ホストゲームで歓喜の逆転劇!
3週間ぶりの実戦はまたも1点差熱闘
多彩なトライ技術を誇るフィニッシャー、WTB(ウイング)石井魁は、この試合を「シーズンのターニングポイント」と位置付けていた。
「個人的に(前回の試合から)3週間空いた試合という難しい状況だったからこそ、残りのシーズンをさらにレベルアップして戦い抜くために、この試合がターニングポイントになるのではと思っていました」
この試合の勝敗で、潮目が変わる。並々ならぬ覚悟で、WTB石井魁、そしてチームはホストスタジアム「東京・江東区夢の島競技場」に降り立った。
NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安は2月26日(土)、「NTTリーグワン2022」第7節の東芝ブレイブルーパス東京戦を迎えた。
第6節に予定されていた伝統の「NTTダービー」がコロナ禍より試合中止となり、先週は今季3回目の「不戦敗」。戦わずして黒星がついた。
さらにはBYEウィーク(休みの週)を含め、実戦から3週間遠ざかった。
実戦感覚を掴みにくい状況で、アークスが迎えた相手はトップリーグ時代に5度の優勝を遂げ、ここまで3勝3敗の東芝ブレイブルーパス東京。激しいプレーが特徴的であり、衝突局面でのバトルが焦点のひとつとなった。
今季2勝目を手にしたいアークスのメンバーは4人が今季初先発。
PR(プロップ)竹内柊平、HO(フッカー)アナル・ランギ、LO(ロック)目崎啓志、WTBヘンリーブラッキンだ。ゲームキャプテンは今季初めてCTB(センター)本郷泰司が務めた。
そしてリザーブには、出場すれば「アークス初キャップ」となる2人。
日本で約2年ぶりの公式戦出場となるW杯4大会連続出場のレジェンド、新加入のトンプソンルーク。そしてCTB本郷の1年後輩で同じく帝京大キャプテンだったFL(フランカー)松本健留だ。
温暖なラグビー日和。一戦必勝を期するアークス、そして勝利を願うファンの頭上に午後2時30分、キックオフの笛が鳴り響いた。
「敵陣で継続できれば、絶対にトライを取れるという確信はありました」(CTB本郷ゲームキャプテン)
前半、風下に立ったアークスは開始3分にいきなり先制トライを奪われた。しかしボールを展開すればLO目崎やFB(フルバック)イズラエル・フォラウらが突破。継続すれば獲れる――。CTB本郷は確信を抱いてプレーをしていた。
前半13分、相手9番がハイタックルによりシンビン(10分間の一次退出)となり、15対14の数的優位に。しかし突破後のパスミス、この日14回中9回成功(成功率64.3%)だったラインアウトなどにより、なかなかチャンスを得点に変えられない。
7点を追いかける前半23分、守備からトライが生まれた。
FL金正奎のディフェンスから攻守交代が起き、ボールを左右に振る。SO(スタンドオフ)ブラックのロングパスを繋ぎ、FBフォラウがチーム初トライを沈めた。
相手が14人の間に同点(7-7)に追いついたアークスだが、ブレイブルーパスもスペースへ巧みにボールを運ぶアタックで前半28分に勝ち越しトライ。
ふたたび7点のリードを奪われたアークスは前半29分、LO目崎に替わり23歳の松本健留が投入されて公式戦デビュー。その後、足下に刺さるタックルで再三突進を防ぐ活躍を見せた。
するとアークスは前半終了間際の39分、ゲームキャプテンが強烈な一撃を決めた。
まずCTB本郷はジャッカルで攻守交代を起こす。
ここから敵陣右に入ると、ラインアウトを成功させて攻撃開始。アークスのワイド展開を封じるべく、外側から閉じるディフェンスを仕掛けた相手に対して、SOブラック、FL金正奎のクロスからCTB本郷が内側を突破し、Hポール下へ激走!!
ジャッカルで作ったチャンスをみずから仕留める役者ぶり。チームでFBフォラウ以外の選手がトライをしたのは今季初。ゴールも決まり、14-14で試合を折り返した。
風上に立った後半のアークスだが、後半28分までスコアは14-14のまま動かなかった。お互いにラインアウトのミス、フェーズプレーのミスもあり一進一退の攻防が続く。
アークスは徹底的にボールを保持するアタックに変えたブレイブルーパスに対し、LO金嶺志、そしてロブ・ペニー監督が「今後の注目選手」と語るNo.8(ナンバーエイト)ジミー・トゥポウらが激しいディフェンス。
初先発のPR竹内はジャッカルで劣勢ムードを救い、さらにスクラムでは、後半に入っていよいよ優勢となりペナルティ(コラプシング)も奪った。
そして後半26分、背番号19を背負った「トモさん」ことトンプソンルークがピッチへ!!激しいプレーで見せ場を作った金嶺志との交代で、アークスデビューを飾った。
日本では約2年ぶりの公式戦となった最初のプレーはマイボールスクラム。ここで直前に強制PK(ペナルティキック)を奪っていたスクラムで、アークスは2連続の強制PK!!
SOブラックのPG成功で、ついに後半初めてスコアを動かして17-14と勝ち越した。
しかしアークスは窮地に陥る。
試合時間残り10分となったところで、反則の繰り返しによってFL金正奎がシンビンに。80分まで14人で戦うことに。
この直後、ブレイブルーパスがゴール目前からワイド展開で勝ち越しトライ。アークスのビハインドは4点(17-21)となった。
スクラムにはフランカー経験のある本郷が入り、相手ノックオンから8人でのスクラム。ここから敵陣で攻撃を続けたアークスは、LOトンプソンのクリーンアウト、FBフォラウの突進などを交えると、CTB本郷が移動攻撃を仕掛けた。
「最後のトライの場面ですが、あの瞬間、外が確実に余っていると感じたので、移動してもらってオフロードパス、というイメージのままで出来たと思います」(CTB本郷ゲームキャプテン)
途中出場の鶴田諒、CTB本郷、そしてパス名手のCTBトゥクフカトネから、WTB石井魁が鋭くイン・アウトを繰り返して右隅へグラウンディング!!
「この試合がターニングポイント」――そう意気込んでいたWTB石井魁が、古巣のブレイブルーパスよりみずから奪った逆転トライ。ゴールは外れたが、見事に1点のリード(22-21)を奪った。
残り時間を敵陣で過ごしたアークス。最後は相手がラックで手を使ってPKとなり、虎の子の1点を守り切った。
14人で守り抜き、14人で逆転トライを奪った。プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたWTB石井魁は、会心の勝利をこう振り返った。
「ここ3週間、BYEウィーク(休みの週)を挟んで我慢をしなければならない状況が続きましたが、試合という自分たちを表現する場がもらえたことは本当に良かったと思います。そこで勝利という形で勝つことが出来たことは収穫です」(WTB石井魁)
ノーサイド直前、ピッチに呼び込まれたのは、チームの反則によりピッチサイドで待機していたFL金正奎クラブキャプテン。
コロナ禍による不戦勝が続くなか、価値のある今季2勝目は、開幕節と同じ1点差。諦めない姿勢でスタイルを貫き、勝負を制した。