クラウドリフトとは?
短期間・低コストでクラウド移行する方法と課題を解説!

DX推進やシステムサポート終了への対応を急ぐ企業において、クラウドリフトは現実的な「最初の一歩」となります。現行システムの構成を維持したままクラウド環境に移すことにより、時間とコストを抑えながらクラウド移行が可能です。

本記事では、クラウドリフトの基本からメリット・デメリット、具体的な移行手順、失敗しないための注意点、そしてクラウドネイティブ化への発展的な道筋まで紹介します。

クラウドリフトとは?短期間・低コストでクラウド移行する方法と課題を解説!

クラウドリフトとは

クラウドリフトとは、オンプレミス環境にあるシステムとアプリケーションの構成や仕様に大きな改変を行わず、そのままクラウド環境へ移行する手法です。既存システムの資産を活かしながら、短期間・低コストでクラウド化を実現できる手法として注目されています。

クラウドリフトとクラウドシフトの違い

クラウドリフトと似た言葉として「クラウドシフト」が挙げられます。どちらもクラウド環境への移行を目指す手法という点では共通していますが、アプローチと目的が異なります。

クラウドリフトは、システム構成を維持したままクラウド環境に移行するアプローチです。対して、クラウドシフトはクラウドの特性を最大限に活かすために、既存システムをクラウド向けに再設計・再構築することを前提としています。

つまり、クラウドリフトが「そのまま移行」であるのに対し、クラウドシフトは「改修して移行」という違いです。両者は密接に関係しており「リフトアンドシフト」という考え方もあります。

リフトアンドシフトについては、こちらの記事で詳しく解説しているため、合わせてご覧ください。

「リフトアンドシフトとは?クラウド移行を無理なく行うための手法を解説」

クラウドリフトのメリット

クラウドリフトは、速さ・手軽さ・コスト削減といった観点で多くのメリットがあります。最も大きなメリットは、短期間・低コストで移行できる点です。

既存システムのコード改変や大規模な再設計などが不要なため、短期間での移行が実現できます。移行期間が短いことから人的リソースを最小限に抑えられるため、専門の技術者を大量に確保する必要がありません。

加えて、クラウド環境に移行することにより、クラウドが持つスケーラビリティや高可用性を活用できるようになります。需要の変動に応じたリソースの自動調整や、災害対策の強化、セキュリティレベルの向上などといったクラウド特有のメリットも享受できます。

さらに、既存システムをそのまま移行するため、操作感や機能が変わらずにユーザーにとってもスムーズな移行となる点も大きなメリットといえるでしょう。

クラウドリフトの課題

クラウドリフトの課題

クラウドリフトは魅力的な移行手法ですが、いくつかの課題も存在します。クラウド環境への移行を成功させるためには、次に挙げる課題について理解し、適切な対策を講じることが成功への鍵となります。

クラウド化のメリットを十分に活かせない

クラウドリフトにおける最大の課題は、クラウドの真の価値である弾力性やスケーラビリティを活かしきれないという点です。

クラウドリフトでは、従来のオンプレミス環境での設計思想やアーキテクチャをそのまま持ち込みます。そのため、クラウド特有の柔軟なリソース管理や自動化機能、最新サービスなどを十分に活用しきれない可能性があります。

クラウドネイティブを目指す場合には、将来的なシステムの最適化や業務改革が必要となり、さらなる投資や改修が求められることになります。長期的な視点でのコスト効果や競争優位性の観点から、クラウドリフトは一時的な解決策に留まる可能性がある点は理解しておくべきです。

オンプレミスとの連携やデータ統合の難しさ

クラウドリフトで1部のシステムだけをクラウドに移行した場合、残存するオンプレミス環境との連携やデータ統合が新たな課題となります。このようなハイブリッド環境では、異なるインフラ間でのデータ転送やシステム連携に技術的な複雑さが生じます。

結果として、システムのレスポンスが悪化したりセキュリティのリスク管理が困難になったりする可能性がある状況です。さらに、セキュリティポリシーや運用ルールがオンプレミスとクラウドとで異なる場合には、統合的な運用管理が複雑化するため、運用負荷が増大するリスクも発生します。

クラウド環境特有のコスト増や予算管理の難しさ

クラウドリフトは移行の初期コストを抑えられる半面、クラウド環境ならではのコスト増や予算管理の複雑さが課題です。オンプレミス環境では、設備投資として一括で予算を確保できていました。

しかし、クラウド移行後は従量課金制となるため、使用量に応じた継続的なコスト管理が必要になります。特に問題となることは、部門ごとのコスト配分や使用量の可視化、予算超過の防止など、より細やかなコスト管理体制の構築が求められる点です。

従来のオンプレミス環境では発生しなかった、データ転送量やストレージ使用量に応じた従量課金により、予期しないコスト増加が生じる可能性もあります。

古いシステムや技術的負債の残存リスク

クラウドリフトでは、オンプレミスの古いシステムや技術的負債をそのままクラウド環境に持ち越してしまうリスクがあります。例えば、既存システムの構造や設計上の問題、セキュリティ脆弱性、保守困難なコードなどです。

クラウドリフトは「現状維持」の移行手法であり、根本的なシステムの健全化やDX推進を目的とする場合には、この手法だけでは限界です。

長期的な競争力向上やイノベーション創出を考慮すると、クラウドリフト後にシステムの近代化や最適化に取り組む必要があり、結果的に追加的な投資が必要になることも想定されます。

クラウドリフトの移行プロセス

クラウドリフトの移行プロセス

クラウドリフトの移行プロセスについて解説します。各フェーズで必要な作業を丁寧に実施することにより、リスクを最小限に抑えながら効果的な移行を実現できます。

既存システムの棚卸し

まずは、サーバーやネットワーク機器、アプリケーション、データベース、ストレージなど、すべてのIT資産を詳細に一覧化することから始めます。どのシステムをクラウド移行の対象とするかを明確にするためです。

この棚卸し作業では、各システムの技術仕様、利用状況、業務への影響度、保守契約の状況、ライセンス形態などを整理することが重要です。作業をとおして、移行の規模や優先順位、リスク要因が見える化され、無駄のない計画立案が実現できます。

移行対象の全体像を把握することにより、必要な予算やスケジュール、人的リソースの見積もりも高い精度で行えるようになり、プロジェクト全体の成功確率が向上します。

環境設計

移行先のクラウド環境において、ネットワークやセキュリティ、可用性、拡張性などの観点から最適な構成を検討します。既存のオンプレミス環境をそのまま再現するだけでなく、クラウドの特性を活かした改善点も合わせて検討することが重要です。

環境設計の段階では、移行の目的やゴールを明確にし、移行対象システムの優先順位やスケジュール、担当者の役割分担なども明確にします。災害復旧やバックアップ戦略、監視体制なども含めた包括的な設計が必要です。

クラウドサービスの選定

AWS、Google Cloud、Microsoft Azureなどの主要なパブリッククラウドをはじめ、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドなど、選択肢は多岐にわたります。

各クラウドサービスには独自の特徴や強みがあるため、移行対象システムの特性や要件に最も適したサービスを選定することが重要です。技術的な機能や性能だけでなく、移行ツールの充実度や移行支援サービスの有無なども重要な選定基準となります。

初期導入コストや継続的な運用コスト、サポート体制の充実度、セキュリティ基準への対応、業界固有の規制要件への対応などの総合的な観点でサービスを選定します。

仮想化による移行準備

クラウドリフトでは、既存のオンプレミス環境を仮想化し、クラウド環境への移行を容易にすることが一般的なアプローチです。物理サーバーで稼働しているシステムを仮想マシンに変換することによって物理サーバーとシステムとを分離し、クラウド環境への移行を容易にします。

仮想環境を構築したあとは、クラウド上に本番環境と同じ構成のテスト環境を作成し、移行するシステムが問題なく動作することを確認します。クラウド上でレスポンス時間やスループットなどの性能面を検証し、オンプレミス環境と同等以上の性能が確保できていることを確認することが重要です。

段階的な移行と動作検証

実際の移行作業では、まず影響度の低いシステムや重要度の低い業務からクラウド環境へ移行し、リスクを管理しながら段階的に進めることが重要です。開発環境やテスト環境から開始し、徐々にステージング環境、本番環境へと移行範囲を拡大していきます。

各段階の移行後は、アプリケーションの機能や性能が期待どおりに動作しているか、データの整合性が保たれているかなどを徹底的にテストします。機能テストでは、既存の業務プロセスが正常に実行できることを確認し、性能テストでは応答時間やスループットが要件を満たしていることを検証します。

また、トラブル時の動作や復旧手順についても、実際にテストシナリオを実行して確認することが重要です。

クラウドリフト完了後の運用フローの見直し

クラウドリフトが完了したあとは、新しいクラウド環境に合わせて運用フローを見直すことが重要です。オンプレミス環境とクラウド環境では、監視方法や運用手順、トラブル対応プロセスなどが大きく異なるため、既存の運用ルールを全面的に見直す必要があります。

セキュリティポリシーやバックアップ体制、インシデント時の対応手順なども再検討し、クラウドならではのベストプラクティスを取り入れましょう。

運用フローの見直しでは、クラウドの従量課金制に対応したコスト管理体制の構築も重要です。リソース使用量の監視とアラート設定、定期的なコスト最適化の実施、予算管理プロセスの改善などを通じて、継続的なコスト最適化を実現します。

クラウドリフトで失敗しないための注意点

クラウドリフトで失敗しないための注意点

クラウドリフトのプロジェクトにおいて、計画段階から運用開始までの各フェーズにおける重要なポイントについて解説します。失敗を防ぐために注意すべき点について確認しましょう。

目的とゴールを明確にする

クラウドリフトのプロジェクトでは、移行の目的とゴールを明確に定義することが欠かせません。「とりあえずクラウドに移行する」といった漠然とした動機では、移行後の成果を適切に評価することが難しくなるからです。

目的が曖昧なまま移行を進めると、コスト削減や業務効率化といった本来のメリットが得られず、プロジェクト全体が失敗に終わるリスクが高まります。自社が求める効果や目的を具体的に言語化し、関係者間で情報を共有しましょう。

そのようにすることで移行後の評価基準も明確になり、中長期的な投資対効果を高めることが可能です。

移行対象システムの優先順位付けをする

すべてのシステムを一度に移行するのではなく、移行対象を適切に選定し、優先順位を付けて段階的に移行を進めることが成功の鍵となります。システムの一括移行は技術的なリスクが高く、問題が発生した場合の影響範囲も広範囲におよぶため、現実的なアプローチとはいえません。

移行の優先順位付けでは、業務への影響度、技術的な複雑さ、移行の難易度、費用など関連するさまざまな観点から総合的に判断します。影響が少なく成功しやすいシステムから着手することによって、リスクを最小限に抑えながら移行をスムーズに進めることが可能です。

テスト環境で十分に検証する

テスト環境での十分な検証は、失敗を防ぐための重要な工程の1つです。検証が不十分だと、本番移行後に重大なインシデントが発生したり、想定外のコストがかかったりするリスクがあります。最悪の場合、業務停止に至るケースも考えられるでしょう。

テスト環境での検証を通じて、移行手順の改善点や運用時の注意点も洗い出すことができます。特に、実際の業務データを使った負荷テストや、インシデント発生時の復旧訓練も実施することによって、万が一の事態に備えることが重要です。

コストシミュレーションによる予算計画を策定する

クラウド環境に移行すると、オンプレミス環境における固定費中心の構造から従量課金制へと変わり、コスト予測の難易度が上がります。クラウド環境ならではのコスト構造や予算管理の複雑さは新たな課題となりやすく、適切なコスト管理はプロジェクト成功の鍵です。

移行前にクラウドサービスの料金体系を十分に理解し、自社の利用状況にもとづいたコストシミュレーションを実施して、現実的な予算計画を策定することが欠かせません。

コンピューティングリソース、ストレージ、ネットワーク、データ転送、バックアップなど、各コンポーネントの料金を詳細に分析し、月次・年次のコスト予測を行いましょう。

クラウドリフト後のクラウドネイティブ化への道筋

クラウドリフトは迅速なクラウド活用の開始には有効ですが、クラウド本来の柔軟性や拡張性、コスト効率性を十分に発揮することは難しいといえます。そのため、その後のクラウドネイティブ化が不可欠です。

クラウドリフト後の現状を詳細に分析し、自社の課題や強み、今後の成長戦略に照らして、どのようなIT基盤が求められるのかを明確にする必要があります。既存システムのパフォーマンス、運用コスト、拡張性の課題を洗い出し、ビジネス要件との整合性を評価することが出発点です。

技術的な観点では、マイクロサービスアーキテクチャ、コンテナ技術、サーバーレスコンピューティングなどの最新技術を段階的に導入し、システムのモダナイゼーションを進めます。

これらの技術により、アプリケーションの独立性向上、運用効率の改善、開発速度の向上が実現できます。また、DevOpsやCI/CDの活用による、開発から運用までの一連のプロセスを効率化するとともに品質の向上についても同時に検討することが重要です。

クラウドへの移行を徹底サポートするNTTドコモビジネスの導入支援・マネージドサービス

クラウドリフトからクラウドネイティブ化までの一連のプロセスを考慮すると、クラウド移行を自社だけで完結することは難しいといえます。技術的な専門性や運用ノウハウの観点から難易度が高く、専門的なサポートが不可欠であることが理由です。

NTTドコモビジネスでは、AWS・Microsoft Azureへのクラウド移行をサポートする包括的な導入支援サービスを提供しています。これらのサービスは、企業のクラウドジャーニーを全面的にバックアップするサービスです。

AWS導入支援・運用サービスでは、設計から構築、運用まで、AWS導入に必要なメニューを一気通貫で提供しています。豊富な大規模AWSの導入実績にもとづく確かな技術力と、24時間365日体制の監視運用プラットフォームにより、企業の重要なシステムを安全に運用できる体制を提供します。

「AWS導入支援・運用サービス」

Azureマネージドサービスにおいても、導入計画から運用まで一気通貫でサポートしています。独自の閉域接続サービスを活用することにより、既存のオンプレミス環境との安心安全なハイブリッドクラウド環境の構築を実現します。

また、短納期での移行を可能にするメニューや、Open AIを活用した先進的なソリューションメニューも提供可能です。グローバル展開にも対応可能な大規模Azure導入実績を持つため、多国籍企業や海外展開を検討している企業にとっても信頼できるパートナーです。

「Azureマネージドサービス」

まとめ

クラウドリフトは、現在のシステムを改変することなくクラウド基盤に移す手法で、効率的で費用対効果の高いクラウド化が実現できます。一方で、クラウドの特性を十分に活用できない、オンプレミスとの連携の複雑さ、コスト管理の難しさなどの課題もあります。

成功のためには、目的の明確化、移行の優先順位付け、十分な検証、コストシミュレーションが重要です。移行後はクラウドネイティブ化を進めることにより、クラウドの真の価値を引き出すことができます。

クラウドネイティブ化を実現するためには、リフトアンドシフトの考え方が重要です。リフトアンドシフトについては、こちらの記事でも詳しく解説しているため、合わせてご覧ください。

「リフトアンドシフトとは?クラウド移行を無理なく行うための手法を解説」

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