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「アンコンシャス・バイアス」への気づきが、イキイキと働ける職場をつくる

「アンコンシャス・バイアス」への気づきが、イキイキと働ける職場をつくる

近ごろ「アンコンシャス・バイアス」という考え方に着目し、その対処法をマネジメントに取り入れる企業が増えています。アンコンシャス・バイアスとは、無意識の思い込みや偏見を意味し、過去の経験や人の属性などから無意識にものごとを決めつけてしまうことです。アンコンシャス・バイアスが企業活動にどのような影響を及ぼすのか、職場などのリーダーはどのようにすればその影響を軽減できるのか、日本におけるアンコンシャス・バイアスの第一人者として研修や講演を数多く手掛ける経営コンサルタントの守屋智敬氏に伺いました。

目次

イキイキと働くことを阻害する
「アンコンシャス・バイアス」とは

一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事 守屋 智敬氏
一般社団法人
アンコンシャスバイアス研究所
代表理事 守屋 智敬氏

アンコンシャス・バイアスは、通常「無意識の偏見」や「無意識の思い込み」などと訳されることが多いのですが、私は「無意識の偏ったものの見方」という言い方をしています。自分の過去の経験や知識、人の属性などから、知らず知らずのうちにものごとを決めつけてしまうことであり、日常のあらゆる場面で起こり得るものです。

もちろん仕事の現場でも頻繁に起きていて、たとえば小さなお子さんを持つ女性社員に対して上司が「泊りがけの出張は無理だろう」と勝手に決めつけてしまったり、プライベートを大切にする傾向がある社員に対して「昇進には興味がなさそうだ」と思い込んでしまったりすることが挙げられます。

これらは上司から部下に向けた思い込みですが、逆に部下から上司に向けたケースもあります。たとえばミーティングなどで一度でも、意見が強く否定されると、「自分の意見を聞いてもらえることはないだろう」と決めつけて発言しなくなってしまうのも、アンコンシャス・バイアスの影響のひとつです。

このような思い込みは、企業活動にも影響を及ぼしかねません。2013年より、Google は、社員と経営陣を対象に Unconscious Bias @ Workといった研修をはじめとする教育活動をはじめました。さらにシリコンバレーの先進的な企業が続き、近年では国内の外資系企業や一部上場企業をはじめとする多くの企業で、役員・管理職や、全社員を対象に研修が行われています。

アンコンシャス・バイアスの多くは、人の「自己防衛心」が引き起こしています。自分に都合のいいようにものごとを判断してしまったり、自分の責任を回避したり、自分のことをよく見せたいといった言動を、人は無意識のうちにしてしまうのです。このような自己防衛心による言動は、自然の摂理であり誰にでもあるものですから、アンコンシャス・バイアスがあること自体は問題ではありません。問題なのは、無意識のうちに相手をきずつけていたり、自分のアンコンシャス・バイアスに気づこうとしないことであり、ビジネスの現場においては、さまざまな影響が考えられます。

最も直接的な影響としては、管理職による「部下にとっては不本意な決めつけ」によって社員一人ひとりがイキイキと働けなくなってしまうことではないでしょうか。新しい発想や異なる視点からの意見が生かされにくくなり、メンバーのモチベーションの低下につながります。同時に人間関係がギスギスしてしまったり、言い訳が多くなったりということも起こり得るためイノベーションも起きづらくなってしまうでしょう。

「真面目だね」は褒められているのか、
バカにされているのか

アンコンシャス・バイアスの重要なポイントは、“無意識”ということです。知らず知らずのうちに思ってしまうわけですから無くすことはできません。しかし、“無意識を意識化する”すなわち自分のアンコンシャス・バイアスに気づくことによって、バイアス自体を減らしていったり、影響を軽減したりできます。

リーダーの皆さんに気を配っていただきたいことは、自分の発言や行動をチームのメンバーがどう受け取り、どう感じているかということです。私はこれを「心の後味」と表現しています。たとえば「真面目だね」という一言に対して好意的な感情を持つ人もいれば、逆に少しバカにされたように感じる人もいるのです。自分が言われてうれしいからといって、すべての人がそうとは限りません。そんなときに自分のバイアスに気がつくか否かは、相手の反応をしっかりと捉えているかどうかにかかっています。

中には、率直に「私は不快です」と自分の気持ちを言葉にできる人もいますが、多くの場合、自分より目上の人に対してそのように言いことは難しいと思います。ですから、言葉に現れない「非言語メッセージ」に気づくことが重要です。もし相手が不快な感情を持てば、それは表情や態度、行動に現れるでしょう。目を合わせなくなる、挨拶が消極的になる、発言をしなくなるなどの変化があるかもしれません。そういった変化を見逃さず、自分の言動が相手に悪い影響を及ぼしていないか、相手を鏡にして振り返るのです。

アンコンシャス・バイアスが影響を及ぼすのは、人の心理的な面です。気持ちの問題には気持ちで応えることが重要であり、テクニックやスキルというより、相手に真摯に向き合うという“心の持ちよう”が大切であると私は考えています。

「アンコンシャス・バイアス」を自覚し、開示する

アンコンシャス・バイアスは誰にでもあるものです。ゆえに、リーダーが自分で気づくことと同時に、チームでこの「アンコンシャス・バイアス」というテーマを共有し、「共通言語」にすることが重要です。リーダーであれメンバーであれ、バイアスはあるもの。その事実をお互いに認識して、その内容を開示して話し合いを重ねていくことが、バイアスに左右されない強いチームをつくることにつながります。

ただし、このときに留意していただきたいのは、まず“自分に問う”ことです。

人はどうしても他人から指摘されると反感を覚えることが多いように思います。ぜひ、相手のアンコンシャス・バイアスを列挙するのではなく、まずは自ら、「これは私のアンコンシャス・バイアスかな?」などと開示することをおすすめしています。特にリーダーには、その姿勢が大切だと思います。

そうやって、お互いに自分のアンコンシャス・バイアスを開示することを習慣づけていけば、バイアスに気づくだけでなく信頼関係も構築できるようになるはずです。いい信頼関係ができれば、これまで言いにくかったことも言えるようになり、チームはよりよい方へ向かって回り始めるでしょう。

加えて、チーム内の対話の時間を増やすことも重要であると思います。対話は議論とは違い、どちらが正しいというものではなく、お互いの印象や感想を相手に伝えるものです。近年どんなことでもメールで連絡するケースが多くなっていますが、特に心情的なことを伝えるにはメールでは限界があると思います。ビジネスの世界では効率を求めることが重要ですが、こと人と人のコミュニケーションについては、効率を求めずにしっかり時間をかけることをおすすめします。

これは、ある企業での話です。

チームの会議でメンバーのAさんが30分遅刻してきたので、上司は「連絡もなく遅刻とは、どういうことだ!」と叱責。その後、続いてメンバーBさんが会議室に入ってきたところ、その上司は「連絡なく遅刻とは、何かあったのか?」と気遣う言葉をかけました。

この事例の意味するところに気づきましたでしょうか?

実は2人が会議に遅刻した理由は、次のとおりでした。Aさんが、夜中に家族を救急病院に連れ、連絡もできなかったのに対して、Bさんは深酒による寝坊でした。しかしながら、その上司は、営業成績が振るわないAさんには自己管理ができておらずサボっていたのではないか、トップセールスのBさんには、遅刻に正当な理由があったのだろうと、無意識に決めつけてしまっていたのです。ほかのメンバーは日ごろからそれを感じていて、この会議の一件で、「結局業績しか見ていない上司だ」とショックを受け、チームは崩壊していったのです。

AさんとBさんに対する言動には明らかに差があるのですが、上司としては、無自覚だったと言います。営業成績によって、無意識に態度を変えてしまっていたとのこと。
リーダーの言動は、人や組織に大きな影響を与えます。ぜひ、自分が偏ったものの見方をしていないか常に意識して、自らアンコンシャス・バイアスを開示し、メンバーと話し合うことにトライをしてみてください。それが、組織をよりよく変えるきっかけになるでしょう。

このような事象は氷山の一角です。

アンコンシャス・バイアスの開示によって解決できる不協和音は、あらゆる組織に隠れていると思います。

「〇〇すべきだ!」「〇〇であるはずだ!」
決めつけ言葉を意識的にやめてみる

アンコンシャス・バイアスを共通言語にしてバイアスを減らす取り組みには、継続性が求められます。その中でリーダーがすぐにできることとしては、「メモを取る」ことが挙げられます。「これは自分の思い込みだったかもしれない」と思い当たったら、それを1つ1つメモするのです。これを続けることで、自己認知力が高まり自分のアンコンシャス・バイアスに気づきやすくなります。

もうひとつ挙げておきたいのが、「決めつけ言葉をやめる」ことです。アンコンシャス・バイアスは、決めつけや押しつけに現れやすく、「すべきだ」とか「こうであるはずだ」などの決めつけ言葉を意識的にやめてみるのも効果があると思います。決めつけや押しつけが減れば、新しいアイデアや異なる視点からの意見も出やすくなるでしょう。

昨今「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」という課題からアンコンシャス・バイアスへの対処をマネジメントや部下育成に取り入れ始める企業が多くあります。それは、アンコンシャス・バイアスを意識することで、チームはより多様性をいかせる方向に変わってゆくからです。結果として、ものの見方が多様になり、アイデアの幅が広がります。当然、イノベーションも起こしやすくなるのです。

最後にアンコンシャス・バイアスに着目して会社や組織を変えたいと考えている経営者やリーダーの皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、「できるところから少しずつ取り組んでいくことが重要」ということです。最初から高いハードルを設けてしまうと、「無理だ」とか「これはできない」という気持ちが強くなります。ですからいきなり完璧を目指すのではなく、少しずつでもいいので、気づくところから始めて、それを継続することです。

もちろん高い理想を掲げるのも悪くはないのですが、一足飛びに理想に近づくことはできません。わずかな変化でも人は一歩一歩着実にコツコツと積み上げていけば、半年後や1年後には大きな成果が得られるはずです。繰り返しになりますが、会社や組織に変革を求めるのであれば、まずリーダー自らが「自分のアンコンシャス・バイアスに気づく」という行動を始めることが、その第一歩になると思います。

●守屋智敬(もりやともたか)氏プロフィール

(一社)アンコンシャスバイアス研究所代表理事。
(株)モリヤコンサルティング代表取締役。

1970年大阪府生まれ。都市計画事務所、人材系コンサルティング会社を経て、2015年株式会社モリヤコンサルティングを設立。管理職や経営層を中心に、これまでに5万人以上のリーダー育成に携わる。2018年ひとりひとりがイキイキと活躍する社会をめざし、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。

著書に、『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』(かんき出版)、『導く力』(KADOKAWA)などがある。

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