岡山ガス株式会社 営業戦略担当取締役 河原勲氏

岡山ガス株式会社
営業戦略担当取締役

河原勲氏

「AI工事検知ソリューション導入の反響は大きく、すでに全国の都市ガス事業者から多くの問い合わせがます。利用者が増加すればAIがどんどん賢くなるので、積極的にPRしていきたいと考えています」

岡山ガス株式会社 供給部 供給保安グループ グループ長 難波崇氏

岡山ガス株式会社
供給部 供給保安グループ
グループ長

難波崇氏

「システムが成長するにつれて未照会工事の検知件数は増え、努力した以上に成果は上がっていると実感しています。今後もさらに工事の検知率、道路の網羅率を向上させる取り組みを進めていきます」

 

課題

ベテラン社員の退職で工事パトロールの人材確保が困難に
デジタル技術の活用で人に頼らない新たな仕組みづくりへ

岡山ガス株式会社は1910年(明治43年)の創業以来、都市ガス事業を主体に地域社会に支えられ着実に発展を遂げてきた。現在は「お客さまの幸せが私たちのエネルギー」という理念を掲げ、安定供給と保安の確保を通して企業の社会的責任を果たし、地域社会に貢献している。同社では近年、DX推進を通じた業務効率化にも積極的に取り組んでおり、「社員が活かせる時間を創出し、クリエイティブな業務に専念できる環境づくり」を全社的な方針として推進している。その取り組みの一環として課題となっていたのが、岡山県全域の未照会工事を発見し、指導を行う工事パトロール業務だった。

破損時に周囲への影響が大きいガス管が埋設される道路上での工事は、工事事業者からの事前申告が推奨されている。しかし、義務化はされていないため少なからず申告漏れが存在する。こうした未照会工事を発見するために、同社では1週間ごとに定期的なパトロール業務を実施。3名の担当者が1日がかりでクルマを走らせ工事状況を確認していた。「従来、工事パトロール業務はガス供給に精通するベテラン社員が担当していました。しかし、その3名が立て続けに会社を去ることになり補充が困難な状況に直面していたのです。新たに社員を投入する人的余裕はなく、派遣社員への委託は派遣業法上困難、関係会社への委託打診も収益性の問題で実現しませんでした。単純作業ではあるものの現場での適切な判断はガス供給の経験が必要になるため、まさに八方ふさがり。いったんパトロール業務を中断せざるを得ない状況でした」と当時を振り返るのは、営業戦略担当取締役の河原勲氏(以下、河原氏)だ。

そもそもの問題として、たとえ新たな人員が確保できたとしても根本的な解決にはならない。単純作業を誰かに強いるだけで、クリエイティブな業務に専念できる環境づくりから逆行してしまうためだ。そこで同社では、「人まかせ」の工事パトロール業務から脱却する新たなデジタル活用を模索していた。

 

対策

NTTドコモビジネスとAI道路工事検知ソリューションを共同開発
未照会工事を自動判別するシステムを加えて現場へ実装

NTTドコモビジネスでは、市街地映像を提供する映像分散管理プラットフォーム「モビスキャ」を提供している。これはモビリティ、技術、データ活用という各分野のパートナーとの協創を通じて、市街地を走行するモビリティに搭載されたカメラから収集した映像データをさまざまな課題解決に活用するサービスだ。岡山ガスの課題を解決する糸口となったのは、NTTドコモビジネスからのモビスキャを基盤とした「ある」提案だった。「岡山県でバス・タクシーなどの旅客運送業を営む、両備グループの方と一緒に訪ねてこられました。そこで、5GとAIを有効活用した工事検知の取り組みについての提案を受けたのですが、まさに話を聞いた瞬間に我々の課題解決にぴったりだと感じました」(河原氏)

提案されたソリューションは両備グループのバス・タクシー車両にドライブレコーダーを設置し、岡山県全域を走ってもらい、AI技術により工事現場を自動検知するというものだった。他社からも類似サービスの提案があったが、岡山ガスが最終的にNTTドコモビジネスを選定する決め手は以下の点だった。「まず、こちら側でモビリティパートナーを探す必要がないこと、サーバーやドライブレコーダーなどの設備導入が不要でサービスとして利用できることです。そこから我々がデータ活用パートナーとなり、NTTドコモビジネスとモビスキャを活用したAI道路工事検知ソリューションの開発に着手したのです」(河原氏)

本サービスにおける各社の役割

前例のない新たなソリューション開発は試行錯誤の連続だった。どうしてもAIを育てていく作業が必要なるため「実稼働までには数年はかかる覚悟で挑んだ」と、河原氏とともに開発に携わった供給部 供給保安グループ グループ長の難波崇氏(以下、難波氏)は語る。「当然、通常の業務を回しながらのため、チームメンバーの負荷は一時的に上がります。そこに難色を示すメンバーもいましたが、実現できれば10倍、20倍は業務が楽になると言い続けて説得、巻き込みながら進めていきました。AIを学習させることで検知率を高め、何台のバス・タクシーを走らせれば道路の網羅率が上がるのかの検証を行い、少しずつ理想に近づけていったのです。検知率と網羅率、ともに8割を実装の目安にしました」(難波氏)

ブレイクスルーになったのは岡山ガスが独自の工夫だった。通常業務で利用するガス管が埋まる場所を把握するGIS(地理情報システム)と連携。その地図上に申請済みの工事情報を展開できる保安管理システムを構築して、AI道路工事検知ソリューションからの情報と既存の工事情報を突合、確認が必要な未照会工事のみを効率的に抽出する仕組みを実現したのだ。「従来は手入力のExcelで工事情報を管理していたのですが、すべてデータとして保安管理システムに投入することで、AI道路工事検知ソリューションから出たデータをぶつければ効率的にチェックできるようになりました」(河原氏)

こうして、両備グループのバス・タクシー車両80台のドライブレコーダーの映像から道路工事をエッジAIで検知・分析し、システムに飛ばすAI道路工事検知ソリューションは岡山ガス仕様にチューニングされて現場に実装された。当初の予定よりも期間は短縮されたが、結果的に着手から約2年を要していた。

 

効果

未照会工事の発見件数が4倍増、CO2排出量の削減効果も
今回のデータソースを活用した地域貢献の施策にも挑む

AI道路工事検出ソリューションの本格実装後、現場ではさまざまな成果が現れている。もっとも顕著な効果は未照会工事の発見件数が来週0.1件から0.4件、4倍も向上したことだ。「我々はさまざまな手段で道路工事の事前申請を継続的に呼びかけてきました。これまでの取り組みで未照会工事が減少する、つまり分母が小さくなっている中で発見率が4倍に伸びたということは、人手頼りだったころ頃に比べて実質的な発見率が大幅に改善したことを意味しています。さらに、工事パトロール用の業務車両を廃止したことで、年間約1トンのCO2排出量削減も実現できています」(河原氏)

また運用面では検知した工事に対してスコアリングシステムを導入し、カラーコーン、矢印看板、重機、作業員などの要素ごとに点数を付与。90点以上の高スコア案件を優先的に確認することで運用の効率化を図っている。「10秒程度の映像確認で工事の有無を判断でき、必要に応じて現場担当者にタブレットで位置情報を共有して迅速に対応できます。以前は住所を伝えても場所の特定に時間がかかっていましたが、いまでは即座に現場に向かるようになりました。また、誤検知をフィードバックすればAIが学習しますので、使うほど精度が上がっていく仕組みになっています」(難波氏)

AI道路工事検出ソリューションの利用画面

現在、岡山・倉敷エリアで合計80台の車両がデータ収集に協力しており、工事の検知率・道路の網羅率ともに当初目標の8割を達成。工事事業者の間でも「事前申請しないと、すぐに岡山ガスに工事が見つかる」という噂が広がり、事前申請の徹底という本来の目的達成にも寄与しているという。

今後、岡山ガスではこのソリューションをガス工事検知にとどまらず、より広範囲な地域貢献に活用する構想を描いている。高齢者の徘徊検知、通学路の安全性評価、柵のない用水路の危険箇所特定など、地域の安全向上に向けたさまざまな用途での活用を検討している。「地域密着型のサービスを提供するガス事業者として、地域貢献は重要な使命の11つです。このデータソースを活用して自治体や地域企業と連携し、岡山県全体の安全性向上にも貢献していきたいですね」と、河原氏は熱く展望を語る。

集合写真

導入サービス

モビスキャ

モビスキャとは、市街地映像を提供する大規模な映像分散管理プラットフォームです。
市街地を走行するモビリティに搭載されたカメラから収集した映像を、必要とするお客さまへ提供します。また、市街地映像データ活用の新たな可能性を模索し、課題解決にむけて新たなビジネスの協創への取り組みも行います。

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岡山ガス株式会社

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事業概要
岡山県を中心に都市ガス事業を展開。地域に密着したエネルギー供給事業者としてDX推進を進める一方、オープンイノベーションプログラムを通じた地域企業との協業も推進している

URL
https://www.okagas.co.jp/


(掲載内容は2025年9月現在のものです)


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