「好きを仕事に」してはいけない 「好き」こそ副業にして人生を楽しもう
公開日:2022/08/22
働き方改革が進む中、これまで認められていなかった業種でも副業・兼業を許容する流れが生じている。
その狙いを教科書的に説明すれば、多様なワークスタイルを認めていくことにより、働く人々が能力をより発揮し、スキルアップできるようにすること。
そして、副業を通じてイノベーションや起業を喚起するといったものだろう。
だが、世の中で行われている副業全てが、そのような目的に合致しているとは限らない。
また、中には副業に手をつけてみたはいいものの、本業とのバランスのとり方や労力に見合わない収入といった諸問題に直面し、思い悩む方とているはずだ。
政府や企業が副業を後押しするようになったとはいえ、まだまだ多くの人々が新たな働き方に戸惑っているーー少なくとも、筆者の目にはそう映る。
この点は、とりわけ自分が現在暮らしている中国との対比において、顕著な違いがある。
何しろ、こちらの人々にとって副業・兼業は当たり前どころか、本業の収入をそもそもアテにしていない強者すらいる。
たとえ職場で副業が禁止されていても、中国の人々は基本おかまいなし。
増収のチャンスがあるのなら、本業だろうが副業だろうがキッチリ稼ぐ。
そんな彼らの自由すぎる働き方を見ていると、少しけじめを持った方がよいのではと思うこともしばしばある。
むろん、日中間では価値観や社会構造などが大きく異なるため、単純にどちらがよいという話ではないが、それでも中国の人々に比べれば、日本人の副業に対する意識はまだまだこなれていないように感じられるのだ。
そこで本稿では、中国で仕事をする自身の体験をベースとしつつ、本業と副業の理想的な関係、もしくは位置付けについて、僭越ながら持論を語ってみたい。
自分のやりたいことを副業で叶えるという選択肢
まず最初に言うと、筆者が今書いているこの原稿は、紛れもなく副業そのものである。
与えられたテーマを元に、自らの知見に基づき論を組み立て、文章化する。
目的は、読者の皆さまに何らかの気付きであったり、思考のヒントをお届けすること(できているかは分からないが)。
そしてもちろん、原稿料を得ることである。
だが、自分がこの副業を通じて得られる最大のものは、内なるものを表現したいという欲求、もしくはリビドーを満たす喜び。
より簡潔に言うならば、ライター仕事という「本当にやりたいこと」を、副業として行っているのである。
そこできっと、こんな疑問を持つ方もいるはずだ。
「本当にやりたいことなら、本業にすればよいのでは?」
全くもってその通り。
できることなら、その方がいいに決まっている。
だが、私は実のところ、「好き」を仕事にするプレッシャーに耐えられず、すでに舞台から降りた者である。
日本で出版社勤めをしていた10数年の間、子どもの頃から憧れていた編集者という仕事に就き、「好き」を仕事とする葛藤と、ずっと向き合ってきた。
クリエイティブであることと、金銭的に成功することの両立は決して容易ではなく、さらには非情なことに才能という壁もある。
表現者として中途半端どころか人並み以下の能力しか持ち得ず、かと言って何かを伝えたいという願いも捨てきれない。
そんな自分が選んだ働き方こそ、本業を生計のためと割り切り、副業で願望を叶えるスタイルである。
一応、現在も本業はメディア関係とはいえ、創造性は大して求められず、仕事でかつてのように追い詰められる思いをすることもほとんどない。
副業として行うライター仕事は筆者にとって、心のバランスを取るための安定剤のようなもの。
いわば、夢の名残を追うための副業なのである。
他者からどのように見えるかは別として、日々の仕事にやりがいを感じていない方にとって、これは一種の処方箋となり得るはず。
そう言い切れるほど、自分は今の働き方に心地よさを感じているのである。
筆者が日本で管理職を勤めていた頃、「今の仕事は本当にやりたいことではない」と言い放って離職する部下を大勢見てきた。
では、やりたいことなら本当に続けられるのか、成功できるのかと言えば、経験上「むしろ、その決断が自分を追い込むこともある」と断言できる。
言うまでもなく、「好き」と「稼げる」は必ずしもイコールではない。
一例を挙げれば、筆者が出版社に入り、まず叩き込まれたことは「売れるものを作れ」ということだった。
作りたいかどうか、関心があるジャンルかどうかといった個人の思いは関係ない。
とにかく売れという一本やりであり、そのためには己の意に反することも多々行ってきた上、そこまでしても大して売れはしなかった。
そうして本来愛していたはずの編集・ライティングが、時間とともに心底嫌になってしまったのだ。
むろん、本当にやりたいことを本業とすべく転職を志す方は多いだろうし、そのようなチャレンジを止めるつもりは毛頭ない。
だが、読者諸兄におかれては、働き方を考える上で「好き」を副業とするという選択肢もあることを、ぜひ頭の片隅に置いておいていただければ幸いだ。
裁量労働制で働くことにはデメリットもある
勤めている会社、携わっている業種が永遠に続くと考える方は、今の世の中そう多くはないだろう。
だが、そのような前提のもとで準備を怠らないという方も、おそらく少数ではあるまいか。
長年栄えてきた業種が時代遅れとなった時、そこで生きてきた人々の過半が、やがては転職を余儀なくされる。
また、せっかく身に付けたスキルが陳腐化し、職を追われることもある。
万が一そうなった時のため、ダブルワークのネタを何かしら抱えておくこと。
言うなれば「セーフティーネットとしての副業」という位置付けもまた、筆者は有用であると考える。
出版社、とりわけ紙媒体は紛うことなき斜陽産業であり、自分を含めてその周辺で働く者はおおむね「いつか終わりの時が来る」という予見を抱いていた。
もちろん従事者がゼロになることはないとはいえ、己が業界に残れるとは限らない。
結局、多くの同僚が他業種に流れていったわけだが、在職中に何かひと役、セーフティーネットとなるスキルを身に付けていた方は、その後の転職がはかどっているように感じられた。
写真のレタッチ技術、動画編集、IT関係などジャンルはさまざまだが、本業と親和性のあるものが始めやすいようである。
傍から見ている限りだと、最初の動機は趣味であったり、もしくは単なる小遣い稼ぎ。
ところが、本業がいよいよ厳しいとの認識が皆の間で強まっていくにつれ、明らかに事後の準備と捉えて本気で取り組む者が増えた。
それらの人々をスキル派とすれば、コネこそが最大のセーフティネットと考えて、辞めた後の「椅子」を確保しようとする人脈派の面々もいた。
だが、実力のない編集者など、会社を辞めてしまえばただの人。
ポストあっての人脈であり、その手で生き残れた先輩はわが社の場合、決して多くなかったように思う。
このように、失職した時のための命綱と考えて副業を始める場合、大事なのは新たに身に付けるスキルの価値だ。
失敗例としては、筆者のようにたまたま仕事で習得した中国語による副業と、その後の転職。
現状それで生計が成り立っている上、これがなかったら自分が今何をしているか分からないことを思えば、無駄だったとはもちろん言えない。
だが、スキル習得に多大な時間を費やした分、リターンが今後期待できるかといえば、伸びしろは決して大きくないと感じている。
それは言わば、近年すさまじい勢いで進化を遂げる機械翻訳に、いつか仕事を取られるのではという懸念である。
編集を辞めてレタッチャーに転じた知人も、今はグラビアなどの仕事を抱えてかなりの額を稼いでいるとはいえ、いずれは高性能なアプリが生まれることにより、職を失うのは目に見えている。
副業を一種の保険と捉える場合、それがいつまで通用するかを考えて、ジャンルを選びたいものである。
さて、ここまでお読みいただいた方ならばお気づきの通り、自分は副業にまつわる最も重要なファクターについて触れていない。
それは、言うまでもなくお金のこと。
あえて言及を避けたのは、副業を単なる増収の手段と考えて欲しくなかったからだ。
自分のやりたいことを叶えるため、はたまた転職のためのスキル習得など、副業の位置付けはさまざま。
単に稼ぎを増やす手段と割り切ったり、最初から敬遠したりするのではなく、自分にとって今必要な本業と副業の組み合わせを、ぜひ一度考えてみよう。
多様な働き方が認められつつある今、わざわざ本業一本と自ら縛りをかける必要なんて、どこにもありはしないのだから。
■お知らせ
私たちNTT Comは新たな価値を創出できるワークスタイルの実現を支援しています。
企業の働き方改善にご活用ください。
ワークスタイルDXソリューション
>> Smart Workstyleはこちら
NTTコミュニケーションズのデジタル社員証サービス
スマートフォンをポケットにいれたまま、ハンズフリーで入室!
Smart Me®︎は、社員証機能をデジタル化することにより、物理的なカードを無くすことを目的にしています。
中でも入退館・入退室機能は、どこにも触れない入退認証を実現し、入館カードを常時携帯する煩わしさを解消します。
管理者は、発行・再発行のたびに掛かっていた物理カードの手配・管理コストが無くなるほか、
ICカードにはできなかった、紛失時に残るカードを悪用されるセキュリティリスクを低減できます。
この記事を書いた人
御堂筋あかり
スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。