2021年ダイアログ

私たちは、さまざまなステークホルダーとの対話の機会を設け、コミュニケーションを深めるべくダイアログを実施しています。
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サステナビリティ経営の深化
~バリューチェーン上でNTT コミュニケーションズグループが果たすべき役割と責任~

地球規模での課題やリスクが多様化・複雑化する中、国際社会においてはサステナビリティに関する情報開示基準に加え、バリューチェーン上におけるESG視点での企業への要請が厳格化することで、企業が果たすべき役割と責任が拡大しています。NTT コミュニケーションズグループにおいては、昨年、新たに策定した「サステナビリティ基本方針」のもと、事業ビジョンであるRe-connect X を推進する中で、事業活動を通じてさまざまなステークホルダーとの対話や営みが増加していくフェーズにあります。 今回のステークホルダーダイアログは上智大学名誉教授・上妻義直氏をお招きし、「調達リスクとデューデリジェンス」と題して、人権・環境デューデリジェンスを巡る最新動向と課題に関する講演を賜ったのちに、NTT コミュニケーションズグループが、サステナブルな未来を創造する企業グループを目指すうえで、今後バリューチェーン上で何に取り組み、留意していくべきなのかをテーマに語り合いました。
(2022 年3 月/オンラインにて実施)

上妻 義直氏 安藤 友裕 松本 智 小屋 修

講義の要旨

「調達リスクとデューデリジェンス」

国際社会が取り組むべき共通の目標として、持続可能な社会への移行が進められる中で、企業の事業活動におけるサステナビリティリスクへの配慮がますます重視されている。中でも緊急性、重要性の高いものが、環境面では気候変動対応であり、社会面では人権問題である。これらのリスクの多くはバリューチェーンの上流あるいは下流に潜んでおり、従来の企業姿勢のままでは回避・緩和を含めたコントロールが難しい。NTTコミュニケーションズグループに置き換えるならば、気候変動対応に関しては電力消費が大きいデータセンターに大きなリスクがある。人権問題に関しては、通信産業にそこまで大きなリスクはないものの、物品調達・役務調達に広く潜む児童労働や強制労働等の人権リスクは依然として注視すべき課題になっており、「ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs)」は企業に対して人権デューデリジェンスの実施を求めている。また、現在欧州を中心に法制化が進むデューデリジェンス法の影響を受けることは間違いがない。法制化には、適切にデューデリジェンスを実行することで、無過失責任を免責される「デューデリジェンスの抗弁」という考え方が含まれる場合もあり、企業側にもメリットがあるが、人権・環境デューデリジェンスは、企業にとってのバリューチェーン上のリスクマネジメントとして日常的、継続的に対応すべき課題と受け止めるべきである。

ダイアログ

  • 有識者 上智大学名誉教授 上妻 義直 氏

    有識者
    上智大学名誉教授
    上妻 義直 氏

  • NTTコミュニケーションズ 常務執行役員 CSR委員長 安藤 友裕

    NTTコミュニケーションズ
    常務執行役員 CSR委員長
    安藤 友裕

  • NTTコミュニケーションズ プロキュアメント&ビリング部 戦略部門 部門長 松本 智

    NTTコミュニケーションズ
    プロキュアメント&ビリング部
    戦略部門 部門長
    松本 智

  • NTTコミュニケーションズ ヒューマンリソース部 人権啓発室 室長 小屋 修

    NTTコミュニケーションズ
    ヒューマンリソース部
    人権啓発室 室長
    小屋 修

デューデリジェンスの重要性をすべての社員が理解すべき
安藤 友裕
安藤
NTTコミュニケーションズグループでは、深刻化する気候変動問題をはじめ、昨今の地球環境、そして社会の持続可能性を巡る諸課題の動向などを踏まえ、昨年、それまでのCSR基本方針を改め、新たにサステナビリティ基本方針を策定しました。現在、その下で、持続可能な社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを進めてきているところですが、そうした中でも、先ほど先生からお話いただいた、人権・環境周りの関係は、注力すべき重要な課題であるとともに、バリューチェーン全体で実効を上げていくうえでの取り組み方が難しく、日々、試行錯誤を重ねているところでした。本日は、バリューチェーン上におけるさまざまなリスクに的確に対応していくうえで、デューデリジェンスの進め方を含め、色々と参考になるお話やご助言など賜れれば、と思います。よろしくお願いいたします。
小屋
2021年11月にはNTTグループとして新たな人権方針を定めたこともあり、弊社内でもこれから人権デューデリジェンスの理解・浸透に向けて大きく進展させていこうという段階にあります。これまで、弊社においても英国現代奴隷法への対応など、国際社会の重要な動きに対するステートメントの公表を行うほか、社内においても全社員研修や人権問題に関する標語を募集するといった啓発活動を進めてきました。しかしながら昨今、これだけ人権デューデリジェンスが企業活動に不可欠な要素として浸透していこうという中で、その推進に向けてさらに社員にどう働きかけていくことがより効果的であるか、悩ましく思っています。
上妻
人権デューデリジェンスをグループ全体で推進するときに一番大切なのは、会社全体で人権の重要性を理解していただくことです。NTTグループを含む多くの日本企業は、この課題に真剣に取り組んでおられますし、そうした対応は実際実施されているのですが、問題はそのリスクを監視する範囲が狭いということです。もっと具体的に言うと、自社グループと、その協力会社あたりまでしかマネジメントしていないことがほとんどなのです。その範囲におけるリスクはいわば見えるリスクであってコントロールは比較的容易なのですが、サプライチェーンのように見えないリスクの発生源に対してコントロール手段を十分に持ち合わせていないことに気を配るべきです。そこに漏れが生じてリスクが発生していることが、欧州などで企業のバリューチェーン全体を対象としたデューデリジェンス法制化の動きが加速している大きな原因となっています。人権デューデリジェンスを会社で推進しようというときに重要なのは、仮に貴社のサプライチェーンにおいて何かしらの人権侵害などの問題が生じた場合、国際的な潮流に照らし合わせると、真っ先に対処を求められるのは貴社であることをいかに理解していただくか、ということだと思います。自社で勉強して取り組まれるのももちろんよいですが、たとえば一例として国際的な人権NGOなどとパートナーシップを結んで講演をしていただくなど、海外などで実際に起こっている人権問題の事例を数多く紹介していくことは、社員の皆さんの理解を進めるのに効果的です。事業を推し進めることが、サプライチェーン上の想像もしていなかった人権侵害に直接的にも、間接的にも実質的に加担することにつながっているのかもしれない――まずはそういう気付きを得ることで、実際の担当者に人権リスクに関して企業が責任を問われることの根源を理解してもらうことが重要だと思います。何が行われているのかを知らないと、そこに気付くことができない、それが実際の問題だと思います。その次の段階として、自社のサプライチェーン上に具体的にどのような人権リスクが潜在的にも顕在的にも存在するのかを確認し、実際のビジネスにおけるどういったプロセスと結びついているのかを把握したうえで、リスクの程度を一つひとつ具体的に落とし込んで、対応を考えていくというプロセスが必要となります。非常に複雑でち密な作業になりますし、専門の部署が必要となってくるでしょう。こうしたリスクマネジメントの観点から人権問題を捉えるというやり方は、まだ日本国内では初歩段階であることが多いため、まずはそのあたりを具体的に拡充されていく必要があると思います。
小屋
ありがとうございます。もう一つ伺いたいのは、海外のサプライチェーンが紛争に巻き込まれるなどして、人権上の対応が必要とされた際に、具体的に企業にはどのような対応が可能なのかということです。紛争地域であっても、地域の皆さまに電気通信のインフラを提供することで生活の改善に貢献したい、という社員の思いがある中で、一方でこうした人権リスクマネジメントの必要性、その結果によりましては提供ができない、ということもあり得る現状をいかに携わる皆さんに理解してもらうか、そうした点について人権リスクマネジメントの一環として、アドバイスをお願いします。
上妻
まず実際に貴社が紛争地域に出向いて調べるということはなかなかできませんし、おそらく対応しなければならない重要なリスクはそれほど多くはないはずです。まずは大きなリスクに対応する必要があるのですが、通信産業でいうと、紛争鉱物が対象になると思われます。これは現在の枠組みの中でもある程度は対処可能と思われます。紛争鉱物のスキームの対象になっていないようなリスクに関しては、先ほど申し上げたような専門のNGOや専門家に依頼をして、調査を行うといった対処を取ることが現実的ですし、結果的に自社で対応するよりもコストも低くなるものと考えられます。
小屋 修
小屋
よくわかりました。先ほどのご講義においても、法に則ることで「デューデリジェンスの抗弁」といった対応も考えられるということでしたので、状況に応じた対応ができるよう、対策を進めてきたいと思います。それからもう一つ、ご講義の中で、上妻先生より英語版のウェブサイトでトップページから直接つながるような苦情処理の窓口が見当たらないとのご指摘を受けました。非常に重要なご指摘であり、今後迅速に改善を進めていく必要があると認識しました。
上妻
人権侵害は日本ではあまり起こりませんし、貴社はメーカーなどと比べて人権リスクも相対的に低いと考えられますが、外国では非常に身近で深刻な社会問題です。自社でできるデューデリジェンスには限界もあります。その範囲を補填する対応窓口として、人権侵害の被害に遭っている方々が訴えを申し立てられる場所として、英語が通じる苦情処理の窓口は必ず設けておくべきであり、苦情を受け取った際の手順についても明確に示しておくというのが大前提となる考え方です。
小屋
ありがとうございます。ご指摘をいただき早急な対応を図っていきたいと思います。
大きなリスクを着実に減らしていくことが大切
松本
私は調達を担当しているのですが、特に気候変動に関しては近年の夏の猛暑や異常気象・災害の頻発などをみましても喫緊の課題であるとの認識です。先ほどNTTグループサステナビリティ憲章やNTTグループサプライチェーンサステナビリティ推進ガイドラインを制定した話がありましたが、これを受けて弊社でも今後該当するガイドラインを改訂予定です。調達部門として、環境や人権の問題にとどまらない多様な責任を果たしていくことは、社会貢献ではなく、もはや私たちの義務であり責任と捉えるべきです。弊社の直接取引しているサプライヤーは千数百に上りますが、このサプライヤーを含めてNTTコミュニケーションズのビジネスを形づくっている一つの企業体と考えた時に、これらサプライヤーだけでなく、さらに上流への働きかけも欠かせません。これまでの取り組みの中で、サプライチェーン情報を非開示にするケースもあり相当に困難が伴うと想像しています。今回の改訂をこれまでの延長としてではなく、新たなチャレンジとしてサプライヤーに対して働きかけていこうという中で、どのようにアプローチをすればよいか、アドバイスをいただけますでしょうか。
上妻
サプライチェーン上のリスクへの対応が、Tier1(一次サプライヤー)にとどまっているのは貴社だけではありません。おっしゃるようにTier1以外にも目を配っていくことは、そう簡単ではありません。契約書と誓約書をセットにして確認の連鎖を行っていく作業となるわけですが、採掘元まで辿り着かないこともあるようです。ここで大切なのは、リスクを0%にするのではなく、大きなリスクを減らしていくということです。例えば7割減らすことを目標とする。完璧を目指すとコストは必然的に上がってきますから。リスクは意外と見えやすいところにあり、貴社で言えば、金属などの採掘先に関連するサプライヤーに協力を仰ぎ、大きなリスクのあるところをマッピングしていくことが先決と言えます。そのうえで、コントロール可能なサプライヤーはどこなのか――いわゆるリスクアプローチを試み、リスクの多いところにリソースを割き、定期的に調達先のリスク評価につなげていくというやり方が有効です。こうした作業を行って初めて対策のありようも見えてきます。ちなみにデューデリジェンスは人権だけでなく、環境も含まれます。異常気象にもつながる気候変動対応に努力しないのは、人権侵害にあたるというのが昨今の考え方です。
松本
上妻先生のおっしゃるとおり、優先度の付け方として取引額の大きなサプライヤーから対応を図っていくつもりです。まずはアクションを起こすことが 大切であると考えており、ともにビジネスに取り組む仲間として話を進めてきたいと思います。
上妻
貴社はNTTグループの一員であるとともにNTTコミュニケーションズグループとして配下に子会社を従える、いわゆる中間親会社にあたります。調達に関する大方針などはトップの親会社が定めているのでしょうが、その枠組みの中だけでやっていたらとても対応できないものと思われます。中間親会社としての細かな手順書を作成し、デューデリジェンスプロセスのPDCAを回していくことが、デューデリジェンスの抗弁にもつながるわけです。
不断の決意でカーボンニュートラルに貢献を
松本 智
松本
ICTインフラを支えるリーディングカンパニーであるNTTコミュニケーションズグループとして、CO2削減にどのように取り組んでいくのか――これも避けて通れない課題であると考えています。現在、弊社におけるScope3は全体の8~9割を占めており、上流にその7割があります。弊社は「環境目標2030」において、サプライチェーンを通じて排出するCO2を2018年度比で15%削減することを目標に掲げています。これは親会社であるNTT持株会社のSBT1.5℃認定を取り付けた同じ基準であり、その意味でパリ協定に準拠した目標となっています。ただし現状、Scope3の上流の計算方式はサプライヤー単位の排出係数(原単位)を使っており、Scope3の15%削減に向けての具体的な道のりを描くためには、さらに精度を高める必要があります。また、調達をする際の判断基準の中に環境対応のコストも含める等も必要だろうと考えています。
上妻
2030年に15%削減という目標について、Scope1・2についてはSBTで取り組んでおられるということですからその通りで間違いないと思います。Scope3に関しては特に排出量の大きいカテゴリ11(販売した製品の使用)は下流にあたり、管理は困難ですが、パリ協定に準拠した形で削減のためのマネジメントをしていかないとなりません。加えて、世界的な潮流を踏まえると、 Scope3においてもより野心的な目標設定が求められてきます。例えば、2050年ネットゼロを目指す国際イニシアティブ「Net-Zero Asset Owner Alliance」によれば、2030年度で49~65%削減しないとカーボンニュートラルは不可能とされていますが、この15%削減という目標設定とは大きく乖離しています。2030年は決して遠い未来ではありませんし、その先の2050年ネットゼロに向けたマイルストーンであるべきです。そこに向けて具体性を伴った目標がないというのは、早急に対応すべき問題点であると考えます。世界中の企業がパリ協定に準拠しなければならないという時に、できないからといった言い訳はもはや通用しないのです。次善の策となりますが、オフセットの利用も視野に入れるべきでしょう。とはいえ、貴社はこれまできちんとした取り組みをされてきていますし、きちんとした手順が定められ、目標が設定されれば、きっとやり遂げるのであろうと考えています。
松本
2030年は通過点であり、その先にあるカーボンニュートラルの実現に向けて15%の削減は充分ではないと思います。Scope3のカテゴリ11については、OCNやVPN※1等のネットワークサービスや、SDPF※2のクラウドサービスをお客さまがご利用される際に排出されるCO2排出量を、あるロジックに従い計算し情報開示してきましたが、現在弊社の責任範囲をより明確化したロジックに見直しをかけています。結果については今後もサステナビリティレポートにて情報開示していきます。また上流のカテゴリ1、2については、これまで環境省の原単位からサプライヤーごとの原単位を乗じた新計算方式に見直しました。精度の課題はあるものの、これによりサプライヤーの努力も反映されやすく、サプライヤー選定の際にCO2排出量が意識しやすくなるものと考えています。弊社としては、今一度パリ協定準拠という目標を見据えて、その達成に向けた具体的な取り組みにつなげていきたいと思います。
安藤
環境目標2030、そしてサステナビリティ報告書において、Scope1・2は2030年にカーボンニュートラル達成と宣言しています。Scope3に関しては、グループのバリューチェーン全体の中で他社に依存するところが大きく、当面15%がギリギリという試算でした。とはいえ、SBTへの対応なども含めてまだまだ踏み込んだ対応が必要であると考えています。NTTグループは中期経営計画の中で「限界を打破する」と謳っており、電力消費量の劇的な削減につながるイノベーションとしてIOWN構想を進めています。このように技術革新にも注力することで、カーボンニュートラルに貢献していきたいと考えています。
自社にとっての重要なリスクを見極める体制づくりが急務
安藤
企業がバリューチェーンマネジメントにおいて対応すべきリスクは今後ともさまざまな領域でいろいろと顕在化していく可能性があろうかと思います。
また、領域により濃淡はあるにせよ、今後の動向として、法制化対応を含め、リスクへのより深掘りした対応というものが内外を問わず広がってくるところかと思われます。こうした状況を踏まえつつ、将来に向けて、もう少し先を見越した場合に、バリューチェーンマネジメント上対応すべきリスク領域の今後の動向や必要な取り組みについて、特に留意しておくべき点、あるいは今から備えておくべきことなど、ございましたら、ご示唆、ご助言をいただければ、と思います。
上妻 義直 氏

上妻グローバルに法制化が進み、デューデリジェンスを行わないとビジネスができないといった環境になってきたときに、どのように備えればよいのかといった話だと思うのですが、例えば人権問題について言えば、これまでは各企業が自主的な対応で行ってきたことです。EUはずいぶん進んだ状況にありますが、それでも1/3の企業はデューデリジェンスを行っていません。その結果、人権侵害は全然なくなっていないというのが本当のところです。それをすべての企業に適応させることが、法制化の一番の目的といえます。そもそも法制化が簡単なことであったら、とっくに実現しているはずです。それがここまで遅れているというのは、実務の世界に求めることがいかに難しかったかということだと思います。国連からも拘束力のある人権条約を作ることが長らく提唱されてきましたが、EUは人権デューデリジェンスの法制化には反対の態度を取り続けてきました。しかし、この数年でガラリと対応を変えたのです。なぜかというと、持続可能な社会に移行していくためのさまざまな政策が、人権侵害をなくさないことには進められないことがはっきりとわかったからです。日本でもまさに同じことがこれから起きようとしているのだと思います。今までのやり方が通用しなくなってきているのを早急に変えていかねばならず、負担が大きいと感じる企業も出てくることでしょう。だからこそ、効率よく大きなリスクからつぶしていくという対処の仕方が求められます。まずは貴社のビジネスモデルの中で何がリスクなのかをきちんと把握するために、きちんとした社内規定、仕組みづくりに取り組んでいかれることをお勧めします。

安藤
ありがとうございます。ビジネスリスクマネジメント委員会において、重要リスクを洗い出し、そのマネジメントを進める中などで、本日のお話も踏まえつつさらに取り組みを進めていければと思います。
もう一点、デューデリジェンスの展開の関係について伺えれば、と思います。基本的には、バリューチェーンマネジメント上対応すべきリスク領域の今後の動向を踏まえつつ、各企業において、そのバリューチェーン上の各取引先のさまざまなリスクを調査・分析し防止策を講じるなどの専門的ノウハウを有する体制と各取引先からの各種調査要請などに適確に対応できる体制を構築し、その下で、バリューチェーン上のリスクマネジメントの一環としてデューデリジェンスを実施していくことがベースになろうかと思います。そして、その際に、先ほどからの先生からの数々のご示唆を踏まえつつ、こうした取り組みを進めていくことがまずもって大変大切で必要となるところだと思います。その上で、その少し先を見通したときに、こうした取り組みが社会全体としてより幅広くスムーズに、そして的確に進んでいく上で、例えば、重複的な面の緩和方策などを少し工夫できますと、よりよいのではないか、とも感じられるのですが。地球規模でのサステナビリティの実現という究極の目標をより円滑、効果的、効率的に、そしてスピーディーにできるだけ早期に実現していくうえで、人権・環境デューデリジェンス法案を検討・公表してきたEUなどで、こうした面などについてもし議論がございましたら、あるいは、いずれか良い方策の検討などがなされているようでしたら、伺えますと幸いです。
上妻
ご懸念の内容はわかりますが、今が過渡的な状況にあるという認識は前提として持つべきだと思います。今の状況で考えると、すべて自社のリソースで対応しなければならないように思われがちですが、そういうことにはならないはずです。例えば実際に日本でデューデリジェンス法が施行されるとなれば、監督機関は行政が受け持つことになり、だんだんと無理のない形で浸透していく方向を目指すことになるでしょう。貴社ではCO2排出量削減に向けて、IOWN構想など大きなイノベーションを目指しているというお話がありましたが、そういったことがシステマティックに社会に組み込まれるようになり、やがては社会全体の意識が変わっていくことになるのだと思います。そうなるとコストが増え続けるとは考えづらいですし、時間の経過とともにリスク自体も全体として下がっていくでしょう。2030年にSDGsがすべて実現しているとは思いませんが、近づいていくとは思っています。私自身は将来をそれほど悲観していません。
安藤
ありがとうございます。私どもとして、サステナブルな未来の創造に向けては、バリューチェーン全体を通じた、社会や地球環境へのマイナスの影響の最小化はもちろん、事業特性を活かしながら事業活動やパートナーとの共創を通じたプラスの影響・効果の強化を図っていくことも企業の役割として重要と考えております。その際の心構えやこうした面で取り組むことが期待される事柄などについて、最後にアドバイスなど伺えればと思います。
上妻
ビジネスを通じてよい影響を社会にもたらすといった観点は、残念ながらグローバル社会ではそれほど注目されていません。負の影響をどう減らすのかという観点にフォーカスされており、努力をどう見せていくのかというところにも明確な基準はありません。しかし、日本企業にとっては非常に重要なところだと思います。そういう意味では、これを日本的な良さとして、グローバルに発信していく必要もあるのだと思います。
小屋
本日のダイアログを通じて、やはり多くのステークホルダーの皆さまとしっかりとエンゲージメントしていくことが一番大事であるということを改めて実感しました。本日はありがとうございました。
松本
私たちはデジタルトランスフォーメーションを推進している企業として、サプライヤーとのCO2排出量情報等の情報流通の基盤をつくるという役割も果たしつつ、その基盤上でサステナブルな世界の構築をけん引していきたいと考えています。また、環境配慮型の製品導入を単なる追加コストと受け取ることなく、よりよい未来への投資や付加価値としてお客さまへもお見せしていくことが、弊社の責任であるとも感じました。
上妻
実は事前に貴社がどのようにサプライチェーンマネジメントに取り組まれているのか学習してきました。その結果、かなり細かいところにまで取り組まれているとわかり、大きな課題が出てきてもきちんと対応されるのであろうと予想はしていました。今回の対話を通じて、その思いを改めて強くしました。
安藤
示唆に富んだ数々のご助言をありがとうございました。グループをあげてバリューチェーンパートナーシップの充実を図りながら、サステナブルな未来の創造に向けて取り組んでまいります。本日は、誠にありがとうございました。

※1 Virtual Private Network(VPN):一般的なインターネット回線を利用して作られる仮想のプライベートネットワーク

※2 Smart Data Platform(SDPF):企業に点在するデータを一つのプラットフォーム上でシームレスに融合。データを整理して利活用しやすくすることで、日々の活動から生まれるデータを企業成長のエンジンへと変える、次世代のプラットフォーム

ファシリテーター:サスティービー・コミュニケーションズ株式会社 黒澤亮輔 ファシリテーター:サスティービー・コミュニケーションズ株式会社 黒澤亮輔

上妻 義直 氏
上智大学名誉教授

環境会計論および国際会計論を専門に国内外のCSR動向を踏まえた研究、教育・指導における第一人者で、国内のCSR向上にも寄与。環境省「平成28年度 環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン策定に向けた研究会」座長、「平成29年度 環境報告等ガイドライン改定に関する研究会」委員長、「環境報告ガイドライン2018年版 解説書等作成に向けた検討会」座長など、多くの公的役職も歴任。『CO2を見える化するカーボンラベル』(中央経済社)など、著書多数。

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