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2021.05.11

【特集】命をつなぐネットワーク episode 2
海底ケーブルで世界をつなぎ続ける
〜NTTワールドエンジニアリングマリン〜

東日本大震災では、インターネットによる安否確認や世界中からの被災地支援が大きな注目を集めた。私たちは今、当たり前のようにインターネットを使って国内外の人々とつながることができるが、それが海底8000mに横たわる海底ケーブルのおかげだということはあまり知られていない。ネットワークを守ることは、命を守ること。そして、海底に敷設されたケーブルを守ることでもある。特集の2回目は、日本の海底ケーブルを明治時代から支え続けている「NTTワールドエンジニアリングマリン」。震災をきっかけに建造された最新鋭の海底ケーブル敷設船「きずな」に乗船し、同社が守り、受け継いできた技術、そして社会のさらなる安心・安全に向けて遂げるべき進化の行方を追った。

100年つなぎ続けて培ったもの

海上訓練へ向け出航を待つ海底ケーブル敷設船「きずな」と、敷設・修理工事を支えるさまざまな工具、最新鋭の機器

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明治4年、上海と長崎をつなぐ日本初の海底ケーブルが誕生した。これによって、通信ネットワークは海を越え、離れた陸地間でのコミュニケーションを発達させてきた。NTTワールドエンジニアリングマリンは、逓信省、日本電信電話公社、日本電信電話株式会社と組織を経つつ、100年以上にわたって海底ケーブルの敷設工事と保守運用を担当している。その役割を果たす上で欠かせないのが、敷設船だ。今では海底ケーブルの取り扱いのみならず、有事の際に孤立しがちな被災地への海上支援の一端も担っている。

「当社が敷設・保守する海底ケーブルは、国内通信・約500条・9000km、国際通信・約30条・50000km。今この瞬間も日本国内のみならず、アジア各地域から欧米、さらには欧州といった世界中の人々との通信を支えているんです」と語るのは営業部の櫻井淳。「国際的な株式取引では、0.1秒の遅れが数億円の損失を生むとも言われています。20年ほど前の国際通信は衛星が主流でしたが、現在ではより高速・大容量の海底ケーブルが99%を占めるまでになりました」

日本と海外を結ぶネットワークは海底ケーブルを用いて構築され、広大な海の底に敷設された後に陸揚げされる。国境をも一瞬で飛び超えてしまうITサービスは、海底ケーブルあってこそのものだ。「これまで当社は地球1周分ほどのケーブルを敷設してきました」と胸を張る櫻井は、長い歴史のなかで培った“洋上での技術と知識”が災害対応においても大きな力を発揮していると、東日本大震災当時を振り返った。

営業担当の櫻井の目標は船長になること。一級海技士(航海)の資格を持つ

営業担当の櫻井の目標は船長になること。一級海技士(航海)の資格を持つ

情報が途絶えた孤島

海底にあるとはいえ、ケーブルも地震や台風と無関係ではない。ケーブルの寿命は30年ほどだが、事故や災害で海底の岩がケーブルの上に落ちるなどして切れてしまうことがある。そうなれば、島しょ地域は通信が途絶え、孤立してしまいかねない。そのため、設計段階から安全性・冗長性を考慮して入念に敷設ルート・防護方法を検討すると言う。

「ケーブルルートは、できるだけ岩場の少ない砂地や操業(漁労)をしない海域を選び、ルートを設計します。ただし、陸揚げに適していない地形で思うようなルートが確保できない場合は、弧状推進と呼ばれる200mmから300mmほどのトンネルを陸上から海底に向けて開けることもあります」

しかし、東日本大震災では想定をはるかに超える事態が起こる。当時、横浜オフィスにいた櫻井は、電話で宮城県浦戸諸島の災害復旧依頼を受け、新幹線に飛び乗った。そして、現地の惨状に驚愕したと説明する。「島とつながる海底ケーブルがごっそりと持っていかれていたんです」。津波の力は、ケーブルがつながる地表の電柱をあり得ない角度に傾かせるほどだったと嘆く。浦戸諸島は、本州から孤立し、安否確認すらままならない状況に陥っていた。

船乗りたちが復旧の立役者

乗組員は、甲板部・機関部および事務部と連携し訓練を予定通り進めていく

海底ケーブルの復旧は困難を極めた。浦戸諸島周辺は水深が浅く、大量の資材を運搬できる大型船は使用できない。とはいえ、小型船では風や潮の影響を強く受けるため、海の状況を見計らっての作業が必須となる。海底には瓦礫が山積しており、“掃海”と呼ばれる除去活動にも膨大な時間を割かなければならなかった。「1分1秒でも早くという焦りはありましたが、掃海をおろそかにしてしまえば、海底ケーブルの耐久性が著しく低下してしまいます」

復旧班は、約1週間をかけて瓦礫を除去し、その後、迅速に海底ケーブルを敷設。1カ月ほどで島々のネットワークを復旧させた。「当社は長い歴史のなかで、ありとあらゆる海に関する知見を蓄えてきました。過酷な状況でこそ、こうした経験が生きる。そのことを改めて確信した瞬間でもありました」と櫻井。そして、復旧の立役者は、なんといっても洋上での経験豊富な船乗りたちだと続ける。

「小型船の場合は、陸上に宿泊施設を確保しなければなりません。しかし近隣の施設は災害復旧にあたる作業者たちが集まりどこも満室で、ようやく確保できたのは、港から片道1時間ほど離れた場所にあるホテル。日出前(日の出前)に出発し、移動後すぐに乗船という毎日でした。こうした環境でも復旧班たちは『たかが移動時間くらいで弱音を吐くわけにはいかない』と文句ひとつ言わずに奮闘してくれたんです」

災害復旧機能を備えた敷設船の誕生

復旧の作業効率を飛躍的に高める無人潜水ロボット(ROV)。複数のカメラとアームを船内から操作し細かな作業を行える

災害時に陸路が寸断されれば、空路や海路からの支援が大きな意味を持つ。東日本大震災の教訓を受け、NTTワールドエンジニアリングマリンは敷設船の新たな活用方法を検討。2017年3月に、災害復旧時の支援業務も担う「きずな」を就航させた。総トン数は8598t。全長約109m、幅約20mにも及ぶ。正確な航行とケーブル敷設を実現するための最先端システム、無人潜水ロボット(ROV:Remotely Operated Vehicle)なども搭載し、有事の際には最大60人を収容可能な臨時対策本部として機能する。

最大荷重10tのクレーンによって移動電源車や基地局車も搭載できるため、被災地における電力供給や通信の早期復旧にも大きく貢献することが可能だ。電源供給は、約1カ月間、一般家庭1200軒分を賄える能力がある。浦戸諸島のように壊滅的な被害を受けても、きずなを活用することによって臨時的な通信ルートを確保できるようになる。

就航の翌年、きずなは2度の実践を経験し、陸上で災害復旧に当たるNTTグループの各部隊を海上から支援した。その航行を指揮したのはきずなの船長、井上彰だ。「沖縄の台風災害では、高所作業用のバケット車を、北海道胆振東部地震では、燃料と可搬型小型発電機を現地に送り届けました」

復旧支援の限界を超える合同訓練

きずなの船長である井上は、後進の育成にも力を注ぐ

きずなの船長である井上は、後進の育成にも力を注ぐ

2018年以降、自然災害は増加傾向にある。きずなの全責任を預かる井上も、その光景を目の当たりにした一人だ。「これから先、海上支援の重要性はますます高まっていくはずです。ただ、災害の発生を完璧に予測することなどできませんので、常日頃から“有事”の二文字を頭の片隅に刻んでおく必要があります」と語る。出動要請が入れば、船内に緊張は走るものの、それに動揺するような乗組員はいない。人々の生活を支える海底ケーブルの重要性を、誰もが理解しているからだ。「なにかあればすぐに駆けつけられるよう、日々訓練を積み重ねているんです」

一方で、2度の実践経験は、被災地支援における課題感も浮き彫りにしたようだ。櫻井は「きずなは一隻しかありません。もし日本列島を横断するような台風が来た場合、私たちはどこへ向かうべきなのか、他社が保有する船舶とどのように連携すべきなのかを具体的に整理しておく必要があります」と話す。きずなは、NTTグループが一体となって実施する合同訓練に参加し、有事の際に携帯電話の船上基地局として機能するかどうかのシミュレーションも行っていると言う。災害発生時の被災地支援は、スピードが最優先。各社の連携を強固にすることが、そのまま人命救助にもつながっていくのだ。

2021年3月26日、櫻井と井上は約30人の乗組員とともに長崎県伊王島沖へ出航。海上で、実践を想定したさまざまな訓練を行った。中には、船体を放棄せざるを得なくなった際の、退船訓練も含まれている。海上での作業は常に危険と隣り合わせでもある。誰かの日常を守るために、NTTワールドエンジニアリングマリンは今日も船と共に『Full Ahead! 全速前進!』で進み続けている。

すべての訓練を無事に終え帰港。着岸するその時まで気を緩めることはない

特集「命をつなぐネットワーク」。episode 2では、何万kmにも及ぶケーブルの敷設とメンテナンスによって、海を越えた通信を実現し、守り続けるNTTワールドエンジニアリングマリンの挑戦をご紹介しました。最新鋭の海底ケーブル敷設船「きずな」に備えられた災害復旧機能には、東日本大震災の教訓が詰まっています。次回、シリーズ最後のテーマはNTT Comの東北支店。あの日、あの場所で、経験した震災。そこで発揮されたマンパワーと地域に対する強い使命を解き明かします。ぜひご覧ください。

※取材は2021年3月26日に実施しました。

社員メッセンジャー

NTTワールドエンジニアリングマリン営業部

櫻井 淳

ケーブル敷設船の航海士としての勤務経験を生かし、主に国内のケーブル建設工事の提案およびプロジェクトマネジメントをしています。国際通信の重要性は高まる一方です。災害復旧支援も可能な敷設船「きずな」船上より、海上訓練の様子とともに、海を越えて通信ネットワークをつなぎ続ける船乗りたちの活動をご紹介します。

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