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小売業がビジネスで成果を出し続けるためには、業界で当たり前のように行われてきた“ある事”をストップすることが重要だといいます。西友の大久保恒夫社長兼CEOに話を聞きました。

利益を確保したいなら〇〇はやめなさい

写真:大久保 恒夫 氏

株式会社西友 社長 兼 最高経営責任者(CEO)
株式会社リテイルサイエンス ファウンダー
大久保 恒夫 氏

新型コロナウイルス感染症の流行は、日本の小売業に大きな影響を与えています。経済産業省の調査によると、2020年の小売業販売額は146兆4,570億円で、前年比マイナス3.2%の減少。2021年上期は前年同期比3.4%のプラスとなる73兆6,790億円でしたが、2020年は好調だったスーパーやドラッグストア、ホームセンターの販売額が減少するなど、先行きは決して明るいとはいえない状況です。

社会が変わりゆく中で、小売業がビジネスで成果を出し続けるためには、どうすれば良いのでしょうか?ユニクロ、無印良品、成城石井など有名小売店の経営改革で成果を上げ、“小売業再建のプロ”の異名を持つ西友の大久保恒夫社長兼CEOは、これまで業界で当たり前のように行われてきた“ある事”をストップすることが大事だと主張します。

「たとえば食品スーパーでは、売上アップの常套手段として『ディスカウント(安売り)』が実施されてきました。それは直近のコロナ禍でも同様で、ディスカウントをアピールするためにチラシを配布することも引き続き行われています。しかし、単なるディスカウントは、抜本的な解決にはなりません」

大久保氏が安易なディスカウントを否定する理由として、ディスカウントが必ずしも利益の向上に直結しないことを指摘します。

「ディスカウントによって粗利率は下がりますし、販売量が増えると、それだけ人件費率も上がります。消費が激しく、経済成長が著しい数十年前では、たしかにディスカウントは一定の成果を挙げてきたのも事実です。しかし、いまだに多くの企業はこの過去の成功体験から脱却できていません」

大久保氏がこれまで事業改革を手掛けてきた企業では、一貫して「いかに利益率を上げるか」というアプローチに取り組んできたといいます。

「利益は、価値を創造することによってしか生まれません。私の打ち手の中に『単純にディスカウントをする』という選択肢はありません。顧客は単に安いだけでは満足しません。おいしいものを食べたい、より健康なものが欲しいといった、価格以外のニーズがあります。

もちろん、ニーズに合った価値ある商品を開発しても、その価値が伝わらなければ商品は売れません。顧客のニーズを探って価値ある商品を開発し、売り場でその良さをアピールして売り込むという商品開発力と販売力の2つは、小売店が利益を出すために最も重要なことといえます」(大久保氏)

値引きしなくても利益を出す方法とは

それでは、小売店がディスカウントせずに利益を出すには、具体的にはどうすれば良いのでしょうか。大久保氏は自身の経験から、PDCAの徹底と、それを加速するためのDX化という2点を指摘します。

「私はこれまでの数々の企業を再建してきた経験から、よく『なぜ大久保さんはさまざまな業種で改革できるのですか』と質問されます。しかし私は、一貫してPDCAを実行してきただけです。顧客のニーズも、利益率を上げる方法も、最初からわかっていたわけではありません。アイデアを実行して結果を確認し、それに対して違う手を打つことで、顧客のニーズは必ず見えてきます。

もちろんそのためには、PDCAの結果を『データ』として正しく集計できること、さらにそれを迅速に把握できるDXの仕組みが不可欠です」

ニーズを把握した上で商品開発や販売強化の施策を講じても、必ずうまくいくとは限りません。PCDAを素早く繰り返し、次の行動に移る必要があります。

「私が店舗を改革する際の手法のひとつとして、販売施策の結果を毎週確認し、次の週の打ち手を考えて実行する『ウィークリーマネジメント』というサイクルがあります。

このサイクルを可能にするために、私は『POS粗利』という新しい概念を採用しました。POS粗利とは、POSシステムの商品マスターに売価と原価を組み込むことで、品目ごとの粗利率が瞬時に把握できるものです。財務会計上の正確な粗利ではありませんが、近似値は把握できるため、常に利益を意識した改善が行えます」(大久保氏)

大久保氏は、PDCAの高速化とそれを支えるための情報システムを整備し、顧客のニーズに常に対応することが、小売業の売上と利益につながっていくと主張します。

「小売業は総じて利益率が低い業界のため、新しいことに投資しにくい面はあります。しかし、利益率が上がれば、人材教育と情報システムに対する前向きな投資ができるようになり、それがさらなる価値を生みます。価値を生むための行動の成果をデータで確認し、さらに改善して得た利益で前向きな投資を実行することが、私が考える企業再生の王道です」(大久保氏)

これからの小売業は「マーケティング業」に変わっていくべきである

大久保氏は小売業のさらなる発展のためには、小売業を販売業ではなく、「マーケティング業」として捉えるべきと主張します。

「小売業は顧客との距離が非常に近いため、顧客のニーズは迅速かつ正確に把握できます。店舗で集めたデータは、販売だけではなく、商品開発や流通まで最適化していくこともできます。まさに、マーケティング業ともいえるスタイルへと発展していくことが可能になります」(大久保氏)

とはいえ、小売業をマーケティング業に転換していくためには、DXによるデータの収集が欠かせません。

「いまではID POS(顧客情報と紐づいた購買データ)を使うことで個人別の購買履歴も把握できますし、位置情報技術を用いて店内の購買行動も把握できるようになっています。これらのデータを活用すれば、顧客一人ひとりの嗜好に合わせた“1to1”のデジタルマーケティングが可能になります。

たとえばネットスーパーであれば、プロモーションもインターネットを通じてより容易になり、その反応もすべて可視化されます。これからの小売業は顧客のニーズをデータで把握し、プロモーションを含めた改革がより重要になるはずです」(大久保氏)

小売業はむしろDXに向いている

企業が収集したデータは、そこから新たな知見が生み出せるという点において、“資産”ともいえる存在になります。つまり、データを収集している小売業としていない小売業の間には、利益の面で大きく差が出てくることが予想されます。

しかし大久保氏は、これからの時代はたとえ中小の小売業であっても、DXを導入しやすくなると予想しています。
「小売業、特に食品スーパーは単価が低く、粗利率もせいぜい20~30%です。これまではデータ分析に取り組もうとしても、費用対効果の点から断念していた企業も多いと思います。

ですが、これから技術が進化することで、分析の効率も精度も上がり、顧客ニーズがより正確に把握しやすくなります。たとえ単価や粗利率が低い小売業でも、データを活用して利益を上げることもできるようになるはずです」(大久保氏)

大久保氏は小売業という業界について、「挑戦する風土が根付いていない」というマイナス面を認識しつつも、PDCAが回しやすく、新たな取り組みがスタートしやすい業種でもあると指摘します。

「小売業は他社の動向を伺う傾向が強く、“先陣を切って何かを実行すると、失敗して損をしてしまうのでは”という考えが業界に根付いています。その一方で、顧客の反応がダイレクトに得られるため、新たな取り組みをスタートしたとしても、1週間もあればすぐに結果として返ってきます。非常にPDCAが回しやすい環境といえます。顧客が喜びそうだと思うことや売り方の工夫を、現場で実行できるという“創造的”な業種でもあります。

今やどの業界も、挑戦なくして成功はありえない時代です。今こそ試行錯誤を繰り返しながら、DXの成功事例を他社よりも先行して築いていく時代が来たといえるでしょう」

●大久保 恒夫(おおくぼ つねお)氏プロフィール

大久保 恒夫(おおくぼ つねお)

イトーヨーカ堂、プライスウォーターハウスコンサルティングを経てリテイルサイエンスを設立。「ユニクロ」「無印良品」など数々の小売チェーンの事業改革に従事。ドラッグイレブン、成城石井、セブン&アイ・フードシステムズにて代表取締役社長を歴任し、2021年3月より西友の代表取締役社長兼CEO。

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