2021年07月21日

“DXの先生”に聞いてみた!
現場のお悩み公開カウンセリング
~C4BASE Season 2:A step toward Smart World 第1回(後編)~

6月16日、C4BASEのオンラインイベント「Re-Confront~今さら聞けないDX~」の後半戦、「公開カウンセリング・セッション」が行われました。 (6月3日に行われたウェビナーの模様はこちら

好評を得た前半戦に続き、SAPジャパン株式会社(以下SAP)インダストリー&バリューアドバイザリー統括本部 IoT/IR4 (Forth Industrial Revolution) ディレクターの村田 聡一郎氏が登場。会員の方々から寄せられる質問に対し、豊富な事例を交えながら回答・解説をしてくださいました。このような形態はC4BASE初の試みながらも、率直な意見が交わされ、講演では聞けなかった本音や実践的なヒントに至るまで、実り多い時間を共有できました。ラジオ番組の公開放送のようなフランクな雰囲気で、チャットも盛り上がった楽しい集いの様子を、ここで紹介いたします!

左からC4BASE中澤、穐利、西谷、SAP村田氏

オープニング/振り返り

カウンセリング・セッションでは、C4BASE事務局の穐利理沙、中澤良一、西谷沙希が進行役・聞き手となって村田氏を囲み、会員の方々より数多く寄せられた質問を投げ掛けながら、DXについて議論を深めました。

はじめに、前回の振り返りがありました。過去最高となる400人以上の視聴、異例のアンケート回答率と満足度(「大変有意義だった」「有意義だった」が96.8%)など、DXというテーマへの関心の高さや、村田氏の講義に対する高評価が示されました。さらに、前回のウェビナーの「復習」も行われ、用語の定義や基本的な考え方など改めて確認した上で、公開カウンセリング・セッションが始まりました。

公開カウンセリング・セッション(一部抜粋)

Q.1 DXといっても、何から手を付ければいいか、戸惑っています。

「問いの設定」や「課題をいかに発見するか」が重要だとは分かっているのですが、それらのきっかけをつくるコツなどがあれば教えてほしいです。(機械メーカー、食品メーカーの方、ほか同様多数)

――パクるべき事例を探してみてください。

“パクる”というとやや下品な言い方に聞こえるかもしれませんが、デジタルは「二番煎じ」業界なんです。ほかの人がやっているデジタル的に同じ構造の事例をマネすることで、うまくいくことが多いです。

例えば、コマツのLANDLOGコンチネンタルのRemote Vehicle DataシーメンスのMindSphereハンブルグ港湾局のSmartport Logistics、 さらには私が手掛けている「my震度」「合い積みネット」などもそうなのですが、これらは一見バラバラの事例に見えて、実は同じ構造(第1層:データ発生源、第2層:デジタルプラットフォーム、第3層:データを活用するソリューション、第4層:顧客・社会、の4層)のプラットフォームビジネスです。

同様に、たとえばEコマースの世界で言えば、Amazonや楽天と「類似していない」ものはないですよね。さまざまなバリエーションが出てきているとはいえ、基本的なところは共通です。

ちなみに。「デジタルこそすべて」のような言い方をする人もいますが、それは間違いです。われわれ人間も含め、世の中はフィジカルでできている。そして、このフィジカル世界を良くするためにデジタルはあるんです。フィジカルが主、デジタルは従。そこを間違えてはいけない。フィジカルな世界の制約を解決するために、デジタルをうまく使うことです。

Q.2 上層部を説得するには?

奥村さん

上層部の意思決定によりDXが本格的に導入されるまで、現場レベルでは、いわゆる「カイゼン」を進めるしかないのでしょうか。それとも上層部の説得など、ほかにやり方があるのでしょうか。
(新聞社で編集局のDX推進を任命されている奥村健一さん)

――危機感がない人には何を言っても効きません。まずは危機感を醸成すること。

ご質問ありがとうございます。新聞業界ですか……。アメリカでは紙を廃止するところも出てきていたりで、ビジネスモデルが劇的に変わりつつある業界ですから、奥村さんもいろいろお悩みのところかなと思います。
現場でできるカイゼンも多いでしょうし、そこに意味がないわけではない。それに、DXとカイゼン、どちらが正しいというものでもない。ですが、カイゼンを重ねてもDXにはならないので、本質的なDXを進めるためにはやはり決定権のある人たちを動かさなければならない。――では、どうしたらいいのか。

身もふたもないことを言いますが、危機感がない人には、何を言っても効かないし、変わらないと思います。
だから、遠回りに見えるかもしれませんが、危機感を煽(あお)るところから始めるしかないかな、と。「前半」の私の講演の第1章でお見せしていたような、グラフや数字を見せることも一つの手段ですね。私もお客さま企業の役員会などでご説明する機会がありますが、時には海外ライバル企業の株価との比較を出したりすることもあります。もちろん、渋い顔をされますが、事実を見える化することは大事です。また、私の著書『Why Digital Matters?~“なぜ”デジタルなのか~』は、まさに危機感の醸成のために書いたものですので、ぜひご活用ください。この本は印税ゼロ契約なので、セールスのために言っているわけではありません(笑)。

ちなみに。今役員をされている方々は、「これまでの、ヒトが走るやり方」を30~40年やり続けて、そのやり方において最優秀だったからこそ、そのポジションにいらっしゃるわけです。C4BASEでもお話しされていた経済学者の入山 章栄先生の言葉を借りれば、今の役員は、これまでと違うやり方、新しいことを考える「知の探索」方向での試みが得意なわけではなく、既存事業をより効率よく無駄なくこなす「知の深化」のベクトルで強い方々。もちろん経験もプライドもありますから、手ごわいですね。(入山先生登場回の記事はこちら

Q.3 新規事業は「発想力」勝負? 行動できるようアドバイスをください。

新規事業は発想力勝負というイメージを持っています。実際、行動に移せず苦悶(もん)しています。周囲を見渡せばこんなこともできるのでは? といった示唆が欲しいです。(食品メーカー、情報サービス業の方、ほか同様多数)

――落ちているカネを拾うこと。

参加者のチャットが次々と入ります

私が新規事業を考えるときには、幾つかパターンがありまして、総称して「落ちているカネを拾う」と表現しています。

まず一つは「他社に払われている金を、自社に払ってもらう」。最近、製造業の大きな流れにもなっている“モノからサービスへ”というのも基本的にこれに当てはまります。自社製品だけを売るのではなく製品周辺のサービスも同時に提供しながら、サブスクや従量課金制で継続的なリレーションを保つことで、データの蓄積やそれを生かした製品開発、フォローアップなどでさらに付加価値を上げていく、というようなことです。

2つ目は「死蔵されている経済価値を見つける」こと。例えば、イタリアの元国鉄で民営化された鉄道会社トレニタリアが導入した、鉄道車両の保守管理システム。世界中の鉄道会社はこれまで「40万キロごとにオーバーホール」のように、十分なバッファを持たせた走行距離に基づいて車両の保守をしてきました。しかし十分なバッファがあるということは、実は「過剰に保守をしていた」ということ。これに対しトレニタリアは、年700TBのデータ(センサーによる細密なデータ収集)に基づく「状態基準保全」、つまり実際の損耗の状態に基づいて保守を行う考え方を取り入れることで、車両のメンテナンス周期を伸ばし、年120億円の節約を可能にしました。これまではほかに信頼に足る手段がなかったので、十分なバッファをもって保守するしかなかったわけですが、そこに大きなカネが落ちていたわけです。

今私が手掛けているトラック物流の効率化を促進するデジタルプラットフォーム「合い積みネット」もそうです。荷室容量の約60%がカラのまま走っているのが現状で、それが業界でも問題になっている。でも見方を変えれば、そこには膨大な経済価値が死蔵されている。日本のトラック物流市場はおよそ15兆円規模ですから、仮に20%でも荷物を多く積めたら、現在使用しているリソースをほとんど増やさずに最大7.5兆円の経済価値をつくり出せるということです。

3つ目に、「End-to-Endで考える」というのもあります。端から端まで、という意味です。
「合い積みネット」でいうと、トラック輸送業者の方は通常は「荷を積んでから、運んで、降ろす」までの範囲しか考えない。つまり荷主に注文された通りの仕事をすることだけを考えます。でも荷主には逆に運送側の都合やそこに潜むコストが見えていない。ですから、運送会社が荷主さん・着荷主さんの業務まで一歩踏み込んで考えれば、全然違うことができる可能性も見えてくるんです。

例えば、ドラッグストアの店舗に商品を毎日届ける、という契約をしているところを、店舗在庫が不足にならない範囲で2日に1回の配送にしませんか、と提案する。それだけで、トラックが走る距離は最大で1/2になる可能性があり、ということは輸送費もCO2排出量も大きく減らせる可能性があって、荷主に大きなメリットがありますよね。従来の運送事業者はトラックの走る距離=自分の商売を減らすなんていう提案は考えもしなかったですが、もっと左右に手を伸ばして考えれば……ということでEnd-to-Endという表現をしています。

“DX脳”を鍛えるトレーニングが発想力を支える――スタジオトーク

中澤:
今までのお話を伺うと、携わっている方々の協力も積極的に活用しながらいろいろと試してみると、意外に価値のあることがつくれるかもしれない、とも言えますね。

穐利:
「パクる」というのもそうだし「落ちているカネを拾う」ということも、いつでもそのように考える訓練をしておくと、全体の骨組みが見えてきたり、どこをパクればいいのか、どこが落ちているカネなのか見えてくるのかな、と。発想力がないと……、と私たちは考えがちですが、そういった思考力・反復練習というのが、“DX脳”になっていくのに必要なんだなと思いました。

村田氏:
そうですね。私もいつも、どこにカネが落ちているかな~と考えながら……(笑)。逆に言うと、新規事業の相談を受けるときにも、もしそのままでは拾えるカネが少なそうだったら、もっとカネが落ちてるところないですかね、という言い方をしたりします。
今日はカウンセリングなどとたいそうな場を頂いてここに座っていますが、私には発想力というより、“パクリ”力というか……。いろいろ見てきているので「これとこれは似てるよな」とか「この辺、おカネ落ちてるな」というところを見出すような訓練だけはしていると思いますね。

中澤:
そういうところも含めて、「発想力」ということなのかもしれませんね。ありがとうございました!

ここにご紹介した質問以外にも、「SAPでは変革取り組みのコンセプトをどのようにつくり、どういうスタイルで実施されているのでしょうか?」「間違ったDXを推進しているとどうなってしまうのでしょうか?」「どのくらいの期間取り組むと結果が見え始めてくるものでしょうか?」など、セッションは時間ギリギリまで続きました。

最後にSAPの年次イベント「SAPPHIRE NOW 2021」(7月12~16日開催)の告知と、マスターに扮(ふん)した村田氏が出演しているSAPのオンライン番組「BAR DIGIBITO」の紹介がありイベント終了となりました。

あなたもぜひ、新たな共創にご参加ください!
A step toward Smart World ~つながり続けるコミュニティーを目指して~

Season 2を迎えたC4BASEでは、これまで以上に会員の方々と関係性を深め、密にコミュニケーションを重ねていけるような交流会やイベントを開催していきます。具体的には、今回実施した登壇講師による「カウンセリング・セッション」のように、ウェビナー視聴者を対象としたイベントや、あるいは「C4BASE Research」などを通して皆さまの興味・関心に耳を傾けながら、より細やかなニーズに寄り添った企画や会員マッチングにつなげていく試みなどを計画中。

そのためにも、皆さんにぜひ新たな仲間として、ここに参加していただきたいのです。あなたもC4BASEの会員として、Smart World実現を目指し、共に新たな価値を創造していきませんか?

お気軽にお声掛けください。お待ちしております!

社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズビジネスソリューション本部 事業推進部

穐利 理沙

2021年10月に立ち上げたOPEN HUB運営を担当しています。お客さまと新しい意味あるものを生み出すため、オウンドメディアによる情報発信、Webinarや会員コミュニティーによる共創プロジェクトの推進を行っています。ご興味ある方は、ぜひコンタクトをしてください!

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