幕開けはシャイニングアークスの歴史的1勝!
リーグ開幕戦で11年度以来の神戸戦白星
84分40秒、神戸の青空にコンバージョンキックが舞った。
楕円球がHポールを反れた瞬間、歴史的なリーグ最初の勝者が決まった。
「NTTリーグワン2022」の初年度、最初の試合で勝利を上げたチームは、NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安。
しかも相手は11年シーズン以来勝利のなかった難敵、誇り高きコベルコ神戸スティーラーズだ。
開幕戦で2度負けている相手からの勝利に、指揮官2期目のロブ・ペニー新監督は試合後、喜びを隠さなかった。
「この上ない喜びです。記憶の限りでは神戸さんからの勝利は初めてです(1期目は2014年度から5季)。神戸さんのようなクオリティの高いチームに勝利でき、嬉しい限りです」
ホストゲームのアドバンテージがあったわけではない。
会場は兵庫・神戸総合運動公園ユニバー記念競技場だ。しかも観客席は赤いTシャツを着込んだファンで、赤一色に染まっていた。
スタジアム全体がホストチームを後押しする雰囲気のなか、2022年1月8日(土)、ブルーのジャージーに身を包んだ23人の戦士は、リーグ戦で約10年勝利のない強敵に立ち向かった。
本来のリーグ開幕戦がコロナ禍で開催中止になったことで、カンファレンスA第1節、12時キックオフのこの試合が実質的なリーグ開幕戦となった。
冬晴れの下、新リーグ最初のトライを決めたのは赤いジャージーだった。
コベルコ神戸スティーラーズは前半3分、CTB(センター) リチャード・バックマン選手がアークスDFを中央突破。歓声を浴びて先制トライを決めた。
開始3分で7点を失ったアークス。勢いに呑まれる前に、逆襲に転じたい。ここで3人の新戦力が華麗な連係プレーを見せた。
アークスはSH(スクラムハーフ)湯本睦の的確なキックで翻弄すると、前半12分、キックカウンターから猛攻。
司令塔のSO(スタンドオフ)オテレ・ブラックが、FL(フランカー)ジェームス・ムーアの突破をアシスト。さらに楕円球は、フォローに付いていたFB(フルバック)イズラエル・フォラウへ。
この日アークス初キャップ(公式戦初出場)を獲得した3人の協演により、FBフォラウの豪快なワンハンド・トライが生まれた。
ここからアークスは猛攻。9年目のHO(フッカー)三浦嶺はセットピース、ボールキャリアーとして大車輪だった。
昨季途中の悔しいケガから復帰したばかりの成蹊大卒のフッカーは、正確なスローイングでラインアウト、スクラム(ともに成功率100%)に貢献。こぼれ球を捕球し、あわや独走トライの快走も見せた。
前半16分にはHO三浦がトライに繋がるラストパスを受けるところを、相手が故意のノックオンによりトライセーブ。ペナルティトライ(7点)が認められ、アークスはこの日初めてのリード(14-7)を奪った。
アークスはフォワードが粘り強く、激しく戦い続けた。
コベルコ神戸スティーラーズは再三アークス陣に攻め込み、強力FWがモールを組むが、青いジャージーが前進を許さない。
「フォワードが信じられないほど素晴らしい頑張りを見せてくれていました」(FBフォラウ)
前半23、34分にはスクラムで強制PK(ペナルティキック)を奪取。スクラムやモールの攻防で優勢となり、熱戦を演出した。
コベルコ神戸スティーラーズも華麗なハンドリングから前半39分に2トライ目。アークスは前半を2点リード(14-12)で折り返した。
1チーム16試合のレギュラーシーズンは始まったばかりだが、後半は両軍に負傷者が。今季はチーム全員の力を結集させる「総力戦」、との選手の言葉がいよいよ現実味を帯びる展開に。
ここで後半10分、さらに同28分にコベルコ神戸スティーラーズがPG(ペナルティゴール)を加え、リードを4点(14-18)に拡大。
しかしアークスは途中出場組も躍動。日本国籍を持つFLマッケンジーアレキサンダーがジャッカルで貢献すれば、齊藤剣、竹内柊平の両PR(プロップ)を入れたスクラムで、アークスFWがPKを奪ってみせる。
残り時間8分(後半32分)、相手のペナルティからSOブラックがPGを決めてビハインドは1点(17-18)に。そして熱戦は佳境を迎えた。
歓喜の逆転トライは、後半34分、敵陣での自軍投入スクラムから始まった。
約10年前の勝利を味わっている11年目のSH鶴田諒がパスアウト。新キャプテンとして初陣のCTBシェーン・ゲイツが突進、FLムーアのオフロードパスからPR竹内がさらに前進――。
ここで相手に反則と見るや、SH鶴田がすかさずボールを配球。SOブラックが選択したのはインゴールへのショートパントだった。
キックを合わせたのはハイボール・キャッチの世界的名手、FBフォラウ。相手の反則でアドバンテージが出たら、ハイボールでトライを取ろうと話し合っていた。
「オテレ(ブラック)とはここ数週間、チャンスがあればやろうといった話をしていました。今日そのチャンスがやってきて、オテレが良いところにキックを落としてくれて、決めきることができました」(FBフォラウ)
千両役者たちが期待通りの活躍を見せ、殊勲の逆転トライ。残り2分でついに6点リード(24-18)を奪った。
ところが後半ロスタイム、ホストのコベルコ神戸スティーラーズが意地を見せる。神戸で1928年から歴史を築く伝統チームは、試合終了のホーンが鳴って約4分の猛攻。
アークスも必死に止め続けたが、後半44分に途中出場の中嶋大希選手が左中間にトライ。
スコアは1点差(23-24)。ここで相手SOアーロン・クルーデン選手のコンバージョンが決まれば、コベルコ神戸スティーラーズの勝利。外れれば、アークスの勝利――。
「特別な瞬間でした。その瞬間をフィールドで戦っていたメンバーだけでなく、影で努力をしてきたすべてのみんなと分かち合いました」(CTBゲイツ主将)
NTTリーグワン2022。アークスは歴史的な最初の勝者となった。
最終スコアは24-23。見事に勝ち切り、公式戦では11年度以来となるコベルコ神戸スティーラーズからの勝利を挙げた。
プレーヤー・オブ・ザ・マッチは2トライを決めたFBフォラウ。試合後のピッチ、ロッカールームは歓喜に溢れていた。