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結果を出す「お困りごとはありませんか?」というアプローチ

相手の「お困りごと」を聞き出す2つのコツ
「お困りごとはありませんか?」
から始まる、非効率思考。とはいえ、困りごとを聞いたからといって、すんなり答えてもらえるものではありません。
では、どう困りごとを引き出せばいいのか。ポイントの一つが「相手がガードを下げる場所を選ぶ」こと。
黒田「授業中に質問の手を挙げるのはハードルが高いけれど、放課後たまたま教室にいる先生に話しかけるのは気楽ですよね。そういう話しかけやすい場所を探すのが第一歩です」
たとえば、エレベーターに乗っている時間。駅までの道や、ホームで電車を待ったり、送迎などで一緒に車に乗ったりするタイミング。つい天気の話で間を埋めようとしてしまいがちな場面こそチャンスです。
黒田「以前、ある著者の先生に、こんな話を聞いたことがあります。世界の首脳会談でも、大事なことは案外コーヒーブレイク中に決まるそうなのです。
相手が構えていないタイミングのほうが、相手の心に届きやすい。長く説明するよりも、エレベーターに乗っている15秒といった短い時間で伝えるほうが、相手に『もっと聞きたい』という気持ちにさせることができるんです」

他に、イベントなど1日がかりの仕事も良いタイミング。
ランチを食べたり休憩したりするような空き時間にスマホをいじったり気心知れた同僚と雑談をしたりするのではなく、普段なかなか接点が持てない別部署や他社の人たちのお困りごとを聞く。
そうすることで「自分にしかゲットできない情報を仕入れられる」と黒田さん。
その際、「自分の話をするのではなく、相手に興味を持って話を聞くこと」がポイントの一つです。
黒田「僕が書店外商で営業をやっていた頃は、『契約しなくてかまいません。ただ、今契約されているサービスで困っていることを教えてください』と話していました。
自社のサービスの話をするのではなく、相手が話したいことを聞く。そうやって相手にとってリスクがない状態をつくれば、案外人は話をしてくれるものです。

恋愛に置き換えるとわかりやすいかもしれません。『僕と付き合ってください』と急に言っても相手を困らせるだけですが、『今付き合っている人に何か不満があったりする?』と聞くと、安心して何かしら話し出すものです。
営業も同じで、『説明しない』のがポイントだと思います。『こんなにいい商品なんです』は説明であって、相手の心には響きません」
自社の商品やサービスの説明をするのではなく、相手の悩みを聞いて回っていくと、「業界内の困りごとには必ず共通項が出てきます」と黒田さん。
その共通する困りごとを解決する商品やサービスを提案することこそ、営業にもっとも必要なことだと言います。
黒田「共通する困りごとを一度理解すれば、いつでもどこでも提案ができるようになります。僕の場合、たとえばエレベーターに乗っている15秒でもパッと提案できるようにしています。
『15秒で話せる?』と思うかもしれませんが、イメージしているのは、僕が話した相手が、その話をつい同僚や家族に伝えたくなってしまっている状態です。
そのためには、全部説明しようとしなくていい。印象に残るようなフレーズを相手の頭の中にポンと残すことが大切です。
PRの本質は、伝えた相手が、また誰かに伝えたくなること。相手に『もっと聞きたかった』『誰かに言いたい』と思わせることが重要です」

どんなサービスでも、
想定外のユーザーを見つけられる
これまで700冊以上の本のPRを担当し、数々のベストセラーを世に送り出してきた黒田さん。ベストセラーの法則の一つは「想定したターゲット層以外への広がり」だと言います。
黒田「100万部を超えるベストセラーというのは、想定したターゲットが買うだけで生まれるものではありません。いわば計算違いです。
これは、書籍以外のジャンルにも通じる話だと思います。想定したターゲット層以外にも広がらなければヒットにはならないわけです」
そう気づいたきっかけがPRを担当した『妻のトリセツ』です。男性読者に向けた本ですが、ふたを開けてみれば、実際の読者は3分の1以上が女性でした。

黒田「著者も編集者も想定していない、実は刺さるかもしれない読者層を見つけて、それをメディアに提案する。それを繰り返して『トリセツ』シリーズは、累計70万部を超えるベストセラーになりました」
ヒットが生まれるためには、想定していたターゲット以外の購買層を見つける必要があります。
黒田「どんなビジネスモデルや商品、サービスであっても、想定していた以外のユーザーを見つけることはできるはずです。商品の売り上げを伸ばしたいのであれば、当初は思い描いていなかったユーザーやファンがいないか、しっかり目を向けてみてください」
当初のターゲットが90%のメインユーザーだとしたら、残り10%のユーザーの意外性。そこにこそ、人の心を動かすヒントがあります。
黒田「男性が好みそうなラーメン屋に意外と女性が多いのであれば、女性客に『どうしてこのラーメン屋に来るのか』を聞く。そこからヒントを得て、『〇〇県で一番女性が来るラーメン屋』といった切り口でメディアに提案するわけです」

「頼むより頼る」で成果が出る
地方のビジネスパーソンが自社や製品の魅力を効果的に伝える上で簡単にできる方法として、黒田さんは「まず3人のご意見番を見つけること」を挙げます。
黒田「僕の書店外商時代、学校図書館に営業していたのですが、新しい本を紹介したいとき、まず仲の良い図書館司書3人に、その本を紹介して必ず感想を聞いていました。
あらかじめリサーチをしてから、全図書館に営業していました。
今のメディアPRでもまさに同じことをしているんです。仲の良い3人の番組ディレクターに『この企画はいけそうですか』と聞き、改善点がないか確認して、その3人が納得するまで磨き上げてから広げます」

この「3人のご意見番に話を聞くこと」が有効なのは、都心でも地方でも変わりないと言います。
黒田「たとえば、新しいスイーツをお店のメニューに加えるなら、なんとなくはやりものへの感度が高そうな3人にまずはリサーチします。
僕の場合、全員が良いと言ったら進めます。2人が微妙な顔をするなら改善する。これを繰り返します」
重要なのは、「いつでも相談できる3人との信頼関係を日頃から築いておくこと」なのだそう。
黒田「そのためには、誰か知り合いから頼まれごとがあったときは、すすんでやるようにします。
たとえそれが仕事と関係ないことであってもです。『こんな人いない?』と聞かれたら、そんな知り合いがいなくても、どうにかつながりがある人を探し出して紹介する。そうやっていつでも相手の力になる。
だからこそ自分が困ったときに、今度は人に頼ることができるんです」

普段から「そんなことまでする必要ありますか?」と言われるようなことも、全部やる。そうして築いた人間関係が、黒田さんの仕事を支えています。
黒田「勉強はひとりでもできますが、ビジネスは『人に頼る』ことができる。僕一人の力でベストセラーなんて、当然出せるわけがありません。
一人でやるのではなく、僕も頼るし、相手も頼る。そうやって助け合うことで、大きな成果が生まれていくものだと思います。
そうして、一緒に仕事をした相手が『誰かにおすすめしたくなる』存在になることが、自分の仕事を広げていく上で一番理想的な形なのだと思います。
これは、どんなビジネスパーソンに相談されたときにも、僕がお伝えしている成果を出すための方法です」

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
執筆:天野夏海
撮影:大坪尚人(講談社)
図版制作:WATARIGRAPHIC
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子