崩れぬ地力は見せた。
奮起期待の「千葉ダービー」敗戦。
ショッキングな立ち上がりから見事にカムバックした。
少ない好機を活かし、ショートキック→再獲得の鮮烈なトライもあった。歓喜のスクラムトライも奪い、懸命なタックルで何度もピンチをしのいだ。
不調ながら諦めない姿勢、着実に重ねてきた地力を見せ、大崩れしなかった。しかし――
国内最高峰「トップリーグ2021」に参戦するNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス(以下アークス)。
第3節を1勝1敗で迎え、3月6日(土)は、東京・江戸川区陸上競技場で2勝のクボタスピアーズと激突。
千葉・浦安市を本拠地とするアークスに対して、クボタは近隣の船橋市が拠点。負けられない「千葉ダービー」に臨んだ。
開幕2連勝のクボタは、アークスと同様に初の4強入りも見据えている好敵手だ。
昨シーズンは1点差(27-28)で惜敗したが、今シーズンは1月の練習試合で勝利(26-14)。一進一退の戦いを繰り広げてきた。
アークスは先週の第2節トヨタ自動車戦で今季初黒星を喫しており、第3節クボタ戦は白星先行に戻したいところ。
先週からは先発5人を入れ替え、リザーブには新たに2人がメンバー入り。先発5人は今季初スタメン、リザーブ2人は今季初出場というフレッシュな陣容となった。
先発フッカーは、多芸多才なニュージーランド出身のHO(フッカー)セコナイア・ポレ。
元慶大キャプテンのLO(ロック)佐藤大樹はリザーブから繰り上がり、2年目のムードメーカー、SO(スタンドオフ)前田土芽は10番を背負ってトップリーグ初出場・初先発となった。
そして怪我から復帰した5年目の先発CTB(センター)シェーン・ゲイツも今季トップリーグ初出場。WTB(ウイング)トロケマイケルも今季初スタメンを任された。
リザーブには激しいプレーが持ち味である2年目のHO山口達也、果敢なタックラーでもある明大卒のWTB小泉将が入った。
※クボタ戦の出場メンバーはこちら
ビジターとなったアークスは、クボタに先制パンチをもらった。
キックオフから防御網を突破され、一度は懸命に戻ったWTB張容興のディフェンスでトライは防いだものの、エリア右隅を突破されて前半1分、ノーホイッスル・トライを許す。0-5
さらにミスが続いて劣勢を強いられるが、SO前田の左足による特大キックで敵陣へ。ラインアウトから3年目のLO佐藤のパスを受けた同期、CTB池田悠希が激しく突進。
好プレーを続けて立て直すと、前半8分、相手がたまらず反則を犯す。
ここでSH(スクラムハーフ)グレイグ・レイドローがPG(ペナルティゴール)を成功させ、3点を奪取。序盤のショックから反撃ののろしをあげた。(3-5)
前半9分に最初の対決があったスクラム戦では、相手フッカーが昨季までアークス所属だった19年W杯南アフリカ代表のマルコム・マークス。
強烈な前進力を持つマークスに対して、PR(プロップ)上田竜太郎、HOポレ、PR三宮累をスクラム最前列として、一進一退の攻防を展開する。
しかしクボタは武器であるラインアウトモールにこだわり、前半18分、そのHOマークスがトライ(ゴール成功)。クボタは同35分のPG加点により、12点(3-15)とリードを拡大した。
ハイスキルでスペースを狙うアークスの妙技は前半35分だった。
相手のミスで敵陣に侵入すると、SHレイドローが防御裏の無人スペースへショートパント。これをCTBゲイツがスピードを落とさず捕球し、どよめきの中でゴール下に鮮烈なトライ(ゴール成功)。
アークスらしい鮮やかな一撃で7点を返し、ビハインドを5点(10-15)に縮めた。
前半終了間際のピンチでは、SO前田が突破してきた相手FWからボールをもぎ取り、トライセーブに匹敵する好ディフェンスを披露した。
「ディフェンスでも身体を張れるようなスタンドオフになりたいなと思っています。あの場面は身体を張れた部分でした」(SO前田)
ショッキングな立ち上がりだった前半を5点差(10-15)で終える、見事なカムバック。堅守も随所に見せ、後半への期待は高まった。
しかしアークスは前半と同じく、立ち上がりで苦しんだ。
「今日は前後半の入りが悪かったと思います。練習の入りからしっかり意識して取り組みたいです」(HO山口達也)
後半のスタートでボックスキックを相手にチャージされ、いきなりクボタの攻勢が始まる。ここから後半最初のトライを奪われ、ビハインドは12点(10-22)に。出鼻を挫かれてしまった。
さらに失トライ後のリスタートでふたたび突破を許すが、ここは懸命に戻っていたハードワーカーのCTBゲイツがパスを奪取。
一時は難を逃れたが、直後のスクラムでプレッシャーを受け、攻守交代からトライを奪われて10-29と引き離された。
後半の立ち上がりから相手が2連続トライ。ここからさらに引き離されるのか――。
しかし総崩れとなりそうな場面で、アークスは粘りを見せる。防戦一方だったが豊富なスタミナ、敢闘精神で必死にディフェンスを続けた。
するとSO前田の身のこなしから途中出場のWTB小泉にボールがつながり、敵陣の懐へ。その後、相手陣ゴール前でマイボール・スクラムのチャンスを得た。
ここで、アークスが日々鍛え抜いているスクラムが威力を発揮した。
途中出場していたHO山口にとっては、今季初となる公式戦での自軍スクラム。この場面で組み直しのあと、ヒットで優勢に立ったアークス・スクラムが相手FWをプッシュ。
そして新加入のFL(フランカー)リアム・ギルがそのままボールを押さえ、チーム全員が歓喜するスクラム・トライ!!
HO山口にとっては同期入団の元アークス選手、HOマークスを向こうに奪った最高のスクラムトライとなった。
「このチームにマルコムがいる時はスクラム練習から押され、悔しい思いをずっとしていました。(スクラムトライを奪って)ファンの方が見ているところで、成長した姿を見せられたのではと思います」(HO山口)
ゴール成功で29-17として、会場にはアークスの追撃ムードが漂った。
しかし直後、トライ後のリスタートで自陣脱出に失敗し、ふたたび相手の攻撃がスタート。
ここでクボタはラインアウトのサインプレーからゲインし、最後はロングパスから相手11番がハットトリック達成。ふたたびリードを拡げられてしまう。(17-34)
後半31分には相手11番がCTBゲイツに対するレイトタックルで退場となり、クボタは試合終了まで14人に。
ここから敵陣22m内に侵入したアークスは、連続攻撃からLO中島進護共同キャプテンが豪快に突進。殊勲のトライを奪ってみせ、ビハインドはついに10点(24-34)へ。
アークスはCTB石橋など、勝負を諦めず果敢なアタックを見せた。しかし最後は攻守交代に遭い、相手10番がボールを外に蹴り出して、24-34でノーサイドの瞬間を迎えた。
「負けは負けです。ただ次の試合にしっかりフォーカスすることが大事だと思っています」(LO中島共同キャプテン)
試合後、LO中島共同キャプテンの言葉が頼もしかった。もう一人のリーダー、FL金正奎共同キャプテンは終盤に負傷退場となったが、試合後に自身のSNSで無事を報告し、ファンを安心させた。
次戦ではそのファンに今季2勝目を届けたい。3月14日(日)、神奈川・相模原ギオンスタジアムで開催される第4節三菱重工相模原戦が、その舞台になる。