森岡 康高Yasutaka Morioka
Yasutaka Morioka
森岡 康高
未来の技術だと思われがちな量子技術を既存のサービスと組み合わせながら、ビジネスの世界へ引き寄せます!

経歴
大阪府出身。2009年にNTTコミュニケーションズ株式会社(現 NTTドコモビジネス株式会社、以下 NTTドコモビジネス)に入社。パブリッククラウドサービス「Cloudn(クラウド・エヌ)」の立ち上げから参画し、約10年間にわたってクラウドシステムの開発・オペレーションを担当。2021年からイノベーションセンターに所属し量子技術(主に、量子コンピューター、量子暗号通信、耐量子計算機暗号)の技術調査、将来ビジネス検討、実証実験などを実施中。
趣味は、ライブ鑑賞、レコード収集、ギター。
活動履歴
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主な講演活動 | |
過去のメディア対応実績 |
インタビュー
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01
エバンジェリストとしての得意分野とミッション
量子技術が専門です。量子技術を用いた技術探索や、NTTドコモビジネスにおける新規ビジネスの創出、PoCを実施する中で、一歩先に進んでいるのが、量子コンピューターでも解読が難しい「耐量子暗号」に関する取り組みです。
実は、2009年にNTTドコモビジネスに入社してからの約10年間は、量子分野とは関わりがありませんでした。元々OCNのサーバー系保守からキャリアをスタートし、クラウドシステムの開発・保守のエンジニアとしての経験を重ねてきました。特に、パブリッククラウドの「Cloudn(クラウド・エヌ)」のチームにいた頃は、キャリアの中でも貴重な経験を得た時期。トラブル発生時にはマーケティング、開発、保守全員が一丸となって対応するという、大企業では珍しいベンチャー気質な組織の中で鍛えられました。
そして2021年よりイノベーションセンターの現職に就き、初めは量子アニーリング*1に触れることから始まりました。ちょうどD-wave社(量子コンピューターの研究開発を行うカナダのスタートアップ企業)が盛り上がっていたタイミングで、アニーリングマシンを使ったり、技術探索をしたりしていました。しかし、当時は社内に実績も相談できる相手もおらず、結果に結び付かない苦しい日々でした。自分の強みはゼロから一を生み出す行動力だと思っていて、まずは今ある技術を活用して使えるものなのかどうかを試し、失敗すれば次のネタを探せばいい!という気持ちでトライアンドエラーを繰り返していました。何でもいいからネタを見つけたい思いでいろいろなイベントやセミナーにも参加していた時、「量子コンピューティングEXPO」の会場で、元イノベーションセンター所属で現在はNTTアドバンステクノロジ(以下 NTT-AT)に在籍されている先輩と偶然再会。この出会いが、耐量子暗号を活用したPoC実証や新たな案件創出にもつながりました。
*1 量子焼きなまし法。量子揺らぎを利用して最適化問題を解く方法。
また、量子物理に明るいことも、エバンジェリストとして活動していく上で生かせる点だと考えています。大学の恩師は、元々NTTの厚木研究開発センタでQKD(量子鍵配送)*2 の研究をしていた人で、今でもよく相談しています。私自身は大学の研究室でQKDではなく光伝送の研究をしていたのですが、元来の物理好きは今の仕事に役立っている部分も多々あります。量子物理の知見を生かし、量子技術を知らない方々にとっても分かりやすい解説をし、魅力を広く伝えていきたいです。世間一般では、量子技術はまだ遠い将来の技術というイメージがあるかもしれません。そのイメージを払拭して今に近付け、皆さんにもっと興味を持っていただきたいと思っています。
*2 量子力学を用い、量子通信路で秘密鍵を共有する鍵配送技術。
NTTグループ全体における量子研究の歴史は長く、ポテンシャルを発揮できる分野です。今後、量子分野の実用化を加速できるよう、NTTドコモビジネスのエバンジェリストとしての役割を果たしていきます。
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02
これまでの活動を代表するプロジェクト
量子コンピューターでも解読できない暗号通信、PQC(耐量子計算機暗号)*3とQKDの実証実験です。2025年1月には、NTTドコモビジネスとして量子技術分野では初となるニュースリリースを発表し、社会から多くの反響を頂くきっかけにもなったプロジェクトでした。NTT社会情報研究所(以下 社会研)、NTT未来ねっと研究所(以下 未来研)、NTT-ATが協力し、耐量子暗号分野における次世代のセキュリティアーキテクチャに挑みました。約2年間にわたり共同実験を重ねることで、システム全体の通信において、量子コンピューターでも解読困難なアーキテクチャの具現化にようやく成功しました。
*3 量子コンピューターでも解読できない数学問題を安全性の根拠とする公開鍵暗号技術。
本プロジェクトの中で私は、耐量子暗号の観点からイノベーションをけん引する立場で、先進技術を実用的なシステムに落とし込む役割を担いました。社会研と未来研が開発した耐量子セキュアトランスポートをベースにしながら、NTTドコモビジネスのお客さまが理解しやすいWeb会議アプリと組み合わせることで、実際に触って体感できるPoCシステムを開発。この取り組みで革新的なのは、PQCとQKDの両方を活用し、システム全体の通信が量子コンピューターでも解読困難な暗号でセキュアな状態になっている点です。これは、内閣府の量子技術イノベーションの「Usecase8:総合的なセキュリティ」で描かれている方針を基盤に開発しました。
今後の量子コンピューター時代に向けて課題となるのが、既存暗号方式からPQCやQKDといった次世代暗号方式への移行を加速させることです。すでにアメリカを中心とした海外では、主にPQCへの移行が加速中。国内でも次世代暗号への関心をより一層高め、実用化を促進していくことが求められています。量子分野の研究は、今後ますます社会へのインパクトと恩恵をもたらすことでしょう。
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03
NTTドコモビジネスと共に描く未来
私は、まだ見ぬ未来をテクノロジーで創造し、社会の常識を塗り替えていくことを実現したいと思っています。その要因の一つとなるのが量子技術だと確信しています。
今、量子コンピューターに最も期待されているのは、計算精度の高いシミュレーションです。例えば、車の空気抵抗を計測する風洞実験や、創薬における非臨床試験の分野では、これまでは実際の設備を使って実証しなければなりませんでした。高性能の量子コンピューターの登場により、シミュレーションによる計算で実証が可能となります。実証実験の設備がそろっていない環境でも精度の高い測定ができるようになるのです。その結果、各業界から新しいプレーヤーが次々と登場し、盤石だったビジネスや社会構造に変化が生まれると想像できます。
一方で、量子コンピューターを悪用する脅威にも注意が必要です。それを見据え、安心してユーザーに利用してもらえるようなセキュリティアーキテクチャの実現も同時にめざしていきます。
NTTグループでは、量子分野で多くの研究実績を築いてきました。そして、NTTドコモビジネスは実用化を先導する組織であり、実用化するための多くのインフラやサービスを持っています。このNTTドコモビジネスのインフラ上で新しい社会構造や価値観が生み出され、私たちの次の世代が希望に満ち溢れるよう、量子技術の可能性を未来へつなげていきます。
※本記事の内容は取材時のものであり、組織名や役職などは取材時点のものを掲載しております。