしは、どういうアドバイスなら喜んだのだろうか。

改めて考えると、きっとわたしは、どうクロと向き合うべきか、クロに合うやり方はなにか、プロである彼女と一緒に考えたかったのだと思う。

一般的なセオリーを知りたいなら、ググればいいだけ。
そうではなく、うちのクロの性格を踏まえて、わたしたちの悩みを共有して、「じゃあこうしていきませんか」「こうすればクロの気持ちがわかりますよ」と提案してほしかったのだ。

問題の本質がどこにあるかによって解決策は大きく異なる

たとえば、「緊張してうまく話せない」と悩んでいる後輩営業マンがいるとする。

そんな後輩に対し、「回数やれば慣れるよ」という人もいれば、「営業前にルーティーンを決めたら落ち着くよ」という人もいる。

どちらのアドバイスも、まちがってはいない。
でも両方とも「自分にとって正解である模範解答の提示」であり、悩んでいる目の前の後輩に当てはまるとはかぎらない。

ではどうすれば、「後輩にとって役に立つアドバイス」ができるのか。
それにはまず、問題の本質を理解することが必要だ。

上がり症の後輩が悩んでいるのは、緊張して頭が真っ白になって大事なことを伝え忘れることかもしれない。
緊張してうまく話せず、お客様にイヤな思いをさせているんじゃないか不安なのかもしれない。
人見知りがひどくて、同行している先輩から役立たずだと思われないか心配なのかもしれない。

「緊張する」といっても、問題の本質がどこにあるかによって、解決方法はまったくちがう。
だからまず、話を聞かなきゃいけないのだ。そのうえで、解決の糸口を一緒に考える。

「伝え忘れてしまう? それなら伝達事項を箇条書きにしておいて、お客様と一緒に『これですべてお伝えしましたね』と確認してみたら?」

「うまく話せない? 『大切なお客様の前だと緊張してしまうんです。深呼吸させてください』と言えば、親近感を感じてかわいがってもらえるかもしれないよ」

「役立たずだと思われていそう? その場でうまくできないなら、事前の資料集めなどでやる気を見せておいたらどうだろう」

のように。

さらに踏み込んで話を聞けば、伝え忘れで上司に怒られたり、頼りないことを理由にお客様から担当者を替えられたり、先輩にきついことを言われたことがあったかもしれない。

それなら、その過去を乗り越えるためにはどうすればいいか、という話になる。

そういった背景を理解しないまま、「自分はこうして解決した」「こうすればいい」というのは、相手のためにならない。

要は、「自分のなかの正しい答えを伝えるのが役に立たないアドバイス」であり、「相手の問題を理解したうえで解決方法を一緒に考える」ことが役に立つアドバイスなのだ。

もちろん、自分のセオリーがそのまま当てはまり、解決方法になることもあるけどね。

アドバイスで大事な「相手にとって最適か」という視点

だれかに相談されたとき、「問題Aに対しては解決策A´、問題Bに対しては解決策B´」と、安易に答えてはいないだろうか。

それはあくまで自分の模範解答の提示であって、その人が求めているものではないかもしれない。

わたしの例でいえば、わたしは単純に「クロが吠えない犬になってほしい」と思っているわけではなかった。

もちろんそれも大事だけど、一番の悩みは、「クロとの信頼関係をどうやったら築けるか」だったのだ。はじめての犬だし、「いい関係性がつくれていないんじゃないか」と不安だったから。

相手の役に立つアドバイスをするためには、「自分が解決した方法」「自分が最適だと思う方法」を伝えるのではなく、その人にとっての問題の本質がなにかを理解し、「相手にとって最適な方法はなにか」を考えること。

きっと、これが大切なのだ。

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この記事を書いた人

雨宮 紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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