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DXを推進するリスキリングとは?
ロボ研に聞く

DXを推進するリスキリングとは?ロボ研に聞く

企業がDXを推進するうえで、これまでITスキルを学んでいなかった非IT人材が知識やスキルを得る「リスキリング」が重要な要素といえます。しかし、ITに疎い非IT人材が効率よくリスキリングするためには、どうすれば良いのでしょうか?そのポイントを、非IT人材のリスキリングをメインビジネスとし、業界内で数多くの賞を受賞している株式会社ASAHI Accounting Robot研究所のマネージャー/テクニカルエバンジェリスト・澁谷匠氏に聞きました。

目次

非IT人材に効くリスキリングとは?

「リスキリング」という言葉を耳にしたことがあるビジネスパーソンは多いでしょう。リスキリングとは、時代の変化や新しい職務に対応するために、従業員が新しい知識や技術を身につけることを指します。特に、これまでITスキルを学んでいなかった「非IT人材」が、リスキリングによって知識やスキルを得ることは、企業がDXを推進するうえで重要な要素といえます。

非IT人材がリスキリングによって新たな知見を得るためには、それを教える側の存在も重要です。現在日本には、リスキリングの学習プログラムをビジネスとして展開する企業も存在しますが、山形県山形市に本社を構える「株式会社ASAHI Accounting Robot研究所」(以下、ロボ研)もそのひとつです。

同社はもともと会計事務所の業務効率化推進チームとしてスタートしましたが、2019年に法人として独立。以降、全国各地の中小企業や会計事務所に対し、RPA(Robotic Process Automation、ソフトウェアロボットを活用した業務の自動化)や、プログラミングの知識を必要としない、ローコード・ノーコード開発ツールの導入支援を行うなど、非IT人材に対するリスキリングをメインビジネスとしています。2025年6月時点で、全国159社延べ957人に勉強会を開催し、205社に対してDX推進伴走支援を提供しています。

ロボ研の取り組みは高く評価されており、2023年には経済産業省の東北経済産業局が主催する「TOHOKU DX大賞2023 支援部門」の最優秀賞を受賞。続く2024年には、中堅・中小企業のモデルケースとなるようなDXの優良事例を経済産業省が評価する「DXセレクション2024」にも選定、2024年度(第42回)IT賞を社会課題解決領域で受賞、さらに2025年には「日本DX大賞2025」のファイナリストにも選出されています。

なぜロボ研は、非IT人材のリスキリングにおいて、業界で高く評価されているのでしょうか?そして、非IT人材がリスキリングで新たな知見を得るためには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか? リスキリングに失敗しない方法を、同社のマネージャー/テクニカルエバンジェリストである澁谷匠氏に聞きました。

ひとりひとりのリスキリングが、
DXの近道である

――まずは澁谷さんが所属されている「ロボ研」について、どのような組織なのか簡単に教えてください。

私たちロボ研は、RPAをきっかけに企業がDXの第一歩を踏み出すことを支援し、日本全国の中小企業を元気にするためのプロ集団です。

ロボ研はもともと会計事務所のいちプロジェクトチームでしたが、RPAを業務に取り入れたことで業務効率が大きくカイゼンしたこともあり、“これはほかの会計事務所や中小企業にも広めたい”という強い思いを抱いたこと、およびさまざまな企業から「ぜひ私たちもRPAに取り組みたい」というような要望もたくさんあったことから、2019年に法人化しました。

私たちは、非IT部門を含む全ての従業員の方が自らデジタル技術を使いこなし、自ら業務変革を行っていくことを重視しています。そのため、DXを主導する特定の人物ひとりだけをリスキリングするのではなく、メンバーひとりひとりをリスキリングするということを大事にしています。

ひとりひとりのリスキリングが、DXの近道である

――なぜロボ研では、メンバーひとりひとりに対するリスキリングを重視しているのでしょうか? 例えば「DXを推進するリーダーを育てる」という考え方もあると思いますが。

大きな理由としては、現場の業務は現場の皆さんが一番理解しているため、現場の業務のカイゼンをしようとした時、メンバー全員がスキルを持っていた方が効率的だからです。

例えば社内のある業務をカイゼンするために、外部の業者を利用した場合、社内にスキルが定着しませんし、その後も何かカイゼンをする度に外注料金が発生し、維持管理のコストも嵩みます。

それならば、現場で働く社内の皆さんをリスキリングし、カイゼンを内製化していくことが、最短かつコストもかからない“最善のルート”ではないか、と私たちは考えています。

実は、私たちは最初からこのようなことを意識してサービスを提供していたわけではありません。今振り返ってみると、さまざまな企業の皆さんと一緒に課題を解決していった経験が、結果としてDX・リスキリングという言葉につながっていきました。

私たちはDXのはじめの一歩、1つの方法として、Power Platform(後述)などの使い方を現場の皆さんにレクチャーすることで、現場の課題を解決し、現場でカイゼンを継続していくお手伝いをしています。

――ITについて詳しくない非IT人材が、リスキリングで新たなスキルを学ぶというのは、簡単ではなさそうにも思えます。澁谷さんは講師として登壇されることもあると思いますが、実際のところはどうでしょうか?

たとえ非IT人材の方であっても、皆さんまったく問題なく学べています。「すごく楽しいね」と楽しんでいただく方も非常に多いです。

ロボ研の研修では、マイクロソフトのローコードでさまざまな業務システムを構築するためのクラウドサービスの総称である「Power Platform」、その中でもプロセスを自動化しRPA機能もある「Power Automate」、アプリを作成できる「Power Apps」の使い方をレクチャーしていますが、受講者の方は皆パズルを組み立てるように、フロー(自動化の仕組み)やアプリを作っています。例えば今まで手作業で何時間もかかっていた業務を、5分で終えるようなフローを作る方もいます。

これからの時代、労働人口の減少は避けられません。例えば数年後は、現在10人のチームでやっている仕事を、5人でやらなければいけない事態が訪れるかもしれません。研修に来られる方のお話を聞いていても、「スタッフが減ったけど補充されない」「そもそも、なかなか新人が入社しない」という声を耳にします。

今後、人手が足りなくなることが予想される中で、業務の仕組みを見直し、効率化を図るためには、現場のスタッフが業務をカイゼンしていく必要があると思います。たとえ非IT人材であろうとなかろうと、現場のスタッフが先ほど挙げたようなRPAツールやローコードサービスを活用し、自分たちで課題解決をしていくことが求められると考えます。

現場の皆さんが現場の課題を解決して、現場でカイゼンを継続していく。しかもそのカイゼンは1回で終わりではなく、ずっと続けていく必要がある。こうしたことから、私たちはDX推進の鍵は非IT人材のリスキリングにあると考え、その支援を行うのがDX推進のためにはベストな選択肢と考えています。

――ロボ研では、どのように非IT人材のリスキリングを行っているのでしょうか?

ロボ研の研修は、基本的な技術とその実践方法を学ぶ3日間のコース「勉強会」と、即戦力を最短で育てるコース6日間の「カレッジ」という2つのプログラムがあります。いずれの研修でも、受講者は実際の業務の中で使えるフローやアプリを最低1つは作成し、完成後には講師やほかの研修メンバーにアピールする「成果発表会」も設けています。ここで作ったフローやアプリは、もちろん自社に持ち帰って即活用していただけます。

3日間で行われる勉強会では受講者、講師ともに本気で挑む
3日間で行われる勉強会では受講者、講師ともに本気で挑む

勉強会もカレッジも、非IT人材の方が受けていただいて問題ありません。例えば「仕事ではExcelくらいしか操作しない」という方も、カレッジに多くご参加いただいています。

受講後も、エラーが出たときや疑問に思ったことをすぐ聞けるチャットでのサポートを提供しています。回答はロボ研のエンジニアが行い、問い合わせの回数は無制限です。リスキリングは研修が終わってからが重要です。研修の成果を実際の業務で実践していく中で、壁に当たることは必ず起こり得ます。こうしたサポートを活用することで、受講者の方は研修終了後も意欲を持って学び続けやすいのではないかと思います。

リスキリングのコツは、
学ぶ側も経営層も楽しむこと

――冒頭で触れたように、企業のリスキリングはあまり進んでいないようです。リスキリングをより推進するためには、学ぶ側、教える側ともにどのような姿勢が望まれるのでしょうか?

“とにかく楽しくやりましょう”ということでしょうか。というのも、私自身も楽しみながらITを学んだ経験があるからです。

私はもともとIT人材だったというわけではなく、前職では自動車部品を製造する企業の生産管理の仕事を長くやっていました。いわゆる非IT人材の人間であり、ITに詳しいわけでもなく、プログラミングに詳しい人間でもありませんでした。

しかし、2018年に生産管理部門からDXの部署に異動し、その初日に社内のメンバーからRPAの説明を受け、エクセルの操作を自動化する仕組みを作成しました。再生ボタンを押し、RPAが動作した瞬間、作業があっという間に完了し、“これで生産管理部門のメンバーの仕事を楽にできる!”と感動を覚えました。

このことは私のデジタルに対する原体験であり、現在のテクニカルエバンジェリストの仕事を行ううえでの原動力になっています。たとえ非IT人材であっても、“学ぶことは楽しいな”と思うことができれば、リスキリングを諦めず、継続して学び続けることができると思います。このようなマインドは、リスキリングで成果を出すという部分で、非常に大きなポイントになるのではないかと考えています。まさに楽しい=楽になる、ということです。

リスキリングのコツは、学ぶ側も経営層も楽しむこと

――逆に研修へ人材を送り出す側である企業の姿勢としてはどうなのでしょうか?

経営層など組織のトップの方が、DXに対して深い理解を示している企業は、私たちの経験として成功率が高いと思います。逆にトップがどこかでDXのことを知り、“誰かにやらせておけ”といったノリで安易に部下に任せるケースは、成功の可能性が低いと感じます。

DXに失敗しがちな企業は、デジタルを活用して、会社として何をしたいのか、DXの体制をどう組むか、DX担当者のサポートをどうするかというビジョンがありません。結果的に、「DXの成果はどうした」「できていないじゃないか」と、トップがDX担当者を責めるような事態にも追い込まれかねません。

DX成功の近道は、何よりもトップの方にDXを理解していただくことです。例えば独立行政法人情報処理推進機構の資料でも「経営者自らがリーダーシップを発揮して、コミットメントせよ」という旨が記載されています(独立行政法人情報処理推進機構「「DX 推進指標」とそのガイダンス」18ページ)。

弊社がDXに関する賞を受賞した時、同時に受賞した他の企業の皆さんとお話をすると、皆さんDXのことを理解されています。中にはDX担当者よりも、経営者の方がDXに詳しいこともあります。

――経営層がDXを楽しんでいるような感じでしょうか?

まさにそうです。実はロボ研の経営層も、DXを楽しんでいる節があると思います。例えば私は今回の取材のように社外でお話する機会は多いのですが、取材に臨む際は、代表(ロボ研代表取締役の田牧大祐氏)やCTO(ロボ研最高技術責任者の佐々木伸明氏)が「行ってこい!」「しっかりアピールしてこいよ!」と全力で後押ししてくれます。

2025年7月16日と17日に「日本DX大賞」というアワードが開催され、ロボ研もそのファイナリストに残っていますが、その場でも他の受賞された企業に、「どのぐらいトップがDXに関わっていますか?」と質問したいなと考えています。私の予想では、この受賞の場に出てくるような皆さんは一律トップの方がとても深くDXを理解されていると思います。

非IT人材でも、リスキリングでDXの主役になれる

――ロボ研の今後の展望について教えてください。

Power Platformの運用・管理に関する研修を検討しています。フローやアプリを作っていくと、同じようなものが乱立したり、会社を辞めた人が作ったものが残ることが起こります。私たちはこうした運用・管理についてもたくさんのノウハウを持っています。

――最後に、リスキリングで学び直しをしようとしている方にメッセージをお願いします。

非IT人材の方がリスキリングをする前は、「自分にできるだろうか」と不安や戸惑いを覚えるかもしれません。しかし、小さな成功体験を積み重ねるように、学びを習慣化していくことで、たとえ非IT人材であっても、いずれは誰もがデジタル変革、DXの主役になれると考えています。

私が研修や講演などで登壇する際、最後に必ず「『ご苦労さん』から『ありがとう』と言ってもらえる世界へ」という言葉をお伝えしています。

非IT人材でも、リスキリングでDXの主役になれる

これは、頼まれた仕事だけをこなして「ご苦労さん」という言葉で終わるのではなく、その先の「ありがとう」に繋がる仕事をしよう、というメッセージです。弊社の全員が大事にしているキーワードです。

リスキリングによってテクノロジーの力を使い、普段の仕事を楽にしていくことで、人間はより創造的で、より価値のある仕事ができる、そういう輝かしい未来を、私たちだけではなく全国の皆さんと一緒に作っていきたいという思いを、その言葉に込めています。

皆さんの業務における「作業」の部分はRPAのようなロボットに置き換え、「仕事」は人間が担う形に変えていきたい、というのがロボ研の使命です。

ぜひリスキリングの第一歩は、私たちと一緒に踏み出していただいて、一緒に成長していければと思います。私たちロボ研は、皆さんの挑戦を全力でサポートし続けたいと考えています。

非IT人材でも、リスキリングでDXの主役になれる

(会社情報)
社名:株式会社ASAHI Accounting Robot研究所
本社所在地:山形県山形市東原町二丁目1番27号
代表取締役:田牧 大祐
事業内容:DX推進支援、AI活用支援
設立:2019年1月
HP:https://asahi-robo.jp/

ローコードツールを活用した業務改善に強いDXソリューション企業。前身は税理士法人あさひ会計の業務効率化推進チームで2019年1月に法人化。「ロボットはロボットの得意な業務を、ヒトはヒトにしかできない業務を ヒトとロボット協働時代を推進する。」を合言葉に山形、仙台、東京、名古屋、大阪を拠点に北海道から沖縄まで全国各地の会計事務所、事業会社にPower Platformの導入支援/開発者育成支援と、AI-OCRサービスAISpectの開発/提供を行っている。

●インタビュイープロフィール

澁谷 匠(しぶや たくみ)

澁谷 匠(しぶや たくみ)
株式会社ASAHI Accounting Robot研究所
マネージャー/テクニカルエバンジェリスト

自動車部品製造業で16年間勤務し、前半11年半は生産管理を担当。後半4年半はRPA推進部門へ異動し、プログラミング知識ゼロからRPAやAI-OCRの技術・知識、全社展開の導入スキームなどを独学で習得。さらにDX推進部門の立ち上げと責任者を務め、全社的なデジタル化推進を実現後現職。製造業で培ったカイゼン魂と知見をもとに、「すべての人の仕事を楽にする」ことを目指し、Power PlatformでDXの未来を切り拓く伝道者として、日々全国へ変革の一歩を発信中。

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