昨季王者の堅守を崩せず。
実戦2敗目も終盤のファイトに「進化」
終盤に「進化」があった。
フルタイムの瞬間まで諦めなかった。敗色濃厚な点差においても、試合終了まで譲らぬ意志がこもっていた。先発SH(スクラムハーフ)の湯本睦が語った。
「本当に最後まで諦めずに身体を張ることを全員がやっていました。昨シーズンに東京サンゴリアスさんに94点取られたことが心に残っていて(トップリーグ2021第7節/31-94)、チーム一丸になって、点数関係なく80分ゲームを戦い抜くことを課題にしてきました」
「そこのマインドが変わってきていて、ひたむきにプレーすることを心掛けて常日頃から練習しています。先発の15人も交替選手も勝利するために絶対に諦めない、というところは今シーズンの違う点です。心強い仲間と勝利できるようにもっと頑張っていきたいです」
コロナ禍による試合中止が2週続いたNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安。
2試合が「不戦敗」となってしまい、勝敗は1勝3敗のアークスは2月5日(土)、3週間ぶりのリーグ公式戦に臨んだ。
NTTリーグワン2022のカンファレンスA第5節。
舞台は今季2試合目のホストゲーム、相手はカンファレンスA最強の相手といってもよい昨季チャンピオン、2勝2敗の埼玉ワイルドナイツだ。
埼玉ワイルドナイツはビジター戦の直近34試合で1試合しか黒星がない。今季の2敗はいずれも不戦敗だが、実戦では無敗であり、実力を試すには絶好の相手だ。
アークスの先発15人では、クラブキャプテンを務めるFL(フランカー)金正奎がリーグ公式戦50キャップを達成。ハードワーカーの勲章をまたひとつ手にした。
また新加入のLO(ロック)サム・ジェフリーズは今季初先発。主にロックで起用されてきたジミー・トゥポウはNo.8(ナンバーエイト)でスタメンを飾り、バックスではビックヒッターであるWTB(ウイング)小泉将も初スタメンに。
またこの試合は、がん治療研究を応援するチャリティーマッチ「丸の内15丁目+deleteCマッチ」として開催。ラグビーをソーシャルに繋げるアークスらしい取り組みとなった。
3週間ぶりというゲーム感覚が影響したのか、アークスは立ち上がりに苦戦した。
前半2分に埼玉ワイルドナイツが複層的な攻撃から先制トライ。8番で先発したジミー・トゥポウの激しいディフェンスなど見せ場もあったが、攪乱するような動きに対処できなかった。
7点を追いかけるアークスはHO(フッカー)三浦嶺のターンオーバーなどから攻撃機会を得るが、ディフェンスを得意とする埼玉ワイルドナイツに阻まれる。
相手のジャッカルから自陣に下がると前半7分、ラインアウトモールから相手2番(坂手淳史選手)がスコア。アークスは開始7分で2トライを取られる展開に。
アークスはCTB(センター)シェーン・ゲイツの巧みなショートキックをWTB石井魁が左隅で再獲得するなど、鮮やかな攻撃も見せた。しかし決定的な場面でのノックオン、ペナルティがあり攻撃機会を得点に変えられない。
前半15分にも1トライを奪われたアークスだが、同20分前後には相手の落球を誘う好ディフェンス。
自陣スクラムからSH湯本がスピードを活かしてロングゲインを見せれば、相手のインターセプトに対して直後、反応したCTBゲイツ主将がトライセーブの好タックル。
CTB本郷泰司の突進からSH湯本がクイックテンポで球をさばき、前半24分には相手のオフサイドを引き出す。しかし堅守の埼玉ワイルドナイツは2人掛かりの抱え上げるタックル。
攻撃の継続性に苦慮したアークスは前半無得点。1PG(ペナルティゴール)と1トライを加えられ、29点ビハインドで折り返した。
前半のビハインドが29点差(0-29)だったアークスだが、後半は約半減の14点差(5-19)だった。
アークスはCTBゲイツ主将とWTB石井魁が2人掛かりのジャッカルを見せれば、No.8トゥポウ、途中出場の竹内柊平、マッケンジーアレキサンダーもラックで絡みついてターンオーバーを起こした。
攻撃では後半スタートから投入のトゥクフカトネが強烈なキャリーを連発した。
「埼玉ワイルドナイツさんのディフェンスが素晴らしく、(前半は)思うようなアタックができず、ターンオーバーからの失点を重ねていました。チームがトライを取るにあたり求められている役割を常に頭の中で考えていました」(CTBトゥクフカトネ)
そうして敵陣に入るアークスだが、この日響いたのはラインアウト。ボールを確保したい場面でミスがあり自陣に後退させられた。
後半10、21分に連続トライを奪われて43点を追いかける劣勢ムードのアークスだったが、同32分に待望の1本目のトライが生まれた。
キックパスから左隅で確保したWTB石井魁が抜け出し、さらに防御裏へショートキック。2本のキック&再獲得で敵陣に侵入すると、ラックのターンオーバーから大きく右展開。
No.8トゥポウのロングパスから、内戻しのボールを受けたのはFB(フルバック)イズラエル・フォラウ。タックラーを巧みにかわす技術でインゴールにボールを叩きつけた。
コンバージョンは右ポストに当たって5-43となったが、試合を諦めないアークスの真価は後半34分過ぎからだった。
相手のジャッカルを浴びてゴールラインを背負うが、相手得意のラインアウトモールを防ぐ。ペナルティを取られるがWTB石井魁が相手FBの突破を仕留め、ゲイツ主将と本郷のセンターコンビ、FBフォラウなどバックス陣も懸命なディフェンス。
フォワードもさらに意地を見せ、反則による2度目の相手ラインアウトモールも防ぐ。直後のアタックで途中出場のCTBトゥクフカトネがジャッカル!!
攻撃のミスからふたたび速攻を受けるが、後半37分にはWTB石井魁とCTB本郷がトライセーブ。さらなる攻撃もFLジェームス・ムーアらが懸命に止めた。
最後は王者がトライをもぎ取り、5-48でノーサイドとなったが、敗色濃厚な終盤でもハードワークを絶やさなかった。
1チーム16試合の過酷なシーズンはまだ始まったばかりだ。
「1週間バイ・ウィーク(休みの週)になりますが、このような環境で試合ができることがまず幸せだと思っています。今日の敗戦を糧にして、まだまだ試合は続いていきます。チーム一丸となって頑張りますので引き続き応援よろしくお願いします」(SH湯本)
次節はアークスにとっての「負けられない戦い」。
2月20日(日)、相手はNTTドコモレッドハリケーンズ大阪。今季レギュラーシーズンでは最初で最後の「NTTダービー」がやってくる。