労災保険の適用事例を解説。企業として備えたいこと
公開日:2023/6/27
労災保険は、従業員が受けた業務上で発生したケガや障害に対して、保険給付を行う制度です。企業としては、起こってほしくない出来事の1つではあるものの、加入しなければなりません。そのうえで、健康保険の傷病手当との違いがよくわからないというケースもあるのではないでしょうか。
本記事では、労災保険の概要や適用事例について詳しくみていきます。
労災保険とは
労災保険(労働者災害補償保険)とは、従業員が物理的な損害を受けることで適用される保険です。従業員を雇用している企業であれば必ず加入しなければなりません。また、労働保険は「労災保険と雇用保険」を総称した呼び方であることから、労災保険とは異なるものである点を知っておきましょう。
また、保険に加入していない場合は、追加徴収と法律違反によって、6ヵ月以下の懲役か35万円以下の罰金を支払う罰則を受けることになります。労災保険では、次のような条件に該当した場合に保険金が給付されます。
・ケガ、障害
・死亡
・病気
給付される金額は休業補償や障害補償などの種類があるため、どのような損害を受けたかによって給付される保険料が大きく変化します。また、治療が終了するまで給付される場合とあらかじめ決定された期間まで給付される場合がある点は知っておきましょう。
労災保険は社会保険のひとつ
労災保険は、社会保険の1つです。特に健康保険と混同されるケースが多いものの、次のような違いがある点も把握しておくと良いでしょう。
・業務上のケガ→労災
・プライベートでのケガ→健康保険
また、社会保険であることから、適用外となる個人事業主、フリーランスなどは労災保険の対象になりません。
社会保険 | 健康保険 | 加入が義務づけられている公的な強制保険制度 |
厚生年金保険 | 会社員や公務員が入る年金制度 | |
介護保険 | 介護を公的に保障するための保険 | |
労働保険 | 雇用保険 | 会社が従業員にかける保険 |
労災保険 | 従業員の損害時に使われる保険 |
社会保険料料の種類についてより詳しく知りたい方はこちらから。
就業形態を限定しない
雇用形態に関わらず、労働基準法上の「労働者」(従業員)が保険金給付対象となります。正社員以外のアルバイト・パート・契約社員であっても、雇用契約関係にあれば、例外ではありません。
しかし、会社役員の場合や代表権、業務執行権を所有する役員には労災保険が適応されない点は知っておきましょう。加えて、条件を満たしたうえで、労災保険特別加入制度を利用した場合は、一人親方や個人事業主であっても加入することができます。
業務上か通勤のどちらかになる
労災保険が適応される災害は「業務災害」「通勤災害」のどちらかです。それぞれ保険が適応される際の条件が異なります。
まず、業務災害には、業務が原因で起こったケガや病気、障害や死亡が含まれます。業務とケガ等の間に因果関係があれば業務災害となり、労災保険が使用できます。ただし、業務時間内に負ったケガ等でも、業務に関係がない場合や私的な行動に関するケガや自主的に負ったケガは該当しません。
次に、通勤災害には、従業員が家と職場の間の往復などの移動時に被ったケガや病気、死亡が含まれます。通勤災害の例外となるケースは、寄り道をして既定のルートから外れる、経路の途中に通勤に関連しない行為を行った場合です。
補償対象は幅広い
労災保険と認められる条件を満たした場合、次のような補償を受けることが可能です。代表的なものをみていきましょう。
1.療養補償給付・・・受けた怪我や病気が治るまでの費用
2.障害補償給付(症状固定)
・障害補償年金・・・障害等級が1~7級に固定された場合の費用
・障害補償一時金・・・障害等級が8~14級に固定されたい場合の必要
3.休業補償給付・・・会社に勤めていて働けない時に補填される費用
症状や状態に合わせて、補償対象が変化するため、従業員がどの条件に該当するのか会社としても把握する必要があります。
労災となるケース
ここからは、労災となるケースはどのようなものなのかみていきましょう。とくに労災がおきた場合は、業務災害と通勤災害のどちらに当てはまるのかを明確に知っておく必要があります。
作業中に機械に巻き込まれて指を切断
製造業や食品加工の工場で作業をしている最中、ベルトコンベアーに指を挟まれ切断してしまった場合は業務災害となります。業務中に起きていることに加え、原因が業務そのものにあるためです。
営業車で事故に遭い入院
社用車で取引先へ向かう途中、交通事故に遭いケガを負ったケースは業務災害に該当します。例えば、運転している従業員に過失がなかったとしても労災が適用される可能性が高いといえるでしょう。
通勤中に事故に遭い入院
自宅から会社に出勤中、事故に遭いケガを負ってしまったケースは通勤災害にあたります。また、水分補給などを行うためにコンビニに寄った場合なども通勤に該当します。
通勤中に災害に巻き込まれ死亡
自宅から会社に向かっている途中、災害に巻き込まれ、死亡したケースであれば通勤災害に該当します。仮に、会社からの命令で早く出勤したことで被害に遭った場合は、業務災害となる可能性もある点は知っておきましょう。
勤務中に職場で転び捻挫した
業務上必要な作業を行っている時に職場で横転したうえで、捻挫してしまったケースは業務災害に該当します。ケガの程度ではなく、業務中・業務が原因となっていることから労災に該当すると考えられます。
労災保険の利用を検討する場合の会社側の手続き
ここからは、労災保険を利用する際の流れを確認しておきましょう。状況の把握だけでなく、会社として手続きを行うことで給付が行われます。
状況把握
社内で事故が起こった場合は、迅速に病院への搬送・救急車を呼ぶことが先決です。状況が落ち着いたあとは、当事者である従業員に状況を速やかに確認し、なにがどうなったかを把握しましょう。
社内にカメラがある場合は、内容を確認する必要もあります。事故によって従業員が四日以上休む場合には、労働基準監督署に「労働死傷病報告」を提出する必要があります。また、事故現場を立ち入り禁止にしなければなりません。
給付のための請求書作成後、労働基準監督署へ提出
対応する労災保険給付の請求書を作り、労働基準監督署へ提出しましょう。請求書は、各書類の対応や記載方法を把握している企業側が作成するケースがほとんどです。
書類は迅速に提出する必要があり、仮に1ヶ月以上遅延する場合は、別の書類が必要となります。また、労災に該当する事項が起きたことを報告しなかった場合は、法律違反となり、50万円以下の罰金が科せられる点を知っておきましょう。
労働基準監督署の調査
労働基準監督署による調査では次のような事柄が調査されます。
・従業員と災害が起きた業務の関連性
・通勤ルートと事故の内容
・日頃の対応や労働環境による精神疾患や過労死の可能性
場合によっては、調査期間が長引くケースも多い点は知っておくとよいでしょう。
労災を発生させないために必要なこと
労働災害が発生する原因は次の項目が考えられます。
・メンタルヘルスの不調
・不安全行動
・疾病
メンタルヘルスの不調が多い場合は、カウンセラーの設置などメンタルヘルス対策を導入しましょう。内部で機能しなければ外部に委託する方法もあります。メンタルケアを意識しつつ、管理者が従業員の様子を把握しなければなりません。
不安全行動は、原因が過労であれば労働環境の改善が必要です。そのうえで、注意不足であれば、従業員同士で危険予知活動を行うことで効果を発揮します。特に、どのようなリスクがあるか話し合い把握した上で作業をスタートさせるなど注意喚起の実施を検討しましょう。
また、業務における疾病が想定される場合は、事前に安全配慮やリスクマネジメントなどの工夫によって発症を防ぐことが大切です。
まとめ
労災保険は企業が必ず加入しなければならない保険の1つであり、業務中の従業員に損害が起きた際に保険金を給付するものです。対象範囲は広く、ケガだけでなく、死亡や後遺障害が残った場合も保険の対象となります。会社として、労災を避ける取り組みを実施しつつ、労災に該当する出来事が起きた際は迅速な対処も必要です。
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