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【社労士に聞く】社会保険適用の拡大に向けて、中小企業がやっておくべきことは?

【社労士に聞く】社会保険適用の拡大に向けて、中小企業がやっておくべきことは?

これまで段階的に行われてきた、パート・アルバイトの社会保険適用の拡大ですが、2024年10月からは従業員数51人以上の企業も対象となります。中小企業はどのような対応をすべきなのでしょうか。企業の取組みの現状やつまずきやすいポイント、適切な対応ができなかった場合のリスクなどについて、社会保険労務士の當舎緑氏にうかがいました。

目次

社会保険の適用拡大を実施する背景と、
中小企業におけるメリット・デメリット

現在、国はパートやアルバイトなど短時間労働者に対する社会保険の適用拡大を実施し、対象企業の従業員数(※)を2016年からは501人以上、2022年からは101人以上と段階的に進めてきました。そして、2024年10月からは、51人以上の企業も社会保険の加入が義務付けられる対象になるのです。このような社会保険適用の拡大にはどのような目的と背景があるのでしょうか。

Cap.
社会保険労務士
當舎緑 氏

「社会保険の適用拡大は、“人生100年時代”といわれるこれからの日本社会に、女性や若者、高齢者など多様な人が活躍できる職場環境を整備するための『働き方改革』の一貫です。特に共働きが当たり前となった今、パートやアルバイトで働くことが多い女性の待遇改善や社会保障が重要な課題となってきています」(當舎氏・以下同)

社会保険の適用拡大は、中小企業にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

「中小企業にとってのメリットは、パートやアルバイトの責任感や企業への信頼度が増すことです。企業にとって信頼が高まれば、その分雇用しやすくなりますが、逆にパートやアルバイトが社会保険に加入できないような企業の採用は、どんどん難しくなっていくでしょう。

一方デメリットは、社会保険料の負担が増えることです。労働日数や勤務時間が一人ひとり異なるパートやアルバイトは、正社員より報酬や社会保険料の算出が複雑なので、事務処理の負担も増大します。

加えて、実際に働く従業員にとっては、配偶者に頼らずに、すべての国民が対象の『基礎年金』に上乗せして『厚生年金』を受け取れることや、病気や怪我で働けなくなった時の保障として、傷病手当金や障害厚生年金が受け取れることによって民間の生命保険料を抑えられるなどがメリットになるでしょう。デメリットは、給料から税や保険料が控除されて手取りが減ってしまったり、所得が増えて子ども関連の支援が受けられなくなったりするケースがあることが挙げられます」

(※)「従業員数」は厚生年金保険被保険者数など条件あり。従業員の定義については以下同。

社会保険適用の拡大に中小企業はどんな対応を
している?

社会保険の適用拡大自体はすでにはじまっていますが、中小企業はどのような対応をしているのでしょうか。

「みなさん、『パートだからこのまま扶養家族でいたい』『わざわざ扶養から外れるメリットがわからない』という従業員への説明で苦労されている印象です。社会保険の加入を拒む人のなかには正確な知識を持たず、誤解している場合も多いので、そのような人への説明が大変なようです」

さらに、中小企業で労務や人事を担当している人が必ずしも正しい知識を持っているわけではなく、企業によって意識や取組みに大きな差があるといいます。

「ベテランの総務担当の人が法改正を理解しておらず、間違った対応をしてしまっている企業もありますし、従業員50人以下でも、短時間労働者をきちんと社会保険に加入させている企業もあります。

現在では“パートやアルバイトであっても、資格取得の条件を満たしているのであれば社会保険に入るもの”といった認識が社会全体に浸透してきています。ですから、大きな時代の流れとして雇用形態に関係なく、労働者が社会保険に加入するようになってきているといえるのではないでしょうか。

いずれにせよ、本来は事業規模にかかわらず対応した方がいいことなので、なるべく早いうちから計画的に進めていただきたいです」

中小企業が取組むべきこと、つまずきやすい点とは

このような社会保険適用拡大の大きな流れのなか、2024年10月から、いよいよ従業員数51人から100人の企業も対象となります。そこで、これから短時間労働者の社会保険加入を進める企業が取組むべきことや、つまずきやすい点についてうかがいました。

「パートやアルバイトの場合は労働日数や勤務時間が一人ひとり異なり、働き方もさまざまです。そのため、企業はまず、『このような人の場合は社会保険に入れる』『このような場合は入れない』といった、企業独自のルールを明確にする必要があります。その上で加入対象者を正確に把握しましょう」

まず大前提として、社会保険の加入が義務付けられる短時間労働者は、1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数が、フルタイムの労働者の4分の3未満の人です。その上で、①週の所定労働時間が20時間以上、②所定内賃金が月額8.8万円以上、③学生ではない、④2か月を超える雇用見込みがある。この4つがすべて該当する人となっています。

「ただし、この社会保険の拡大のための基準にはさまざまな原則と例外があるので、実務担当者は判断に迷い、つまずいてしまうことが多いと思います。たとえば、所定内賃金8.8万円の『所定内』が何をさしているのか、どう解釈すべきかは難しいですね。

社会保険適用拡大については細かな要件があるので、まずは厚労省が公開しているホームページや要件が簡単にまとめられたパンフレットなどを確認し、加えてQ&Aを読むことをおすすめします。それでもわからなかったり、不安だったりする場合は、私ども社会保険労務士もぜひ活用いただきたいと思います」

(※)厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」

従業員へのていねいな説明とコミュニケーションが重要

自社の社会保険適用に関するルールを明確にし、加入対象者を把握したら、法律改正の内容や会社の方針について、説明会や個人面談を通して伝えるなどの従業員とのコミュニケーションをていねいに行うことが何より大事だといいます。

「たとえば、パート・アルバイトの標準報酬月額の決め方はとても複雑で、さまざまな方法があり、どの方法で決定されるかで社会保険料も変わってきます。

そのため、企業側が正確な知識にもとづいて、わかりやすく説明をしないと、従業員の不満や不信感につながってしまうことにもなりかねません。社会保険への加入をきっかけに労使関係が悪くなっては本末転倒です。ぜひ、ていねいな説明やコミュニケーションを行っていただきたいと思います。

なかには、扶養家族でいることにこだわって社会保険への加入を拒む人もいるかもしれませんが、企業が従業員を強制的に加入させることはできません。

そのような従業員に対しては、加入義務がある従業員を社会保険に加入させずにいると罰則を受けるのは企業であること、社会保険に加入するメリットをていねいに説明する必要があります。それでも社会保険に入りたくないという人には、労働時間を短くするなどの交渉をしましょう。

ただし、社会保険への加入を拒む理由は、誤った情報や思い込みによるケースが多いので、加入することのメリットをきちんと伝えれば、ほとんどの人は納得いただけると思います」

従業員へのていねいな説明とコミュニケーションが重要

社会保険の適用拡大に対応しないと財政的な負担を
強いられることも

何らかの理由で、どうしても社会保険の加入が実現できなかった場合、企業にはどのようなリスクがあるのかについてもうかがいました。

「年金事務所は原則、約3年に1度、算定の時期に合わせて企業に対する総合調査を行っています。その際、従業員が社会保険の加入漏れや保険料の間違いが発覚すれば、最大2年遡って保険料を払わなくてはならなくなる場合もあります。それによって大きな財政的な負担を強いられるケースもあるでしょう。

この場合、その時点での加入か、または遡及しての加入か、指導内容がそれぞれの年金事務所の判断による場合もありますが、企業が無知でそのような状態だったのか、故意によるものなのかが判断できない以上、厳罰となる可能性も否定できません」

これを機会にキャリアプランや人材戦略の見直しを

このようなリスクがある上、時代の流れである社会保険適用拡大に対しては、付け焼き刃で対策するのではなく、むしろ経営戦略の一貫として本腰を入れて取組むべきだといいます。

「労働人口が減るなか、中小企業の生き残りにおいていかに優秀な人材を獲得するかが、ますます重要になっています。従って、社会保険適用の拡大は、ぜひ自社の経営プランや人材戦略の見直しの契機として、前向きに捉えていただきたいと思います。

パートやアルバイトを単なる正社員の補助として認識するのではなく、パートやアルバイトでも利用できるような福利厚生や教育体制を充実させ、正社員登用のキャリアパスをつくる。そのようなかたちで、やる気のある人を正社員にステップアップできる流れをつくり、多様な人がやりがいを持って働ける企業にしていくことが、何より大事だと思います」

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