【読書】
イントラプレナー(社内起業家)を目指す3冊

【読書】イントラプレナー(社内起業家)を目指す3冊

城田 優美(ライター)同じ仕事を繰り返す毎日。大量の情報に流されていく毎日。「なんとなく」で過ぎていく毎日。そんな毎日に少しだけ風穴を開ける、インプットの機会を持ってみませんか? 経験豊富な各界のプロフェッショナルたちが、1つのテーマについて3冊の本を紹介します。新たな扉を開いてくれる本が、きっと気づきを与えてくれるはずです。

目次

伊能美和子(いよく みわこ)さん

案内人:ヨコグシスト® 伊能美和子(いよく みわこ)さん
(株)Yokogushist代表取締役/CEO。NTTグループでイントラプレナーとしてクラウド型デジタルサイネージソリューション、日本初MOOC(大規模オンライン講義配信サービス)など多くの新規事業開発を行う。現在は、学研ホールディングスやタカラトミーなどの社外取締役、一般社団法人理事などを兼任。縦割り組織に“横串”を通す「ヨコグシスト®」を提唱。境界連結しながら産業DXや新事業創造を支援するイノベーションアクセラレーターとして活動中。

本と私

私は20年以上、NTTグループでイントラプレナー(社内起業家)として働いてきました。
NTTグループでは広告宣伝などさまざまな仕事を経験しましたが、初めて新規事業開発に携わることになったのは入社12年目のとき。NTT研究所の基礎技術を応用したビジネス開発を手掛けることになり、グループ内転籍をしながら6年がかりで業界横断のプラットフォームを実現することができました。

その経験の醍醐味が忘れられず、その後もイントラプレナーとして10以上の事業やサービスを立ち上げてきました。

イントラプレナーとして働くうえでこれまでずっと意識してきたのは、「今の世の中の空気や気分」と自分をアジャストし、「この先向かうところ」を想像しながら、先取りすること。
そんな私にとって読書とは、それらを可能にする手がかりだったり、未知の世界への旅のようなものだったりします。

仕事で読む本は知的好奇心を満たしてくれるテーマパーク、プライベートで読む小説は景色を楽しみながら想像力を膨らませてくれるリゾート、漫画や雑誌、絵本は近所の公園のような感じでしょうか。

本を読むのは、入浴中が多く、バスタブのふたを半分閉めて、タブレットスタンドと、スマホと、タオルを数枚と飲み物を持ち込みます。真夏以外は、飼っている猫もふたに乗ってくるので、かわいい旅の相棒になってくれています。

本を読んでいるときの頭の中は、遊園地の中のアトラクションを楽しむだけでなく、花壇の美しい小道を散策したり、絶景を眺められる展望台に立ち寄ってみたりしています。本の頭から順番に読むばかりではなく、時には興味のある横道にそれたり、中でコースアウトしたりして、別の所(本)に行くこともあります。ミステリーではあまり推奨できませんが、クライマックスを先に読んでしまうことも……(汗)。

ちなみに、小説などは、最近はオーディブルで聴くことも多くなりました。そのほうが、自分なりに映像が浮かんでくるからです。

ビジネスに関係するようなチャートが掲載されているような本は、そうはいかないので、紙の本の場合には付箋紙を貼り、裏紙(プリントアウトした紙で、裏面が白いもの)とペンで頭の整理をしながら読むときもあります。

適度に血流がよくなるためか、読んだ本をきっかけにふっとアイデアが浮かんだりするので、忘れないようにスマホでメモを取ったり、喋って録音しておいたりと、お風呂場がさながら第3の仕事場という様相を呈してしまうときもあります(笑)。

イノベーションを阻害しているのは行き過ぎた
“縦割り”組織とカルチャー

2020年、私は初めての転職をしました。
当時オファーをいただいていた複数の仕事を副業としつつ、本業では引き続きイントラプレナーとして新事業開発をするという「パラレルキャリア」にチャレンジしたいと思ったからです。

ところが、そこに訪れたのがコロナ禍による非常事態。これまでお世話になった方へのごあいさつもできず、新たな出会いもしにくい環境となりました。
そんななか、音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」のイントラプレナーの方々が集まるルームに参加。そこで、自分の社内起業のスタイルを振り返り、イノベーションに関するさまざまな学説や、トレンドを学ぶ機会を得ました。

それをきっかけに知ったのが、今回本をご紹介している、境界を越境しながら“ドット”や“パーツ”を探索し、新結合=イノベーションの初期段階をプロデュースする“バウンダリー・スパナー(境界連結者)”の存在。私がイントラプレナーとして果たしてきたのは、まさにこの役割だったと思い当たりました。

一方、日本には「横串を通す」という言葉があります。
縦割りの組織や業界の壁を越えて横につながり、より高い視点、より大きな範囲で共通の目標を達成させる、というような意味です。

現在、さまざまな会社でお仕事をさせていただいていますが、共通してイノベーションを阻害していると感じるのは、行き過ぎた「縦割り」の組織とカルチャー。
その解消のために、私は異なるコミュニティの“スポーク(放射状に広がるネットワーク)”を“ハブ(ネットワークの中心にある結節点)”としてゆるやかにつなぎ、さらに“触媒”のような役割を担う人材のことを「ヨコグシスト」と名づけ、そのロール(役割)やジョブ(仕事)の重要性の社会的認知を高めるために、人材の発掘や育成を支援しています。

また現在、企業にはCEOやCTOなどさまざまな“CxO”がいますが、その一角に、企業内連携や外部とのアライアンスを専門に行う越境人材として「CYO(Chief Yokogushi Officer)」を配置することを提唱したいと思っています。

バウンダリー・スパニング(境界連結)のための
6つのステップ

『組織の壁を越える――「バウンダリー・スパニング」6つの実践』
(クリス・アーンスト、ドナ・クロボット=メイソン)
英治出版
『組織の壁を越える――「バウンダリー・スパニング」6つの実践』(クリス・アーンスト、ドナ・クロボット=メイソン)英治出版

“バウンダリー・スパニング”とは、多様な価値観を受け入れながら、組織や部門の境界を連結することで、“バウンダリー・スパナー”はそれを専門的に行う人のこと。

『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の共著者の一人、ハーバード・ビジネススクールのタッシュマン名誉教授が1977年に発表した論文で広まった概念です。
「イノベーション」とは、新たな組み合わせにより、これまでにない価値を創造すること=「新結合」を意味します。スティーブ・ジョブズのスピーチでの言葉、「Connecting the dots」にも通じます。

本書では、世界の多くのセクターの事例を調査・分析・研究することにより導き出されたバウンダリー・スパニングに必要な6つの要素とステップが紹介されています。

詳細についてはぜひ読んでいただきたいのですが、ざっくり説明すると、まずは、そこに「境界があることを認識」させることから始め、そこにある「境界への敬意」を相互に持たせる。そのうえで、その「境界をつなぎ合わせ」、当初あった「境界の位置をずらして再構築」。そして、境界同士を「1枚の布のように織り合わせ」、「新たな境界に囲まれた集団」に生まれ変わらせるのが、バウンダリー・スパニングの極意ということです。

それは、私が20年超イントラプレナーとして実践してきたこととも重なりますし、逆にうまくいかなかったときには「このステップをきちんと踏めていなかったな」と、今にして思い当たります。

また、人は、どこかに所属しながらも唯一無二の存在でいたい、という根源的な欲求に支配されているので、「差異化」と「統合化」という2つの力のせめぎ合いを理解し、この6つのステップを実践しなければならない、という本書の指摘には大変納得感がありました。
翻訳本かつ大作なので、読破するにはなかなか骨が折れますが、イノベーションが起きにくいと悩む経営者、実践者にぜひおすすめしたいです。私も折に触れて読み直している本です。

現代の社会構造をも解き明かす組織論の古典

『タテ社会の人間関係』
(中根千枝)講談社現代新書
『タテ社会の人間関係』(中根千枝)講談社現代新書

1967年に刊行され、もはや日本の文化論、組織論の古典ともいえる本書。

学生の頃に読んで以来、「ヨコグシスト」という概念に行きあたってから再読したのですが、長い時間が経過しているにもかかわらず、まったく色あせないどころか、現代の社会構造を解き明かしていることに、今だからこそ気づくことができました。

企業に所属しているビジネスパーソンの場合、自己紹介をするときに、「〇〇会社の△△と申します」と言って名刺を差し出すことが多いと思いますが、まさに、筆者のいうタテ社会を大きく形作る“場”をベースにした自己定義をしているわけです。

ゆえに、定年などを迎え、その“場”を失ってもなお、「元〇〇会社の……」と言って、自作の名刺を配ってしまう、などという、笑えないどころかちょっぴり悲しい話にもなってしまうのです。

かくいう私も、会社を辞めると覚悟してから、次の“居場所”として自分の会社を設立し、その名刺を作りました。ミドルエイジ・クライシスが、仕事や収入を失うのと同じくらい、いや、それ以上にわが身の置き所を失うことによるアイデンティティ崩壊の恐怖や不安から来るものだということを、私は身をもって体験しました。
事実、会社を辞めてからも、何とも言いようのない寂しさを感じ続けてもいます。

もし、少しだけ違うことがあるとすると、著者の言う“資格”という概念を、会社所属当時から認識していたことかもしれません。自ら設立した業界「コンソーシアム」のほか、友人の組織する協会など、複数の“場”に自分なりの役割=“資格”を明確に意識して参加してきました。

今も、どの場にいても「ヨコグシスト」でありたい、という思いが強くあります。「タテ社会」が強いからこそ、あえて「ヨコ」のベクトルを持って働く役割の人が必要だと考えているからです。
経糸と緯糸があって初めて布になります。社会も同じです。

未来を変えていく仕事をするために

『ソーシャル・イントラプレナー ―会社にいながら未来を変えられる生き方―』
(リーグ・オブ・イントラプレナーズ[マージョリー・ブランズ、マギー・デ・プリー、フローレンシア・エストラーデ])
生産性出版
『ソーシャル・イントラプレナー ―会社にいながら未来を変えられる生き方―』(リーグ・オブ・イントラプレナーズ[マージョリー・ブランズ、マギー・デ・プリー、フローレンシア・エストラーデ])生産性出版

「ソーシャル・イントラプレナー」とは、「企業や行政などで、その組織の持つリソースや社会的影響力を活用して、中から社会課題を解決する人材」のことで、CSR、サステナビリティ経営の大家であるジョン・エルキントン氏によって、2008年に提唱された造語です。

本書は、エルキントン氏とも近いメンバーによって設立された、社会変革や環境活動に取り組む世界のイントラプレナーによる学習コミュニティ「リーグ・オブ・イントラプレナーズ」によるものです。

ちなみに、私が社内起業を始めた2000年前後は、「アントレプレナー(起業家)」も、「イントラプレナー(社内起業家)」も一般的な言葉ではありませんでした。
それでも、会社のアセットを使って社会的に意味のある事業を作るという魅力に取りつかれ、グループ内でそういう仕事ができる会社や部署を探して異動させてもらい、「ソーシャル・イントラプレナー」を志してきました。

本書では、未来を変えていく仕事をするには、「成し遂げる意志とスキル」を身につけることを推奨。ソーシャル・イントラプレナーとして生きるためのマインドセットからピンチの切り抜け方まで、各ステップで必要な考え方が書かれています。
詳述はしませんが、スキルの項目については、まさに私自身がやって来たことが見事に言語化されており、「もっと早く言ってよー!」という気持ちになりました。

その中でも、コミュニティ形成は、見過ごされがちですがとても重要。私自身も事業開発のかたわらこれまでいくつかのコミュニティを立ち上げ、現在も運営に携わっています。
さらに、仲間たちと「イントラプレーヌ協会」(イントラプレーヌは、女性のイントラプレナーを指す造語)という女性の社内起業家の経験をシェアして、その活動をサポートするメディアを運営するほか、いくつかのコミュニティに参加しています。

「ソーシャル・イントラプレナー」のコミュニティも、本書を翻訳したメンバーを中心に日本で立ち上げ予定とのことです。
イントラプレナーの皆さんには、こうしたコミュニティへの参加を強くおすすめしたいと思います。

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
構成:城田優美
編集:岩辺みどり
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)

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