異例ロスタイム6分超えの熱戦。極寒の秩父宮で、悔しい1敗目。
ゲームタイムは80分間を5分以上オーバー。それでも激しい攻防は続き、テレビ解説者も思わず「死闘ですね・・・」とぽつり。
試合後、ヘッドコーチ(HC)とキャプテンは、チームの努力に胸を張りました。
「選手たちの勇気、努力、そしてプレースタイルを誇りに思っています」(ヒュー・リースエドワードHC)
「メンバー23人がハードワークしていました。ヘッドコーチと同じで、僕も選手みんなを誇りに思います」(金正奎キャプテン)
1月12日に開幕したトップリーグ2020。
開幕白星スタートのNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス(以下アークス)は18日(土)、東京・秩父宮ラグビー場で、0勝1敗のサントリーサンゴリアス(以下サントリー)と激突。
サントリーは昨季の準優勝チームです。過去5度の優勝を誇る“4強の一角”であり、アークスはチャレンジャーとして挑みました。
この日は朝から関東各地でも雪が降り、指先が痛くなる極寒のコンディション。
「ニュージーランド(以下NZ)で一番寒い日が、今日のような気温です。ただ試合中に『寒い』と感じたのは今日が初めてです」(ロック、ジミー・トゥポウ)
今季新加入したNZ出身のロック(LO)で、「JT」ことジミー・トゥポウですら初体験という寒さ!
しかし多くの観客が押し寄せ、会場では、アークスが2019年10月に参画した、がんの治療研究を応援するプロジェクト 「deleteC」の募金活動も行われました。
また試合前の大型ビジョンでは、“血液のがん”といわれる白血病を克服したセンター(CTB)クリスチャン・リアリーファノからの動画メッセージが。
そして「deleteCマッチ」として位置づけられた試合が始まりました。
(※サントリー戦のメンバーはこちら!)
冷たい小雨が降るなか、序盤はもどかしい展開。
スタンドオフ(SO)の小倉順平が好キックを見せれば、センター(CTB)池田悠希は185cm98kgの体格をフル活用し、大きくゲイン。
「今年はプレシーズンから、自分の強みを出してゲインできているシーンがあると思います」(CTB池田)
ただチームは前半4分のオフサイドに始まり、反則が頻発。
「前半は反則が多く、規律の部分を上手くコントロールができませんでした」(フランカー(FL)金キャプテン)
何度も塩崎公寿レフリーの笛が響き、自陣でプレーする時間が続きます。
すると前半9分には、その反則からのクイックリスタート(速攻)からトライを奪われ、ゴール成功で7点ビハインドに。0-7
ただ「セットピース」と呼ばれるスクラム、ラインアウトは好調。ゲームの足場を固めます。
またFL金キャプテンは、得意のジャッカル(ラック成立前にボールを奪うプレー)を披露。
さらにはハイパントのこぼれ球を拾ったCTBリアリーファノが大きくボールを蹴り返すと、ウイング(WTB)の山田章仁が反応。
インゴールに押さえますが、直前で惜しくも反則。トライにはなりませんでした。
日本代表のナンバーエイト(NO8)アマナキ・レレイ・マフィは今日も活躍。前半の終盤にはジャッカルも見せました。
ただチームは前半終了間際、相手のワイド攻撃を止められず2トライ目を献上。0-12で後半へ向かいました。
後半11分、NO8アマナキが相手反則から速攻。
ここに反応していたのが2年目のCTB池田。猛スピードでスペースへ走り込み、その動きにNO8アマナキが反応して瞬時にパス。
「決めていないプレーでした。相手のリアクションが遅れていたので、スペースを見つけて走りました」(CTB池田)
ディフェンスを一点突破し、CTB池田が鮮やかな独走トライ。CTBリアリーファノのゴール成功で2点を追加し、7-15と追い上げます。
さらにチャンスは続き、3分後の後半14分。
CTBリアリーファノに対する反則(オブストラクション)があり、敵陣でPGチャンスが到来。
これをCTBリアリーファノが自身で決め、ビハインドはついに5点差(10-15)となりました。
しかしサントリーは現役オーストラリア代表で、この日MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝いた世界屈指のCTBサム・ケレビが活躍。
CTBケレビの突破からトライが生まれ、後半19分、アークスのビハインドは12点(10-22)に。
ここで反撃したいアークスは、スクラムに光明を見出します。
後半26分から途中出場の1番庵奥翔太、3番レイルアマーフィーも投入されると、自陣で相手ボールスクラムをターンオーバー!
「全員がまとまった良いスクラムでした」(プロップ(PR)庵奥翔太)
このスクラムから、途中出場のWTB小泉将が自陣からビッグゲイン。
さらに敵陣でも相手ボールスクラムを押してコラプシングの反則を奪うなど、スクラムから一気に攻勢ムードへ転じます。
ところがスクラムトライも狙えた場面で、逆にコラプシングをとられてしまいチャンス喪失。
時間は80分間を超えてオーバータイムを迎え、トライとゴールによる7点を加えても逆転できず、この時点で敗戦は決定しました。しかし――
アークスは自陣で攻撃権を得ると、相手のトライエリアまで約90メートルのアタックを試みます。
その理由は「ボーナスポイント」。
勝ち点制で順位を決めるトップリーグ。
勝利チームに与えられる勝ち点「4」などのほかに、「7点差以内の負け」「勝敗に関係なく3トライ以上」のチームに対し、ボーナスポイントとして勝ち点「1」が与えられます。
12点ビハインドのアークスが狙ったのが、この「7点差以内の負け」による勝ち点「1」でした。
「自陣から攻撃したので、逆に取られる可能性もありました。ただチームにとっては、アタックすることに意味があると思っていました」(FL金キャプテン)
手もかじかみ、ボールが滑りやすいコンディション。
それでも曇天の秩父宮で、ボールを左右に振りながら激しく身体をぶつけ続けます。
試合時間は85分を超えてなお、激しい衝突を繰り返して勝ち点「1」を獲りにいくアークス。
しかし最後はパスがスローフォワード(ボールを前方に投げる反則)となり、ノーサイドの笛。
勝ち点の獲得はなりませんでしたが、スタンドからは両チームに惜しみない拍手が送られました。
ヒュー・リースエドワードHC(ヘッドコーチ)の声

「選手たちの勇気、努力、プレースタイルを誇りに思っています。スコアには反映されていませんが、ファイトしてくれた姿勢は私の誇りです」
――昨季の準優勝チームであるサントリーに対して互角以上に戦っているように見えました。
スクラムでもラインアウトでも、いろんな局面で自分達が上回っていたという印象があります。そうした面でサントリー相手に勝てたことは良かったです。
ただディフェンス・エラーから得点されることが多かったので、そこだけは修正したいです。
ただトップ4に対して、しっかり熱意をもってプレーできた。それはチームの今後にとってポジティブなこと。これからもサントリーのような強い相手に良い試合ができると思います。
FL 金正奎選手の声

今日はすごくタフな試合でした。メンバー23人が80分間ハードワークしていました。ヘッドコーチと同じで、僕自身も選手みんなを誇りに思います。
来てくださったファンの方々に対しても、戦う姿を見せられたことはポジティブだと思います。
ただ前半に規律の部分で上手くコントロールができませんでした。そこは課題にあがっています。後半は素晴らしい戦いができました。
まだリーグは始まったばかりなので、次にしっかり気持ちを切り替えます。次のクボタスピアーズ戦は絶対に勝つように準備をしたいです。
――最後はロスタイムで5分以上、ボーナスポイントの1点(7点差以内の負けに与えられる1点)を獲るために、ゴール前からアタックをしました。
僕はなにもコールをしていませんでしたが、全員が“セイムページ”(同じページ、同じ絵)を見てアタックしました。
最後まで諦めたくなかった。自陣から攻撃したので、逆に取られる可能性もありましたが、チームにとってもアタックする意味があると思っていました。
PR 庵奥翔太選手の声

――後半からの途中出場で良いスクラムを見せました。
入って最初のスクラムで、プレ・エンゲージ(押し合う前の段階)で反則を取られました。そこは絶対に取り返してやろうと思って次のスクラムを組みました。
その次は、相手ボールのスクラムを取り返しました。全員がまとまった良いスクラムでした。
最初の反則は悪かったですが、その後に修正して押すことができたのは良かったです。
――その次のスクラムでもまたスクラムで押し、ペナルティキック(PK)を奪いました。
ただ最後の最後にPKを取られました。あのPKを取られたところを直さないとここから戦っていくのは難しいと思います。
そこは修正点でもあり、ポジティブに捉えれば伸びしろなので、修正して次の試合に取り組みたいです。
今日の試合のスクラムで、「自分達のやってきたことは間違いない」と気づきました。そこは自分達を信じてやり続けたいです。
――しかしその直後のスクラムでは、逆にアークスが反則をとられ、トライチャンスを逃しました。
僕の逆の方で、よく分かりませんでしたが、レフリーは絶対なのでこちらが直すしかありません。
ファンの皆さんと一緒に戦っていきたいです。応援どうぞ宜しくお願い致します。
LO ジミー・トゥポウ選手の声

――今日の試合を振り返ってください。
エナジーとフィジカリティについてインテンシティ(強度)をもってできたと思います。
重要な場面でエラーをしてしまい、サントリーのような良いチーム相手に得点を与えたことが、敗戦につながったと思います。
――エリア外側で良いボールキャリーもありました。
寒くて滑りやすいコンディションのなか、ボールを保持するのが難しい展開でした。
ボールが手元に回ってきた時は、絶対にゲインラインを越えるようには意識していました。
ボーナスポイント(7点差以内の敗戦に与えられる1点)を獲るために、チーム全員で努力しました。そのことに誇りを感じています。
――今日のスクラムはいかがでしたか?
試合までの練習をしっかり積み重ねることができました。
スクラムは8人で組むものです。とても良いスクラムコーチがいて、マルコム・マークスという経験のある選手がリードしてくれて、チームに長くいる他の選手たちが努力しました。今日のスクラムはその賜物だろうと思います。
――ニュージーランドは南島も寒いですよね。
ニュージーランドで一番寒い日がこのような気温です。ただ試合中に寒いと感じたのはラグビーをしたなかで初めてでした(笑)。
――最後にファンの皆さまへメッセージをお願いします。
フィールド上でプレーしていると皆さんの声が聞こえ、力になっています。どんどん試合に足を運んで応援してくれると嬉しいです。これからも頑張り続けます。
CTB 池田悠希選手の声

――今日の試合を振り返ってください。
相手のディフェンスの出足が速く、なかなか自分達のアタックができない時間が続いたと思います。
すごく寒い中、たくさんのファンの方に来て頂きました。すごく自分達の力になりました。
――トライをしたシーンを振り返って下さい。
決めていないプレーでしたが、フリーキックをもらってナキさん(アマナキ・レレイ・マフィ)が素早く仕掛けてくれたので、ディフェンスのリアクションが遅れ、スペースを見つけられました。
――今シーズンは好調に見えます。
プレシーズンを通して自分の強みを出せているシーンはあるかなと思います。
――相手センターには、世界最高レベルのボールキャリアーであるサム・ケレビ選手(オーストラリア代表)がいました。
すごく突破力のある選手なので、彼に突破させないこと、自分のアタックがどれだけ通用するかを試せる機会でした。
アタックでもゲインラインを獲れたシーンもありましたが、強かったですね(笑)
――アークスでのプレーの先に、日本代表も見据えていますか?
もちろん日本代表を目指しています。今シーズンでアピールしていきたいです。
――最後にアークスファンへメッセージをお願いします。
今日は寒い中応援ありがとうございました。2戦目で負けてしまいましたが、一戦一戦成長していきたいと思います。これからも応援よろしくお願い致します。