マルチクラウドとは?
- 向いている企業や導入方法、対応ベンダーの選定方法

企業が社内サーバーやインフラ、ストレージなどのIT システムを構築・運用する際に、クラウドサービスを利用するケースが一般的になりつつあります。「AWS(Amazon Web Services)」をはじめとするクラウドサービスを利用している企業の割合は2016年から大幅に上昇しており、総務省の情報通信白書によれば、クラウド割合は8割に達していると言われています。

マルチクラウドとは?- 向いている企業や導入方法、対応ベンダーの選定方法:企業が社内サーバーやインフラ、ストレージなどのIT システムを構築・運用する際に、クラウドサービスを利用するケースが一般的になりつつあります。「AWS(Amazon Web Services)」をはじめとするクラウドサービスを利用している企業の割合は2016年から大幅に上昇しており、総務省の情報通信白書によれば、クラウド割合は8割に達していると言われています。

近年、企業が社内サーバやインフラ、ストレージなどのITシステムを構築・運用する際に、クラウドサービスを利用するケースが一般的になりつつある。クラウドサービスを採用する実績が積み上がることで、これまでクラウドサービスに漠然として抱いていたセキュリティやサービス品質面での不安が薄まり、IaaS(Infrastructure as a Service)のグレードアップやグレードダウン、インスタンスの組み合わせの自由さといった利便性が評価されたからだ。また、人工知能(AI)や開発環境、データベース(DB)といったPaaS(Platform as a Service)を提供するクラウドサービスが増えたことで、必要なときに必要なサービスだけを利用できる環境が整ったことも利用に拍車をかけている。

このような多彩なクラウドサービスが登場したことで、複数のクラウドサービスを組み合わせて利用する「マルチクラウド」を採用している企業もある。本記事では、マルチクラウドのメリットや課題などについて紹介する。

マルチクラウドとは

マルチクラウドとは、複数の異なるクラウドサービスを組み合わせて利用する運用形態を指す。それぞれの用途に応じたクラウドを採用し、自社にとって最適な環境を構築するために用いられる手法だ。以下のようなパブリッククラウドを組み合わせるケースが多い。

  • AWS(Amazon Web Services)
  • Azure(Microsoft Azure)
  • GCP(Google Cloud Platform)

これらのパブリッククラウドの事業モデルは、「マルチテナント」や「マルチテナンシー」と呼ばれることもある。マルチテナント・マルチテナンシーとは、互いに無関係なユーザーが同じシステムやサービスを共同で利用する方式のことである。

マルチクラウドが選択される背景

「AWS(Amazon Web Services)」をはじめとしたクラウドサービスを利用している企業の割合は、ここ数年、特に2016年から大幅に上昇している。総務省の「平成30年版情報通信白書」によれば、クラウドサービスを一部でも導入している企業の割合は56.9%と過半数を超えた。それだけでなく、クラウドサービスの効果を実感している企業の割合は85.2%にも達している。

クラウドサービスを利用する企業が増えていくなかで、IaaSのサーバーサービスに加えてPaaSまで幅広く提供する「パブリッククラウド」の市場も大きく成長している。代表的なサービスである「AWS」はもちろんのこと、「GCP(Google Cloud Platform)」や「Microsoft Azure」などの利用も増加傾向にある。特に、パブリッククラウドはPaaSとしての機能を充実させてきていることから、最近では人工知能で機械学習をさせる、開発環境を構築する場合などに、パブリッククラウドのサービスを採用するといったことが増えている。この傾向は今後も強まっていくだろう。

マルチクラウドと分散クラウドとの違い

分散クラウドとは、クラウドサービスの各サーバー機能を分散させることで負荷を軽減し、サービス全体のパフォーマンスを向上させる仕組みのことだ。これにより、ユーザーは自社から物理的に近い場所にあるサーバーを利用できるようになる。

複数のクラウドを組み合わせるマルチクラウドは、ロケーション間の差異が生まれることがある。一方、分散クラウドならロケーション間の差異がなく、単一のクラウドサービスを利用するときと同じメリットが得られるのが特徴だ。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドとの違い

ハイブリッドクラウドは、クラウドサービスとオンプレミス環境を組み合わせる手法である。ハイブリッドクラウドのメリットとして、クラウドへの移行が難しい既存システムを使い続けられる点が挙げられる。

マルチクラウドは複数のパブリッククラウドを組み合わせて活用する方式のため、オンプレミス環境を組み合わせるかどうかが両者の違いだ。ただし、複数のパブリッククラウドを採用したうえでオンプレミス環境と組み合わせて活用するるケースもあり、場合によってはマルチクラウドと同義で扱われることもある。

マルチクラウドのメリット

ここでは、マルチクラウドを利用するメリットを紹介する。

トラブル発生時のリスク分散になる

複数のクラウドを組み合わせて使用すると、トラブル発生時のリスクを分散できるのがメリットだ。1つのクラウドでトラブルが起きたとしても、ほかのクラウドに問題がなければ作業を続けられる。クラウド同士でバックアップをとっておけば、万が一いずれかのサーバーでデータが消失してしまっても復旧が可能だ。このように、マルチクラウドなら冗長構成が容易に実現できる。

コスト削減・業務効率化につながる

クラウドを利用すると自社で環境を一から構築する必要がなく、低コストで導入できる。物理サーバーの調達や構築が必要なくなり、スピーディーに環境を用意できるのもメリットだ。サービスに申し込んでアカウントなどを取得すれば、すぐに利用が始められる。

また、導入コストを抑えられるだけでなく、運用の手間が削減できる点もメリットとして挙げられる。サーバーのメンテナンスなどはクラウドサービスを提供する事業者側で行うため、自社の運用コストを軽減でき、業務効率化も叶うだろう。

各クラウドサービスの得意分野を活かせる

世の中にはさまざまなクラウドサービスが提供されている。自社が求める機能を持つクラウドサービスを組み合わせることで、各サービスの得意分野を活かした環境を構築できるのもメリットとなる。サービスごとに得意分野や長所が異なるため、マルチクラウドなら各サービスの「いいとこ取り」ができるのが大きな特徴だ。

ベンダーロックインを防げる

マルチクラウドには、ベンダーロックインを防ぐ効果もある。ベンダーロックインとは、1社のベンダーやメーカーに依存したシステムとなってしまった結果、他社製品への乗り換えが困難になってしまうことだ。ベンダーロックインが起きると、運用コストが高くなるといったデメリットがある。

複数のクラウドを組み合わせるマルチクラウドなら、そもそも1社のみに依存する構成にはならない。他社サービスへ乗り換えやすく、より高性能なサービスやコストメリットの大きいサービスが登場したときには移行ができる。そのため、常に自社にとって最適な環境にアップデートしていくことが可能だ。

マルチクラウドのデメリット・リスク

ここまで紹介してきたとおり、マルチクラウドには多くのメリットがある。しかし、いくつかの課題もあるため、把握しておかなければならない。ここでは、マルチクラウドの利用に関する課題を検討する。

コスト・運用負荷が逆に高まる可能性もある

マルチクラウドのメリットとしてコストや運用負荷の削減を挙げたが、場合によってはかえってコストや負荷が高まるケースがある。複数のクラウドサービスの利用料金が発生するため、1つのサービスやベンダーを利用する場合と比較すると、コストが高くなる可能性があることを把握しておかなければならない。

また、採用するクラウドサービスが多いほど、システム構成が複雑になる点にも注意が必要だ。それぞれのサービスに対してある程度の知識を持った人材が社内にいなければ、対応が難しいだろう。特に、システム部門の人数が少ない企業では、多くのクラウドサービスを導入すると対応しきれない可能性がある。

トラブル発生時に問題の切り分けが難しくなる

プライベートクラウド、オンプレミス、複数のパブリッククラウド間で煩雑にデータが行き来するサービスを構築すると、ネットワークや機能にトラブルが発生したときに、発生原因の切り分け調査に多大な労力と時間がかかってしまう。これは、クラウドサービスを導入して、インフラコストやソフトウェア資産をサービスコストへ置き換えるコストメリット以上の、コストデメリットにつながりかねない。したがって、ハイブリッドクラウドに移行する際は、IT運用担当者の管理負担を増やさない、むしろ今より管理負担を減らすように留意する必要がある。またそれは、今後の安定した運用設計に費やす労力を同時に考えなければならないということでもある。

そのためには、運用担当者から先の処理をできる限り一本化することが必要だ。一本化にあたっては、複数の運用ツールを同時に監視できる体制を構築するだけではなく、運用を担当している各ベンダーとの作業調整も最適化するとよいだろう。それによって、運用担当者の負担はかなり軽減するはずだ。また、クラウド各社への経費処理も一本化できれば、運用担当部門・経理部門ともにその恩恵を受けることができる。

セキュリティ基準がベンダー間で異なる

複数のクラウドサービスを併用する際は、セキュリティ基準がベンダー間で異なる点にも注意しなければならない。1つでもセキュリティ対策が甘いクラウドサービスを採用してしまうと、そこから個人情報や機密情報が流出してしまうおそれがある。複数のクラウドサービスで同一のIDやパスワードを使用するのも危険だ。

重要な情報を守りながらマルチクラウドを利用するには、1つ1つのサービスについてセキュリティレベルを細部まで確認したうえで採用する必要がある。

レイテンシーの増大につながる場合がある

マルチクラウドのデメリットとして、レイテンシーの増大につながるおそれがある点も挙げられる。レイテンシーとは、データの転送をリクエストしてから実際に送られてくるまでにかかる、通信の遅延のことだ。クラウドサーバー同士の物理的距離やデータをやりとりする頻度などによっては、レイテンシーが大きくなるケースがある。

オンラインゲームのようにリアルタイム性が求められるコンテンツや、金融取引のようにミリ秒単位の遅延でもビジネスに与える影響が大きい業界などでは、レイテンシーも意識しておきたいポイントとなるだろう。

サイロ化に繋がる恐れがある

クラウドサービスはサーバーなどの手配が不要で、手軽に導入できるのがメリットだ。しかし、各部署にソリューションの導入可否を委ねている場合は、サイロ化の懸念が出てくる。サイロ化とはそれぞれの部門で業務が完結し、組織間の連携が取りづらい縦割り構造のことだ。

各部署で自由にクラウドサービスを採用できる状態では、さまざまなツールやソリューションが混在してしまう。これではデータの連携やお互いの業務の把握が困難で、似たような機能のサービスが重複して無駄な費用がかかるケースも起こりうるだろう。

マルチクラウド導入に向いている企業は?

ここでは、どのような企業がマルチクラウドの採用に向いているのか解説する。

社内向けと顧客向けでクラウドを分けたい企業

社内向けと顧客向けでシステムを使い分けたい場合は、マルチクラウドが適している。社内用と顧客用で用途やユーザー数、求める機能などが大きく異なる場合は、マルチクラウドでそれぞれに適したクラウドサービスを採用するとよいだろう。

業務ごとに最適なクラウドを利用したい企業

マルチクラウドは、業務ごとに最適なクラウドサービスを使い分けたい企業にも向いている。顧客管理・分析・情報収集など、さまざまな用途に特化したクラウドサービスもあるため、業務に応じて最適なサービスを採用できれば、生産性の最大化が目指せるのがメリットだ。

マルチクラウド・ハイブリッドクラウドの最適な導入・運用方法とは?

複数のクラウドサービスを利用する場合、リスク分散やコスト削減のメリットがあるものの、システム構成によってはかえってコストや運用の負荷が増す可能性がある点に注意しておかなければならない。

過渡期の管理負担が懸念

既存システムをクラウドに移行する移行期では、ほとんどの企業が旧来のオンプレミスのサーバーを運用管理しながら、プライベートクラウドで自社サービスを動かし、さらに新たなサービスの一部を、パブリッククラウドを使いながら構築するという煩雑な利用形態になっている。いずれは、プライベートクラウドとパブリッククラウドを併用するハイブリッドクラウドに集約されていくことになるだろうが、過渡期の今はハイブリッドクラウドにオンプレミスの実サーバー、もしくはクラウド上にオンプレミスの仮想サーバーが存在するという構成になっていることが多い。

ところがこの利用形態では、情報システム部のようなサーバーを保守運用する部署の管理負担を増やすことになる。理由としては、いくつもの異なる運用管理を採用しているからである。プライベートクラウドは自前のシステムで運用管理をするが、オンプレミスのシステムはシステムを構築したSIベンダーの独自仕様で運用管理をする。また一方で、パブリッククラウドはクラウドサービス事業者、あるいは外部ベンダーの開発した運用ツールで運用管理をする。つまり、三者三様の管理を強いられることになるのだ。ここで、パブリッククラウドも1つだけでなく複数のクラウドサービス、例えばAWSとAzure、あるいはAWSとAzure、GCPの3種類を利用することになると、さらにそれぞれのプラットフォーム上で運用管理をする必要が生じる。

マルチクラウド運用をアウトソースするパートナーの条件

このような『ハイブリッドクラウド』特有の悩みを解決するための方法としては、運用管理業務の全般、もしくは業務の一部をアウトソーシングすることだ。アウトソースするパートナーの条件としては、稼働するシステムに対して運用担当者と同等の理解を持ち、万が一インシデントが発生したときには、課題解決のために十分なリソースと支援体制を確保できる、信頼のおける会社であることだ。

つまり、アウトソーシング先はどこでもいいというわけではない。最低限でも、複雑な運用環境に対して横串を刺せるマルチベンダー、マルチキャリア、マルチクラウド対応が可能なパートナーであることが必須となる。また、技術力としっかりとしたリソースや支援体制があることも重要な評価基準だ。さらに、運用担当者もしくは開発や運用ベンダーとしっかりとコミュニケーションが取れることも重要だろう。

信頼できるパートナーが見つかり、運用管理の稼働抑制を目的として、そのパートナーにアウトソーシングすることになったら、すべての運用管理業務、もしくは一部をパートナーへ委託することになるが、このとき全業務をアウトソースするのであれば何の問題もない。だが、一部業務をアウトソースした場合にはトラブル対応において支障をきたすことがある。例えば、インシデントが発生した際、発生箇所がアウトソースをしていない部分であった場合、そのインシデントの解決が困難になることがある。こうした事態を防ぐためにも、ITシステムの運用管理は信頼できるパートナーにそっくり委託したほうがよいだろう。

これからのITシステムは、おそらくハイブリッドクラウドが標準スタイルになってくるはずである。早期よりハイブリッドクラウドの運用をアウトソーシングしておけば、社内ネットワーク、プライベートクラウド、パブリッククラウド、データセンター、ITシステムと、すべてのインフラに対して一括管理することが可能となる。そうすれば、いずれ発生するであろうLANとクラウドシステムの一元化を見据えた運用体制も構築することができるだろう。このように次世代のインフラ構築時に、運用・監視・保守のアウトソーシングも含めて全体を設計してしまうことも解決の近道である。

マルチクラウド・ハイブリッドクラウドに対応可能するMSPサービス「X Managed™」

複雑な運用環境に横串で対応可能なパートナーを持つことで、マルチクラウド(ハイブリッドクラウド)のデメリットをクリアできる。NTTコミュニケーションズのMSPサービス「 X Managed®」なら、複雑化するクラウド環境に関わる運用・監視・保守のアウトソーシングニーズにワンストップで対応可能だ。しかも、X Managed®では、お客さまの運用環境を、お客さま同様に理解しているサービスマネージャー(SM)をアサインする。SMがお客さま同様に運用保守業務にあたり、IT環境の最適化と円滑なサービス提供を全力でサポートする。

今後、ITシステムを担う専門的なIT知識・スキルを備えた人材の退職・高齢化などの影響により、IT人材が大幅に不足することが予測されている。人材不足のなかで、ITシステムの運用管理業務をどのように最適化して既存の人材を有効活用していくかは、サービス維持の要となるだろう。

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