100点より40点を目指し成果を挙げる米国流経営 減点主義の日本的経営はなぜダメなのか

100点より40点を目指し成果を挙げる米国流経営 減点主義の日本的経営はなぜダメなのか

公開日:2022/12/13

「失われた30年」が40年となることが危惧される中で、働き方改革をはじめとした様々な施策が行われています。

厚生労働省によると、働き改革が目指すものは、「投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」となっています。*1

そのための具体策として、IT人材の育成やDXの推進、長時間労働への行政指導の徹底、柔軟な働き方がしやすい職場環境の構築などが挙げられており、様々な法律も整備されつつあります。*1, *2

日本とアメリカの両方の職場を行き来する筆者としては、上記の解決策はとても日本的だと感じます。

日本の労働生産性と職場の熱意

日本人の働き方を検証するべく、従業員の仕事への意欲(エンゲージメント)を調査した結果が以下の図1です。*3

この調査は米調査会社ギャラップが2022年に実施したものです。日本人の従業員の中で意欲あふれる(従業員エンゲージメントの強い)従業員の割合は5%に過ぎず、その国際順位は129カ国中128位です。*4

図1 従業員エンゲージメントの国際比較

図1 従業員エンゲージメントの国際比較
出典:経済産業省「未来人材ビジョン」p.33
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

またOECD加盟国を調査した幸福度と労働生産性はともに低く、G7(先進7か国)の中で最下位となっています。

図2 OECD加盟国の幸福度と生産性の関係

図2 OECD加盟国の幸福度と生産性の関係
出典:ニッセイ基礎研究所「日本の従業員のエンゲージメントの低さを考える」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71887?pno=2&site=nli

このような調査結果から、日本の労働生産性は低いこと、幸福度と労働生産性の間に正の相関があることが見て取れます。

したがって同じ能力の人であれば、エンゲージメントを高めることが労働生産性を向上させるキーファクターになり、そのことが幸福度の向上にもつながる可能性が高いとみられます。
そこで、次にエンゲージメントが低い理由を探るために、労働時間を見てみましょう。

日本人の労働時間を調べてみると、1988年をピークに減る傾向にあり、2021年の世界ランキングでは27位と他国と比べて長いとは言えません(図3)。*5, *6
同様の報告に基づいて日本人が以前と比べ怠惰になっているという考察などもありましたが、詳しく見てみると、ここで示されている労働時間にはカラクリがあります。

図3 年間総実労働時間の国際比較

図3 年間総実労働時間の国際比較
労働政策研究・研究機構「データブック国際労働比較2022」p.221
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2022/documents/Databook2022.pdf

実はこの統計に含まれる労働者の中には、正規労働者だけでなく非正規雇用者である短時間労働者が含まれます。とくに近年では、経済状況の悪化によりそれまで主婦だった方が短時間労働者として働くケースが増えています。

このように短時間労働者も含めて労働時間の平均を算出すると、短期労働者の割合が増えたことが原因で、日本人の労働時間が減っているように見えるのです。

上記のようなデータを除外するための次善策として、各国の男性就労者の労働時間を比較したのが、以下の図4です。*7

図4 男性の1日あたりの平均労働時間

図4 男性の1日あたりの平均労働時間
出典:OECDの2014年の調査結果より筆者作成
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/honpen/csv/zuhyo01-c01-01.csv

この図から、日本人の労働時間が他国と比べて長いことがわかります。

以上の調査結果を踏まえると、業務の無駄を省き労働時間を減らすことによって、労働意欲(エンゲージメント)を発揮できる職場を構築することが、労働生産性を向上させ、それが幸福度を高めることにつながると見られます。

40点主義の職場で働くとどうなるか

私はこれまで日本の職場と米国の職場の両方を経験し、現在は日本と米国を行き来しています。米国の職場といってもそれぞれ違いはあるものの、日本の職場の方が、完璧主義や減点主義の傾向は強いといえます。

これまで日本の職場で要求された水準を100点とすれば、現在の米国の職場は40点程度でしょう。このような傾向は労働者のエンゲージメントにも大きな影響を及ぼしていると感じています。

ちなみに日本の職場のノーベル賞受賞数は1つでしたが、米国の職場は、5つのノーベル賞を受賞しており、職場環境も良好でした。完璧主義や減点主義ではないことで生産性が下がるどころか、むしろ高まっていると感じています。

40点主義で自分自身に起きたこと

アメリカの職場では、会議の根回しのための会議などはありませんし、会議自体が1時間以内に終わります。以前は頻繁に催される長い会議で疲れ果てていたのですが、現在では同僚の意見や考えがわかる大事な機会として楽しみですらあります。

会議が短時間で済む理由のひとつに、参加者が少なく全員が発言する機会があること、上司の意見であっても反対できることが挙げられます。

全員が発言できる理由のひとつとして、日本のように高いレベルが求められておらず、おかしな発言をすることで無知だと思われたり能力を疑われたりする心配が少ないことが挙げられます。高いレベルを要求されないことにより、全員が気軽に発言でき、課題をお互いに指摘し合えることになります。

会議でもお互い40点で仕事をしているので、他人の意見にも余裕をもって耳を傾けられます。これが120点を目指して努力した成果なら、それを否定された時のダメージは大きく、落ち込んでしまいます。

また、40点の仕事では自然と本当に大事なことしか行いません。そのため、無駄な作業などはそもそもあまり発生しません。

実は職場の生産性も高まる

意外かもしれませんが、100点や120点を目指すより、40点を目指す方が成果がよいことすらあります。

40点程度の仕事をするには一人でも構わないのですが、それをさらに80点、100点へと改善していこうとすると、複数の人の協力が必要になります。一人が最初に100点を目指してしまうと、到達までに時間も掛かり不完全な一方で、最初の一人の提案に強く引っ張られて、最終成果物も中途半端なことが多いようです。

日本の職場では、やっている感を出すための長時間の報告や、万全を期すためのチェックが二重三重と行われ、この仕事は本当に必要なのかと思うことが頻繁にありました。業務改善の担当者は、自分の価値を感じてもらうために様々なアイデアを出しますが、結果として業務が増える方向に進むことが大半です。

一方、アメリカでは、業務を改善するためにどこに無駄があるかを探す方向に進むことが多く、努力ではなくシステムで解決しようとする傾向があります。

自分自身が40点を十分とするなら、他人が完璧ではないことも許せるようになります。会議で自分が次に何を言おうかと考えるかわりに、周囲の人がいま言っていることに耳を傾けられるようになります。

またアメリカでは、ある個人が常に100点の成果を出すと、その人がいれば十分と判断され、逆にプロジェクトの人員を減らされる危険性もあり、無理に努力する行為は危険ですし、残業もほぼありませんので、業務時間に集中します。

なお過労死という言葉は、海外でもそのまま使われており、「特攻」を想起して脅威と感じる人もいます。

機嫌のよい職場では快適性と生産性は両立できる

日本人の完璧な仕事ぶりは素晴らしいのですが、それを組織の全員が維持しようとすると、次第に要求水準が上がっていき、終わりのないレースのようになってしまいます。また他者にも同じものを求める結果、減点主義につながり、結果として労働時間が増えます。

加点主義についても、部下を動かそうと作意的に行うならば、その意図は自ずと伝わるでしょう。結果として表面で綺麗な言葉のやりとりがされても、内心と異なれば疑心暗鬼になって職場の雰囲気は悪化し、成果のためではなく仕事ぶりをアピールするための仕事が増えることになってしまいます。

組織の生産性を向上させるための様々な施策が日々行われ、個人もスキルアップに努めています。日本では、努力することが善で、楽をすることは悪であるかのような風潮がありますが、努力で解決できることには限界があります。

もちろん職場の文化が急に変化することは難しいですし、理想論であることは承知しています。正直かつての私も、「仕事とはこういうものだから仕方がないんだ」と諦めていました。

まずは職場が努力競争になっていないか確認してみてはいかがでしょうか。もしミスが非難されたり、課題をお互いに指摘し合えず、周囲に助けを求められなかったり、誰にも弱音を言えないのなら、危険な状況です。

日本の働き方改革が制度として上滑りで終わることなく、労働生産性の向上に向けて実効性のあるものになり、日本人の幸福度も高まることを願っています。そのためにさらなる努力に向かうのではなく、まずは40点主義を目指すのもよい選択ではないでしょうか。

資料一覧

■お知らせ

私たちNTT Comは新たな価値を創出できるワークスタイルの実現を支援しています。
企業の働き方改善にご活用ください。

ワークスタイルDXソリューション
>> Smart Workstyleはこちら

NTTコミュニケーションズのデジタル社員証サービス

スマートフォンをポケットにいれたまま、ハンズフリーで入室!

Smart Me®︎は、社員証機能をデジタル化することにより、物理的なカードを無くすことを目的にしています。
中でも入退館・入退室機能は、どこにも触れない入退認証を実現し、入館カードを常時携帯する煩わしさを解消します。
管理者は、発行・再発行のたびに掛かっていた物理カードの手配・管理コストが無くなるほか、
ICカードにはできなかった、紛失時に残るカードを悪用されるセキュリティリスクを低減できます。

>> Smart Meはこちら

この記事を書いた人

鯉渕 幸生

Ph.D。米国標準技術研究所研究員、中央大学研究開発機構教授、Recora LLC 代表取締役CEOを兼務。ドローンやロボット、環境問題やエネルギーに関する研究開発に従事している。ライターとしては、科学技術、環境問題、スタートアップ支援などのテーマで執筆している。

人気コラム

おすすめコラム