国産クラウドとは?シェアや導入メリットを解説

近年、国産クラウドは日本のインフラ産業として重要視されています。クラウドを「特定重要物資」へ指定される動きもあるなど、経済安全保障上の観点からも注目を集めています。国産クラウドの概要やシェア、注目される理由を説明した上で、一般企業にもたらされるメリット・一般企業への導入実例を解説していきます。

国産クラウドとは?

「国産クラウド」とは、国内企業による国産プラットフォームのことです。経済産業省が2021年5月付けで公表した「デジタル産業に関する現状と課題」の中で、「クラウドの開発・運用、研究開発等を日本に根ざして行う」事業者を確保したり、支援したりする重要性が述べられています。このことから、政府は日本のデジタル産業を育成する上で欠かせないものの1つとして、国産クラウド事業の成長を認識していると理解できます。
また、同資料では、「クオリティクラウド」の開発・普及を推進していく旨も明記されています。クオリティクラウドとは、産業・政府・インフラ分野のシステムを稼働させるまでの信頼に足る、クラウドインフラのことです。つまり政府は今後、国産クラウド事業者にクオリティクラウド開発・運用を任せられるよう、育成や支援に力を注いでいくと考えられます。

出典:経済産業省「デジタル産業に関する現状と課題」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0003/03.pdf

国産クラウドのシェアや現状は?

2022年現在、日本におけるクラウド市場は米大手3社が占めています。実際日本政府も、米大手のクラウドサービスを活用してきました。しかし近年、政府は「行政における機密情報は国産プライベートクラウドで扱う必要がある」との旨を公言しているため、その実現に向けて国内事業者の育成を始めると考えられています。

公正取引委員会が2022年3月付けで公表した「クラウドサービスに関する意見交換会」の調査によると、「利用しているIaaSおよびPaaSのクラウド提供事業者」の上位5社の内、3社を米大手が占めている一方で、国内企業はNTT Com(IaaS 5.7% PaaS 2.4%)を含む2社にとどまっています。また、2020年度のIaaS・PaaSの市場シェアでは、同米大手3社の合計が60%~70%と算出されています。2017年度の同合計シェアは40%~50%でしたが、そこから3年間で20%もシェアを伸ばしていることから見ても、年々市場集中度が高まっていることがわかります。

さらに「仮に利用中のクラウドサービスが価格を5%~10%引き上げたとしても、利用を継続するか」という質問に、480社中263社が「継続する」と回答しました。多くの企業が、移行時の費用・時間・人手などを懸念し、移行に踏み切れないと答えています。
「少数の海外事業者が高いシェアを占めている」かつ「企業は別のクラウドサービスへの移行(スイッチング)を容易に行えない」という状況が、国内のクラウド市場を取り巻く現状であると理解できます。こうした中政府は、国産クラウド産業の育成策と同時に、国内企業のスイッチングを促進する取り組みにも注力し始めています。

出典:

国産クラウドが注目される理由

先述した現状に基づき、今日、政府や企業が国産クラウドに関心を注いでいます。国産クラウドがこうして注目される理由は、大別すると次の2点に絞れます。

国内のインフラ産業として重視されている

経済産業省は、クラウドを国内の重要インフラ産業の1つとして位置付けながら、国内事業者が行うソフトウェア開発や設備投資を後押しする考えを示しています。「デジタル産業に関する現状と課題」で同省は、社会インフラ・企業のビジネス・行政サービスがクラウド上のシステムとして提供されるようになっていく将来像を見据えています。その上で、クラウドが社会・経済の重要なインフラを担っていくことになると強調しています。
先述のように、重要インフラを担える信頼・性能を保持するクラウドは、クオリティクラウドと呼ばれます。政府は、国産クオリティクラウドの普及を実現させるために、国内のデジタル企業や国産クラウド事業者に対して、設備投資を後押しするなどの働きかけを行う方針を固めています。

出典元:経済産業省「デジタル産業に関する現状と課題」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0003/03.pdf

「特定重要物資」へのクラウドサービス指定の動きがある

経済安全保障上の観点から、政府で「特定重要物資」にクラウドを指定する動きがあることも、国産クラウドへの注目度を上昇させている一因です。特定重要物資とは、国家および国民の安全を確保するために安定供給が必要であるとされる物資のことです。例えば半導体・医薬品・蓄電池なども指定候補です。

日本国内の重要情報を扱う場合でも、クラウドサービスの基盤を海外事業者に依存せざるを得ない現状は、先述のとおりです。そこで、2022年11月「特定重要物資の指定について【安定供給確保取組方針(概要案)】」などで公示されているとおり、特定重要物資の候補としてクラウドが指定されました。これにより政府は、基盤クラウドサービス事業を国内事業者が提供できる状態をつくれるよう、早急に措置を講じなくてはならない考えを推し出しています。
具体的には、2027年度までに基盤クラウドプログラムの開発支援やそれに必要な利用環境の整備を進めることで、国産クラウドによって重要データを自律的に管理可能な状態を構築する旨が記載されています。

出典元:「特定重要物資の指定について【安定供給確保取組方針(概要案)】」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r4_dai4/siryou1.pdf

国産クラウドを導入するメリット

上述のように、国産クラウドが政府・行政システムや重要インフラ用に普及する流れが強まっています。そこでここからは、一般企業が国産クラウドを導入することで得られるメリットを、2つの観点から解説します。

安定的なサービス提供を受けられる

国産クラウド事業者なら、日本企業の特色を理解した上で、それに適したサービスやプラン、運用サポートなどを提供してくれます。また障害などのトラブル発生時も、日本語による丁寧なサポートが期待できます。さらに、戦争などで国際情勢が乱れた場合にも、比較的安定したクラウド管理・運用が継続されるでしょう。

安全保障上の懸念をカバーできる

安全保障上の懸念をカバーできるのも、国産クラウドの大きなメリットです。国外サービスでは、サイバー攻撃などを受けた場合などに外国政府の干渉を受け、自社判断で迅速な対応を取りづらくなるケースも起き得ます。また、企業情報・個人情報などを国外企業に委ねるため、海外への情報漏洩リスクも考慮しなければなりません。
国産クラウドであれば、国内のデータセンターで情報を管理できます。犯罪に対しても、国内で整備されている法律や対応方法に則った行動を早急に起こしやすいでしょう。また、そうした場合の対応について、あらかじめ事業者側と詳しく確認しておくことも可能です。

国産クラウド「SDPF クラウド/サーバー」の導入事例

「SDPF クラウド/サーバー(旧Enterprise Cloud)」は、NTT Comの国産クラウドです。ネットワーク、データセンター、マネージドサービスが連携した高品質なサービスとして提供されます。

SDPF クラウド/サーバーは、SPDF(Smart Data Platform)サービスの基盤ともなるIaaSであり、膨大なデータを一元的に蓄積可能です。これによって、多種多様なデータを利活用する環境が整備されます。
各企業のビジネスにフィットさせられる柔軟性や、万全のセキュリティ体制なども、SPDF クラウド/サーバーの特長です。この特徴を活かしつつ、複数のクラウドシステムを一元管理し、IT環境の最適化を支援することでDX推進に寄与します。

ここからは、「SDPF クラウド/サーバー」の導入事例を紹介します。

事例1. インフラとネットワークのアウトソーシングによって社内負荷を軽減

2030年までに「グローバルで存在感のある企業となる」という経営目標を掲げた花王グループでは、2025年を目途にグローバルSAPシステムの標準化に取り組んでいます。その中で、SAPシステムのクラウド化と並行して、適材適所でクラウドサービスを使い分けするマルチクラウド化も目指していました。

基幹業務を支えるSAPシステムのクラウド化を担ったのは、当初、海外ベンダーのクラウドサービスでした。しかし構築・運用面で多くの課題が発生しました。
そこで採用されたのが、NTT Comの「Enterprise Cloud for SAP®ソリューション」です。このサービスは、クラウドサービス基盤だけでなく、テナント環境設定・システム移行サポート、導入後の監視運用代行サービスなどまで、フルマネージドで提供されます。海外のクラウドサービスでは、メンテナンスの時間帯が日本の昼間に当たってしまうこともあります。国産クラウドに変更したことでこうした難点も解決され、運用の自由度がアップしました。

花王は現在、SAPシステムのクラウド基盤を日本とアメリカの2か所に設置し、その間をNTT Comのバックボーンネットワークで接続しています。インフラとネットワーク管理をNTT Comにアウトソーシングしているため、自社従業員の負担が大きく軽減されました。自社の人的リソースの活用範囲が拡大し、NTT Comにより高品質なクラウド環境も維持されていることで、PoCを実施してすぐにビジネスにつなげられる状態が整備されました。

詳細はこちら
「グローバルSAPシステムをエンタープライズクラウドに移行 高速ネットワークでマルチクラウド環境を構築」
https://www.ntt.com/business/case-studies/global/solution/kao.html

事例2. システム基盤への採用でデータ保管コストの圧縮に成功

自治体のふるさと納税の分野で340以上の自治体が導入し、圧倒的なシェア獲得を実現しているシステム「LedgHOME(レジホーム)」ですが、これを提供しているのがシフトプラス株式会社です。同社は一括してNTT Comのクラウドサービスを使用しています。品質・知名度の高い国産クラウドを利用している点も理由となり、多くの顧客から信頼され、日々実績を積み上げています。

同社は、ふるさと納税のワンストップ特例申請に関して発生する煩雑な業務を電子化するシステム「motiONE(モーション)」も開発しました。寄付者の申請と自治体の処理プロセスは、従来は紙ベースで行われており、両者の負担になっていました。motiONEはこのプロセスをデジタル化して改善し、さらに寄付者の個人情報もセキュアに管理します。

このmotiONE開発時に生じた課題は、IT基盤の運用コストが想定以上になってしまうことでした。同社はプライベートクラウドをIT基盤のストレージとして使用していましたが、その方法ではコスト増額が避けられず、今後の事業展開に支障を来しかねないという現実に直面しました。

そこで、NTT ComにIT基盤の見直しを打診し、その提案を受けて、業界最安値のクラウド型ストレージサービス「Wasabi オブジェクトストレージ」を導入したところ、データ保管コストが約3分の1まで削減されました。これによりシステムの提供価格を抑えることができるため、利用者数の増加へつながると期待されています。
同時にNTT Comの「Flexible InterConnect」も導入したことで、大容量データをセキュアかつ安定してやり取り可能な環境が構築されました。こうしたIT基盤をさらに活用し、同社は今後、全国拠点への業務を分散したりパートナー企業を増やしたりする計画を立てています。

詳細はこちら
「業界最安値のストレージとセキュアな通信接続で80自治体のふるさと納税の申請処理を大幅に効率化」
https://www.ntt.com/business/case-studies/network/interconnect/shiftplus.html

国産クラウドは日本の重要インフラ産業として注目されています。一般企業でも、国産クラウドを導入することで多くのメリットを得られます。

まとめ

シェアはまだ小さい国産クラウドですが、海外のクラウドサービスに比べて安定的なサービス提供が受けられるなど大きなメリットを持ちます。日本政府も国産クラウドを重要なインフラ産業として認識し、開発・普及を推進し始めています。NTT Comは「SDPF クラウド/サーバー」の提供を通して、他社クラウド間やデータセンター間を柔軟に接続するハイブリッドクラウド環境実現をトータルにマネジメントします。自社にフィットし、セキュアでコストパフォーマンスの高いシステム構築を目指す場合に、SDPF クラウド/サーバーは最適な選択肢です。

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