選手FOCUS / IN FOCUS

諸葛 彬 JeGal Bin

バックス・CTB

来日初年度から13番(アウトサイドCTB)で活躍し、2年目のシーズンは早くも先発メンバーに定着。NTTコムの練習スタイルに感銘を受けたという諸葛選手。ランとロングパスを武器に、さらなる飛躍を誓う。 ※ちなみにインタビューは、すべて日本語で行われました。

早くから来日を期して、名門大学や軍のスポーツ部隊で研鑽

――ラグビーとの出会いは何歳の時ですか?

中学3年生の時、近くの高校の監督やコーチに勧誘されて始めました。その時はラグビーというスポーツをよく知らなかったので、「アメリカンフットボールのことかな?」と思ったぐらいでした。もともとスポーツは好きで、市のクラブでフットサルをやっていたので、高校に入ってもフットサルを続けながら、ラグビーをやるつもりだったんですが、やってみたら両立は無理でしたね。

――ラグビーはすぐ好きになれましたか?

実は、入部してすぐに「辞めよう」と思いました。最初はぶつかるのが怖かったし、部内の上下関係も厳しいし、練習は午後2時半から7時までみっちりあるし、走りっぱなしだし、「これはダメだ......」と(笑)。入部3カ月で先生に「辞めます」と伝えたんですが、「1週間休んでから、もう一度来て」と言ってもらって。実際に1週間休んで、その間に「やっぱり続けるのがいいかな」と考え直しました。家族にも続けるように勧められたし、ここで簡単に辞めたらこれからの人生でも何もできないと思ったので。

――韓国の高校ラグビーにも花園(全国大会)のようにみんなが目指す大会があるんでしょうか?

韓国にも全国大会はありますが、20校しか出ないので、1週間でトーナメントの全日程が終わります。高校1年生の時は全敗でした。僕と同期10人ぐらいが入部して、やっと人数が足りた状態でしたからね。2年生の時は準優勝しました。3年生になると、ほぼ同じメンバーで3年間やってきたので、どの大会でも優勝できるようになりました。

――チームはみるみる力をつけたのですね。好成績は諸葛選手たちの才能のたまものでしょうか?

それも少しはあったかもしれないけど、それよりも努力ですね。僕は負けるのが本当に嫌いで、だから誰より長く練習するようにしていました。

――ポジションは今と同じCTBですか?

1年生の時はCTBで、2年生、3年生の時はFBをやっていました。今はもうCTBを長くやってきて、CTBの動きが身についていますが、当時はFBが楽しかったですね。やっぱりチームのサインプレーの要だし、プライドを持ってやっていました。

――ラグビー選手になろうという気持ちは高校時代から持っていたんですか?

高校3年生からです。部のコーチが日本に関心が高い人で、3年生の時、日本で合宿をしたんです。合宿中に、いろんな日本の高校とたくさん試合をしてみて、やっぱり韓国のラグビーとは違うなと感じました。面白いな、いつか日本でラグビーをやりたいな、と思うようになりましたね。

日本のラグビーで一番びっくりしたのは、花園です。合宿で日本に着いた次の日に花園の決勝を会場で観戦したんですが、選手のレベルも観客の数もすごくて、衝撃を受けました。

――将来の活躍の場として、早くも日本を見据えていたんですね。

ぼんやりとは考えていました。合宿の後から、日本語の勉強も始めましたね。自分で本を買ってきて、ひらがなとかたかなから始めて。でも、ぜひとも日本に行きたいという気持ちが固まったのは、大学時代ですかね。

――大学は延世大学。どんな大学、どんな部だったか、教えてもらえますか?

韓国ではラグビー部がある大学は4校だけなんですが、延世大は部員も40人ぐらいいて、常に優勝争いをする上位2校の一つでした。ラグビー以外でも有名な大学ですし、試合を見て「ここでラグビーがしたい」と思いました。大学では寮生活をしながら、他校やクラブチームと対戦していました。クラブチームも全国で3つか4つしかないんですけどね。

――卒業後の進路については、どう考えていたんですか?

大学1年生の時から、現実的な目標として、日本に行くことを考えるようになりました。3年生まで毎年2週間ぐらい日本で合宿していて、何度も行くうちに、やっぱりラグビーの環境がいいですし、「ここでやりたい」という気持ちが強くなっていったんです。

――しかし、大学卒業後はまず2年間、尚武(韓国軍体育部隊)へ。

韓国の男性は19~29歳の間に約2年間の兵役につく義務があります。避けて通れないものなので、まず兵役を終えないと、日本のチームも韓国の選手を獲得しづらいですよね。尚武はスポーツ選手だけを集めた部隊で、それぞれの競技、僕ならラグビーをやらせてもらえました。

ただ、携帯電話は使えません(笑)。友達と連絡を取ったり遊んだりできない、練習以外に何もない日々です。でも、その分、考えたり本を読んだりする時間ができて、自分の中に余裕が生まれた気がします。

現状に満足せず、より高い目標を設定して挑戦は続く

――兵役を終えて、NTTコムに加入した経緯は?

日本のチームからなかなか声がかからなかったので、まずエージェントを通じて、いくつかのチームの入団試験を受けに日本へ行くことになりました。韓国には昔から、交渉する国ごとに、スポーツ選手のエージェントがあって、僕は日本専門のエージェントを利用しました。

最初のトライアルはトップイーストのチームで、次がNTTコムでした。NTTコムでは1週間、練習ぶりを見てもらう形のトライアルを受けました。トップリーグは夢だったので、その1週間は、ケガをしてもいいから力を全部出し切る、ここで自分の人生を切り拓く、という気持ちでやっていましたね。合格をもらった時は本当にうれしかったです。

――加入して、チームの雰囲気をどう感じましたか?

みんな明るくて、でも練習には集中していて、「自分がやりたいからやる」という意識でいるのが伝わってきて、感動しました。全体の練習も結構キツいのに、終わったら個人練習をする人が多いんですよ。みんながラグビーを本当に好きで、チームに貢献したいという気持ちを持っているんですね。その雰囲気を見て、僕も努力してきたつもりだったけど、日本に比べたら何ほどのこともなかったなと思って、もっと頑張ろうと気持ちを新たにしました。

――チームには、すぐになじめましたか?

やっぱり、言葉で十分なコミュニケーションを取れなかったし、チームのみんながラグビーに対して当たり前に持っている共通の認識みたいなものも、僕にはなかったので、最初は大変でした。でも、チームメイトもスタッフも明るくて優しくて。

特にクリさん(栗原徹コーチ)はトライアルの時からどんどん話しかけてくれて、ずっとサポートしてくれました。トライアルの時は今よりも日本語や日本のラグビーに慣れていなかったから、練習が終わるたびに「なんで自分はできないんだ」と悔しい気持ちになっていたんですが、そんな時にクリさんがいつも来てくれて、その日のビデオを見せてくれて具体的にアドバイスをくれました。すごく心強かったですね。今でも、とても感謝しています。

――日本と韓国で、ラグビーのスタイルはどう違うんでしょうか?

韓国は結構まっすぐ行くんですよ。フィジカルとフィジカルのぶつかり合い。最近ではもう少し展開するようになってきましたが、僕が韓国にいた頃はそうじゃなかったので、ちょっとギャップがありましたね。

――それでも、初年度からトップリーグにCTBで出場していましたよね。メンバー入りを告げられた時のことは覚えていますか?

メンバーに選ばれた時は、家に帰って泣きました。「これ本当かな?本当に俺がトップリーグに出られるのかな?」と信じられない気持ちでした。家族にももちろん報告しましたし、韓国のラグビー選手がトップリーグに出るのは珍しいことなので、韓国でも注目してもらえましたね。たくさん報道もしてもらって。だから、韓国のみんなもNTTコムの公式サイトやFacebookをチェックしてくれているみたいです。

――初年度から80分フル出場もして、トライも決めて、素晴らしい活躍でしたね。

でも、初年度はすごく不安でした。チームの足を引っ張ったらどうしようと思っていました。韓国は大会期間が短いので、トップリーグみたいな長丁場は初めてですし、毎週、全国のいろんなところへ移動して試合をするのも初めての体験でした。

――体力的にも問題なくプレーしているように見受けられましたが?

いえ、1stステージは問題なくプレーできましたが、2ndステージはパフォーマンスが下がってしまいました。周りの韓国の先輩に聞いてみたら、韓国のラグビー選手は海外に出ると、みんなそういう経験をするみたいです。

――今季はすっかり、13番の先発に定着しました。

13番はフィジカルが求められるポジションですが、今、チームに13番をやる選手が少ないんですね。そういうチーム事情もあって、出られたんじゃないかと思っています。今季は本来なら先発に固定してもらえるパフォーマンスではなかったと思うので、反省しています。

――今季はWTBでの出場機会もありましたね。

そうですね。どちらに入っても試合に出られるなら全力で頑張ります。CTBだけしかできない選手より、WTBもできる選手のほうが、チームにとって有用だと思うので。

――自身の持ち味はどんなところにあると思いますか?

ロングパスと......うーん、ロングパスぐらいですね。ランは今季良くなかったので「ランが持ち味です」とは今は言えないです。

――では、来季の課題はランということになりますか?

来季は判断を大事にしたいですね。一つひとつの場面で最良の判断をできる選手になりたいと思っています。パスで相手のスキをついたり、ランでも良いコース取りをしたり。判断の精度を上げることが目標です。

――チームは今季、昨季と同じ8位でした。もう一つ上へ行くには、何が必要でしょうか?

メンタルを強く保ち、ミスを減らすことですね。僕個人としてもメンタルとミス(の低減)です。みんな、もちろん勝ちたい気持ちで試合に入っていますが、相手のプレッシャーに負けてしまっている場面もあります。そういう時のメンタルが大切ですね。シャイニングアークスは今季特に、試合の雰囲気によって、ミスが続いたり、逆にほとんどミスが出なかったり、波があったと思うんです。今季のリーグ戦を経て、NTTコムが良い状態をキープできたら、勝てない相手はいないなと感じたので、なんとか調子のアップダウンを抑えて、高いところで安定させたいですね。

――メンタルは、どう鍛えていけばいいと思いますか?

個人が経験を積んで変わるしかないですね。練習ではなかなか難しいです。練習中にミスが続いてもそのまま流れていったりするので、それはやめた方がいいかなと思います。ただ、いったん練習を止めてキャプテンがみんなに話した場合でも、すごく改善されるわけではないので、何をするといいのか、僕もまだ分かっていません。昨季よりは良くなったと思うんですが......。

――ロブ・ペニーHCの指導については、どのように感じていますか?

ロブは、例えば僕が試合でまずいプレーをした時、それを改善するために、僕の他にも声をかけて、僕を含めた10人ぐらいで練習をさせるんです。その時に僕が「俺のせいでみんなが練習に付き合わされている」と落ち込んだりしないように、みんなに声をかけて雰囲気づくりをしてくれますね。そういうコントロール、素晴らしいと思います。

――日本での生活も3年目に入りますね。気に入っている文化・風習などはありますか?

温泉、松屋、富士急(ハイランド)。松屋は毎日でも食べられます(笑)。富士急のコースターは、長くてスリルがあって最高です。

――カラオケはどうですか? 歌がお上手と聞いていますよ。

EXILEの『ただ...逢いたくて』とか、平井堅の『瞳をとじて』とか、バラードを何曲か覚えて、よく歌っています(笑)。平井堅の曲は韓国人歌手もカバーしていたりするので、なじみがありますね。

――逆に、日本人に伝えたい韓国文化はありますか?

食べ物はいっぱい美味しいものがあるので、ぜひ。それから、人と会う時の習慣というか礼儀のようなことで一つ。日本の礼儀では、いきなり「今日、会いましょう」「今からごはん食べに行こう」と言うと、少し失礼な感じに受け取られたりもしますよね。韓国では「今、俺ここにいるけど飲む人~?」なんてメッセージを送れば、来られる人から来て集まります。日本でも、何日何時と決めておかなくても、もっと気軽に会えたらいいのにな、と思います(笑)。

――ラグビーに話を戻しまして、今季からスーパーラグビーに日本チームが誕生し、その他のチームで活躍する日本人選手も増えてきています。諸葛選手もスーパーラグビーに参加したい気持ちはありますか?

もちろん、あります。日本に来てから、思うようになったことですね。日本に来る前は日本に来ることが夢でした。日本に来てから、夢が増えました。チャンスがあればぜひ、あんな大観衆の前でプレーしてみたいです。

――ラグビー選手として、将来の夢は何ですか?

韓国代表でワールドカップに出ることです。日本代表がワールドカップで南アフリカ代表に勝って、ラグビー人気、ラグビー文化がものすごく広がったじゃないですか。同じ感動をいつか韓国にも、という気持ちはありますね。あと、今教えてもらっている日本のラグビーを韓国に持ち帰りたいです。海外の良いラグビーを取り入れて、選手も海外経験で意識を高めていけば、韓国代表も強くなっていけると信じています。