TCO(Total Cost of Ownership)とは?
概要から理解し最適化するための基本ガイド

ICTシステムやビジネス資産の「真の価値」を見極めるためには、一時的なコストだけでなく長期的な総所有コストである「TCO」を把握することが重要です。TCOは総所有コスト、総保有コストとも呼ばれますが、具体的な内容まではわからないという方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、TCOの基本概念から役割、構成要素、効果的な削減戦略まで解説していきます。

TCO(Total Cost of Ownership)とは?概要から理解し最適化するための基本ガイド

TCO(Total Cost of Ownership)とは

はじめに、TCOの基本概念について解説します。

ITシステム導入時のすべてのコストのこと

TCOは、企業がICTシステムを導入する際に考慮すべき総合的なコスト概念です。ここでいうコストとは、システムの初期導入時に必要なハードウェアやソフトウェアの購入費用だけではありません。これらに加えて、運用期間中に発生する保守費用、維持管理費用、最終的にシステムを廃棄する際のコストまでを含みます。

コンピューターの黎明期には、初期投資が主要なコストでした。しかし、現在ではクラウドサービスの普及により、月額・年額で利用できるサービスも増えてきています。このようなコスト構造の変化により、TCOの考え方はますます重要化しています。

「見えやすいコスト」と「見えづらいコスト」の一覧

TCOを理解するうえで重要なことは「見えやすいコスト」と「見えづらいコスト」を区別することです。それぞれの代表的な例としては、次のようなものが挙げられます。

見えやすいコスト 見えづらいコスト
  • ハードウェアの購入費用
  • ソフトウェアのライセンス料
  • システム開発費
  • サービス利用費
など
  • システムの維持管理に必要な人件費
  • ユーザー教育やサポートにかかる費用
  • 将来的なアップグレード費用
  • システムトラブル時の対応コスト
など

見えやすいコストは、導入時点で明確に把握できる費用ですが、見えづらいコストはその名のとおり明確に把握することが難しいコストです。多くの企業では見えやすいコストに注目しがちですが、実はそれはTCO全体の1/4(20~25%)といわれています。

TCOの多くは見えづらいコストが占めているということであり、このバランスを理解せずにシステム導入を進めると、予想外のコスト増加を招く可能性があります。

TCO削減によるメリット

TCO削減によって期待できるメリットは、単なるコスト削減だけではありません。TCO削減のメリットについて詳しく見ていきましょう。

コスト削減による競争力の強化

TCOの効率化を通じて無駄な経費を抑制することで、企業はその財源を革新的な投資や事業拡大に充てられるようになります。結果として、企業価値の向上と市場競争力の強化を実現できます。

例えば、クラウドサービスの活用により初期投資を抑え、必要に応じてリソースを柔軟に調整できるようになれば、市場の変化に迅速に対応することが可能です。

特にICTシステムへの投資が増加している現在では、TCO削減による効果はより大きくなるでしょう。

業務プロセスの効率化

TCOを詳細に分析する過程では、企業の業務プロセスにおける非効率的な部分が明らかになります。例えば、レガシーシステムの刷新やクラウド移行を検討する際に、既存の業務フローの問題点が浮き彫りになるケースが多く見られます。

このような気付きをきっかけに業務プロセスを最適化することで、システム運用のコスト削減だけでなく、業務全体の効率化も実現することが可能です。

従業員の生産性向上

最適化されたICTシステムを導入・運用することで従業員の作業効率が向上し、全体的な生産性が向上します。頻繁なシステムトラブルやパフォーマンス低下に悩まされることがなくなれば、スムーズに業務を進められるようになり、従業員は本来の業務に集中できるようになります。

ただし、目先のコスト削減にとらわれると、かえって業務に非効率が生じ、生産性の低下を招く恐れもあるため注意しましょう。TCO削減の取り組みのなかで、従業員が効率的に働ける環境を整備することは非常に重要です。

イノベーション促進と新規事業開発

TCO削減によって生まれた余剰資金や人的リソースは、新たなイノベーションや事業開発に割り当てることが可能です。

これまで大規模な初期投資が必要だった先進的なテクノロジーも、近年ではクラウドサービスやSaaSなどの活用により、比較的少ない投資で試せます。このような環境では「失敗を恐れずに挑戦する」文化が育まれやすく、イノベーションの促進につながります。

なお、IT投資について知りたい方には、「攻めのIT」と「守りのIT」の観点から解説した次の記事もおすすめです。

「IT投資における「攻めのIT」と「守りのIT」とは?」

環境負荷の低減

環境に配慮したICTシステムへの移行や省エネ機器の導入は、TCOを抑えながら同時に環境負荷低減を実現します。例えば、エネルギー効率の高いハードウェアへの更新や、クラウドサービスの活用によるリソースの最適化は、電力消費の削減につながります。

このような取り組みは運用コストの削減だけでなく、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要です。ESG投資を重視する投資家や、取引先からの評価向上にもつながります。

TCOの構成要素

前述のとおり、TCOには見えやすいコストと見えづらいコストがあり、さまざまなコスト要素が含まれます。ここでは、代表的な構成要素について簡単に見ていきましょう。

直接コストと間接コストの分類

TCOを構成するものは、大きく「直接コスト」と「間接コスト」に分類されます。一般的に直接コストは「見えやすいコスト」、間接コストは「見えづらいコスト」といわれています。

直接コストはシステムの導入・運用のために直接的に必要となる費用であり、金額が比較的明確に把握できるものです。対して、間接コストはシステムの運用にともなって間接的に発生する費用であり、金額の把握が難しいものが多いといえます。

TCOの全体像を正確に把握するためには、両方のコスト要素を包括的に考慮することが重要です。

ハードウェア関連コスト

ハードウェア関連コストは、見えやすいコストの代表的な要素です。サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、クライアントデバイスなどの購入費用がおもな構成要素となります。

また、周辺機器の購入費用やオフィス用機器の導入費用、設置工事にかかる初期費用もハードウェア関連コストの1部として計上されます。

ソフトウェア関連コスト

ソフトウェア関連コストには、業務用アプリケーションやミドルウェアなどのソフトウェア購入費用、ライセンス費用が挙げられます。加えて、システムの設計から構築にかかる人件費も含まれます。特に、ソフトウェアのライセンス費用は重要な要素です。

ソフトウェア関連コストは初期購入費用だけでなく、年間の更新料やユーザー数に応じた追加費用が発生する場合も考慮する必要があります。

人件費と運用コスト

人件費と運用コストは、TCOのなかでも「見えづらいコスト」に分類される重要な要素です。ITシステムの運用を担う従業員の人件費、システム管理者の人件費、日常的な運用管理にかかる費用などが含まれます。

業務の複雑さやシステムの安定性によって、必要な人員数や技術レベルも変わるため、システム設計の段階から運用コストを考慮した設計が求められます。

システム運用についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。

「仕事内容や保守・管理との違いについて解説!」

保守・サポートコスト

保守・サポートコストには、システムの日常的なメンテナンス費用、サポートサービス費用、修理費用などが含まれます。これらのコストはシステムの安定稼働を維持するために不可欠であり、TCOの重要な構成要素の1つです。

より具体的には、ハードウェアやソフトウェアのメンテナンス契約料、技術サポート料、トラブル対応サービス料などが該当します。

エネルギーコストと設備費

エネルギーコストと設備費は、特にオンプレミス環境では無視できない要素です。システムを稼働させるために必要な電力費用や、設備の維持管理にかかる費用が含まれます。

サーバーやネットワーク機器の電力消費、物理サーバーを設置するための設備などがおもな構成要素となります。

トレーニングと教育コスト

トレーニングと教育コストは、システムを効果的に利用するために必要な従業員教育にかかる費用です。初期のユーザートレーニング費用、継続的な教育プログラムの費用、マニュアル作成費用などが含まれます。

継続的な教育や、新入社員向けのトレーニング、技術の進化に対応するためのスキルアップ研修なども長期的なコストとして考慮することが重要です。

セキュリティ対策コスト

セキュリティ対策コストは、システムやデータを保護するために必要な投資であり、近年ますます重要性を増している要素です。セキュリティソフトウェアの購入・更新費用、セキュリティ監査の費用などが含まれます。

また、セキュリティインシデント対応費用や、セキュリティ対策の人的リソースにかかるコストも考慮する必要があります。

セキュリティインシデントが発生した際には、コスト面だけでなく企業の信頼面からも多大な影響をおよぼします。より詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。

「【マンガ付きコラム】セキュリティインシデントへの対策と企業事例」

TCOの削減方法

TCOを削減するためには、さまざまな方法が考えられます。ここでは、代表的なTCOの削減方法について1つずつ見ていきましょう。適切な方法を選択・組み合わせることで、コスト効率の高いICT環境を実現できます。

クラウド移行によるTCO最適化

クラウドへの移行は、TCO削減において効果的な手段です。オンプレミス環境とは異なり、クラウドではサーバー機器や設置施設を自社で用意する必要がなく、保守・管理業務も大幅に軽減されます。

初期費用や運用にかかる費用を大幅に削減でき、TCOの削減につながるのです。また、クラウド環境では、必要なリソースを必要な分だけ利用できる従量課金制が一般的です。

この料金体系を上手に活用することで初期投資を抑えつつ、ビジネスの成長や縮小に合わせて柔軟にリソースを調整してTCOの最適化が実現できます。

ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの活用

パブリッククラウドを単体で利用するだけでなく、「ハイブリッドクラウド」「マルチクラウド」といった活用方法もあります。

ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとプライベートクラウド(またはオンプレミス環境)を組み合わせて利用する形態です。一方、マルチクラウドは複数のパブリッククラウドを併用する形態を指します。

両者のおもな違いは「1つのシステムとして統合されているか」という点です。ハイブリッドクラウドの最大の特徴は、異なる環境間でのシステムやアプリケーションの移動、データ連携ができることにあります。

対して、マルチクラウドは複数のサービスを組み合わせて利用するため、リスク分散ができ、各サービスの得意分野を活かせるなどのメリットがあります。より詳しくマルチクラウドについて知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。

「マルチクラウドとは?-向いている企業や導入方法、対応ベンダーの選定方法」

クラウド移行を検討する際は、自社の目的や事業形態に合わせて適切なクラウド戦略を選択することで、TCOの最適化が実現できます。

自動化とAI技術の導入

AI技術の導入や業務の自動化を進めることで、運用コストや従業員の労働コストを大幅に削減できます。人件費はTCOのなかでも大きな割合を占めるため、自動化やAI技術の導入はTCO削減に大きな効果をもたらします。

AI技術や自動化ツールの導入は、単に人件費を削減するだけでなく、業務の効率化や生産性の向上も期待できます。ただし、導入には初期投資が必要となるため、長期的な視点でのROI(投資対効果)を検討することが重要です。

近年、AI技術の業務活用は非常に注目を集めていますが、今後のトレンドとなり得るものが「自律型AI」です。自律型AIについて、活用事例なども含めて解説した記事もあるため、こちらも合わせてご覧ください。

「自律型AIの仕組みと活用事例は?導入のメリットや注意点を紹介」

アウトソーシングとマネージドサービスの活用

マネージドサービスを利用することで、コスト・人的リソース・技術力における多くのメリットを得られます。特にMSP(マネージドサービスプロバイダー)を導入すれば、24時間365日の監視体制が確立され、担当者の負担が大きく軽減されるでしょう。

システム運用・保守を外部委託すれば、自社エンジニアリソースを内部で確保するよりも、人的コストの最適化が期待できます。また、社内で監視業務を行う人材の育成も不要になり、育成の時間やコストを削減できるという点も魅力です。

マネージドサービスを活用することで、ICTインフラの運用・保守にかけていたリソースをより生産的な業務に割り当てられるようになり、TCOの削減とともに企業の成長も見込めます。

ソフトウェアライセンス管理の最適化

余剰ライセンスの解約や一括購入割引の適用など、実際の利用実態に合わせた調整を行うことで、大幅な経費削減を実現できます。ソフトウェア本体は必要でもサポートが不要な場合は、サポート契約を打ち切ることでさらなるコスト削減が見込めます。

さらに、クラウドベンダーが提供するライセンスサービスを採り入れることで、ライセンス管理の手間を省きながらソフトウェアを活用することが可能です。このような仕組みは、管理負担の軽減と経費削減を同時に実現する効果的な戦略といえます。

レガシーシステムの刷新

老朽化したシステム(レガシーシステム)は、業務効率の低下、会社全体の生産性の低下のリスクだけでなく、維持管理にも多くのコストがかかる点が問題です。この問題に対処するためにも、企業はモダナイゼーションに取り組むことが必要とされています。

モダナイズされたシステムへ移行することで、システムの可用性や柔軟性を確保し、TCOの削減にもつながります。モダナイゼーションについて詳しく知りたい方には、2025年の崖問題と合わせて解説している次の記事がおすすめです。

「モダナイゼーションとは?レガシーシステムからの脱却で2025年の崖を回避する方法」

TCO削減を実現するMSPサービス「X Managed」

効果的なTCO削減を実現するためには、局所的な対策ではなく、お客さまのICTシステムを統合的に見つめ直すことが重要です。

NTTドコモビジネスのMSPサービス「X Managed」は、運用業務のベストプラクティスを標準化した「セミオーダー型」のマネージドサービスです。デザイン・デリバリー・オペレーションをワンストップで提供し、TCO削減に向けた各種対策もご相談いただけます。

導入実績は1,000件以上、1,000名を超えるSE体制でお客さまのICT環境を最適化します。マネージドサービスであるため、運用効率を意識したデザインから、オペレーションまで一気通貫で対応可能です。

お客さまが必要とするサービスレベルに応じて自由に選択・組み立てが可能なサービス/メニューを用意しており、要望や時代の先端技術・トレンドに応じた多彩なコンポーネントをご利用いただけます。

NTTドコモビジネスのMSPサービス「X Managed」

まとめ

TCOは、企業がICTシステムを導入する際に考慮すべき総合的なコスト概念です。TCO削減は単なるコスト削減以上の価値をもたらし、企業の成長と競争力強化にもつながります。

TCOの削減方法はさまざまですが、TCOの構成要素を理解したうえで自社に合った方法を選択することが重要です。この記事で解説した内容をもとに、TCO削減について検討してみてはいかがでしょうか。

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