レガシーマイグレーションとは?
目的や手法・失敗しない手順を解説

業務の根幹を支える基幹システムは、長期にわたり利用し続けられることで老朽化し、保守性や柔軟性に課題を抱えるようになります。レガシーシステムをこのまま使い続けると、技術者の高齢化やベンダー依存といったリスクが顕在化し、将来的には企業競争力の低下を招く可能性もあります。こうした課題を解消する手段として注目されているのが「レガシーマイグレーション」です。

当記事では、レガシーマイグレーションの概要、メリット・デメリット、代表的な移行手法、失敗を防ぐための進め方までを体系的に解説します。

レガシーマイグレーションとは?目的や手法・失敗しない手順を解説

1. レガシーマイグレーションとは

レガシーマイグレーション 企業などで使用されている古い情報システムを、新しいシステムへと移行すること

レガシーマイグレーションとは、企業などで使用されている古い情報システムを、新しいシステムへと移行することを指します。「レガシー(legacy)」は英語で「遺産」を意味し、IT分野では過去に構築された古いシステムや技術を指します。また「マイグレーション(migration)」は「移行」や「移動」を意味し、主にシステムやデータの移行を表す言葉として使用されます。

レガシーマイグレーションとは、技術的に古くなった既存のシステム環境を、新たなプラットフォームや技術基盤へと置き換えるプロセスを意味する言葉です。移行には、プログラムの再構築やデータの変換、動作環境の変更などを伴う場合があります。

1-1. レガシーシステムとは

レガシーシステムとは、過去の技術や仕組みで構築された古い情報システムを指す用語です。主に1980年代から2000年代初頭に導入されたメインフレームやオフィスコンピューターなど、オンプレミス型で運用される古いシステムが代表例です。

これらのシステムは、COBOLなどの古い言語で開発されており、構築当時の業務フローに最適化された仕様となっています。しかし、度重なる改修によって複雑化し、設計や処理内容がブラックボックス化しているケースも少なくありません。また、保守運用に必要な技術者の高齢化と退職に伴う人材不足も大きな課題です。

さらに、UNIXやWindowsベースのオープン系システムであっても、設計が属人的であったり可読性が低かったりする場合には、レガシーシステムと見なされます。技術的負債を抱えた状態では、迅速な対応や新技術の導入が困難になることが多く、企業の成長を妨げる要因にもなります。

1-2. レガシーマイグレーションとモダナイゼーションの違い

レガシーマイグレーションとモダナイゼーションは、いずれも古い情報システムに対する改善手法ですが、目的や手法に違いがあります。

レガシーマイグレーションとは、既存システムの構造を大きく変更せず、新たな環境へとシステムやデータを移行する手法を指します。たとえば、オンプレミスで稼働していた古いシステムを、そのままクラウド環境へ移すといったケースが該当します。

一方、モダナイゼーションは「現代化」「近代化」を意味し、レガシーシステムに蓄積された情報資産を活用しながらも、業務の変化や新たな技術に対応できるよう、システム構造自体を見直して再設計・再構築するアプローチです。

一般的に、マイグレーションは「環境の移行」、モダナイゼーションは「構造の変革」に焦点を当てた手法であると言えます。モダナイゼーションは、将来的な拡張性や柔軟性を持たせるための施策としても重視されています。

2. レガシーマイグレーションの目的と必要性

レガシーマイグレーションの目的 老朽化した情報システムの課題を解消し、業務の安定性と将来の競争力を確保すること

レガシーマイグレーションの目的は、老朽化した情報システムの課題を解消し、業務の安定性と将来の競争力を確保することにあります。長年使い続けたレガシーシステムは、度重なる改修により複雑化し、構造の全容が把握しづらくなることで保守性が低下します。また、特定ベンダーへの依存や、COBOLなど古い技術への対応が必要なため、技術者の高齢化と人材不足も深刻な問題です。

こうした背景を踏まえ、経済産業省は2018年に「DXレポート」を公表し、システムの近代化とデジタル化の必要性を訴えました。報告書では、既存システムの放置が将来的な経営リスクを高めるとされており、その中で「2025年の崖」と呼ばれる重大な懸念についても指摘されています。

出典: 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」

そのため、レガシーマイグレーションは個別企業の事情にとどまらず、社会全体で早急に取り組むべき課題と言えます。レガシーシステムの移行は、将来的なリスクを軽減し、変化に強いIT基盤を築くための重要な手段です。

2-1. 2025年の崖とは

「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」において示された、将来的な経済的リスクのことです。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進せず、レガシーシステムの刷新が進まない場合、2025年以降に年間で最大12兆円もの経済損失が発生する可能性があると警鐘を鳴らしています。

出典: 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」

背景には、メインフレームやオフコンなどの老朽化した業務システムが今なお多くの企業で稼働している状況があります。複雑化やブラックボックス化が進んだ結果、業務の変化に迅速に対応することが難しく、データ活用による業務改革や新たなサービスの創出にも支障が生じています。旧来の技術に精通した技術者の高齢化により、保守や運用の継続が困難になる事態も現実的な懸念となっています。

「2025年の崖」は、単なる技術更新の問題にとどまらず、日本経済全体の競争力維持と直結する重要な課題です。企業が継続的に成長していくためには、早急なDXとレガシーシステムからの脱却が求められます。

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3. レガシーマイグレーションを進めるメリット

レガシーマイグレーションを進め、老朽化したレガシーシステムを刷新することで、企業は業務の効率化やコスト削減だけでなく、柔軟なIT環境の構築やセキュリティ向上といった多くの利点を得られます。以下では、主なメリットについて具体的に解説します。

3-1. システムの運用コストが削減できる

レガシーシステムは構造が複雑化している場合が多く、維持や運用にかかるコストが年々増加する傾向にあります。特に、ハードウェアやソフトウェアの老朽化により保守作業の難易度が高くなり、専門技術者への依存度も高まります。ベンダーによるサポートが終了した場合には自社での対応が必要となり、費用負担はさらに重くなります。

新たなIT基盤へと移行することで、保守や運用にかかる負荷を大幅に軽減することが可能です。たとえば、クラウドサービスを活用すれば、オンプレミス機器の維持管理が不要となり、運用費の最適化が見込まれます。システム全体を刷新することで、中長期的な視点から見ても運用コストの抑制につながる施策となります。

3-2. 新技術の採用やシステム拡張を行いやすくなる

初期に導入された技術や構造に制約されることがレガシーシステムには多く、新たな機能の追加やシステム全体の拡張が困難です。プログラムの内部構造が複雑化している場合や対応可能な技術者が限られている場合には、業務要件の変化に柔軟に対応することが難しくなります。

レガシーマイグレーションを通じて、最新の技術基盤に移行すれば、クラウドサービスやAPI連携、AI・IoTといった先進的な技術の導入が可能になります。アプリケーションの追加や業務フローの変更にも柔軟に対応できる環境が整うため、新しいビジネスモデルの構築や業務改善にもつながるでしょう。技術的な足かせを取り除くことにより、将来的な成長戦略に沿ったシステム拡張が実現しやすくなります。

3-3. 故障やセキュリティリスクを下げられる

レガシーシステムは、導入から長期間が経過していることが多く、ハードウェアの故障やソフトウェアの劣化が発生するリスクが高まります。OSやアプリケーションのサポートが終了している場合はセキュリティ更新が受けられないため、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃に対して極めて脆弱な状態に置かれます。

外部からの不正アクセスのリスクがある環境で業務を続けた場合、顧客情報や機密情報の漏洩が発生する可能性があり、企業の信用失墜や法的責任に直結する事態を招くおそれがあります。老朽化した情報システムから最新のインフラに移行することで、脆弱性を解消し、セキュリティ水準を大幅に向上させることが可能です。結果的に継続的かつ安全な業務運営が実現しやすくなります。

3-4. ブラックボックス化を防げる

長年にわたり使い続けた情報システムでは、仕様の全体像が文書化されておらず、改修や運用の内容が1部の担当者にしか把握されていないケースが少なくありません。このような状態は、担当者の異動や退職によって保守や改善が困難となる「ブラックボックス化」として深刻なリスクを伴います。

レガシーマイグレーションを実施すれば、既存のシステムを再設計・再構築する過程で、処理の内容や構造を整理し直すことが可能です。ドキュメント整備や標準的な技術への置き換えにより、特定の人材に依存せずに運用できる透明性の高いシステムへと改善できる点が大きなメリットです。継続的な保守や将来的な拡張にも対応しやすくなります。

4. レガシーマイグレーションのデメリット

レガシーマイグレーションにはいくつかの注意すべきデメリットも存在します。移行にはコストや期間がかかるだけでなく、業務への影響や技術的な困難が伴うこともあります。以下では、代表的なデメリットについて詳しく解説します。

4-1. データ移行に時間と労力がかかる

レガシーマイグレーションでは、現行システムの構造やデータ内容を正確に把握した上で、移行計画を立てる必要があります。特に、過去の改修によって複雑化した構成や、担当者の異動・退職によって内容が不明瞭になっているブラックボックス化したシステムでは、データ構造の分析と変換に多くの時間と労力を要します。

また、データ移行には、IT資産の棚卸し、移行対象の選定、形式や整合性の確認、変換処理の実装、移行後のテストといった多段階の工程が発生します。大規模な業務システムの場合、全体の移行作業が完了するまでに数年を要するケースもあり、十分な準備と綿密な進行管理が必要です。

4-2. レガシーマイグレーションができる人材の確保難易度が高い

レガシーマイグレーションの実行には、旧来の業務システムと最新のIT技術の両方を理解している高度なスキルを持つ人材が不可欠です。古いプログラムの構造や処理内容を正確に把握しながら、新たなシステム環境に最適な形で再構築を行うには、技術的知見と実務経験の両立が求められます。

しかし、IT人材の不足が続く中で、こうした条件を満たす人材を外部から採用することは非常に困難です。社内の担当者だけでは対応が難しい場合もあり、スムーズな移行を実現するためには、専門知識を持つ技術者の確保や、既存社員の育成に向けた体制づくりが重要な課題となります。適切な人材が不在のままプロジェクトを進行すると、移行プロセスに支障をきたす可能性もあります。

4-3. 移行直後は生産性が落ちるリスクがある

レガシーマイグレーションの実施後、新たなシステム環境に従業員が適応するまでには一定の時間が必要です。操作方法や画面構成がこれまでと異なる場合、業務効率が一時的に低下することも想定されます。特に、日常的に使用している業務システムが大幅に変更される場合には、従業員に対して研修やマニュアル整備などの支援が求められます。

さらに、移行作業中に発生したデータの不整合やバグが、新システム上での処理ミスやトラブルにつながる可能性もあります。安定稼働までの期間に業務の停滞を引き起こさないためには、事前の十分な検証と移行後のサポート体制の構築が重要です。計画的な移行プロセスを設計することで、リスクを最小限に抑えることが可能になります。

5. レガシーマイグレーションの3つの手法

レガシーマイグレーションの3つの手法 リホスト、リビルド、リライト

レガシーマイグレーションには、目的や現行システムの状態に応じて選択される3つの代表的な手法があります。それぞれの手法は、移行の難易度やコスト、システムの柔軟性に与える影響が異なるため、事前に特徴を理解しておくことが大切です。

以下では、「リホスト」「リライト」「リビルド」という3つの手法について解説します。

5-1. リホスト

リホストとは、アプリケーションのロジックやプログラム言語を変更せずに、既存のシステムを異なるプラットフォーム上に移行する手法です。たとえば、オンプレミスで稼働していたシステムを、構造を変えずにクラウド基盤へ載せ替えるといった移行方法がこれに該当します。

アプリケーション本体の修正がほとんど不要であるため、移行期間を短縮でき、コストも比較的低く抑えられる点が大きなメリットです。また、現行の業務仕様や画面設計などを維持したまま運用を継続できるため、利用者の混乱も生じにくい特性があります。

ただし、システムの中身は従来のままであるため、最新の技術への対応や柔軟な拡張には限界があるのがデメリットです。大規模な業務改革や技術刷新を目的とする場合には適しておらず、安定稼働を優先した最小限の移行を求めるケースに向いています。

5-2. リライト

リライトとは、既存システムの業務ロジックや仕様を維持したまま、プログラムを別の言語で書き換え、新しいプラットフォーム上に移行する手法です。たとえば、COBOLで開発されたアプリケーションをJavaやC#などのモダンな言語で再実装するケースがリライトにあたります。

元の処理内容を踏襲しつつ、使用する開発言語とプラットフォームを刷新するため、新しい技術への対応や将来的な改修がしやすくなる点が特徴です。旧来の専用環境や希少な技術者への依存を解消できる点も大きな利点です。

ただし、業務ロジックを保ちながらコードを再構築する必要があるため、一定の工数がかかり、変換ミスや品質低下のリスクも伴います。業務要件を変えずに最新の開発環境へ対応したい場合や、特定言語に依存しない開発体制を構築したい企業におすすめの手法です。

5-3. リビルド

リビルドとは、既存システムの業務ロジックを参考にしながら、システム全体を新たに構築し直す手法です。プラットフォームやプログラム言語だけでなく、システム構成も刷新されるため、拡張性や柔軟性が大きく向上します。

最新の技術を取り入れやすく、将来の業務要件にも柔軟に対応できる点が大きなメリットです。一方で、一から再構築するためには多くの工数とコストが必要となり、開発期間も長期化しやすくなります。既存システムの老朽化が深刻な場合や、将来的な運用に不安がある場合には、抜本的な再設計を可能にするリビルドが適しています。

6. レガシーマイグレーションに失敗しないための手順

レガシーマイグレーションは、企業の将来を左右する重要なプロジェクトです。しかし、関連する十分な準備や体制が整っていなければ、移行作業の途中でトラブルが発生し、業務に大きな支障をきたす恐れがあります。失敗を防ぐためには、移行に向けた手順を段階的かつ計画的に進めることが大切です。

以下では、レガシーマイグレーションを円滑に進めるための基本的な手順を4つのステップに分けて解説します。

6-1. 専門人材を確保する

レガシーマイグレーションを成功させるためには、古いシステムに対する深い理解と、新しい技術への対応力を備えた専門人材の確保が重要です。移行に際しては、業務ロジックやデータ構造を正確に把握し、互換性や整合性を維持しながら安全に移行を実施する必要があります。プログラムの変換や機能の最適化を行う場面でも、高度な技術力と豊富な経験が求められます。

専門人材が不足している状況下で無理に進めた場合、データの欠損や不整合、システムトラブルといった重大なトラブルに発展するリスクがあります。正確な分析と適切な判断ができる人材を初期段階からチームに配置することが、プロジェクト全体の成否を左右するでしょう。

6-2. 移行計画を作る

レガシーマイグレーションの対象となるシステムは、多くの場合、企業の基幹業務を支える重要なインフラです。そのため、移行作業中も継続して運用されるケースが多く、業務に支障を与えないよう、移行プロセス全体を慎重に計画することが求められます。

たとえば、ハードウェアの導入時期、システムの実装順序、データ移行のタイミングや方法(段階的移行か一括移行か)などを具体的に定め、関係部門と綿密に連携しながら進行する必要があります。移行中の混乱やトラブルを回避するためには、工程ごとの作業内容と責任範囲を明確にし、実現可能なスケジュールをもとにプロジェクトを着実に遂行しましょう。

6-3. レガシーシステムの改善点を洗い出す

レガシーマイグレーションは、古いシステムを新しい環境へ移行するだけでなく、既存の課題を見直す好機でもあります。現行システムに対して、業務フローに合っていない機能や使用頻度の低い機能、不満や改善要望が多い部分を洗い出すことで、移行後の利便性を高められます。

資産の棚卸しを通じて現時点で必要な機能と不要な機能を明確に区別し、将来の業務要件に沿った設計を行うことが大切です。操作性や効率性を見直した上で再構築を進めることで、レガシーマイグレーションの効果を最大限に引き出せます。

6-4. 移行方法とツール・ベンダーを選定する

レガシーマイグレーションを成功させるには、プロジェクトの目的に即した移行手法と、適切なツール・ベンダーの選定も重要です。コスト削減を最優先とする場合、安全性を重視する場合、あるいはシステム全体の刷新を目指す場合など、求められる成果によって適する手法は異なります。

たとえば、構造を変えずに環境だけを移す場合は「リホスト」、プログラム言語を刷新する場合は「リライト」、システム全体を再構築する場合は「リビルド」が候補となります。目的や制約条件を明確にした上で、各手法の特徴や移行ツールの対応範囲、ベンダーの技術力などを慎重に見極めることが、円滑なシステム移行につながります。

まとめ

レガシーマイグレーションは、古いシステムを新たな環境へ移行し、業務の効率化やセキュリティ向上を図る取り組みです。成功させるには、専門人材の確保や移行計画の策定、現行システムの課題整理、適切な手法とベンダーの選定が必要となります。目的に応じて段階的に進めることが重要です。

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