会場湧かせた「幻のサヨナラトライ」。
折り返しの第4節は激闘ドロー!!
日本最高峰「トップリーグ2021」は、リーグ戦の折り返しとなる第4節を迎えた。
1勝2敗のNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス(以下アークス)は、本拠地である千葉・浦安市から、神奈川県・相模原市へ遠征。
3月14日(日)、三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下三菱重工相模原)が待ち構える相模原ギオンスタジアムに乗り込んだ。
「『いかに自分達の形を構築してトーナメントにもっていけるか』ということが、今回のトップリーグでは大切だと思っています」(FL目崎啓志)
アークスの選手会長が試合後にそう語ったように、今季はプレーオフが最重要だ。
全7試合のリーグ戦後、4月17日(土)に始まる全20チームによるトーナメントはノックアウト方式。負ければ敗退の一発勝負だ。
トップリーグチームは全16チームがプレーオフに参加できることもあって、リーグ戦ではより多くの選手に試合経験を積ませ、あくまでプレーオフに照準を合わせているチームもいる。
ただリーグ戦の結果は、プレーオフでの振り分けに関係する。ひとつでも白星を積み重ね、上位を狙える位置からプレーオフをスタートしたいところだ。
第4節の相手、三菱重工相模原は19年度にトップリーグ初勝利を挙げたチーム。
しかし今季は第2節で宗像サニックスからトップリーグ2勝目を奪っており、調子は上向き。勝敗はアークスと同じ1勝2敗だ。
元アークスの小林訓也選手も先発に名を連ねるほか、ニュージーランド代表を経験した選手もおり、世界トップクラスの実力者も多い。けっして侮れない相手となった。
乗り込むアークスは、第3節クボタ戦からメンバー23人中9人を変更した(先発5人、リザーブ4人)。
フォワードでは、明大卒で2年目のPR(プロップ)齊藤剣、立命大卒で同じく2年目のHO(フッカー)山口達也、選手会長を務めるFL(フランカー)目崎啓志が今季初先発。
20歳以下のNZ代表を経験している2年目のLO(ロック)ジミー・トゥポウ、バックスでは東海大卒のWTB(ウイング)石井魁も先発に復帰する。
リザーブでは、ムードメーカーの一人である庵奥翔太、鶴谷ツインズの弟・鶴谷昌隆、リーグ屈指の快足を誇る光井勇人、スキルフルな元日体大キャプテンの石田大河が入った。
※三菱重工相模原戦のメンバーはこちら
「この一週間は『自分たちのスタイルに自信をもってやりきる』ことにフォーカスをしてきました」(途中出場の平井将太郎)
アークスのスタイルとは「キープ・アタッキング・ビッグスペース」。様々な手段で大きなスペースを攻略し、観客を楽しませつつ、勝利を手にする。
ペナルティゴール(PG)でひたすら3点を積み重ねていくようなラグビーはしない。観客と自分達をワクワクさせるアークスのスタイルを信じ、やりきる。
そんな覚悟をもって、快晴のピッチに立ったアークス。前半は強烈な風下となり、逆風に煽られながらの展開となった。
「アタックでリズムを作りたかったのですが、次でトライを獲りたいというフェーズでミスが起きたり、反則が続いて、なかなか攻撃が続かないシーンがありました」(SO(スタンドオフ)前田土芽)
序盤戦は三菱重工相模原が風上を活かしたキック、ブレイクダウンの攻防から優位に立った。
すると三菱重工相模原は前半16分、29分にアークスのエリア左を攻略。相手11番が連続トライを挙げ、アークスは12点(0-12)を追いかける展開となった。
しかし停滞ムードを断ち切ったのは前半31分、前節に続いてWTB(ウイング)張容興がきらめきを放った。
自陣でディフェンスを続けるなかで、相手のパスを読み切り、レシーバーの死角から前に飛び出る早業。そして見事なインターセプト!!
そのまま剛脚で走りきり、この日チーム初トライ。SH(スクラムハーフ)グレイグ・レイドローのコンバージョンキックも成功し、5点差(7-12)に詰めた。
「局面局面で圧倒できている部分はありましたが、最終的に決定力に欠けていました」(FLリアム・ギル)
スクラム戦は前半からアークスの圧倒劇。たびたびペナルティを奪い、FB(フルバック)シルヴィアン・マフーザは自身で突破も図り、華麗なパスワークでもアタックに貢献。
それぞれが魅力を放つが、前半終了間際に敵陣ゴール前で迎えた自軍スクラムでは、相手の好守もあってトライを奪えず。5点ビハインド(7-12)のまま後半へ向かった。
「力があるチームだということは自分達が一番分かっています」
試合後にそう力強く断言してくれたのはFL目崎。後半はそんな筑波大卒の27歳が、ラック最後尾からピック&ゴーでいきなりの独走。相手もかわすビッグゲインで存在感を示す。
そして敵陣に入ったアークスは後半6分。
フォワードの連続攻撃から、途中出場の鶴谷昌隆がふたたびラックから持ち出し、片腕で後半最初のトライ!!ゴール成功で14-12とし、ついに逆転に成功した。
「心理的には劣勢だったので、自分達を有利にしたい場面でした。外側にスペースがあり、それを自分達が攻略することができ、結果トライが生まれたことは良かったです」(WTB石井魁)
逆転直後の後半8分、アークスは相手のキーマンであるCTB(センター)マイケル・リトル選手の突破を許し、逆転を許してしまう悪い流れ。
ふたたび5点を追いかける立場(14-19)となったアークスは後半17分、自陣にさがり劣勢となったが、相手のラインアウトのミスを誘って再獲得すると、右へ大きく展開。
右隅でFBマフーザが突破し、ここでサポートしていたWTB石井魁がスピードに乗ってゴール中央に同点トライ!!
スコットランド代表の英雄、SHレイドローのキック成功で21-19。再逆転に成功した。
さらに2本のキックから鮮やかな4トライ目が生まれる。
まずは自陣からSHレイドローが絶妙な位置に大きなキック。これを好タックラーであるWTB張がドンピシャで捕球した相手に入り、こぼれたボールを再獲得。
2本目のキックはCTBシェーン・ゲイツの大外へのキック。これをFBマフーザが捕球し、ふたたびWTB石井へ内返し。27歳のトライゲッターが右隅に押さえ、ゴールは不成功も26-19とリードを拡げた。
「スクラムは僕らの仕事としてプライドがあります。準備していたことを出して、仕事を果たせた喜びの現れだったと思います」(平井将太郎)
リードして迎えた後半32分で、自軍スクラムをプッシュしたのはアークス。ペナルティを奪い、猛々しく吠えた途中出場の平井は、スクラム勝利の瞬間をそう振り返った。
しかし直後のラインアウトでボール確保に失敗。この日はラインアウトの精度に苦しんだ。
するとアークスは後半31分、ラック中央を破られて失トライ。残り8分で同点(26-26)となり、どちらに勝敗が転ぶか分からぬ緊張状態でゲームは最終盤へ。
快晴の下、競った展開に会場は大興奮となり、ラグビーができる、ラグビーが見られる幸福がスタジアムに充満していた。
最終盤、連続攻撃を仕掛ける三菱重工相模原。ここで後半36分に途中出場の鶴谷昌隆が起死回生のジャッカル!!
その後攻撃権はふたたび相手に移るが、ここからオーストラリア代表15キャップのFLギルが獅子奮迅の活躍を見せる。
フルタイムのホーンが鳴る直前、FLギルが背走しながらの一撃タックルで相手をダウンさせ、途中出場の佐藤大樹が絡んでボールを奪取!!
その後右隅でボールを受けると、なんとFLギルは無人となった防御裏にキックを転がした――。
「その場の瞬時の判断でした。私たちの人数が余っていて、相手のウイングが上がることでそれをカバーしました。ということは裏が空いた、と認識しました。私の外にも内にも足の速い選手がいることは分かっていたので、キックを選択しました」(FLギル)
これをFBマフーザが再獲得。さらにキックを蹴ったFLギルに戻して、献身性溢れる28歳がインゴールでジャンピング・トライ!!
劇的なロスタイムの勝ち越し“サヨナラトライ”――そう思われたが、ボールを再獲得したFBマフーザがオフサイドの位置だったと判定され、幻のトライに。
劇的な今季2勝目を逃したものの、引き分けに与えられる勝ち点「2」を勲章として手にした。
次戦は1週間のBYE(休みの週)を挟んで、金曜夕方(18時キックオフ)のナイトゲーム。3月26日(金)、東芝ブレイブルーパス戦が次なる舞台だ。